この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第23話 身体測定の危機!

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俺の部屋が溜まり場となって数週間。穏やかで、甘ったるくて、少しだけ騒がしい。そんな日常が当たり前になった頃、その平和を根底から揺るがす一枚の紙が、教室の掲示板に貼り出された。

『来週、全学年一斉 身体測定のお知らせ』

その文字を見た瞬間、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。そして、俺の周りにいた四人の顔から、サッと血の気が引いていくのを確かに見た。
葵は、太陽のような笑顔を凍りつかせたまま固まっている。玲は、冷静な表情を保とうとしながらも、その指先が微かに震えていた。湊は、青ざめた顔で何度も告知文を読み返し、雅はそっぽを向きながらも、その肩が硬直している。

身体測定。身長、体重、視力、聴力……そして、胸囲。
男装女子である彼女たちにとって、それは死刑宣告にも等しいイベントだった。

その日の放課後。俺の部屋は、かつてないほどの緊張感と絶望感に包まれていた。四人の共犯者たちが、まるで告別式に参列する人のように、どんよりとした顔で床に座り込んでいる。

「ど、ど、どうすんだよ祐樹ぃ……!」
最初に沈黙を破ったのは、葵だった。彼女は半泣きで俺のジャージの裾を掴んでくる。
「胸囲測定なんて、絶対無理だろ! サラシ巻いてたって、測られたら絶対バレる! 終わった……俺の学園生活、終わった……!」

「落ち着いて、五十嵐さん。まだ決まったわけでは……」
玲がなんとか場を収めようとするが、その声も震えていて説得力がない。彼女自身、どうしていいか分からずパニック寸前なのが見て取れた。

「物理的な測定は、僕のハッキングじゃどうにもなりません……!」
湊が、涙目で訴えてくる。
「データを改ざんする準備はいつでもできてますけど、その場でメジャーで測られちゃったら……! せんぱい、せんぱい、助けてくださいよぉ!」
いつもは小悪魔的な余裕を浮かべている湊が、今はただの助けを求める女の子になっていた。

雅だけは、腕を組んで黙り込んでいる。だが、その顔色は紙のように白く、ぎゅっと結んだ唇が微かに震えていた。
「……うるさい。じたばたしても、仕方ないだろ」
強がってはいるが、その声には全く力がなかった。

四人からの悲痛な視線が、一斉に俺に突き刺さる。そうだ。この中で、身体測定を何も恐れる必要がないのは俺だけだ。そして、彼女たちが頼れるのも、俺しかいない。

「……分かった」
俺は、大きく息を吸い込むと、四人の顔を順番に見渡した。そして、できるだけ頼りがいのある声で、はっきりと宣言する。
「俺が、なんとかする」

俺のその一言に、四人の瞳に、かすかな希望の光が宿った。
「本当か、祐樹!?」
「でも、どうやって……?」

「作戦を立てるんだ。絶対に乗り切れる方法を」
俺には一つだけ、心当たりがあった。この学園の秘密を知る、もう一人の協力者。彼女の力を借りれば、活路は開けるはずだ。

俺は四人を部屋に残し、一人で保健室へと向かった。ドアをノックすると、「はーい、どうぞー」という、のんびりとした女性の声が聞こえる。
保健室の主、桜木先生は、白衣を着たおっとりとした雰囲気の女性だ。いつもニコニコしていて、生徒たちの間では癒やし系の存在として人気がある。

「あら、相葉君。どうしたの? どこか具合でも悪い?」
桜木先生は、俺の顔を見るなり優しく微笑んだ。俺は、先生にだけ聞こえるように、声を潜めて切り出す。
「先生。学園長から、聞いてますよね。俺のこと」

その言葉に、桜木先生の笑顔の裏に、すっと理知的な光が宿った。
「ええ、もちろん。あなたが、この学園の『鍵』だってことはね」
彼女もまた、この学園の秘密を知る、数少ない協力者の一人だったのだ。

俺は、身体測定のことを話した。玲たちが、どれだけ追い詰められているかも。全てを聞き終えた桜木先生は、「なるほどねぇ」と腕を組んで頷いた。
「あの子たちにとって、確かに最大のピンチだわ。でも、大丈夫よ」
先生は、いたずらっぽく片目をつぶって見せた。
「こういう時のために、私がいるんだから。一緒に、完璧な作戦を立てましょうか」

俺と桜木先生による、極秘の作戦会議が始まった。
まず、湊のハッキング能力で、俺たち五人の測定の順番をクラスの最後になるように名簿を操作する。そして、他の生徒たちが全員測定を終え、保健室からいなくなったタイミングで、俺たちが測定を始める手筈だ。

「測定の時、あの子たちには厚手のジャージを着たままでいてもらうの。『ちょっと風邪気味で、肌寒いので』って言えば、他の子も不審に思わないわ」
「なるほど」
「そして、問題の胸囲測定。これはもう、私の腕の見せ所ね」
桜木先生は、メジャーを手に取ると、楽しそうに笑った。
「メジャーを持つ手をちょっとだけ緩めて測ったり、数値を読み間違えたフリをしたり。女優にならないとね」
記録された数値は、後で湊がデータベース上で、男子生徒として自然な範囲の数値に書き換える。

完璧な作戦だった。これなら、誰にもバレずに乗り切れる。
俺は先生に深く頭を下げ、部屋へと戻った。

絶望の淵にいた四人に作戦の内容を伝えると、彼女たちの顔にぱあっと光が差した。
「すげぇ……! 祐樹、お前、マジでヒーローだよ!」
葵が、俺に抱きついてくる。
「ありがとう、祐樹。君がいれば、大丈夫な気がしてきたわ」
玲が、心からの安堵の表情で微笑んだ。
「せんぱい……大好きです!」
湊が、涙目で俺の腕にすがりついてくる。
雅は、そっぽを向いたまま、小さな声で「……別に、感謝なんて、してない」と呟いていたが、その頬が赤く染まっているのを、俺は見逃さなかった。

決戦は、一週間後。
最大の危機は、同時に、俺たち五人の絆をさらに強く結びつける試練となった。
頼りにしてくれる彼女たちのために、絶対にこの作戦を成功させる。俺は、四人の少女たちの手を取りながら、静かに闘志を燃やしていた。
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