この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第81話 ライブステージで最高潮

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玲との絶叫お化け屋敷デート(?)を終え、俺の心臓はすでに限界に近かった。恐怖とそれ以上のドキドキで、もう立っているのもやっとなほどだ。だが、俺の文化祭デートマラソンはまだ終わらない。次に俺を待っていたのは、太陽のわんこ系執事、五十嵐葵だった。

「よお、祐樹! 待たせたな!」
葵は休憩時間でエネルギーをフルチャージしてきたのだろう。その笑顔は真昼の太陽のように眩しく、一切の疲れを見せていない。
「次は俺の番だろ! とっておきの場所に連れてってやるよ!」
彼女は有無を言わさず俺の手を掴むと、力強く引っ張っていく。その行き先は俺にもすぐに分かった。中庭の特設ステージだ。

ステージの前には既に黒山の人だかりができていた。スピーカーからは腹の底に響くような重低音が鳴り響き、観客たちの熱気が陽炎のように立ち上っている。これから始まるのは、文化祭の目玉イベントの一つ、軽音楽部によるスペシャルライブだ。
「うおー! やっぱライブはこうでなくっちゃな!」
葵は目をキラキラさせながら、興奮気味に叫んだ。

俺たちは人混みをかき分け、ステージがよく見える比較的前の方の位置を陣取った。周囲はライブの開始を今か今かと待ちわびる生徒たちで、むせ返るような熱気に満ちている。
やがてステージの照明が落ち、観客から割れんばかりの歓声が上がった。そして、強烈なスポットライトと共にバンドメンバーたちがステージに姿を現す。

「いくぜ、獅子王院!」
ボーカルのシャウトを合図に激しいギターリフが鳴り響き、ライブが始まった。その瞬間、観客のボルテージは一気に最高潮へと達し、会場は巨大な揺れと共に音楽の渦に飲み込まれていく。

俺もその圧倒的なエネルギーに気圧されながら、自然と身体がリズムを刻んでいるのを感じていた。隣にいる葵はもっとすごかった。彼女は拳を突き上げ、ジャンプし、周りの誰よりも楽しそうに音楽に身を委ねていた。その姿は本当に輝いて見えた。

数曲が終わり、MCの時間になった時。俺はステージの上にいるベーシストの顔を見て、はっと息をのんだ。ふわふわした栗色の髪、小柄な身体。間違いない、湊だ。彼は軽音楽部にも所属していたのか。
ステージの上で彼は少しだけはにかみながら、しかし堂々とベースを構えている。その姿はいつものあざとい彼とは違う、一人のミュージシャンとしてのクールでかっこいい顔だった。

「次は、俺たちが一番届けたい曲をやるぜ!」
ボーカルがそう叫ぶと、湊が弾き始める印象的なベースラインから次の曲が始まった。
それは切なくて、しかしどこか前向きな美しいメロディのロックバラードだった。

俺がそのメロディに聞き入っていると、隣にいた葵がふと俺の方に顔を寄せた。
「……祐樹」
「ん?」
「……俺さ、本当は音楽やりたかったんだ」
ライブの爆音にかき消されそうな小さな声だった。だが、その言葉は確かに俺の耳に届いた。

「実家が厳しくてな。武家の跡取りが、あんな軟弱な音楽なんぞに現を抜かすなって。……だから、諦めたんだ」
彼女の横顔はステージの照明に照らされて、どこか寂しげに見えた。
いつもは誰よりも明るく、自信に満ち溢れている彼女。その心の奥底にそんな諦めた夢があったなんて。俺は何も言えずに、ただ彼女の言葉に耳を傾けていた。

「でも、ここに来てお前らと会って……なんか、もう一度やってみたくなったんだ。俺が本当にやりたいことを」
彼女はステージの上で輝く湊の姿を、羨ましそうな、そして決意に満ちた眼差しで見つめている。

曲が最も盛り上がるサビへと差し掛かった。観客たちが一斉に腕を振り上げる。
その最高潮の盛り上がりの中。
葵が俺の手をぎゅっと力強く握りしめた。
「……いつか、聞いてくれるか? 俺が作った曲」
「……ああ」
俺は力強く頷いた。
「楽しみにしてるよ」

俺のその言葉に、彼女は心の底から嬉しそうな最高の笑顔を見せた。それはいつもの太陽のような笑顔とは少しだけ違う。自分の夢を唯一の理解者に打ち明けられた、安堵と希望に満ちた特別な笑顔だった。

ステージの上のスポットライトと観客たちの熱狂。
その全てが、俺たち二人だけを照らし出す祝福の光のように感じられた。
握りしめた手の温かさが、彼女の熱い想いを俺に伝えてくれている。
俺はいつか彼女が奏でるであろう音楽を、誰よりも近くで聞きたいと心からそう思った。

文化祭の喧騒の中。
俺たちの間には、音楽という新たな絆が確かに結ばれたのだった。
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