この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第25話 葵のストレートアタック

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玲の可愛らしい嫉妬事件から一夜。俺たちの関係は、以前よりもさらに深いものになった気がした。彼女は俺の前で、より素直に甘えるようになった。二人きりの部屋では、俺のベッドで本を読むのが彼女の定位置になり、俺がそれに文句を言うこともなくなった。この小さな秘密の共有が、俺たちの絆を確かなものにしていく。

さて、玲の問題が一段落したところで、俺の日常に新たな波乱を巻き起こす存在がいた。太陽のイケメン、五十嵐葵だ。彼女もまた、俺が他の三人と仲良くしている様子を、面白くないと感じていた一人だったらしい。だが、玲のように内に秘めるのではなく、彼女の行動はもっとストレートで、大胆だった。

「よお、祐樹!」
昼休み。俺が弁当の包みを開いていると、葵はいつものように俺の隣の席にどっかりと腰を下ろした。そして、俺の肩にぐいっと腕を回してくる。
「今日の弁当、美味そうじゃん! ちょっとくれよ!」
「自分で持ってこいよ」
「いいじゃんか、ダチだろ?」
そう言って、彼女は俺の弁当箱から唐揚げを一つ、ひょいとつまんで自分の口に放り込んだ。もぐもぐと幸せそうに頬張るその姿は、まるで人懐っこい大型犬のようだ。

「……五十嵐さん。人のものを取り上げるのは、行儀が悪いわ」
向かいの席に座る玲が、冷たい視線で葵を牽制する。
「んだよ、橘。一個ぐらいいいだろ、ケチくせえな」
「そういう問題ではないと言っているの」
玲と葵の間で、再び見えない火花が散る。これは、もはや日常の風景だ。

しかし、最近の葵のスキンシップは、明らかに度を越していた。
「男同士」という、この学園では最強の隠れ蓑を、彼女は最大限に活用していた。

廊下を歩けば、後ろからいきなり抱きついてくる。
「わっ!? なんだよ、葵!」
「祐樹の背中、なんか落ち着くんだよなー」
そう言って、彼女は俺の背中に自分の顔をぐりぐりと押し付けてくる。柔らかい感触と、汗とシャンプーの混じった匂いに、俺の心臓は跳ね上がる。周囲の生徒たちは「五十嵐と相葉、マジ仲良いなー」と笑っているが、俺だけは冷や汗だらくだ。

授業中も油断はできない。俺が少しでも眠そうにしていると、隣の席の彼女は机の下で俺の太ももをポンポンと叩いてくる。
「おい、祐樹。寝んなよ」
囁き声と共に、その手は俺の膝をさすったり、時には指を絡めてきたりする。その度に俺はびくりと身体を震わせ、眠気など一瞬で吹き飛んでしまう。

一番ひどいのは、放課後、俺の部屋にいる時だ。
彼女は、俺が作る夜食を待っている間、ソファに座る俺の隣にぴったりと身を寄せてくる。
「なあ祐樹、今日疲れたわー。肩、貸して」
そう言うと、彼女は俺の肩にこてんと頭を乗せてきた。ふわふわした茶色の髪が、俺の首筋をくすぐる。
「……重い」
「うるせー。これくらい我慢しろよ、ダチだろ?」

俺が読んでいる本を、後ろから覗き込んでくることもある。その時、彼女は俺の身体をすっぽりと包み込むように抱きしめてきた。
「へー、祐樹ってこんな本読むんだな」
耳元で囁かれる声と、背中に感じる確かな体温と柔らかさ。俺はもう、本の内容など全く頭に入ってこなかった。

「お、おい、葵……。近すぎるって」
「えー? 男同士でこれくらい普通だろ?」
彼女は、分かっていて言っている。その瞳の奥は、楽しそうに笑っていた。俺がタジタジになっているのを見て、面白がっているのだ。

ある日の夜。俺がベッドで寝る準備をしていると、葵が「なあ、祐樹」と声をかけてきた。彼女は、俺のベッドの縁に腰掛けて、真剣な顔で俺を見つめている。
「どうしたんだ、改まって」
「俺さ、決めたんだ」
「何をだよ」

葵は、一度ごくりと唾を飲み込むと、意を決したように言った。
「俺、祐樹のこと、他のヤツらには絶対渡さねえから」

「……は?」
突然の宣戦布告に、俺は固まった。
「玲も、湊も、雅も……みんな、お前のこと狙ってるだろ。でも、お前の隣は、俺のもんだ」
彼女の瞳は、冗談を言っているようには見えなかった。そこには、獲物を前にした肉食獣のような、獰猛な光が宿っている。

「だから、覚悟しとけよ」
そう言うと、彼女は俺の頬に、自分の額をこつんとぶつけてきた。至近距離で見つめられる。その力強い眼差しに、俺は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。

「……じゃ、おやすみ!」
言いたいことだけ言うと、彼女はいつもの太陽のような笑顔に戻り、ひらひらと手を振って自分の部屋へと帰っていった。

一人残された俺は、しばらく呆然とベッドの上に座り込んでいた。
頬に残る、彼女の額の感触と熱。
玲の独占欲とは、また違う。もっとストレートで、力強くて、有無を言わさぬ迫力。

葵のストレートアタックは、俺の心を容赦なくかき乱していく。
「男同士」という隠れ蓑は、時としてどんな甘い言葉よりも、俺の理性を揺さぶる強力な武器になることを、俺はこの時、痛いほど思い知らされたのだった。
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