この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第47話 貸し切りプールで大はしゃぎ!

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俺の、そして玲の、甘くて静かな二人だけの夏休み計画は、開始からわずか半日にして脆くも崩れ去った。俺の部屋は、いつの間にか家出少女(葵)、ネット難民(湊)、そして猫付きの訳アリ少女(雅)の共同リビングと化していたのだ。

夏休みが始まって数日。そんなカオスな日常にも、俺は慣れ始めていた。玲は未だに少しだけ不機嫌そうだったが、なんだかんだ言いながらもみんなの分の朝食準備を手伝ってくれる。葵と湊は我が物顔でソファを占領し、雅は子猫と一緒に窓際の日当たりの良い場所を定位置にしていた。

「あー……あちい……死ぬ……」
その日も、太陽は容赦なく地面を照りつけていた。クーラーの効いた部屋の中で、葵が床に大の字になって呻く。連日の猛暑。外に出る気力さえ奪われるような暑さだった。
「こんな日は、プールにでも飛び込みてえなー」

葵のその一言に、部屋にいた全員の動きがぴたりと止まった。
プール。その単語が持つ、夏休み特有のキラキラした響き。
「プール……いいですねぇ」
ノートPCから顔を上げた湊が、目を輝かせる。
「……別に、行きたくなくはない」
雅も、そっぽを向きながら同意の意を示した。玲でさえ、読んでいた本のページをめくる手を止め、どこか物憂げな表情で窓の外を見ている。

だが、現実は厳しい。
「無理だろ。俺たちが外のプールなんか行ったら、一発でアウトだ」
俺が冷静にそう言うと、部屋の空気は風船がしぼむように一気に沈んだ。そうだ。俺たちは、訳アリの男装女子(と、その共犯者)。公衆の面前で、無防備な水着姿を晒すことなどできるはずもない。
「……だよな」
葵が、再び床に突っ伏して動かなくなった。

その時、俺のスマホが軽快な着信音を鳴らした。ディスプレイに表示された名前は『学園長』。
「もしもし、相葉君? 夏休みは、楽しく過ごせているかね?」
電話の向こうから、学園長の穏やかな声が聞こえてくる。
「は、はい。おかげさまで、賑やかに……」
「そうかね。実は、君たちの会話を少しだけ『聞かせてもらって』ね。プールに行きたいのだろう?」
『聞かせてもらった』という不穏な言葉に、俺はちらりと湊を見た。彼女は、にこりと笑って自分の耳を指さし、そしてウインクをした。間違いなく、この小悪魔が盗聴器でも仕掛けて、学園長に情報をリークしたのだ。
「もしよかったら、学園のプールを使いなさい。夏休み中は誰も使わん。君たちだけで、貸し切りだ」

その、あまりにも都合の良い提案に、俺は一瞬言葉を失った。そして、電話の向こうで全てを聞いていた四人の方を振り返る。彼女たちの顔は、絶望から一転、歓喜に輝いていた。
「や、やります! 使わせていただきます!」

翌日。俺たちは、燦々と輝く太陽の下、学園の広大なプールサイドに立っていた。青く澄んだ水面が、光を反射してキラキラと輝いている。まさに、絶好のプール日和だ。
俺が先に更衣室で水着に着替え、プールサイドで待っていると、少し遅れて、彼女たちが姿を現した。その瞬間、俺は呼吸を忘れた。

最初に現れたのは、葵だった。オーソドックスな紺色のスクール水着。だが、それが彼女の健康的な魅力を最大限に引き立てていた。引き締まった手足、少しだけ日焼けした小麦色の肌。そして、スクール水着の布地を押し上げる、豊かな胸のライン。彼女は少しだけ恥ずかしそうに胸元を隠しながらも、ニカッと笑った。その笑顔は、太陽よりも眩しかった。

次に、湊が小走りでやってきた。フリルが少しだけついた、可愛らしいデザインのものだ。小柄な身体つきだが、出るところはちゃんと出ている。そのアンバランスさが、彼女の小悪魔的な魅力を際立たせていた。彼女は、俺の前でくるりと一回転して見せる。「どうですか? 似合います?」その問いに、俺は頷くことしかできなかった。

続いて、玲が少しだけ気まずそうに姿を見せた。シンプルな黒の競泳水着。だが、そのシンプルなデザインが、逆に彼女の完璧なプロポーションを強調していた。長い手足、細くくびれたウエスト、そしてサラシから解放された、形の良い豊かな胸。モデルが着ていると言われても、誰も疑わないだろう。彼女は、俺の視線に気づくと、顔を真っ赤にして腕で身体を隠してしまった。その仕草が、普段のクールさとのギャップで、俺の心臓を容赦なく撃ち抜いた。

最後に、雅が一番遅れて、おずおずと更衣室から出てきた。白と黒の、少しボーイッシュなデザインのセパレートタイプの水着。彼女は、自分の華奢な身体を見られるのが恥ずかしいのか、大きなバスタオルで全身をすっぽりと覆っている。だが、その隙間から覗く白い肌と、引き締まった腹筋のラインは、隠しようもなく魅力的だった。彼女は、俺と目が合うと、ぷいっと顔を背けてしまったが、その耳は真っ赤に染まっている。

四者四様の、眩しすぎる水着姿。
普段は、男装という固い鎧で隠されている、彼女たちの本当の姿。その破壊力は、俺のちっぽけな理性を粉々に吹き飛ばすには、十分すぎるほどだった。

「うおおおおお! プールだぁぁぁぁ!」
そんな俺の葛藤などお構いなしに、一番最初に我に返った葵が、歓声を上げてプールへと駆け出した。そして、豪快な水しぶきを上げて、青い水面へと飛び込んでいく。
「気持ちいー!」
その姿は、まるで水を得た魚のようだった。

「きゃっ! 葵先輩、待ってくださいよー!」
湊も、葵に続いてプールへと飛び込む。二人で、楽しそうに水をかけ合い始めた。
玲と雅は、まだプールサイドで躊躇しているようだった。
「……玲、雅。行かないのか?」
俺が声をかけると、二人はびくりと肩を震わせた。
「……別に、急ぐ必要はないだろう」
「……ええ。まずは、準備運動からよ」
二人は、明らかに俺の視線を意識していた。その初々しい反応が、たまらなく可愛いと思ってしまう俺は、もう手遅れなのかもしれない。

俺も、意を決してプールに入った。ひんやりとした水の感触が、火照った身体に心地いい。
それからは、もう無我夢中だった。
葵と本気のクロール対決をしたり(もちろん、俺が惨敗した)、湊に「せんぱいの背中、流してあげます♪」と密着されたり、玲に「溺れないように、見ていてあげるわ」と過保護な監視を受けたり、雅が投げたビーチボールが顔面に直撃したり。

そこにはもう、男も女も、先輩も後輩もなかった。ただ、夏休みを全力で楽しむ、五人の高校生の姿があるだけだった。
普段は決して見せることのない、彼女たちの無邪気な笑顔。水しぶきと共に弾ける、楽しそうな声。その全てが、夏の強い日差しを浴びて、キラキラと輝いていた。

俺は、プールサイドに腰掛けて、そんな光景を眺めていた。
彼女たちが、心から笑っている。男のフリをすることもなく、誰の目も気にすることなく、ただ一人の女の子として。その事実が、俺は自分のことのように嬉しかった。

「……何、一人で黄昏てるんだよ」
不意に、隣に葵が腰を下ろした。濡れた髪から滴る水滴が、彼女の健康的な肩を滑り落ちていく。
「いや……みんな、楽しそうだなって」
「当たり前だろ。お前のおかげだよ、祐樹」
「俺は何もしてないだろ。学園長に感謝だな」
「違う。お前がいるから、俺たちはこうやって、安心して笑えるんだ」
葵は、真っ直ぐな瞳で俺を見つめてきた。その瞳には、冗談の色はない。
「お前は、俺たちの……なんていうか、安全地帯、みたいなもんだからさ」

そのストレートな言葉に、俺は少しだけ照れてしまった。
俺が、彼女たちの居場所になっている。共犯者として、これほど嬉しい言葉はなかった。

やがて、傾き始めた太陽が、プールサイドをオレンジ色に染め始めた。
俺たちは、名残惜しさを感じながらも、プールから上がる。
「あー、楽しかった!」
「また来ましょうね、せんぱい!」
「……悪くなかったな」
「ええ。最高の気分転換になったわ」

四人とも、心からの満足感を顔に浮かべていた。
学園のプールを貸し切りにした、一日だけの大騒ぎ。
それは、俺たちの秘密の夏休みに、鮮やかで、忘れられない思い出の一ページを刻み込んでくれた。
そして、初めて間近で見た彼女たちの本当の姿は、俺の心に、甘くて消えない焼き印のように、深く、深く、刻み込まれることになったのだった。
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