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第30話 体育祭の開催
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甘いご褒美という名の拷問(?)から数週間。俺の日常は、すっかり四人の男装女子たちに振り回されるのが当たり前になっていた。玲との恋人ごっこでは、手を繋いで歩くだけで彼女の耳が真っ赤になり、葵に頭を撫でられると、なぜか俺まで照れてしまう。湊への膝枕はもはや習慣化し、雅の名前を呼ぶたびに、彼女は顔を真っ赤にしてどこかへ逃げていってしまう。そんな日々は、刺激的で、温かくて、どうしようもなく楽しかった。
季節は夏へと向かい、日差しが日に日に強くなっていくのを感じる頃。その日、ホームルームで担任教師から、学園の一大イベントの開催が告知された。
「さて、お前ら。来月、獅子王院学園の伝統行事である『獅子王杯体育祭』を開催する」
その言葉に、教室中がどっと沸いた。体育祭。高校生活の華ともいえるイベントだ。スポーツ万能な生徒が多いこの学園では、特に盛り上がる行事らしい。クラス対抗で総合優勝を争い、優勝クラスには豪華な賞品と、何より名誉が与えられるという。
「うおおお! やってきたぜ、この季節が!」
俺の隣で、葵が誰よりも早く興奮の声を上げた。その瞳は、既に闘志の炎で爛々と輝いている。スポーツが絡むと、彼女のテンションはいつも以上に振り切れるのだ。
「去年のリベンジだ! 今年こそ、俺たちのクラスが優勝するぞ!」
葵の雄叫びに、クラスの男子(女子)たちも「おう!」と力強く拳を突き上げる。その熱気は、まるで戦に臨む武将たちのようだった。
俺は、その熱狂の輪から少しだけ離れた場所で、溜息をついていた。体育祭か。運動音痴の俺にとっては、公開処刑に等しいイベントだ。できれば、応援席の隅でひっそりと過ごしたい。
だが、そんな俺のささやかな願いは、隣に座る四人の共犯者たちによって、無残にも打ち砕かれることになる。
「祐樹」
凛とした声で、俺の名前を呼んだのは玲だった。彼女は、いつも通りのクールな表情を浮かべていたが、その紫色の瞳の奥には、確かな闘志が宿っている。
「君も、もちろん手を抜いたりはしないわよね? クラスの勝利のために、全力を尽くしなさい」
「え、あ、はい……」
玲にそう言われてしまえば、逆らうことなどできない。
「だよな! 祐樹!」
今度は、葵が俺の肩をがしりと掴んだ。
「お前、足は遅いかもしれねえけど、根性はあるもんな! 俺がお前のこと、ビシバシ鍛えてやるから覚悟しとけよ!」
その笑顔は爽やかだったが、言っている内容は全く爽やかではなかった。
「せんぱーい」
俺の腕に、湊がするりと絡みついてくる。
「僕、せんぱいのかっこいいところ、見たいです。だから、頑張ってくださいね? 僕、ずーっと、せんぱいのことだけ、見てますから」
その甘い囁きは、応援というよりも、プレッシャーに近い。
そして、雅。彼女は、俺から少し離れた席で腕を組んでいたが、俺が彼女の方に視線を送ると、目が合った。彼女は、ふいっと顔を背けたが、その直前に、小さく、しかしはっきりと口が動いたのが見えた。
『……負けるな』
四人からの、四者四様の熱い期待。
もう、逃げ場はない。俺は、この体育祭という戦場で、彼女たちのために全力を尽くすしかないのだ。
その日の放課後。俺の部屋は、体育祭の作戦会議室と化していた。
「よし、まずは種目決めだ! 俺はクラス対抗リレーのアンカーと、騎馬戦の大将をやる!」
葵が、早くもエースとしての自覚をみなぎらせている。
「私は、障害物競走と、二人三脚に出るわ。祐樹、あなたも二人三脚に出なさい。私が組んであげるから」
玲が、当たり前のように俺とのペアを決定した。
「えー! ずるいです、玲先輩! 僕もせんぱいと二人三脚やりたかったのに!」
湊が、頬を膨らませて抗議する。
「なら、僕は借り物競走に出ます! きっと、『大好きな人』っていうお題が出るはずですから!」
彼女たちの会話を聞いているだけで、頭がクラクラしてきた。どうやら、彼女たちにとっての体育祭は、クラスの勝利のためだけではないらしい。その真の目的は、「いかにして祐樹にかっこいいところを見せるか」「いかにして祐樹とイチャイチャするか」にあるようだった。
「……私は、応援でいい」
雅が、ぽつりと呟いた。
「何言ってんだよ、雅! お前、運動神経いいんだから、なんか出ろよ!」
葵がそう言うと、雅は「……うるさい」とだけ言って、黙り込んでしまった。彼女は、人前に出て目立つのが苦手なのだろう。
そんな彼女たちの様子を見ながら、俺は大きくため息をついた。
運動音痴の俺が、この学園の体育祭で活躍できるとは思えない。だが、彼女たちがこれだけ期待してくれているのだ。無様な姿は見せられない。
「分かったよ。やるからには、頑張る」
俺がそう言うと、四人の顔がぱあっと輝いた。
「その意気だ、祐樹!」
「ええ、期待しているわ」
「頑張ってくださいね、せんぱい!」
「……ふん」
こうして、俺の人生で最も過酷で、そして最も甘いであろう体育祭への挑戦が始まった。
彼女たちにかっこいいところを見せるため。いや、それ以上に、彼女たちの期待に応えるため。俺は、腹を括るしかなかった。
来月開催される、獅子王杯体育祭。
それは、俺たちの絆を試す、新たなステージの幕開けを告げる号砲だった。俺は、これから始まるであろう波乱の日々を思い、期待と不安の入り混じった、複雑な気持ちで空を見上げていた。
季節は夏へと向かい、日差しが日に日に強くなっていくのを感じる頃。その日、ホームルームで担任教師から、学園の一大イベントの開催が告知された。
「さて、お前ら。来月、獅子王院学園の伝統行事である『獅子王杯体育祭』を開催する」
その言葉に、教室中がどっと沸いた。体育祭。高校生活の華ともいえるイベントだ。スポーツ万能な生徒が多いこの学園では、特に盛り上がる行事らしい。クラス対抗で総合優勝を争い、優勝クラスには豪華な賞品と、何より名誉が与えられるという。
「うおおお! やってきたぜ、この季節が!」
俺の隣で、葵が誰よりも早く興奮の声を上げた。その瞳は、既に闘志の炎で爛々と輝いている。スポーツが絡むと、彼女のテンションはいつも以上に振り切れるのだ。
「去年のリベンジだ! 今年こそ、俺たちのクラスが優勝するぞ!」
葵の雄叫びに、クラスの男子(女子)たちも「おう!」と力強く拳を突き上げる。その熱気は、まるで戦に臨む武将たちのようだった。
俺は、その熱狂の輪から少しだけ離れた場所で、溜息をついていた。体育祭か。運動音痴の俺にとっては、公開処刑に等しいイベントだ。できれば、応援席の隅でひっそりと過ごしたい。
だが、そんな俺のささやかな願いは、隣に座る四人の共犯者たちによって、無残にも打ち砕かれることになる。
「祐樹」
凛とした声で、俺の名前を呼んだのは玲だった。彼女は、いつも通りのクールな表情を浮かべていたが、その紫色の瞳の奥には、確かな闘志が宿っている。
「君も、もちろん手を抜いたりはしないわよね? クラスの勝利のために、全力を尽くしなさい」
「え、あ、はい……」
玲にそう言われてしまえば、逆らうことなどできない。
「だよな! 祐樹!」
今度は、葵が俺の肩をがしりと掴んだ。
「お前、足は遅いかもしれねえけど、根性はあるもんな! 俺がお前のこと、ビシバシ鍛えてやるから覚悟しとけよ!」
その笑顔は爽やかだったが、言っている内容は全く爽やかではなかった。
「せんぱーい」
俺の腕に、湊がするりと絡みついてくる。
「僕、せんぱいのかっこいいところ、見たいです。だから、頑張ってくださいね? 僕、ずーっと、せんぱいのことだけ、見てますから」
その甘い囁きは、応援というよりも、プレッシャーに近い。
そして、雅。彼女は、俺から少し離れた席で腕を組んでいたが、俺が彼女の方に視線を送ると、目が合った。彼女は、ふいっと顔を背けたが、その直前に、小さく、しかしはっきりと口が動いたのが見えた。
『……負けるな』
四人からの、四者四様の熱い期待。
もう、逃げ場はない。俺は、この体育祭という戦場で、彼女たちのために全力を尽くすしかないのだ。
その日の放課後。俺の部屋は、体育祭の作戦会議室と化していた。
「よし、まずは種目決めだ! 俺はクラス対抗リレーのアンカーと、騎馬戦の大将をやる!」
葵が、早くもエースとしての自覚をみなぎらせている。
「私は、障害物競走と、二人三脚に出るわ。祐樹、あなたも二人三脚に出なさい。私が組んであげるから」
玲が、当たり前のように俺とのペアを決定した。
「えー! ずるいです、玲先輩! 僕もせんぱいと二人三脚やりたかったのに!」
湊が、頬を膨らませて抗議する。
「なら、僕は借り物競走に出ます! きっと、『大好きな人』っていうお題が出るはずですから!」
彼女たちの会話を聞いているだけで、頭がクラクラしてきた。どうやら、彼女たちにとっての体育祭は、クラスの勝利のためだけではないらしい。その真の目的は、「いかにして祐樹にかっこいいところを見せるか」「いかにして祐樹とイチャイチャするか」にあるようだった。
「……私は、応援でいい」
雅が、ぽつりと呟いた。
「何言ってんだよ、雅! お前、運動神経いいんだから、なんか出ろよ!」
葵がそう言うと、雅は「……うるさい」とだけ言って、黙り込んでしまった。彼女は、人前に出て目立つのが苦手なのだろう。
そんな彼女たちの様子を見ながら、俺は大きくため息をついた。
運動音痴の俺が、この学園の体育祭で活躍できるとは思えない。だが、彼女たちがこれだけ期待してくれているのだ。無様な姿は見せられない。
「分かったよ。やるからには、頑張る」
俺がそう言うと、四人の顔がぱあっと輝いた。
「その意気だ、祐樹!」
「ええ、期待しているわ」
「頑張ってくださいね、せんぱい!」
「……ふん」
こうして、俺の人生で最も過酷で、そして最も甘いであろう体育祭への挑戦が始まった。
彼女たちにかっこいいところを見せるため。いや、それ以上に、彼女たちの期待に応えるため。俺は、腹を括るしかなかった。
来月開催される、獅子王杯体育祭。
それは、俺たちの絆を試す、新たなステージの幕開けを告げる号砲だった。俺は、これから始まるであろう波乱の日々を思い、期待と不安の入り混じった、複雑な気持ちで空を見上げていた。
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