この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第29話 ご褒美は君がいい

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一週間にわたる、甘くて過ocoなテスト勉強会。その成果は、驚くべき形で現れた。
掲示板に貼り出された成績上位者のリスト。そこには、橘玲の名を筆頭に、五十嵐葵、篠宮湊、そして九条雅の名前が、ずらりと並んでいたのだ。特に、今まで勉強を苦手としていた葵の飛躍的な成績アップは、クラス中で大きな話題となった。

「うおおおお! やったぜ、祐樹! 俺、生まれて初めて平均点以上取った!」
葵は、掲示板の前で俺に抱きついて、子供のように喜びを爆発させた。
「これも全部、お前のおかげだ! マジでありがとうな!」
「俺は何もしてないだろ。お前が頑張ったからだよ」
「いいや、お前がいたから頑張れたんだ!」

彼女たちの成績が良かったのは、ひとえに「祐樹に良いところを見せたい」「祐樹に褒められたい」という、純粋で強力なモチベーションがあったからに他ならない。俺に教えるという名目で、彼女たちは自分の限界を超えて努力したのだ。

ちなみに俺の成績は、赤点をギリギリ回避した、といういつも通りの結果だった。玲のマンツーマン指導があったにも関わらずこの成績なのは、勉強中、俺の集中力が別の方向に向いていたからに他ならない。

その日の放課後。俺の部屋は、お祝いムード一色だった。
「今回は、みんなよく頑張ったわね。特に、五十嵐さんと祐樹は」
玲が、母親のような優しい笑みで俺たちの頭を撫でる。
「当然の結果ですよ。僕がついてたんですから」
湊が、得意げに胸を張る。
「……別に。私は、普通の結果を出しただけだ」
雅はそっぽを向きながらも、その口元は微かに緩んでいた。

一通り喜びを分かち合った後。玲が、何かを思いついたように、パンと手を叩いた。
「そうだわ。これだけ頑張ったのだから、何かご褒美がないと張り合いがないわよね」
その言葉に、葵と湊がぱっと顔を輝かせた。
「ご褒美!? いいな、それ!」
「賛成です! 何がいいかなー?」

(何か美味いものでも作ってやるか)
俺がそんなことを考えていると、四人の視線が、まるで示し合わせたかのように、一斉に俺に突き刺さった。
え、俺?

「決まってるじゃない」
玲が、蠱惑的な笑みを浮かべて、俺に一歩近づいた。
「ご褒美は、祐樹がいいわ」

「は……?」
俺が間抜けな声を出すと、葵もニカッと笑って俺の肩を組んだ。
「だよな! 俺も、祐樹がいい!」
湊も、俺の腕にすり寄ってくる。
「僕も、祐樹せんぱいがいいです!」
雅でさえ、少しだけ頬を染めながら、こくりと小さく頷いている。

どうやら、彼女たちが望む「ご褒美」とは、物や食べ物ではなく、俺自身に関することらしい。そして、それは非常に、非常にまずい展開を予感させた。

「じゃあ、私からいいかしら?」
一番槍は、やはり玲だった。彼女は、俺の前に立つと、その紫色の瞳で俺をじっと見つめてきた。
「祐樹。一日だけでいいの。私と、『恋人』になってくれないかしら」
「こ、恋人!?」
「ええ。もちろん、『恋人ごっこ』よ。手を繋いで、名前を呼び捨てにして……それだけでいいの。ダメかしら?」
上目遣いでそう言われてしまえば、断れるはずもない。俺が狼狽えながらも頷くと、玲は満足そうに微笑んだ。

「ずりーぞ、玲! 俺も俺も!」
次は葵だ。彼女は、玲をぐいっと押し退けると、俺の目の前に仁王立ちした。
「俺へのご褒美は、これな!」
そう言うと、彼女は俺の頭を、大きな手でわしゃわしゃと力強く撫で始めた。
「な、何するんだよ!」
「いつもお前が俺にしてくれるやつだよ! これ、すげー嬉しいんだぜ! だから、今度はお返しだ!」
彼女の大きな手から伝わる温かさと、少しだけ乱暴な優しさに、俺の心臓はどきどきと高鳴った。

「もー、二人ともずるいです! 僕のご褒美は、もっとすごいですから!」
湊が、ぷんすかと頬を膨らませて割って入る。そして、俺の耳元に顔を近づけて、悪戯っぽく囁いた。
「せんぱい。僕に、膝枕してください。この前の、お返しです」
「ひ、膝枕!?」
「はい。僕がぐっすり眠れるまで、ずーっと、頭を撫でてくれるっていうオプション付きで、お願いします♪」
その小悪魔的な要求に、俺は顔から火が出そうになる。

最後に残ったのは、雅だった。彼女は、三人の大胆な要求に気圧されたのか、顔を真っ赤にして俯いている。
「……九条は、何がいいんだ?」
俺がおそるおそる尋ねると、彼女はしばらくもじもじしていたが、やがて蚊の鳴くような声で呟いた。
「……べ、別に、何もいらん」
「そんなこと言うなよー」
「……じゃあ」
彼女は意を決したように顔を上げると、俺を真っ直ぐに見つめてきた。
「……名前。呼んでほしい」
「え?」
「……雅、って。一回だけでいいから」

その、あまりにも健気で可愛らしい要求に、俺の心は完全に射抜かれてしまった。
「……分かった。みや、び」
俺がそう呼ぶと、彼女は「……っ!」と息をのみ、顔を爆発させたかのように真っ赤にして、再び俯いてしまった。

一日だけの恋人ごっこ。頭なでなで。膝枕。そして、名前呼び。
彼女たちが要求するご褒美は、どれもこれも俺の理性をギリギリまで試すような、甘くて危険なものばかりだった。

「じゃあ、順番だからな!」
「抜け駆けは禁止よ」
「僕が一番最後っていうのは、納得いきません!」
「……うるさい」

俺を中心に、四人の少女たちが再び熾烈な火花を散らし始める。
テストは終わったはずなのに、俺にとっての本当の試練は、これから始まるのかもしれない。
ご褒美という名の、甘い地獄。俺は、この幸せな拷問から、果たして無事に生還することができるのだろうか。そんなことを考えながら、俺はただ、嬉しい悲鳴を心の中で上げるしかなかった。
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