この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

文字の大きさ
11 / 100

第11話 葵の秘密のサイン

しおりを挟む
玲の悩みが解消され、俺たちの部屋には以前のような穏やかな時間が戻ってきていた。彼女は、もう無理に他の誰かを演じようとはしなくなった。自然体の彼女は、王子様の仮面の下にある本当の優しさや可愛らしさが垣間見えて、俺にとっては今まで以上に魅力的に映っていた。

さて、俺の平穏な日々を脅かすもう一人の存在、五十嵐葵についてだ。彼は相変わらずのハイテンションで、ことあるごとに俺に絡んでくる。「ダチ」認定されて以来、俺は彼の「一番身近な普通人」として、何かと連れ回されていた。

その日の授業は体育。種目はバスケットボールだった。男子校の花形スポーツだ。運動神経が並以下の俺にとっては憂鬱な時間だが、周囲の生徒たちはやる気満々だ。

「よっしゃ! 今日も勝つぜ!」
葵は、試合前から人一倍大きな声を出して盛り上がっている。彼の周りには自然と人が集まり、チームの中心になっていた。対するは九条雅がいるチーム。あの一匹狼も、スポーツとなると意外なほどの闘志を見せる。

試合開始のホイッスルが鳴ると、コートは一瞬にして熱狂の渦に包まれた。その中心にいるのは、もちろん葵だ。彼のプレーは圧巻だった。疾風のようなドリブルで敵陣を切り裂き、華麗なパスで味方のゴールをアシストする。そして自らも、空中で一瞬止まったかのような滞空時間の長いジャンプから、鮮やかなシュートを決める。

「うおおおお! 五十嵐、すげぇ!」
「マジでプロ行けんだろ、あれ!」
ギャラリーの歓声が鳴り止まない。葵はまさにコート上の支配者だった。

しかし、ベンチで試合を眺めていた俺は、葵のプレーの中に奇妙な違和感を感じ始めていた。
彼は確かに超人的な動きをしている。だが、その動きの端々に、何かを「避けている」ような気配があった。

例えば、ドリブルでディフェンスを抜く時。普通なら相手と身体がぶつかり合うようなギリギリのコースを狙うはずなのに、葵は巧みなステップワークで、相手の身体に触れることなくすり抜けていく。
リバウンド争いでも、ゴール下での激しいぶつかり合いを避け、抜群のタイミングと跳躍力だけでボールを奪い取っていた。

「……接触を、避けてる?」

最初は偶然かと思った。だが、試合が進むにつれて確信に変わっていく。ハイタッチをする時も、手と手は合わせるが、肩を組んだり抱き合ったりするような過度なボディタッチは、さりげなく、しかし確実に避けている。
まるで、自分の身体に他人が触れることを恐れているかのように。

葵のあの明るい性格や、普段の俺への強引なスキンシップからは想像もつかない行動だった。なぜだ? なぜ彼は、他の生徒との接触をそこまで避けるんだ?
一つの仮説が、俺の頭をよぎる。

玲のことだ。玲は、自分が女の子であることを隠すために、他の生徒との接触を極力避けていた。もしや、葵も……?
いや、まさか。あんなに男らしくて、エネルギッシュな葵が? 玲とはタイプが違いすぎる。

だが、一度芽生えた疑念は、そう簡単に消えることはなかった。俺は、コート上で輝く葵の姿を、今までとは違う目で見つめていた。

試合は、葵の活躍で彼のチームの圧勝に終わった。
「よっしゃー! 完璧だぜ!」
葵は満面の笑みでガッツポーズをする。その額には汗が光り、息が上がっている。その姿は、まさに青春漫画の主人公のようだった。

「ナイスゲーム、五十嵐!」
チームメイトたちが、葵の元へ駆け寄る。勝利の興奮で、彼らは葵を揉みくちゃにしようと手を伸ばした。
その瞬間。葵の表情が、一瞬だけ強張った。

彼は、駆け寄ってくるチームメイトたちの手を、笑顔のまま巧みな身のこなしでかわした。
「おっと! 汗びっしょりだからな! シャワー浴びてくるわ!」
そう言って、彼は逃げるようにコートの外へと走り出した。

「……おいおい、照れんなって!」
チームメイトたちは、葵の行動を照れ隠しだと受け取ったようで、笑いながらその後ろ姿を見送っている。

だが、俺だけは違った。俺は見ていた。彼が一瞬だけ見せた、怯えるような表情を。あれは、照れ隠しなんかじゃない。本気で接触を拒んでいる目だった。

葵の後ろ姿を見つめながら、俺の中の疑惑は確信へと変わりつつあった。
五十嵐葵。太陽のように明るい学園のヒーロー。
彼もまた、誰にも言えない大きな秘密を抱えているのかもしれない。そしてその秘密は、俺が既に知っているあの秘密と、同じ種類のものなのかもしれない。

「相葉、何ぼーっとしてんだ? 俺たちの試合だぞ」
「あ、ああ、悪い」
チームメイトに声をかけられ、俺は我に返った。コートに向かいながらも、俺の意識は、シャワー室へと消えていった葵のことでいっぱいだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。 その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに! 戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...