この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第71話 【本番①】執事喫茶、開店!

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文化祭当日。獅子王院学園は、年に一度の祭典の熱気に包まれていた。校門には華やかなアーチが飾られ、色とりどりの風船が青空に舞い上がる。普段は静寂に包まれたエリート校が、今日だけは活気と笑顔に満ち溢れたテーマパークへと姿を変えていた。

俺たちのクラス、二年A組の『執事喫茶 Royal Crown』も、開店準備の最終段階に入っていた。
厨房では、俺がオムライス用のケチャップライスを大量に仕込み、紅茶の茶葉の香りを確かめている。その手際は我ながら完璧だった。
ホールでは、最後の身だしなみチェックを終えた四人の執事が、緊張した面持ちで佇んでいた。

「祐樹、どうだ? 俺、変なとこないか?」
葵が落ち着きなくネクタイを直しながら聞いてくる。
「大丈夫だ。最高にかっこいいぞ」
「そ、そうか? へへ……」
俺の言葉に、彼女は照れくさそうに笑った。

「祐樹、髪が少しだけ乱れているわよ」
玲が俺の隣に来て、そっと前髪を直してくれた。その指先が額に触れる。近い。その自然な仕草に、俺の心臓が跳ねた。
「あ、ありがとう」
「……ふふ。どういたしまして、厨房の主(マスター)さん?」
彼女は悪戯っぽく微笑んで、自分の持ち場へと戻っていった。

開店時刻は午前十時。
その五分前。俺たちは店の入り口に全員で集まり、円陣を組んだ。
「いいか、お前ら!」
プロデューサー女子が、いつになく真剣な顔で叫ぶ。
「今日まで、俺たちは全力で準備してきた! 最高の執事、最高の料理、最高の空間! 全てが揃ってる! あとは、お客さんに最高の時間を提供するだけだ!」
その言葉に、クラス全員の士気が上がる。

「二年A組、執事喫茶 Royal Crown!」
葵が力強く叫んだ。
「絶対、成功させるぞー!」

「「「「「おーっ!」」」」」
俺たちの声が一つになった。その力強い結束が、俺に勇気をくれた。

そして、運命の午前十時。
開店を告げるチャイムが学園中に鳴り響いた。
プロデューサー女子が、店のドアにかけられた『準備中』の札を『営業中』へと裏返す。

その瞬間だった。
ドアの外から、地鳴りのような歓声と怒涛のような足音が聞こえてきた。
「きゃあああああ! 開いたわよ!」
「一番乗りは私よ!」

ガラッと勢いよくドアが開かれ、なだれ込んできたのは、噂を聞きつけて開店前から行列を作っていた大勢の女子生徒(もちろん全員男装)たちだった。彼女たちの目は、完全にハートマークになっている。
「い、いらっしゃいませ、お嬢様方!」
ドアマン役の生徒が、その勢いにたじろぎながらも練習通りの挨拶をする。

ホールの中は、一瞬にして熱狂の渦に包まれた。
「見て! 橘様よ!」
「五十嵐君が私に微笑んでくれたわ!」
「篠宮君、可愛い……!」
「九条君、こっち見てくれない……そこがいい……!」

玲、葵、湊、雅。四人の執事たちは、その圧倒的なオーラと美貌で、お客様たちの心を瞬く間に鷲掴みにしていく。
「お席へご案内いたします、お嬢様」
「ご注文は、お決まりですか?」
最初は緊張していた彼女たちも、お客様の熱狂的な反応に後押しされ、練習以上の完璧な執事っぷりを発揮していた。

俺は、厨房とホールを隔てる小さな窓からその光景を眺めていた。
すごい。本当にすごい。
昨日までただの教室だった場所が、今は本物の夢の空間になっている。そして、その中心で俺のかけがえのない仲間たちがキラキラと輝いている。
その事実が、たまらなく誇らしかった。

「マスター! オーダー入りました!」
ホール係の生徒が、伝票を俺に手渡してきた。
『プリンセス・オムライス』を一つ、『公爵の嗜み(ブレンドティー)』を二つ。湊が考えた気恥ずかしいメニュー名だ。
「よし、任せとけ!」

俺は気持ちを切り替えて、フライパンを握りしめた。
俺の戦場はここだ。
ホールで輝く彼女たちを、最高の料理で支える。それが俺の役目だ。
俺は練習通りに完璧な半熟卵を作り、ケチャップライスの上にふわりと乗せた。そして、ケチャップで美しいハートマークを描く。

「オーダー、上がったぞ!」
俺がそう叫ぶと、ホール係が「はい!」と威勢のいい返事をして、出来立てのオムライスを運んでいく。
お客様のテーブルに運ばれたオムライスを見て、彼女が「わぁ……!」と歓声を上げるのが聞こえた。その声が、俺への何よりの賛辞だった。

次々と入ってくるオーダー。
俺は一人で黙々と、しかし驚異的な集中力で料理を作り続けた。
厨房の中は熱気と湯気で蒸し風呂のようだったが、不思議と疲れは感じなかった。
ホールの喧騒、お客様の笑顔、そして輝く仲間たちの姿。その全てが俺に力を与えてくれていた。

伝説となるであろう、執事喫茶 Royal Crown。
その輝かしい歴史の第一ページは、熱狂と興奮、そして最高の笑顔と共に華々しく幕を開けたのだった。
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