この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第79話 他の出し物を回ろう

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学園長のお忍び視察というサプライズな出来事も過ぎ去り、文化祭二日目の午後も穏やかに、しかし賑やかに過ぎていった。俺たちの執事喫茶は閉店時間まで客足が途絶えることはなく、まさに大成功と呼ぶにふさわしい結果を収めつつあった。

「よし、そろそろ交代の時間だ! 厨房は俺たちに任せて、相葉とホール係の何人かは休憩してこい!」
クラスの実行委員が厨房に顔を出してそう叫んだ。見れば、エプロンをつけた他のクラスメイトたちが頼もしい顔で控えている。どうやらクラス全員で店を回せるよう、しっかりとしたシフトが組まれていたらしい。

「え、でも……」
「いいからいいから! お前が一番働いたんだから、一番長く休んでこい!」
半ば強引に厨房から追い出され、俺はエプロンを外した。二日間立ちっぱなしだった身体は、正直なところ限界に近い。ありがたく休憩させてもらうことにしよう。

俺が一人で他のクラスの出し物でも見て回ろうかと考えていると、ホールから四人の執事がぞろぞろとバックヤードへと戻ってきた。彼女たちも交代の時間らしい。
「はーっ、疲れた! やっと休憩か!」
葵が大きく伸びをしながら言う。
「ええ。さすがに少し足が痛むわね」
玲も優雅な仕草で、自分の足をさすっていた。

「ねえ、祐樹」
その玲が、何かを思いついたように俺の顔を見つめてきた。
「せっかくだから、一緒に他の出し物を見て回らない?」

その提案に、葵と湊と雅もぱっと顔を輝かせた。
「お、いいなそれ!」
「さんせーです! せんぱいと文化祭デートしましょうよ!」
「……別に、行きたくはないが。……お前がどうしてもと言うなら」

こうして、俺は四人の美しい執事たちを引き連れて、文化祭の喧騒の中へと繰り出すことになった。
もちろん、四人同時ではない。
「ここは公平に、一人ずつ順番よ」
玲の鶴の一声で、俺との束の間のデート権を賭けた静かなるジャンケン大会が始まった。その結果、玲、葵、湊、雅という順番で俺と二人きりで校内を回ることになった。

まず、最初は玲だ。
俺たちは人混みを避け、比較的静かな三階の展示フロアへと向かった。書道部や美術部の作品が静かに並べられている。
「……すごいわね。みんな、才能があるのね」
玲は一つ一つの作品を真剣な眼差しで見つめている。その横顔は執事の時とは違う、知的な好奇心に満ちた年相応の女の子の顔だった。
俺たちはどちらからともなく、自然と手を繋いでいた。執事服を着た美少年と、厨房係のエプロンを外しただけの地味な男子生徒。傍から見れば奇妙な組み合わせだろう。だが、俺たちの間には誰にも邪魔されない、穏やかで温かい空気が流れていた。

次に、葵との時間。
「祐樹! 行くぜ!」
彼女は俺の手を引くと、迷うことなく最も賑やかな中庭の特設ステージへと向かった。そこでは軽音楽部のライブが行われ、熱狂的な歓声が上がっている。
「うおー! 盛り上がってんなー!」
葵は目をキラキラさせながら、リズムに合わせて身体を揺らし始めた。その姿は本当に音楽が好きなのだということが伝わってくる。
俺たちは人混みの中で肩を寄せ合いながら、ステージの演奏に耳を傾けた。最高潮の盛り上がりの中、葵が俺の手をぎゅっと力強く握りしめた。
「……なあ、祐樹。いつか、俺の本当の夢、聞いてくれるか?」
ライブの爆音にかき消されそうな小さな声だった。だが、その真剣な響きは確かに俺の心に届いた。
「……ああ。いつでも聞くよ」
俺がそう答えると、彼女は最高の笑顔でにっと笑った。

続いて、湊とのデート。
「せんぱい♪ 僕と行くのは、もちろん、あそこですよね?」
彼女がいたずらっぽく指さしたのは、長蛇の列ができている三年生のクラスが主催する『VRお化け屋敷』だった。
「げっ、またホラーかよ……」
「いいじゃないですか。怖い時は、僕がぎゅーってして守ってあげますから♪」
どちらが守られる側なのか分からないが、俺は彼女に手を引かれるまま列に並ぶことになった。
VRゴーグルを装着すると、目の前には不気味な洋館の内部が広がった。湊は俺の腕に最初から最後までしがみつきっぱなしだった。
「ひゃっ!」「きゃっ!」と可愛らしい悲鳴を上げるたびに、俺の腕に柔らかな感触が伝わってくる。これはお化け屋敷というよりは、もはや別の種類のアトラクションだった。

そして、最後は雅だ。
彼女は人混みが苦手なのだろう。「……どこでもいい」とだけ呟いた。
俺は彼女の手を引いて校舎の屋上へと向かった。そこは立ち入り禁止区域になっているが、湊に頼んでこっそり鍵を開けてもらっていたのだ。
屋上には俺たち二人以外、誰もいなかった。眼下には文化祭の喧騒がまるで箱庭のように広がっている。涼しい風が、俺たちの頬を優しく撫でていった。
俺たちは何も話さなかった。ただフェンスに寄りかかって、夕暮れに染まっていく学園の景色を一緒に眺めていた。
「……悪くないな。こういうのも」
しばらくして、雅がぽつりと呟いた。
「ああ」
俺が相槌を打つと、彼女はほんの少しだけ俺の方に身体を寄せた。その肩が俺の肩にそっと触れる。その小さな温もりが、どんな言葉よりも俺の心に温かく響いた。

玲との静かで知的な時間。
葵との情熱的でエネルギッシュな時間。
湊とのドキドキで甘い時間。
そして、雅との言葉はいらない穏やかな時間。

四者四様の束の間の文化祭デート。
それは、俺たちの秘密のアルバムにまた一つ、忘れられない甘酸っぱい思い出を刻み込んでくれた。
俺は彼女たち一人一人の魅力を、そして彼女たちへの想いを、改めて強く、強く、実感していた。
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