75 / 100
第75話 【本番⑤】葵からのアーン
しおりを挟む
の『For Yuki』ティーアート事件によって、店内のボルテージは最高潮に達していた。俺は周囲の熱狂的な視線と、三人の共犯者たちからの嫉妬のオーラを全身に浴び、もはや生きた心地がしない。早くこのイベントが終わってくれ。心の中で俺はそう祈り続けていた。
だが、そんな俺のささやかな願いを、太陽のわんこ系執事は見逃してくれなかった。
「おいおい玲、てめえ、抜け駆けはずりーじゃねえか!」
俺の後ろで肩を揉んでいた葵が、悔しそうな声を上げた。そして、何かを決意したように俺の肩をポンと叩く。
「ご主人様! 紅茶だけじゃ腹の足しにもならねえでしょ! 俺がご主人様のためだけに、最高のまかないメシを作ってきます!」
そう言うと、彼女は俺の返事を待たずに厨房へと駆け込んでいった。
「え、おい、葵!?」
俺の制止の声も、彼女の耳には届いていない。
数分後。葵は湯気の立つ皿を手に、意気揚々とホールへと戻ってきた。その皿の上に乗っていたのは、ケチャップでハートマークが描かれたふわとろのオムライス……ではなく、山盛りのナポリタンスパゲッティだった。
「なんでナポリタンなんだよ!」
俺が思わずツッコむと、彼女はニカッと笑った。
「オムライスは商品だからな! これは俺たち厨房スタッフの今日のまかないだ! でも、一番最初にご主人様に味見してほしくて!」
その理由はどこかズレていたが、彼女の真っ直ぐな瞳からは俺を喜ばせたいという純粋な気持ちが伝わってくる。
「ほら、ご主人様! あーんしてやっから口開けてください!」
葵はフォークでくるくるとスパゲッティを巻き取ると、それを俺の口元へとぐいっと突き出してきた。
「……はぁっ!?」
本日二度目の絶叫に近い悲鳴。
ラテアートの次は、あーんだと!? しかも、公衆の面前で!?
「き、貴様! 五十嵐! 正気か!」
湊が俺の手を握ったまま、椅子から飛び上がらんばかりの勢いで叫んだ。
「なんて、なんてはしたない真-真似を……!」
玲も、わなわなと震えている。
雅はもはや何も言えず、俺の後ろで石のように固まっていた。
だが、葵はそんな周囲の反応など全く意に介していない。
「いいから、早く食えって、祐樹!」
いつの間にか「ご主人様」から「祐樹」に呼び方が戻っている。
「周りが見てるだろ! 無理だって!」
「男同士でまかないの味見するだけだろうが! 何が問題なんだよ!」
そうだ。男同士。
この学園において、それは全ての背徳的な行為を正当化する最強の魔法の言葉。
葵は、その魔法を最大限に利用していた。
「ほら、冷めちまうだろ!」
有無を言わさぬその迫力に、俺は観念するしかなかった。周りの客席からは「やれー!」「食っちまえー!」という無責任な声援が飛んでくる。
俺は意を決して、おそるおそる口を開けた。
葵は満足そうに頷くと、そのフォークをそっと俺の口の中へと運んできた。
熱々のナポリタンが口の中に広がる。少しだけ濃いめの、ケチャップの甘酸っぱい味。それは、俺が夏休みに彼女に作ってやった夜食の味に少しだけ似ていた。
「……うまい」
俺が素直な感想を告げると、葵の顔がぱあっと太陽のように輝いた。
「だろ!? 俺、祐樹の味、思い出しながら作ったんだぜ!」
そのあまりにも無邪気で、あまりにも破壊力のある一言。
そして彼女は、玲と湊と雅に勝ち誇ったような視線を送った。
「どうだ! 祐樹の胃袋は、俺が掴んでんだよ!」
その言葉は、玲のティーアートへの明確な対抗宣言だった。
玲は悔しそうに唇を噛み締め、湊は「僕だって、せんぱいにあーんしたかったのに!」と涙目になっている。雅は、もう嫉ötの感情さえも通り越して無の境地に達しているようだった。
玲の知的で甘いアプローチ。
葵のパワフルでストレートなアタック。
俺を巡る二人の執事の戦いは、ますますヒートアップしていく。
俺は口の中に残るナポリタンの味と、これから起こるであろうさらなる波乱の予感に、ただただ頭を抱えることしかできなかった。
この特別サービスは一体いつまで続くのだろうか。俺の理性はもう限界寸前だった。
だが、そんな俺のささやかな願いを、太陽のわんこ系執事は見逃してくれなかった。
「おいおい玲、てめえ、抜け駆けはずりーじゃねえか!」
俺の後ろで肩を揉んでいた葵が、悔しそうな声を上げた。そして、何かを決意したように俺の肩をポンと叩く。
「ご主人様! 紅茶だけじゃ腹の足しにもならねえでしょ! 俺がご主人様のためだけに、最高のまかないメシを作ってきます!」
そう言うと、彼女は俺の返事を待たずに厨房へと駆け込んでいった。
「え、おい、葵!?」
俺の制止の声も、彼女の耳には届いていない。
数分後。葵は湯気の立つ皿を手に、意気揚々とホールへと戻ってきた。その皿の上に乗っていたのは、ケチャップでハートマークが描かれたふわとろのオムライス……ではなく、山盛りのナポリタンスパゲッティだった。
「なんでナポリタンなんだよ!」
俺が思わずツッコむと、彼女はニカッと笑った。
「オムライスは商品だからな! これは俺たち厨房スタッフの今日のまかないだ! でも、一番最初にご主人様に味見してほしくて!」
その理由はどこかズレていたが、彼女の真っ直ぐな瞳からは俺を喜ばせたいという純粋な気持ちが伝わってくる。
「ほら、ご主人様! あーんしてやっから口開けてください!」
葵はフォークでくるくるとスパゲッティを巻き取ると、それを俺の口元へとぐいっと突き出してきた。
「……はぁっ!?」
本日二度目の絶叫に近い悲鳴。
ラテアートの次は、あーんだと!? しかも、公衆の面前で!?
「き、貴様! 五十嵐! 正気か!」
湊が俺の手を握ったまま、椅子から飛び上がらんばかりの勢いで叫んだ。
「なんて、なんてはしたない真-真似を……!」
玲も、わなわなと震えている。
雅はもはや何も言えず、俺の後ろで石のように固まっていた。
だが、葵はそんな周囲の反応など全く意に介していない。
「いいから、早く食えって、祐樹!」
いつの間にか「ご主人様」から「祐樹」に呼び方が戻っている。
「周りが見てるだろ! 無理だって!」
「男同士でまかないの味見するだけだろうが! 何が問題なんだよ!」
そうだ。男同士。
この学園において、それは全ての背徳的な行為を正当化する最強の魔法の言葉。
葵は、その魔法を最大限に利用していた。
「ほら、冷めちまうだろ!」
有無を言わさぬその迫力に、俺は観念するしかなかった。周りの客席からは「やれー!」「食っちまえー!」という無責任な声援が飛んでくる。
俺は意を決して、おそるおそる口を開けた。
葵は満足そうに頷くと、そのフォークをそっと俺の口の中へと運んできた。
熱々のナポリタンが口の中に広がる。少しだけ濃いめの、ケチャップの甘酸っぱい味。それは、俺が夏休みに彼女に作ってやった夜食の味に少しだけ似ていた。
「……うまい」
俺が素直な感想を告げると、葵の顔がぱあっと太陽のように輝いた。
「だろ!? 俺、祐樹の味、思い出しながら作ったんだぜ!」
そのあまりにも無邪気で、あまりにも破壊力のある一言。
そして彼女は、玲と湊と雅に勝ち誇ったような視線を送った。
「どうだ! 祐樹の胃袋は、俺が掴んでんだよ!」
その言葉は、玲のティーアートへの明確な対抗宣言だった。
玲は悔しそうに唇を噛み締め、湊は「僕だって、せんぱいにあーんしたかったのに!」と涙目になっている。雅は、もう嫉ötの感情さえも通り越して無の境地に達しているようだった。
玲の知的で甘いアプローチ。
葵のパワフルでストレートなアタック。
俺を巡る二人の執事の戦いは、ますますヒートアップしていく。
俺は口の中に残るナポリタンの味と、これから起こるであろうさらなる波乱の予感に、ただただ頭を抱えることしかできなかった。
この特別サービスは一体いつまで続くのだろうか。俺の理性はもう限界寸前だった。
0
あなたにおすすめの小説
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。
その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに!
戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。
クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。
ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。
無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。
クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる