この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第61話 【計画①】出し物は執事喫茶!

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楽しかった夏休みが終わり、獅子王院学園に再び生徒たちの活気が戻ってきた。長い休暇を経て再会したクラスメイトたちは、日焼けした肌を誇らしげに見せ合ったり、旅先での土産話を交換したりと、教室のあちこちで賑やかな輪を作っている。

俺たち五人の関係も、夏休みを経てより親密なものになっていた。教室で目が合えば玲は小さく微笑み、葵は大きな声で俺の名前を呼ぶ。湊は遠くからでも見つけると手を振り、雅はそっぽを向きながらもその視線が俺を追っているのが分かった。周囲からは、学園の誇るイケメン四天王にすっかり気に入られた幸運なやつと見られていることだろう。その裏側にある甘くて秘密だらけの関係を知っているのは、世界で俺だけだ。その事実が、新学期の少しだけ気だるい空気を特別なものに変えてくれていた。

二学期が始まって数日後。その日のホームルームで、担任教師が教壇の前でパンと手を叩いた。
「さて、お前ら。知っての通り来月は本校最大のイベント、文化祭が開催される。今日はうちのクラスの出し物を決めるぞ!」

その一言に、教室の空気が一気に熱を帯びた。文化祭。夏休みが終わったばかりの生徒たちにとって、次の楽しみはそれしかない。
「はいはーい! お化け屋敷がいいと思いまーす!」
「いや、うちは演劇だろ! 演題はもちろん『ロミオとジュリエット』だ!」
「それじゃあジュリエット役がいないじゃないか」
「俺がやる!」
「お前じゃ無理だ!」
教室はあっという間に様々な意見が飛び交う、騒がしい討論会場と化した。たこ焼き屋、クレープ屋、金魚すくい。模擬店の案も次々と出るが、どれも決め手に欠ける。

俺は、その喧騒を少し離れた場所から眺めていた。何をするにしても、俺は裏方で目立たない役割がいい。そんなことを考えていると、クラスの女子生徒(もちろん男装女子)の一人が、何かを閃いたように大きな声で叫んだ。
「待ってみんな! うちのクラスには最強の武器があるじゃない!」
その声に、教室中の視線が彼女に集まる。
「武器?」
「そうよ! 見てみなさいよ、あそこにいる歩く芸術品たちを!」

彼女が指さした先には、俺の周りに集まっていた玲、葵、湊、そして雅の四人がいた。彼女たちは突然注目を浴びて、それぞれきょとんとした顔をしている。
「橘先輩の、全てを見透かすようなクールな眼差し!」
「五十嵐君の、太陽みたいに眩しい笑顔!」
「篠宮君の、子犬みたいに可愛い弟キャラ!」
「そして九条君の、近寄りがたいけど目が離せないミステリアスな魅力!」
彼女はまるでアイドルの紹介をするかのように、一人一人の魅力を熱っぽく語り始めた。その言葉に、クラスの他の生徒たちも「確かに!」「そうだそうだ!」と大きく頷いている。

「この奇跡のイケメン四天王を活かさない手はないわ! 私が提案するのはこれよ!」
彼女はそう言って黒板にチョークで大きく文字を書いた。

『執事喫茶』

その三文字が書かれた瞬間、教室は割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。今まで出ていたどの案よりも、生徒たちの心を鷲掴みにしたことは明らかだった。
「それだ!」
「天才か、お前は!」
「うちのクラスの執事喫茶とか、絶対行列できるって!」
熱狂の渦の中、俺は一人だけ、これから起こるであろう波乱の未来を予感して冷や汗を流していた。

「よし! じゃあ多数決を取る! 執事喫茶に賛成の者は手を挙げろ!」
クラス委員長の声に、ほとんどの生徒が勢いよく手を挙げた。反対する者などどこにもいない。こうして、俺たちのクラスの出し物はあっという間に『執事喫茶』に決定した。

次に始まったのは配役決めだ。
「執事役は、もちろんこの四人しかいないよな!」
クラスの全員が、期待に満ちた眼差しで玲たち四人を見つめる。
「面白そうじゃんか! やってやるぜ!」
葵は一番乗りで快諾した。その目は新しい挑戦への期待でキラキラと輝いている。
「……クラスのためというのなら、やむを得ないわね」
玲もクールな表情を崩さずに、しかしどこかまんざらでもない様子で頷いた。
「せんぱいが見に来てくださるなら、僕は喜んで執事になりますよ♪」
湊は俺に向かってぱちりとウインクを飛ばしてきた。

問題は雅だった。彼女は腕を組んで、心底面倒くさそうに顔をしかめている。
「……俺はパスだ。人前に出るのは性に合わん」
その頑なな態度に、クラスの期待の空気が少しだけしぼみかけた。だが、俺は知っている。彼女を動かす、たった一つの魔法の言葉を。
「……似合うと思うけどな。九条が執事やったら絶対かっこいいぞ」

俺が彼女にだけ聞こえるような、小さな声でそう呟いた。
その瞬間、彼女の肩がびくりと震えた。そしてその顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。彼女は俺のことを睨みつけようとしたが、その視線はすぐに逸らされてしまった。
「…………」
しばらくの沈黙の後、彼女はぼそりと小さな声で呟いた。
「……今回だけだ。……勘違いするなよ」
そのツンデレな承諾に、クラス中から「よっしゃー!」という歓声が上がった。俺は、そのやり取りを誰にも気づかれないように心の中で小さくガッツポーズをした。

こうして、伝説となるであろう四人のイケメン執事がここに誕生した。
ホールを彩る花形が決まり、次に裏方の役割決めが始まる。内装係、衣装係、会計係。それぞれが自分の得意分野に立候補していく中、俺は静かに手を挙げた。
「俺、調理担当やってもいいか?」

その一言に、四人の視線が俺に集まった。
「祐樹が?」
「ええ。俺は料理が得意だし、みんなに美味しいもの食べてもらいたいから」
俺がそう言うと、彼女たちは一瞬だけ「祐樹も執事服、着てほしかったな」という残念そうな顔をした。だが、すぐにその表情は期待の色へと変わっていく。

「そっか! 祐樹のメシが食えるなら、うちの喫茶は絶対に成功するぜ!」
葵が満面の笑みで言った。
「あなたが作るものなら味は保証されているわね。お客様もきっと喜んでくださるわ」
玲も信頼の眼差しを俺に向けてくれる。
「せんぱいの愛情たっぷりメニュー! 僕が世界一可愛いメニュー表をデザインしますね!」
湊が早くもアイデアを膨らませている。
「……まあ、毒見役くらいはやってやらなくもない」
雅も不器用な言葉で、俺の料理への期待を滲ませていた。

クラスの出し物が決まり、それぞれの役割も決まった。
文化祭という一つの大きな目標。それに向かって、クラスの、そして俺たち五人の気持ちが確かに一つになった瞬間だった。
これから始まる長くてきっと波乱に満ちた準備期間。その先にある最高のステージを思い描きながら、俺は静かに、しかし力強く拳を握りしめていた。
最高の文化祭にしてやろう。このかけがえのない仲間たちと共に。
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