この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第43話 【後日談】保健室にて

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閉会式が終わり、俺たちのクラスの総合優勝が告げられた瞬間、グラウンドは割れんばかりの歓声に包まれた。葵はクラスメイトたちに担ぎ上げられ、誇らしげに優勝旗を掲げている。玲は、仲間たちと静かにハイタッチを交わし、その表情には確かな満足感が浮かんでいた。湊も雅も、それぞれの形でこの勝利を喜び合っている。

俺も、クラスメイトたちと肩を組んで校歌を歌った。運動音痴の俺が、まさか総合優勝に貢献できるなんて。夢を見ているような気分だった。

だが、夢から覚めるように、閉会式が終わった直後。俺の身体を、どっと疲労感が襲った。一日中張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れたのだ。足は鉛のように重く、頭はぼーっとして、立っているのがやっとだった。

「……やばい。ちょっと、クラクラする」
俺がその場にふらりとしゃがみ込むと、それにいち早く気づいた四人が、慌てて駆け寄ってきた。
「祐樹!? 大丈夫か!?」
葵が、俺の顔を心配そうに覗き込む。
「顔色が悪いわ。少し、貧血を起こしているのかもしれない」
玲が、冷静に分析しながらも、その声には隠せない焦りが滲んでいた。

「せんぱい、しっかりしてください!」
「……おい、生きてるか」
湊と雅も、それぞれのやり方で俺を心配してくれている。
「ああ……大丈夫。ちょっと、疲れただけだから」
俺はそう言って笑おうとしたが、うまく顔が引きつるだけだった。

「ダメだ! 祐樹が倒れる!」
葵はそう叫ぶと、俺の腕を自分の肩に回し、軽々と俺の身体を支え上げた。
「保健室に運ぶぞ!」
「え、いや、俺は歩けるって!」
「うるさい! 病人(?)は黙ってろ!」
葵の有無を言わさぬ声に、玲も湊も雅も、力強く頷いた。こうなっては、もう彼女たちに逆らうことはできない。俺は、半ば引きずられるようにして、保健室へと連行されることになった。

保健室のドアを開けると、そこには桜木先生がいて、優しく微笑みながら俺たちを迎えてくれた。
「あらあら、みんなお疲れ様。特に相葉君は、頑張りすぎちゃったみたいね」
先生は、全てお見通しというように、俺をベッドへと促した。俺は靴を脱ぐと、ふかふかのベッドに倒れ込むように横になる。シーツの冷たい感触が、火照った身体に心地よかった。

「ふぅ……」
俺が安堵のため息をついていると、俺を運んできたはずの四人が、ベッドの周りで何やら不穏な空気を醸し出し始めた。
「……はー。祐樹を運んだら、俺もどっと疲れちまったぜ」
葵が、わざとらしく大きなため息をつきながら、俺のベッドの隣のベッドにどかりと腰を下ろした。
「そうね。私も、リレーで全力を出したからか、少し目眩がするわ」
玲も、涼しい顔でそう言いながら、俺の反対側のベッドの縁に、優雅に腰掛ける。

「僕もですー。せんぱいの応援で叫びすぎちゃって、喉がカラカラで……」
湊はそう言うと、俺が寝ているベッドの足元にちょこんと座り込んだ。
「…………」
雅だけは、何も言わずに腕を組んで壁に寄りかかっていたが、その顔には確かに疲労の色が浮かんでいる。

桜木先生は、そんな俺たちの様子を、楽しそうに眺めていた。
「みんな、本当に頑張ったものね。いいわよ、そこのベッド、いくつか空いてるから、少し休んでいきなさいな」
その言葉は、まるで天の助けのようだった。
先生の許可を得た途端、彼女たちの行動はさらにエスカレートする。

「じゃあ、お言葉に甘えて。祐樹の隣が、一番落ち着くから」
玲はそう言うと、靴を脱ぎ、俺の隣のベッドにすっと横になった。そして、俺の方に顔を向けて、満足そうに目を閉じる。
「おい、玲ずるいぞ! 俺も祐樹の隣がいい!」
葵も、負けじと反対側のベッドに寝転がった。まるで、俺を挟む巨大な壁のようだ。

「えー、それじゃあ僕、せんぱいが見えないじゃないですか」
湊が、不満げに声を上げる。そして、とんでもないことを言い出した。
「仕方ないですね。せんぱい、ちょっと失礼しますよ?」
そう言うと、彼女は俺が寝ているベッドに、するりともぐり込んできたのだ。
「お、おい、篠宮!?」
「大丈夫ですって。僕は体が小さいですから、邪魔にはなりませんよ。せんぱいの体温、あったかいですね……」
湊は、俺の腰のあたりで、猫のように小さく丸まってしまった。

「……お前ら、うるさい。静かに寝かせろ」
壁際にいた雅が、ぼそりと呟いた。そして、諦めたように息をつくと、湊が陣取った、俺のベッドの足元にあるベッドへと向かい、そこに静かに横になった。

気がつけば、俺は四人の男装女子たちに完全に包囲されていた。
右には玲、左には葵。足元には雅がいて、そして俺の布団の中には湊がいる。保健室のベッド五つを占領し、俺を真ん中にした、奇妙な川の字が出来上がっていた。

桜木先生は、「あらあら、仲がいいこと」と微笑むと、俺たちのベッドの周りのカーテンを、そっと閉めてくれた。
「ゆっくりおやすみ。ヒーローさんたち」
その優しい声と共に、俺たちの空間は、外の世界から完全に隔離された。

カーテンの向こうから差し込む午後の光が、薄暗い空間をぼんやりと照らしている。
右からは玲の、左からは葵の、そして布団の中からは湊の、穏やかな寝息が聞こえてくる。雅は静かに寝ているようだが、その気配は確かに感じられた。
彼女たちの体温、微かな寝息、そしてシャンプーの甘い香りが、この小さな空間に充満している。

(……なんだ、この状況は)

疲れているはずなのに、心臓はドキドキと音を立てて、全く眠れそうにない。だが、不思議と嫌な気はしなかった。むしろ、この上ない幸福感に包まれている。
体育祭の激闘を戦い抜いた、俺たちだけの、秘密の休息。

俺が、そんな幸せな状況に浸っていると、隣で眠っていた玲の手が、そっと伸びてきた。そして、布団の中で、俺の手を探り当て、優しく指を絡めてくる。
「……お疲れ様、祐樹……」
寝ぼけたような、甘い声が聞こえた。

反対側からは、葵の大きな手が伸びてきて、俺の頭をぽんと優しく叩いた。
「……よく、頑張ったな……」
その声も、眠りに落ちる寸前の、穏やかな響きだった。

腰のあたりで丸まっていた湊が、寝返りを打って、俺の背中にこてんと頭を預けてくる。
雅の方からは、すー、すー、と、今まで聞いたこともないような、穏やかで安心しきった寝息が聞こえてきた。

四人の温かさに包まれながら、俺の意識も、ゆっくりと微睡みの中へと沈んでいった。
今日の勝利は、誰か一人の力じゃない。俺たち五人が、心を一つにして掴み取ったものだ。

夕日が差し込む保健室。
カーテンで仕切られた小さな王国で、五人のヒーローたちは、互いの温もりを感じながら、穏やかな眠りに落ちていった。
体育祭の熱狂の後の、甘くて、少しだけくすぐったい、最高の午後のひとときだった。
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