レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第43話:エリナの脱退

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エリナの姿が夜の闇に消えても、俺たち三人はその場から動けずにいた。彼女が歩き去った方向を、アランはただ呆然と見つめている。ゴードンは腕を組み、苦虫を噛み潰したような顔で地面を睨み、レナは冷めた目で消えかけた焚き火を見つめていた。

重苦しい沈黙。誰もが、口を開けずにいた。
エリナという、この歪なパーティを繋ぎ止めていた最後の楔が、抜けてしまったのだ。

「……あいつ」

最初に沈黙を破ったのは、アランだった。その声は、怒りよりもむしろ、戸惑いに満ちているように聞こえた。

「俺を……この勇者を捨てて、あんなレベル1のクズを選んだというのか……?」

その呟きは、誰に言うでもなく、彼自身の信じられないという気持ちを吐露しているかのようだった。

「当たり前だろ」

冷たく言い放ったのは、ゴードンだった。彼は、アランから視線を外さないまま、言葉を続ける。

「お前が、彼女を追い詰めたんだ。カイルを追い出したあの日から、いや、もっと前から、お前は少しずつ変わっちまった。俺たちの声も、エリナの涙も、お前には届いていなかった」
「なんだと……? 俺が間違っているとでも言うのか!」
「ああ、そうだ」

ゴードンの即答に、アランは激昂した。聖剣の柄に手をかけ、ゴードンを睨みつける。だが、ゴードンは一歩も引かなかった。その目は、憐れみと、そして諦めに満ちていた。

「もうやめろよ、アラン。みっともねえぜ。ヒーラーを失ったパーティがどうなるか、お前だって分かってるはずだ。俺たちの冒険は、もうここで終わりだ」
「終わらせるものか! 神官なんて、金で雇えばいくらでもいる!」
「金で雇った神官が、お前のその態度にいつまでついてきてくれるかね」

ゴードンの言葉は、正論だった。正論だからこそ、アランの傷ついたプライドをさらに深く抉った。

「そうよ。私も、もう付き合ってられないわ」

今まで黙っていたレナが、静かに立ち上がった。彼女は自分の荷物をまとめ始めながら、冷ややかに言った。

「治癒魔法も使えないパーティで、これ以上危険なダンジョンに潜るなんて自殺行為だわ。悪いけど、私は私の身の振り方を考えさせてもらう。明日になったら、私はこのパーティを抜けるわ」
「レナ! お前まで俺を裏切るのか!」
「裏切る? 人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。私は、沈みゆく泥舟から降りるだけよ。あなたこそ、いつまで勇者様のつもりでいるのかしら」

レナの言葉は、氷のように冷たかった。彼女は、このパーティに見切りをつけたのだ。

アランは、愕然としていた。エリナだけでなく、ゴードンにも、レナにまで見放される。仲間だと信じていた者たちが、次々と彼に背を向けていく。

「なぜだ……。なぜ、誰も俺を理解しない……!」

彼の悲痛な叫びが、夜の森に虚しく響いた。
俺は間違っていない。俺は勇者だ。世界を救うという使命がある。そのためには、非情にならなければならない時もある。なぜ、それが分からないのだ。

だが、彼の心の叫びは、もはや誰にも届かなかった。
ゴードンは、それ以上何も言わずに自分のテントへと入っていった。レナも、荷物をまとめ終えると、さっさと自分の寝床にもぐり込んでしまった。

残されたのは、アラン一人。
消えかけた焚き火が、彼の孤独な影を長く、弱々しく揺らしていた。
彼は、力なくその場に崩れ落ちると、両手で顔を覆った。その肩が、小さく震えているように見えた。

失ったものの大きさに、彼はようやく気づき始めていたのかもしれない。
だが、それを認めるには、彼のプライドはあまりにも高く、そして脆すぎた。



【視点変更:エリナ】

夜の森を、私は一人で歩いていた。
月明かりだけが、私の進むべき道をぼんやりと照らしてくれる。時折、遠くで魔獣の遠吠えが聞こえ、そのたびに心臓が小さく跳ねた。

怖い。
正直に言えば、怖くてたまらなかった。神官である私に、戦闘能力は皆無だ。もし魔物に襲われたら、私はなすすべもなく殺されるだろう。

それでも、私の足は止まらなかった。
不思議と、後悔はなかった。あの息の詰まるようなキャンプ地から抜け出せたことに、むしろ解放感さえ感じていた。

私の心の中には、一つの確かな目的があったからだ。
カイル君に会う。

その想いだけが、私を前に進ませていた。
彼は、今どこで、何をしているのだろう。ちゃんとご飯を食べているだろうか。眠る場所はあるのだろうか。追放されたあの日、彼は何も持たずに街を出て行った。きっと、大変な思いをしているに違いない。

私が、彼の力にならなければ。
神官としてではなく、ただのエリナとして。彼の隣で、彼を支えたい。

アラン君のことが、頭をよぎる。
彼もまた、孤独なのだろう。勇者という重圧に、一人で押し潰されそうになっている。彼を一人にしてきてしまったことへの罪悪感が、胸をかすめた。

でも、今の私には、彼を救うことはできない。
今の彼に必要なのは、癒しの魔法ではなく、自分の過ちと向き合う時間なのだと、そう信じたかった。

私は、夜空を見上げた。満月が、まるで道標のように輝いている。
カイル君も、この同じ月を見ているだろうか。

「待っていて、カイル君」

私は、空の月に語りかけるように、そっと呟いた。

「どんなに遠くても、どんなに時間がかかっても、必ず、あなたを見つけ出すから」

私の旅は、始まったばかりだ。
それは、誰かに守られるための旅じゃない。
大切な誰かを、今度こそ私が守るための、旅なのだ。

冷たい夜風が、私の決意を祝福するかのように、頬を優しく撫でていった。
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