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第52話 街へお買い物
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雅と二人きりで線香花火をした夜。彼女が少しだけ素直な気持ちを見せてくれたことで、俺たちの間の距離はまた一歩縮まった気がした。彼女は相変わらず口数は少ないが、以前よりも俺たちの輪の中にいる時間が増え、時折見せる柔らかな表情に俺たちは少しずつ慣れてきていた。
夏休みも残すところあとわずか。
「なあなあ、夏休み、どこにも出かけてなくね!?」
その日もリビングのソファでだらけていた葵が、突然大きな声で叫んだ。
「プールも肝試しも全部学園の中じゃんか! せっかくの夏休みなんだから街に繰り出そうぜ!」
その提案に、湊が真っ先に飛びついた。
「いいですね! 街でお買い物とかゲームセンターとか行きたいです!」
「街……」
玲もどこか憧れるような表情で呟く。お嬢様の彼女にとって、普通の高校生のように街で遊ぶという経験はほとんどないのかもしれない。
雅だけは「……面倒だ」と呟きながらも、その瞳はどこか期待に揺れているように見えた。
だが、問題があった。
「無理だろ。俺たちが制服以外で街に出たら目立ちすぎる」
俺が冷静に指摘すると、部屋の空気は再び沈んだ。そうだ。彼女たちは獅子王院のイケメンとして、一部ではかなり顔が知られている。そんな彼女たちがもし女の子らしい服装で街を歩いていれば、大騒ぎになるのは目に見えていた。
「うーん……」
全員が頭を悩ませていたその時だった。
「ふっふっふ。その問題なら僕にお任せください!」
湊が自信満々に胸を張った。そしてどこからか取り出した大きな紙袋をテーブルの上にどさりと置く。
「ジャーン! みんなの変装用の私服でーす!」
紙袋の中から出てきたのは、四人分の少しボーイッシュなデザインの私服だった。Tシャツにデニム、キャップやパーカー。どれも街にいそうな普通の若者が着ていそうなカジュアルな服ばかりだ。
「僕がネットでみんなに似合いそうなのを選んでおきました! これを着て髪を帽子で隠せば、誰も僕たちが獅子王院の生徒だって気づきませんよ!」
どこまでも用意周到な湊の計画に、俺たちは感嘆の声を上げるしかなかった。
こうして、俺たちの秘密の「街へお買い物大作戦」が決定した。
翌日、俺たちは湊が用意した私服に着替え、寮をこっそりと抜け出した。
電車に乗って隣町の大きな駅に降り立つ。久しぶりに浴びる街の喧騒。行き交う人々の雑踏、店の看板のネオン、そして様々な匂い。その全てが新鮮で刺激的だった。
「うおー! すげー! 人がいっぱいいる!」
葵が子供のようにはしゃいでいる。
「見て、祐樹! あのクレープ、美味しそう!」
玲が目をキラキラさせながら俺の袖を引く。
「せんぱい、あっちのゲームセンターに行きましょうよ!」
「……人混みは、疲れる」
湊と雅も、それぞれのやり方でこの非日常を楽しんでいるようだった。
俺たちはまずゲームセンターへと向かった。
葵は得意の運動神経で、UFOキャッチャーの大きなぬいぐるみを次々とゲットしていく。その腕前はもはや神業だった。
玲は最初は遠巻きに見ていただけだったが、俺が「やってみるか?」と誘うと、おずおずとレースゲームの筐体に座った。そして一度ハンドルを握ると、その瞳は完璧なゲーマーのそれに変わり、驚異的なドライビングテクニックであっという間に最高記録を叩き出した。お嬢様、恐るべし。
湊は音ゲーの達人だった。その小さな指が信じられない速さでボタンの上を舞い、最高難易度の曲を軽々とフルコンボでクリアしていく。周りにはいつの間にか人だかりができていた。
雅はそんな俺たちから少し離れた場所で、もぐら叩きに夢中になっていた。その表情は真剣そのもので、日頃の鬱憤を晴らすかのように力強くハンマーを振り下ろしている。その姿は少しだけシュールで、俺は思わず笑ってしまった。
ゲームセンターで一通り遊んだ後、俺たちはクレープ屋の前に並んだ。
「俺、チョコバナナな!」
「私は、いちごクリームをお願いします」
「僕は、全部乗せで!」
「……抹茶」
それぞれが好きなクレープを手に、近くの公園のベンチに座って食べる。甘いクリームとフルーツの酸味。歩き疲れた身体にその甘さがじんわりと染み渡った。
「んー! うめえ!」
「本当に、美味しいわね」
「せんぱい、一口いります?」
「……悪くない」
隣に座る玲の口元にクリームが少しだけついていた。
「あ、玲。ついてるぞ」
俺が何も考えずに、自分の親指でそっとそのクリームを拭ってやる。
「……っ!」
その瞬間、玲の顔がいちごのように真っ赤に染まった。
「……な、ななな、何をするのよ、祐樹!」
「え、いや、クリームが……」
「自分で取れたわよ!」
彼女は慌てて顔を背けてしまった。その反応に葵と湊が「ずりーぞ祐樹!」「せんぱいのえっち!」と野次を飛ばしてくる。雅だけは顔
夏休みも残すところあとわずか。
「なあなあ、夏休み、どこにも出かけてなくね!?」
その日もリビングのソファでだらけていた葵が、突然大きな声で叫んだ。
「プールも肝試しも全部学園の中じゃんか! せっかくの夏休みなんだから街に繰り出そうぜ!」
その提案に、湊が真っ先に飛びついた。
「いいですね! 街でお買い物とかゲームセンターとか行きたいです!」
「街……」
玲もどこか憧れるような表情で呟く。お嬢様の彼女にとって、普通の高校生のように街で遊ぶという経験はほとんどないのかもしれない。
雅だけは「……面倒だ」と呟きながらも、その瞳はどこか期待に揺れているように見えた。
だが、問題があった。
「無理だろ。俺たちが制服以外で街に出たら目立ちすぎる」
俺が冷静に指摘すると、部屋の空気は再び沈んだ。そうだ。彼女たちは獅子王院のイケメンとして、一部ではかなり顔が知られている。そんな彼女たちがもし女の子らしい服装で街を歩いていれば、大騒ぎになるのは目に見えていた。
「うーん……」
全員が頭を悩ませていたその時だった。
「ふっふっふ。その問題なら僕にお任せください!」
湊が自信満々に胸を張った。そしてどこからか取り出した大きな紙袋をテーブルの上にどさりと置く。
「ジャーン! みんなの変装用の私服でーす!」
紙袋の中から出てきたのは、四人分の少しボーイッシュなデザインの私服だった。Tシャツにデニム、キャップやパーカー。どれも街にいそうな普通の若者が着ていそうなカジュアルな服ばかりだ。
「僕がネットでみんなに似合いそうなのを選んでおきました! これを着て髪を帽子で隠せば、誰も僕たちが獅子王院の生徒だって気づきませんよ!」
どこまでも用意周到な湊の計画に、俺たちは感嘆の声を上げるしかなかった。
こうして、俺たちの秘密の「街へお買い物大作戦」が決定した。
翌日、俺たちは湊が用意した私服に着替え、寮をこっそりと抜け出した。
電車に乗って隣町の大きな駅に降り立つ。久しぶりに浴びる街の喧騒。行き交う人々の雑踏、店の看板のネオン、そして様々な匂い。その全てが新鮮で刺激的だった。
「うおー! すげー! 人がいっぱいいる!」
葵が子供のようにはしゃいでいる。
「見て、祐樹! あのクレープ、美味しそう!」
玲が目をキラキラさせながら俺の袖を引く。
「せんぱい、あっちのゲームセンターに行きましょうよ!」
「……人混みは、疲れる」
湊と雅も、それぞれのやり方でこの非日常を楽しんでいるようだった。
俺たちはまずゲームセンターへと向かった。
葵は得意の運動神経で、UFOキャッチャーの大きなぬいぐるみを次々とゲットしていく。その腕前はもはや神業だった。
玲は最初は遠巻きに見ていただけだったが、俺が「やってみるか?」と誘うと、おずおずとレースゲームの筐体に座った。そして一度ハンドルを握ると、その瞳は完璧なゲーマーのそれに変わり、驚異的なドライビングテクニックであっという間に最高記録を叩き出した。お嬢様、恐るべし。
湊は音ゲーの達人だった。その小さな指が信じられない速さでボタンの上を舞い、最高難易度の曲を軽々とフルコンボでクリアしていく。周りにはいつの間にか人だかりができていた。
雅はそんな俺たちから少し離れた場所で、もぐら叩きに夢中になっていた。その表情は真剣そのもので、日頃の鬱憤を晴らすかのように力強くハンマーを振り下ろしている。その姿は少しだけシュールで、俺は思わず笑ってしまった。
ゲームセンターで一通り遊んだ後、俺たちはクレープ屋の前に並んだ。
「俺、チョコバナナな!」
「私は、いちごクリームをお願いします」
「僕は、全部乗せで!」
「……抹茶」
それぞれが好きなクレープを手に、近くの公園のベンチに座って食べる。甘いクリームとフルーツの酸味。歩き疲れた身体にその甘さがじんわりと染み渡った。
「んー! うめえ!」
「本当に、美味しいわね」
「せんぱい、一口いります?」
「……悪くない」
隣に座る玲の口元にクリームが少しだけついていた。
「あ、玲。ついてるぞ」
俺が何も考えずに、自分の親指でそっとそのクリームを拭ってやる。
「……っ!」
その瞬間、玲の顔がいちごのように真っ赤に染まった。
「……な、ななな、何をするのよ、祐樹!」
「え、いや、クリームが……」
「自分で取れたわよ!」
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