この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第73話 【本番③】祐樹だけの特別サービス

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文化祭初日の営業は、閉店時間までお客様が途切れることなく大盛況のうちに幕を閉じた。俺たちは閉店後の片付けを終えると、疲労困憊の身体を引きずるようにして寮へと戻った。その日の夜は、全員が泥のように眠った。

そして、文化祭二日目。最終日。
昨日以上の熱気が、開店前から店の前に渦巻いていた。噂が噂を呼び、俺たちの執事喫茶はもはや学園中で最も注目されるアトラクションと化していたのだ。

その日の午後。客足が少しだけ落ち着いた時間帯を見計らって、プロデューサー女子が俺のいる厨房にやってきた。
「相葉君!」
「はい、なんでしょう」
「ついに、あの時が来たわ!」
彼女は目をキラキラと輝かせながら、俺の肩をがしりと掴んだ。
「コンセプト会議で決めた、あのアレよ! 『ご主人様』になる時が!」

「ええええええ!?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。すっかり忘れていた。いや、忘れたフリをしていた。俺がお客様役となり、四人の執事が俺のためだけにもてなすという、あの気恥ずかしいイベントのことを。
「い、いや、俺は厨房が忙しいし……」
「大丈夫! 他の厨房係にあとは任せてあるわ! あなたは、私たちの夢を叶える義務があるのよ!」
有無を言わさぬその迫力に、俺は抵抗することなどできなかった。

俺は厨房係のエプロンを外し、半ば強引にホールへと引きずり出された。そして、店内で一番眺めの良い窓際の特別席へと座らされる。
「これより、執事喫茶『Royal Crown』、本日限りのスペシャルイベントを開始します!」
プロデューサーがマイクで高らかに宣言すると、店内にいたお客様たちから割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。どうやらこのイベントは昨日から告知されていたらしい。俺だけが何も知らなかったのだ。

俺が公開処刑のような状況に顔から火を噴きそうになっていると、店の奥から四人の執事がゆっくりと姿を現した。玲、葵、湊、そして雅。四人は俺のテーブルの前に立つと、完璧なタイミングで深く、優雅に一礼した。

「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」

四人の声が美しく重なり合う。その瞬間、店内の熱狂は最高潮に達した。
「きゃーっ! 始まったわ!」
「相葉君、羨ましすぎる!」
周囲の客席からは、羨望と嫉妬の入り混じった視線が容赦なく俺に突き刺さる。

「ご主人様。本日は、我々四名があなた様のためだけに最高のひとときをお約束いたします」
代表して玲が口上を述べた。その表情は完璧な執事そのもの。だが、その瞳の奥には俺にだけ分かる悪戯っぽい光が宿っていた。

その言葉を皮切りに、俺のためだけの甘くて少しだけ過剰な特別サービスが始まった。

まず、葵がキビキビとした動きで、俺の前に水の入ったグラスを置いた。
「ご主人様! まずはお冷やです! 俺が、ご主人様のために一番冷たい氷を選んできました!」
その太陽のような笑顔は、見ているだけで元気が出る。

次に、湊がメニュー表を手に、俺の隣にすっと跪いた。
「ご主人様。ご注文は、お決まりですか? もし決まっていなければ、僕がご主人様に一番お似合いのメニューを占って差し上げますよ?」
そう言って彼は俺の手を取り、その手のひらを真剣な表情で見つめ始めた。その指先が、俺の手のひらをくすぐるようになぞっていく。

雅は何も言わずに俺の後ろに立った。そして、凝り固まっていた俺の肩をぎこちなく、しかし力強い手つきで揉み始めた。
「……別に。凝っているように見えたから揉んでいるだけだ。……勘違い、するな」
その不器用な優しさに、俺の身体から力が抜けていく。

そして、玲。彼女は俺の正面に立ち、その完璧な微笑みを浮かべていた。
「ご主人様。何かご要望はございますか? 音楽の趣味、室温の調整、何なりとお申し付けください。あなたの望みは、全て僕が叶えてみせます」
その言葉は、まるで魔法の呪文のように俺を夢の世界へと誘った。

周囲の客席からは、その光景を見てため息のような声が漏れている。
「な、なんなの、あの完璧な連携……」
「相葉君、完全に王様じゃない……」
「あー、私も相葉君になりたい!」

傍から見れば、それは四人の仲の良いイケメン執事が一人の大切な友人を全力でもてなしている、美しい友情の光景に見えるのだろう。
だが、その内実は全く違う。
彼女たちは「男同士の友情」という隠れ蓑を使って、公衆の面前で俺への好意をこれでもかとばかりに表現しているのだ。

俺は四人からの過剰なサービスを受けながら、幸せと恥ずかしさ、そして何よりも、この秘密を共有していることへの圧倒的な優越感に心を震わせていた。
この瞬間、俺は紛れもなく、この店の、そして彼女たちのたった一人の「ご主人様」だったのだから。

この後、さらにエスカレートしていく彼女たちの特別サービスによって俺の理性が限界寸前まで追い詰められることを、この時の俺はまだ知る由もなかった。
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