この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第22話 祐樹の部屋は溜まり場

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九条雅とも秘密を共有し、俺の心に引っかかっていた最後の棘が抜けたようだった。玲、葵、湊、そして雅。この学園で特別な事情を抱える四人と、俺は共犯者という不思議な絆で結ばれた。その事実は、俺の平凡だった日常を、かけがえのない宝物のように輝かせていた。

放課後。俺は自室で、読みかけだった文庫本を開いていた。隣のベッドでは、玲が静かに予習に取り組んでいる。時折ページをめくる音だけが響く、穏やかで心地いい時間。これが、俺と玲の日常の風景になっていた。

コンコン、と控えめなノックが響く。だが、返事をする前に、ドアは勢いよく開かれた。
「よお、祐樹! いるかー?」
ひょっこりと顔を出したのは、太陽のような笑顔を浮かべた葵だった。
「いるも何も、ここは俺たちの部屋だぞ」
俺が呆れて言うと、葵は悪びれる様子もなく部屋に上がり込んできた。そして、俺の前に立つと、自分のお腹をさすって見せる。
「腹減った! なんか美味いもん作ってくれ!」
「またかよ。お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「最高のダチであり、最高のシェフだ!」

葵はそう言って、俺が座っていた椅子のすぐ隣、ベッドの縁にどかりと腰を下ろした。その強引な振る舞いに、静かにペンを走らせていた玲が、ぴくりと眉を動かす。
「五十嵐。ここは僕たちのプライベートな空間だ。もう少し静かに入ってこれないのか」
「わりいわりい。でも腹の虫がうるさくてよ」
葵はガハハと笑う。玲の冷たい視線など、全く意に介していない。

玲と葵が俺を挟んで、静かな火花を散らし始める。またこのパターンか、と俺が苦笑していると、今度は開けっ放しのドアから、別の影がひょっこりと顔を覗かせた。
「あ、やっぱり。なんだか面白そうなことになってると思いました」
小悪魔的な笑みを浮かべた、後輩の湊だ。
「篠宮までどうしたんだ?」
「せんぱいのGPSが、この部屋に三つも密集してたので。これは極秘のパーティーかなって思って、偵察に来ました」

湊はにこにこしながら部屋に入ってくると、空いていた俺のベッドの反対側の縁にちょこんと座った。そして、俺が机に置いていたスマホを、当たり前のように手に取って操作を始める。完全に自分のものだと思っているな、あれは。

玲、葵、湊。三人の男装女子に囲まれ、ただでさえ狭い部屋は、人口密度が限界に達していた。もうこれ以上は無理だろ。そう思った矢先、今度はドアが、とん、とん、と非常に控えめにノックされた。

誰だろうか。俺がドアを開けると、そこには気まずそうな顔をした雅が立っていた。その手には、先日俺がクッキーのお返しに渡したタッパーが握られている。
「……九条? どうしたんだ?」
「……別に。用はない」
「用がないのになんで来たんだよ」
「……これを、返しに来ただけだ」
彼女はそう言って、綺麗に洗われたタッパーを俺に差し出した。その顔はそっぽを向いているが、耳はほんのりと赤い。
「ありがとう。わざわざいいのに」
「……用は、それだけだ」

雅はくるりと背を向けて帰ろうとする。だが、その腕を、後ろから伸びてきた葵の手ががしりと掴んだ。
「まあ待てって! せっかく来たんだから、上がってけよ、九条!」
「……遠慮する。狭い」
「いいからいいから! 祐樹のメシ、お前も食ってくだろ?」
「食わん」
問答無用で腕を引かれ、雅も部屋の中へと引きずり込まれてしまった。

ついに、役者が揃った。
俺の部屋に、四人の共犯者が大集合してしまったのだ。
狭い寮の一室は、美少女(ただし全員男装)たちの熱気でむんむんしている。そして自然発生的に始まったのは、俺の隣を巡る、静かで熾烈な争奪戦だった。

俺は椅子に座っている。そのすぐ隣、ベッドの縁が、彼女たちにとっての特等席らしい。
最初に葵が座っていた場所に、玲が割って入る。
「そこは僕のベッドだ。君が座る場所じゃないだろう」
「固いこと言うなよ、ルームメイト。俺は祐樹の一番近くにいたいんだよ」
すると、今までスマホを弄っていた湊が、するりと葵の反対側から俺の腕にしがみついてきた。
「せんぱいの隣は、僕が昨日から予約済みですよー。アプリで通知しておいたはずですけど?」
「そんな通知、来てないぞ!?」

雅だけは、少し離れた壁際に立っていた。だが、その視線は明らかに、俺の隣で繰り広げられる攻防を気にしていた。居心地悪そうに、しかしどこか羨ましそうに。

このままでは埒が明かない。俺は大きくため息をつくと、椅子から立ち上がって床に胡座をかいた。
「ほら、これで全員平等だろ」

俺がそう言うと、彼女たちは一瞬きょとんとした後、まるで示し合わせたかのように、俺の周りに集まってきた。
結局、俺を中心に、彼女たちが小さな円を描くように座ることで、この争いは一応の決着を見た。

玲は、俺の背中にそっと自分の背中を預けてきた。葵は、行儀悪く俺の足に自分の頭をごろんと乗せてくる。湊は、俺の肩に自分の顎をちょこんと乗せて、スマホの画面を一緒に覗き込もうとしてきた。
雅だけは、少しだけ距離を置いて膝を抱えていたが、その表情は先ほどよりもずっと穏やかだった。

俺は、四人の美少女(男装)に四方から密着されるという、とんでもない状況に陥っていた。
嬉しい悲鳴とは、まさにこのことだ。甘いシャンプーの香りが入り混じり、俺の理性は限界寸前だった。

いつの間にか、この狭い寮の一室は、彼女たちが唯一、窮屈な男の仮面を外して本当の自分でいられる、大切な「溜まり場」になっていた。
この温かくて、少しだけ甘ったるくて、どうしようもなく騒がしい空間を、俺は心の底から愛おしいと思った。
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