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5話
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「まずは、枯れたお花を咲かせましょうなのですぅ」
わらちゃんの足取りはしっかりしている。園芸部の女の子が大切に育てていた花を枯らしたのに、どうやって咲かせようというのだろうか。
「わらちゃんは、花をさかせる力も持ってるの?」
「そんなもの持ってないなのです。だから、私はお花を咲かすことができるお友達を呼ぶなのです」
「花を咲かせられる……友達……?」
園芸部が管理している花壇。その近くには植木鉢に入っている植物もあった。枯らせてしまった花の前に立つわらちゃん。
「多分、これがあの枯れた花なのです」
萎れている元気のない花を覗き込む彼女。
「この花を咲かせて欲しいなのです。お願いなのですぅ。花の精霊さん!」
その呼び声に応えて、小さなフヨフヨとした光が現れた。今にも消えてしまいそうなくらい淡い光であった・
「触ってはだめなのですよぅ。消滅してしまいますなのです」
このははそれに触れようとして出した指を素早く引っ込めた。
「精霊さん、このお花を元気にしてくださいなのです!」
フヨフヨと浮かんでいる光は、わらちゃんの周りを元気よくぐるぐるまわった。まるで、承諾しているようだ。私が瞬きをした数秒にも満たない時間で事は解決していた。私の視界に映るピンク色の花。先程は元気がなかったのに、今は綺麗に元気よく色づき咲いている。
「ありがとうなのです」
何が起こったのかは不明であるが、笑顔で空へ向かって手を振るわらちゃんがいた。
あの花を一生懸命育てていた園芸部の女の子は非常に喜ぶことだろう。枯れた花が咲いたのだから、根気よく世話をしたかいがあったと笑うに違いない。ピンク色の花を見つけて、涙ながらに笑う園芸部の彼女が見られた。
「次は、物を元通りに戻す妖精なのです」
「わらちゃん。精霊と妖精は違うものなの?」
精霊は力をたくさん持っているため、自分と似た性質の妖精を従えることができる。対して、妖精は弱弱しい存在であるため、同じ妖精が多く集まることでより強い力を発揮する。
「でも、さっきの精霊は弱そうだったけど……」
「力が強すぎるので、人間に影響を与えないように、とっても力を抑えてやってくるなのです」
「へぇ~」
「妖精は弱弱しいですが、妖精同士で集まることでお互いの力を高め合うことができるなのです。精霊と精霊の掛け合わせは、力が強いもの同士のため、衝突し合い空間が歪んだり、壊れたりすることがあるそうなのです。」
妖精と妖精の掛け合わせだと、力を高め合うことが可能。一方で、精霊と精霊の掛け合わせだと力は反発し合う。
「どうやって精霊や妖精は生まれるの?」
「自然発生らしいなのです。普段は別の空間に隠れ住んでいるなのです」
他のところにいるのなら、こんな体質の私でも見えない理由がわかった。わらちゃん、今度は何をする気なんだろうか。精霊の次は妖精って、どこで友達になったのか。世の中は不思議だらけだ。妖怪と精霊等が知り合いだなんて……。
「物を元通りにする妖精! どこなのですぅ」
彼女が握り締めている時計は家から持ってきたもののようだ。懐に隠し入れていたのだろう。時計を持っている手とは反対の手で、学校の壁をトントンと叩いて歩く彼女。可笑しな行動をしているとしか思えない。これが、物を元通りにする妖精の呼び方らしい。本当に彼らは、わらちゃんの下へやってくるのか。
数分してやって来たのは、大きないびつな形の塊だった。完全に丸い形にはなっておらず、歪んでいた。
「これを元に戻して欲しいなのですぅ」
彼女が差し出したのは、持っていた時計。バリバリにそれのカバーが割れているのが見えた。たくさんのヒビのせいで、内側の数字がとても見づらくなっていた。
「私が転んで踏んでしまったなのです。妖精さんが元通りにした後は、慎重に持ち主に届けるなのです」
いびつな形をした直系一〇cmくらいの塊に、時計は飲み込まれた。
「えっ!?」
「大丈夫なのですぅ~」
飲み込まれてしまった時計が返ってくるのか、酷く心配であったが、すぐに時計は戻ってきた。新品のようなピカピカの状態でわらちゃんの手のひらの上に放り出された。
「うわっ! あぶないなのですぅ。でも、ありがとうなのです」
直った時計を握り締めながら、ブンブンと塊に手を振るわらちゃん。お願いだから、時計を離さないでよね。その心配事は的中し、時計が空中に放り出された。塊が時計をキャッチし、包み込んでくれたためそれは無事であった。
「わらちゃん! 気をつけてよ~。せっかく直したのに、また壊れちゃったら持ち主に返せなくなるでしょう。何度も壊しては妖精を呼んでの堂々巡りは困るからね」
「ご、ごめんなさいなのですぅ。妖精さん、ありがとうなのです」
塊にペコリと頭を下げた。わらちゃんはスキップをしそうなくらい、軽やかに歩く。そして、誰にも見つからないように違和感のないように、ある生徒の机の中に時計を慎重に入れた。ある生徒が時計に気づかずに物を取り出して、勢いよくそれを落とさなければ平気であろう。後日、見つかった時計を嬉しそうに友達に見せつけていたという噂が流れていた。
「最後の仕上げは先生なのですぅ」
この前は不幸にしてしまったけれど、今回は仕事がはかどるようにするなのです。だが、これは私が他者の手を借りずにやらないとできないことなのです。ギュッと握った拳を天に掲げた。「よしっ!」と気合を入れる私なのです。
「先生はどこなのですぅ~」
「わらちゃん、先生はたくさんいるよ」
呆れ半分に言うと、わらちゃんは言いなおした。
「眼鏡をかけていて髪を上に結んでいる女の人なのです。大人しそうなイメージのせんせいなのです」
彼女がどんな先生なのか覚えているなら、それでいいや。新任の国語の先生のことを指摘していると思われる。私は二学年で、あの先生は一学年の担当。教えている学年が異なるから、彼女のことは少し知っているくらいだ。
「先生、せんせ~い。どこにいるなのですぅ~!」
そんなに叫ばなくても先生は学校内のどこかにいるよ。ほら、噂をすればなんとやらだ。別に噂していたわけではないけれどね。
足元がおぼつかないように教材などを持ちながら、歩いてくる一人の女。眼鏡をかけていて、髪の毛を上の方に結っていた。
「先生なのですぅ~~!! 見つけたなのです」
彼女に突撃しそうな勢いで、走るわらちゃん。見えない相手に向かっていってもすり抜けるだけ。しかし、今回は違った。わらちゃんと先生が衝突したのだ。
「えっ!? だれよっ!! なにもいないじゃない!!」
その様子をみていた生徒たちは胡乱げに彼女を見つめていた。勝手に転んで、なにを言っているとでも言いたげであった。見える人から見れば、彼女は座敷童に衝突されたことはわかる。見えない人にはなにを言っているのかと思われるのみ。結局、彼女は唇を噛み締めながら、自分を遠巻きに見る生徒たちの中を通って職員室に消えていった。
わらちゃんは先生の傍から離れなかった。先生の跡をしつこいくらいに着いて行く。たまたまだが、トイレも一緒に入っていったところを見た。ストーカーだと思われてもおかしくないくらい、四六時中学校内で彼女の側にいる。わらちゃんに一般人に見られなくて良かったとね、と言ってやりたかった。
「このこの~~!!」
私を呼びながら、元気よく走ってくるのは、わらちゃん。小さな足を懸命に動かしていた。急ブレーキをかけるように止まると、わらちゃんは言う。
「このこの。先生の仕事がうまくいくように、私は手伝うなのです」
「うん?」
「だ・か・ら~~!! 先生を手伝うなのです。いつも忙しそうに働いている先生を少し助けるなのです! 最初は荷物運びに名乗り出るなのです」
「だ、誰が?」
面倒なことを押し付けられそうな嫌な予感がした。逃れることはできずに強制的に押し切られそうな予感。
「先生はいつも忙しそうなので、このこのが名乗り出て手伝うなのです」
「わらちゃん? 私は二年生。先生は一年生の担当。そこに接点はない。私が手伝うことは不自然でおかしいから却下!」
「もう、このこのしかいないのです! 先生は新しくやってきた国語の先生だそうなのですよ。新任の頃は大変なのです。私もそうでしたなのです。仕事は……」
つらつらと話していくわらちゃん。今も失敗してばかりなので、対して変わらないような気もする。刺激を与えて怒らせないように、適当に相槌を打っていた。
あの後、結局押し切られて、私が先生の手伝いをすることになった。わらちゃんは笑って側で立っているのみ。人間相手に荷物持ちなどをすることができないので仕方がない。
新任の国語の先生は鷲尾という苗字らしい。わらちゃんが突撃しに行った時に、彼女の手から離れた教材等を拾ってあげた。
「もう! また!? なんなのよ!!」
金切り声をあげる先生と付き合うことになるのは嫌だと思いながら、手を差し伸べる。
「大丈夫ですか?」
私が拾った少ない教材を先生に渡した。
「あ、ありがとう」
先生に感謝の言葉を述べられた。私はその流れで、先生がたくさん持っている教材等を持つことを手伝うと言った。
「えっ? 本当! 今日は、生徒たちのノートを集めたから、重くって……。持ってもらえると助かるわ!」
パッと明るくなった彼女に現金なものだと思ってしまう。私が彼女を手伝うことはここから始まった。
「こんなことして意味あるのかな?」
疑問を持って自室で独り言を呟いていると、わらちゃんが笑っていった。
「意味はあるなのです! 先生は少なからず、このこのに救われているなのです!」
「面倒くさいなぁ~。わらちゃんがパパッとなんとかしてよ!力を使ってさ」
ぶつくさと文句を言うが、わらちゃんは「これでいいなのです」と聞き入れようとしなかった。だから、私はその面倒ごとに一週間くらい付き合わされる。
「いつもごめんなさいね」
謝ってくる先生にため息を吐いて、上部だけの返事をした。
「あのね、毎日ガムシャラにやってたんだけど、あなたのおかげで余裕ができたわ。生徒たちとの付き合い方とかがわからなくて、仕事もうまくいかないことが多くなっていたの。けれど、あなたのおかげで少しずつ自分がどうやって生徒と関わればいいのかわかったの。だから、ありがとうね。あなたが私の手伝いをするのは今日で終わり。手伝いは他の生徒を選ぶことにするわ」
学年が違うのに大変だったでしょう。本当にありがとうねっと述べた先生。学年が違うってわかってたのに手伝わせていたのかと脱力した。先に手伝うと述べたのは私だから、別にいいけどね。わらちゃんがニコニコとその光景を見守っていた。翌日、不思議なことに鷲尾先生は学校からいなくなっていた。さらに奇妙なことは、生徒たちの記憶から鷲尾先生がなかったことであった。新任の先生は鷲尾ではなく、鷹尾のようであった。
はてさてどういうことだろう、と首を傾げた。
わらちゃんの足取りはしっかりしている。園芸部の女の子が大切に育てていた花を枯らしたのに、どうやって咲かせようというのだろうか。
「わらちゃんは、花をさかせる力も持ってるの?」
「そんなもの持ってないなのです。だから、私はお花を咲かすことができるお友達を呼ぶなのです」
「花を咲かせられる……友達……?」
園芸部が管理している花壇。その近くには植木鉢に入っている植物もあった。枯らせてしまった花の前に立つわらちゃん。
「多分、これがあの枯れた花なのです」
萎れている元気のない花を覗き込む彼女。
「この花を咲かせて欲しいなのです。お願いなのですぅ。花の精霊さん!」
その呼び声に応えて、小さなフヨフヨとした光が現れた。今にも消えてしまいそうなくらい淡い光であった・
「触ってはだめなのですよぅ。消滅してしまいますなのです」
このははそれに触れようとして出した指を素早く引っ込めた。
「精霊さん、このお花を元気にしてくださいなのです!」
フヨフヨと浮かんでいる光は、わらちゃんの周りを元気よくぐるぐるまわった。まるで、承諾しているようだ。私が瞬きをした数秒にも満たない時間で事は解決していた。私の視界に映るピンク色の花。先程は元気がなかったのに、今は綺麗に元気よく色づき咲いている。
「ありがとうなのです」
何が起こったのかは不明であるが、笑顔で空へ向かって手を振るわらちゃんがいた。
あの花を一生懸命育てていた園芸部の女の子は非常に喜ぶことだろう。枯れた花が咲いたのだから、根気よく世話をしたかいがあったと笑うに違いない。ピンク色の花を見つけて、涙ながらに笑う園芸部の彼女が見られた。
「次は、物を元通りに戻す妖精なのです」
「わらちゃん。精霊と妖精は違うものなの?」
精霊は力をたくさん持っているため、自分と似た性質の妖精を従えることができる。対して、妖精は弱弱しい存在であるため、同じ妖精が多く集まることでより強い力を発揮する。
「でも、さっきの精霊は弱そうだったけど……」
「力が強すぎるので、人間に影響を与えないように、とっても力を抑えてやってくるなのです」
「へぇ~」
「妖精は弱弱しいですが、妖精同士で集まることでお互いの力を高め合うことができるなのです。精霊と精霊の掛け合わせは、力が強いもの同士のため、衝突し合い空間が歪んだり、壊れたりすることがあるそうなのです。」
妖精と妖精の掛け合わせだと、力を高め合うことが可能。一方で、精霊と精霊の掛け合わせだと力は反発し合う。
「どうやって精霊や妖精は生まれるの?」
「自然発生らしいなのです。普段は別の空間に隠れ住んでいるなのです」
他のところにいるのなら、こんな体質の私でも見えない理由がわかった。わらちゃん、今度は何をする気なんだろうか。精霊の次は妖精って、どこで友達になったのか。世の中は不思議だらけだ。妖怪と精霊等が知り合いだなんて……。
「物を元通りにする妖精! どこなのですぅ」
彼女が握り締めている時計は家から持ってきたもののようだ。懐に隠し入れていたのだろう。時計を持っている手とは反対の手で、学校の壁をトントンと叩いて歩く彼女。可笑しな行動をしているとしか思えない。これが、物を元通りにする妖精の呼び方らしい。本当に彼らは、わらちゃんの下へやってくるのか。
数分してやって来たのは、大きないびつな形の塊だった。完全に丸い形にはなっておらず、歪んでいた。
「これを元に戻して欲しいなのですぅ」
彼女が差し出したのは、持っていた時計。バリバリにそれのカバーが割れているのが見えた。たくさんのヒビのせいで、内側の数字がとても見づらくなっていた。
「私が転んで踏んでしまったなのです。妖精さんが元通りにした後は、慎重に持ち主に届けるなのです」
いびつな形をした直系一〇cmくらいの塊に、時計は飲み込まれた。
「えっ!?」
「大丈夫なのですぅ~」
飲み込まれてしまった時計が返ってくるのか、酷く心配であったが、すぐに時計は戻ってきた。新品のようなピカピカの状態でわらちゃんの手のひらの上に放り出された。
「うわっ! あぶないなのですぅ。でも、ありがとうなのです」
直った時計を握り締めながら、ブンブンと塊に手を振るわらちゃん。お願いだから、時計を離さないでよね。その心配事は的中し、時計が空中に放り出された。塊が時計をキャッチし、包み込んでくれたためそれは無事であった。
「わらちゃん! 気をつけてよ~。せっかく直したのに、また壊れちゃったら持ち主に返せなくなるでしょう。何度も壊しては妖精を呼んでの堂々巡りは困るからね」
「ご、ごめんなさいなのですぅ。妖精さん、ありがとうなのです」
塊にペコリと頭を下げた。わらちゃんはスキップをしそうなくらい、軽やかに歩く。そして、誰にも見つからないように違和感のないように、ある生徒の机の中に時計を慎重に入れた。ある生徒が時計に気づかずに物を取り出して、勢いよくそれを落とさなければ平気であろう。後日、見つかった時計を嬉しそうに友達に見せつけていたという噂が流れていた。
「最後の仕上げは先生なのですぅ」
この前は不幸にしてしまったけれど、今回は仕事がはかどるようにするなのです。だが、これは私が他者の手を借りずにやらないとできないことなのです。ギュッと握った拳を天に掲げた。「よしっ!」と気合を入れる私なのです。
「先生はどこなのですぅ~」
「わらちゃん、先生はたくさんいるよ」
呆れ半分に言うと、わらちゃんは言いなおした。
「眼鏡をかけていて髪を上に結んでいる女の人なのです。大人しそうなイメージのせんせいなのです」
彼女がどんな先生なのか覚えているなら、それでいいや。新任の国語の先生のことを指摘していると思われる。私は二学年で、あの先生は一学年の担当。教えている学年が異なるから、彼女のことは少し知っているくらいだ。
「先生、せんせ~い。どこにいるなのですぅ~!」
そんなに叫ばなくても先生は学校内のどこかにいるよ。ほら、噂をすればなんとやらだ。別に噂していたわけではないけれどね。
足元がおぼつかないように教材などを持ちながら、歩いてくる一人の女。眼鏡をかけていて、髪の毛を上の方に結っていた。
「先生なのですぅ~~!! 見つけたなのです」
彼女に突撃しそうな勢いで、走るわらちゃん。見えない相手に向かっていってもすり抜けるだけ。しかし、今回は違った。わらちゃんと先生が衝突したのだ。
「えっ!? だれよっ!! なにもいないじゃない!!」
その様子をみていた生徒たちは胡乱げに彼女を見つめていた。勝手に転んで、なにを言っているとでも言いたげであった。見える人から見れば、彼女は座敷童に衝突されたことはわかる。見えない人にはなにを言っているのかと思われるのみ。結局、彼女は唇を噛み締めながら、自分を遠巻きに見る生徒たちの中を通って職員室に消えていった。
わらちゃんは先生の傍から離れなかった。先生の跡をしつこいくらいに着いて行く。たまたまだが、トイレも一緒に入っていったところを見た。ストーカーだと思われてもおかしくないくらい、四六時中学校内で彼女の側にいる。わらちゃんに一般人に見られなくて良かったとね、と言ってやりたかった。
「このこの~~!!」
私を呼びながら、元気よく走ってくるのは、わらちゃん。小さな足を懸命に動かしていた。急ブレーキをかけるように止まると、わらちゃんは言う。
「このこの。先生の仕事がうまくいくように、私は手伝うなのです」
「うん?」
「だ・か・ら~~!! 先生を手伝うなのです。いつも忙しそうに働いている先生を少し助けるなのです! 最初は荷物運びに名乗り出るなのです」
「だ、誰が?」
面倒なことを押し付けられそうな嫌な予感がした。逃れることはできずに強制的に押し切られそうな予感。
「先生はいつも忙しそうなので、このこのが名乗り出て手伝うなのです」
「わらちゃん? 私は二年生。先生は一年生の担当。そこに接点はない。私が手伝うことは不自然でおかしいから却下!」
「もう、このこのしかいないのです! 先生は新しくやってきた国語の先生だそうなのですよ。新任の頃は大変なのです。私もそうでしたなのです。仕事は……」
つらつらと話していくわらちゃん。今も失敗してばかりなので、対して変わらないような気もする。刺激を与えて怒らせないように、適当に相槌を打っていた。
あの後、結局押し切られて、私が先生の手伝いをすることになった。わらちゃんは笑って側で立っているのみ。人間相手に荷物持ちなどをすることができないので仕方がない。
新任の国語の先生は鷲尾という苗字らしい。わらちゃんが突撃しに行った時に、彼女の手から離れた教材等を拾ってあげた。
「もう! また!? なんなのよ!!」
金切り声をあげる先生と付き合うことになるのは嫌だと思いながら、手を差し伸べる。
「大丈夫ですか?」
私が拾った少ない教材を先生に渡した。
「あ、ありがとう」
先生に感謝の言葉を述べられた。私はその流れで、先生がたくさん持っている教材等を持つことを手伝うと言った。
「えっ? 本当! 今日は、生徒たちのノートを集めたから、重くって……。持ってもらえると助かるわ!」
パッと明るくなった彼女に現金なものだと思ってしまう。私が彼女を手伝うことはここから始まった。
「こんなことして意味あるのかな?」
疑問を持って自室で独り言を呟いていると、わらちゃんが笑っていった。
「意味はあるなのです! 先生は少なからず、このこのに救われているなのです!」
「面倒くさいなぁ~。わらちゃんがパパッとなんとかしてよ!力を使ってさ」
ぶつくさと文句を言うが、わらちゃんは「これでいいなのです」と聞き入れようとしなかった。だから、私はその面倒ごとに一週間くらい付き合わされる。
「いつもごめんなさいね」
謝ってくる先生にため息を吐いて、上部だけの返事をした。
「あのね、毎日ガムシャラにやってたんだけど、あなたのおかげで余裕ができたわ。生徒たちとの付き合い方とかがわからなくて、仕事もうまくいかないことが多くなっていたの。けれど、あなたのおかげで少しずつ自分がどうやって生徒と関わればいいのかわかったの。だから、ありがとうね。あなたが私の手伝いをするのは今日で終わり。手伝いは他の生徒を選ぶことにするわ」
学年が違うのに大変だったでしょう。本当にありがとうねっと述べた先生。学年が違うってわかってたのに手伝わせていたのかと脱力した。先に手伝うと述べたのは私だから、別にいいけどね。わらちゃんがニコニコとその光景を見守っていた。翌日、不思議なことに鷲尾先生は学校からいなくなっていた。さらに奇妙なことは、生徒たちの記憶から鷲尾先生がなかったことであった。新任の先生は鷲尾ではなく、鷹尾のようであった。
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