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第12話 シャワー室での確信
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俺たちのチームの試合は、あっけなく終わった。相手チームには葵も九条もいない。それでも、レベルの高い生徒たちに翻弄され、俺はただコートの中を走り回るだけで体力を消耗してしまった。結果はもちろん惨敗だ。
「はぁ……疲れた……」
試合終了のホイッスルが鳴ると同時に、俺はその場にへたり込んだ。全身から汗が噴き出し、ジャージが肌に張り付いて気持ち悪い。
「相葉、大丈夫か? 顔真っ赤だぞ」
チームメイトが、笑いながら俺に手を差し伸べてくれる。
「ああ……なんとか。シャワー浴びたい……」
「だよな。行こうぜ」
俺たちは互いの健闘を(一方的にやられただけだが)称え合い、体育館に併設された更衣室兼シャワー室へと向かった。
更衣室のドアを開けると、数人の生徒が既に汗を拭いたり着替えたりしていた。俺の頭の中は、まだ葵のことでいっぱいだった。彼のあの不自然な行動。そして、最後に見せた怯えたような表情。俺の中で渦巻く疑惑を、どうにかして確かめたい。そんな気持ちが、心の大部分を占めていた。
「俺、先にシャワー浴びてくる」
俺はチームメイトにそう告げると、タオルと着替えを掴んでシャワー室の区画へと向かった。個室がいくつか並んだだけの簡素な作りだ。早く汗を流してさっぱりしたい。
一番奥の個室のドアが、少しだけ開いていた。使用中なのだろうか。中からは、ざあざあとお湯が流れる音が聞こえてくる。そして、その音に混じって、楽しげな鼻歌が微かに聞こえてきた。
その声に、俺は聞き覚えがあった。普段の彼の声よりも少しだけ高いが、間違いなく五十嵐葵の声だ。まだ残っていたのか。
俺は、一つ手前の個室を使おうと足を踏み出した。だが、その時。聞こえてきた独り言に、俺は思わず動きを止めてしまう。
「ふぅー、今日の試合もマジ疲れたー。でも勝ててよかったなー」
その声は、やはり葵のものだった。しかし、普段のハスキーで男らしい響きとは全く違う。どこか柔らかく、澄んだアルトの声。それは、男の声変わりした後の低さとは明らかに異質だった。俺は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、その場に縫い付けられてしまった。
知りたい。確かめたい。
そんな抗いがたい衝動と、人のプライベートを覗くことへの強い罪悪感が、俺の中で激しくせめぎ合う。ダメだ。そんなことをしてはいけない。頭では分かっているのに、俺の身体は言うことを聞かなかった。
俺は、自分が何をしているのか分からないまま、吸い寄せられるように開いていたドアの隙間に近づいていた。そして、ごくりと唾を飲み込み、震える指でそっとドアを押し開き、中の様子を窺ってしまった。
湯気が立ち込めるシャワー室。その中に、葵はいた。
お湯が降り注ぐシャワーヘッドに背を向けて、気持ちよさそうに目を閉じている。
普段は制服やジャージで隠されているその身体。露わになった背中は、確かにスポーツで鍛えられている。しかし、男のそれとは明らかに違った。ゴツゴツとした筋肉ではなく、しなやかな筋肉が薄くついている。そして、その肩甲骨のライン、きゅっとくびれた腰つき。それは、どう見ても……少女の身体だった。
俺は、息をするのも忘れていた。
葵は、俺の存在に全く気づいていない。彼女は濡れた髪をかき上げながら、再び独り言を呟いた。
「しかし、サラシが汗でびっしょりだよ……。早く新しいのに着替えないと、風邪ひいちゃうな」
サラシ。
その単語が、俺の鼓膜を鋭く打った。玲と同じだ。彼女も、あの硬い布で胸を平らにして、男として振る舞っていた。葵が頑なにボディタッチを避けていた理由。試合後に見せた、あの怯えたような表情。全てのピースが、カチリと音を立ててはまった。
俺の疑惑は、今、動かしようのない確信に変わった。
五十嵐葵は、女の子だ。
次の瞬間、俺は弾かれたようにその場から飛び退いた。心臓が、今にも張り裂けそうなくらい激しく脈打っている。見てはいけないものを見てしまった。玲の時と同じ、いや、それ以上の罪悪感が全身を駆け巡る。
俺は物音一つ立てないよう、幽霊のような足取りでシャワー室から離れた。そして、自分のロッカーの前にたどり着くと、その場にずるずると座り込んでしまう。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
呼吸が荒い。手足が微かに震えていた。
玲だけじゃなかった。太陽のような笑顔を振りまく、あの葵も。同じ秘密を抱え、たった一人で戦っていたんだ。
俺は、この学園の二つ目の大きな秘密を知ってしまった。玲の共犯者である俺が、今度は葵の秘密まで。
これから、どうすればいい? 葵に、どう接すればいい?
俺は、濡れたタオルを握りしめたまま、ただ呆然とするしかなかった。着替えを終えた生徒たちが、訝しげな顔で俺を見ている。しかし、そんなことはもう、どうでもよかった。
「はぁ……疲れた……」
試合終了のホイッスルが鳴ると同時に、俺はその場にへたり込んだ。全身から汗が噴き出し、ジャージが肌に張り付いて気持ち悪い。
「相葉、大丈夫か? 顔真っ赤だぞ」
チームメイトが、笑いながら俺に手を差し伸べてくれる。
「ああ……なんとか。シャワー浴びたい……」
「だよな。行こうぜ」
俺たちは互いの健闘を(一方的にやられただけだが)称え合い、体育館に併設された更衣室兼シャワー室へと向かった。
更衣室のドアを開けると、数人の生徒が既に汗を拭いたり着替えたりしていた。俺の頭の中は、まだ葵のことでいっぱいだった。彼のあの不自然な行動。そして、最後に見せた怯えたような表情。俺の中で渦巻く疑惑を、どうにかして確かめたい。そんな気持ちが、心の大部分を占めていた。
「俺、先にシャワー浴びてくる」
俺はチームメイトにそう告げると、タオルと着替えを掴んでシャワー室の区画へと向かった。個室がいくつか並んだだけの簡素な作りだ。早く汗を流してさっぱりしたい。
一番奥の個室のドアが、少しだけ開いていた。使用中なのだろうか。中からは、ざあざあとお湯が流れる音が聞こえてくる。そして、その音に混じって、楽しげな鼻歌が微かに聞こえてきた。
その声に、俺は聞き覚えがあった。普段の彼の声よりも少しだけ高いが、間違いなく五十嵐葵の声だ。まだ残っていたのか。
俺は、一つ手前の個室を使おうと足を踏み出した。だが、その時。聞こえてきた独り言に、俺は思わず動きを止めてしまう。
「ふぅー、今日の試合もマジ疲れたー。でも勝ててよかったなー」
その声は、やはり葵のものだった。しかし、普段のハスキーで男らしい響きとは全く違う。どこか柔らかく、澄んだアルトの声。それは、男の声変わりした後の低さとは明らかに異質だった。俺は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、その場に縫い付けられてしまった。
知りたい。確かめたい。
そんな抗いがたい衝動と、人のプライベートを覗くことへの強い罪悪感が、俺の中で激しくせめぎ合う。ダメだ。そんなことをしてはいけない。頭では分かっているのに、俺の身体は言うことを聞かなかった。
俺は、自分が何をしているのか分からないまま、吸い寄せられるように開いていたドアの隙間に近づいていた。そして、ごくりと唾を飲み込み、震える指でそっとドアを押し開き、中の様子を窺ってしまった。
湯気が立ち込めるシャワー室。その中に、葵はいた。
お湯が降り注ぐシャワーヘッドに背を向けて、気持ちよさそうに目を閉じている。
普段は制服やジャージで隠されているその身体。露わになった背中は、確かにスポーツで鍛えられている。しかし、男のそれとは明らかに違った。ゴツゴツとした筋肉ではなく、しなやかな筋肉が薄くついている。そして、その肩甲骨のライン、きゅっとくびれた腰つき。それは、どう見ても……少女の身体だった。
俺は、息をするのも忘れていた。
葵は、俺の存在に全く気づいていない。彼女は濡れた髪をかき上げながら、再び独り言を呟いた。
「しかし、サラシが汗でびっしょりだよ……。早く新しいのに着替えないと、風邪ひいちゃうな」
サラシ。
その単語が、俺の鼓膜を鋭く打った。玲と同じだ。彼女も、あの硬い布で胸を平らにして、男として振る舞っていた。葵が頑なにボディタッチを避けていた理由。試合後に見せた、あの怯えたような表情。全てのピースが、カチリと音を立ててはまった。
俺の疑惑は、今、動かしようのない確信に変わった。
五十嵐葵は、女の子だ。
次の瞬間、俺は弾かれたようにその場から飛び退いた。心臓が、今にも張り裂けそうなくらい激しく脈打っている。見てはいけないものを見てしまった。玲の時と同じ、いや、それ以上の罪悪感が全身を駆け巡る。
俺は物音一つ立てないよう、幽霊のような足取りでシャワー室から離れた。そして、自分のロッカーの前にたどり着くと、その場にずるずると座り込んでしまう。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
呼吸が荒い。手足が微かに震えていた。
玲だけじゃなかった。太陽のような笑顔を振りまく、あの葵も。同じ秘密を抱え、たった一人で戦っていたんだ。
俺は、この学園の二つ目の大きな秘密を知ってしまった。玲の共犯者である俺が、今度は葵の秘密まで。
これから、どうすればいい? 葵に、どう接すればいい?
俺は、濡れたタオルを握りしめたまま、ただ呆然とするしかなかった。着替えを終えた生徒たちが、訝しげな顔で俺を見ている。しかし、そんなことはもう、どうでもよかった。
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