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第75話 【本番⑤】葵からのアーン
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の『For Yuki』ティーアート事件によって、店内のボルテージは最高潮に達していた。俺は周囲の熱狂的な視線と、三人の共犯者たちからの嫉妬のオーラを全身に浴び、もはや生きた心地がしない。早くこのイベントが終わってくれ。心の中で俺はそう祈り続けていた。
だが、そんな俺のささやかな願いを、太陽のわんこ系執事は見逃してくれなかった。
「おいおい玲、てめえ、抜け駆けはずりーじゃねえか!」
俺の後ろで肩を揉んでいた葵が、悔しそうな声を上げた。そして、何かを決意したように俺の肩をポンと叩く。
「ご主人様! 紅茶だけじゃ腹の足しにもならねえでしょ! 俺がご主人様のためだけに、最高のまかないメシを作ってきます!」
そう言うと、彼女は俺の返事を待たずに厨房へと駆け込んでいった。
「え、おい、葵!?」
俺の制止の声も、彼女の耳には届いていない。
数分後。葵は湯気の立つ皿を手に、意気揚々とホールへと戻ってきた。その皿の上に乗っていたのは、ケチャップでハートマークが描かれたふわとろのオムライス……ではなく、山盛りのナポリタンスパゲッティだった。
「なんでナポリタンなんだよ!」
俺が思わずツッコむと、彼女はニカッと笑った。
「オムライスは商品だからな! これは俺たち厨房スタッフの今日のまかないだ! でも、一番最初にご主人様に味見してほしくて!」
その理由はどこかズレていたが、彼女の真っ直ぐな瞳からは俺を喜ばせたいという純粋な気持ちが伝わってくる。
「ほら、ご主人様! あーんしてやっから口開けてください!」
葵はフォークでくるくるとスパゲッティを巻き取ると、それを俺の口元へとぐいっと突き出してきた。
「……はぁっ!?」
本日二度目の絶叫に近い悲鳴。
ラテアートの次は、あーんだと!? しかも、公衆の面前で!?
「き、貴様! 五十嵐! 正気か!」
湊が俺の手を握ったまま、椅子から飛び上がらんばかりの勢いで叫んだ。
「なんて、なんてはしたない真-真似を……!」
玲も、わなわなと震えている。
雅はもはや何も言えず、俺の後ろで石のように固まっていた。
だが、葵はそんな周囲の反応など全く意に介していない。
「いいから、早く食えって、祐樹!」
いつの間にか「ご主人様」から「祐樹」に呼び方が戻っている。
「周りが見てるだろ! 無理だって!」
「男同士でまかないの味見するだけだろうが! 何が問題なんだよ!」
そうだ。男同士。
この学園において、それは全ての背徳的な行為を正当化する最強の魔法の言葉。
葵は、その魔法を最大限に利用していた。
「ほら、冷めちまうだろ!」
有無を言わさぬその迫力に、俺は観念するしかなかった。周りの客席からは「やれー!」「食っちまえー!」という無責任な声援が飛んでくる。
俺は意を決して、おそるおそる口を開けた。
葵は満足そうに頷くと、そのフォークをそっと俺の口の中へと運んできた。
熱々のナポリタンが口の中に広がる。少しだけ濃いめの、ケチャップの甘酸っぱい味。それは、俺が夏休みに彼女に作ってやった夜食の味に少しだけ似ていた。
「……うまい」
俺が素直な感想を告げると、葵の顔がぱあっと太陽のように輝いた。
「だろ!? 俺、祐樹の味、思い出しながら作ったんだぜ!」
そのあまりにも無邪気で、あまりにも破壊力のある一言。
そして彼女は、玲と湊と雅に勝ち誇ったような視線を送った。
「どうだ! 祐樹の胃袋は、俺が掴んでんだよ!」
その言葉は、玲のティーアートへの明確な対抗宣言だった。
玲は悔しそうに唇を噛み締め、湊は「僕だって、せんぱいにあーんしたかったのに!」と涙目になっている。雅は、もう嫉ötの感情さえも通り越して無の境地に達しているようだった。
玲の知的で甘いアプローチ。
葵のパワフルでストレートなアタック。
俺を巡る二人の執事の戦いは、ますますヒートアップしていく。
俺は口の中に残るナポリタンの味と、これから起こるであろうさらなる波乱の予感に、ただただ頭を抱えることしかできなかった。
この特別サービスは一体いつまで続くのだろうか。俺の理性はもう限界寸前だった。
だが、そんな俺のささやかな願いを、太陽のわんこ系執事は見逃してくれなかった。
「おいおい玲、てめえ、抜け駆けはずりーじゃねえか!」
俺の後ろで肩を揉んでいた葵が、悔しそうな声を上げた。そして、何かを決意したように俺の肩をポンと叩く。
「ご主人様! 紅茶だけじゃ腹の足しにもならねえでしょ! 俺がご主人様のためだけに、最高のまかないメシを作ってきます!」
そう言うと、彼女は俺の返事を待たずに厨房へと駆け込んでいった。
「え、おい、葵!?」
俺の制止の声も、彼女の耳には届いていない。
数分後。葵は湯気の立つ皿を手に、意気揚々とホールへと戻ってきた。その皿の上に乗っていたのは、ケチャップでハートマークが描かれたふわとろのオムライス……ではなく、山盛りのナポリタンスパゲッティだった。
「なんでナポリタンなんだよ!」
俺が思わずツッコむと、彼女はニカッと笑った。
「オムライスは商品だからな! これは俺たち厨房スタッフの今日のまかないだ! でも、一番最初にご主人様に味見してほしくて!」
その理由はどこかズレていたが、彼女の真っ直ぐな瞳からは俺を喜ばせたいという純粋な気持ちが伝わってくる。
「ほら、ご主人様! あーんしてやっから口開けてください!」
葵はフォークでくるくるとスパゲッティを巻き取ると、それを俺の口元へとぐいっと突き出してきた。
「……はぁっ!?」
本日二度目の絶叫に近い悲鳴。
ラテアートの次は、あーんだと!? しかも、公衆の面前で!?
「き、貴様! 五十嵐! 正気か!」
湊が俺の手を握ったまま、椅子から飛び上がらんばかりの勢いで叫んだ。
「なんて、なんてはしたない真-真似を……!」
玲も、わなわなと震えている。
雅はもはや何も言えず、俺の後ろで石のように固まっていた。
だが、葵はそんな周囲の反応など全く意に介していない。
「いいから、早く食えって、祐樹!」
いつの間にか「ご主人様」から「祐樹」に呼び方が戻っている。
「周りが見てるだろ! 無理だって!」
「男同士でまかないの味見するだけだろうが! 何が問題なんだよ!」
そうだ。男同士。
この学園において、それは全ての背徳的な行為を正当化する最強の魔法の言葉。
葵は、その魔法を最大限に利用していた。
「ほら、冷めちまうだろ!」
有無を言わさぬその迫力に、俺は観念するしかなかった。周りの客席からは「やれー!」「食っちまえー!」という無責任な声援が飛んでくる。
俺は意を決して、おそるおそる口を開けた。
葵は満足そうに頷くと、そのフォークをそっと俺の口の中へと運んできた。
熱々のナポリタンが口の中に広がる。少しだけ濃いめの、ケチャップの甘酸っぱい味。それは、俺が夏休みに彼女に作ってやった夜食の味に少しだけ似ていた。
「……うまい」
俺が素直な感想を告げると、葵の顔がぱあっと太陽のように輝いた。
「だろ!? 俺、祐樹の味、思い出しながら作ったんだぜ!」
そのあまりにも無邪気で、あまりにも破壊力のある一言。
そして彼女は、玲と湊と雅に勝ち誇ったような視線を送った。
「どうだ! 祐樹の胃袋は、俺が掴んでんだよ!」
その言葉は、玲のティーアートへの明確な対抗宣言だった。
玲は悔しそうに唇を噛み締め、湊は「僕だって、せんぱいにあーんしたかったのに!」と涙目になっている。雅は、もう嫉ötの感情さえも通り越して無の境地に達しているようだった。
玲の知的で甘いアプローチ。
葵のパワフルでストレートなアタック。
俺を巡る二人の執事の戦いは、ますますヒートアップしていく。
俺は口の中に残るナポリタンの味と、これから起こるであろうさらなる波乱の予感に、ただただ頭を抱えることしかできなかった。
この特別サービスは一体いつまで続くのだろうか。俺の理性はもう限界寸前だった。
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