この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第83話 【クライマックス②】君と踊るフォークダンス

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雅との静かで、しかし心の通い合うダンスが終わる頃には、後夜祭のフォークダンスも終盤に差し掛かっていた。俺は四人の美しい執事たちと代わる代わる踊り続け、すでに体力的にも精神的にも限界に近い。だがその疲労感は、不思議と心地よい幸福感に包まれていた。

最後の曲が流れ始める。それはアップテンポで楽しげな、祭りの終わりを惜しむかのようなカントリーミュージックだった。生徒たちの輪も最後の盛り上がりを見せ、誰もが笑顔でステップを踏んでいる。
(これで、終わりか)
少しだけ名残惜しい気持ちで俺がパートナーを探してきょろきょろしていると、四方から同時に手が差し伸べられた。

「祐樹、最後は私とでしょう?」
「いや、俺だろ!」
「せんぱい、僕です!」
「…………」

玲、葵、湊、そして雅。
四人が俺を真ん中に、一歩も譲らない構えで睨み合っている。最後のダンスパートナーの座を巡る最終戦争の勃発だ。
「どうすんだよ、これ……」
俺が頭を抱えていると、葵が何かを閃いたようにパンと手を叩いた。
「よし! こうなったら全員で踊ればいいじゃねえか!」

「「「え?」」」
俺と玲と湊と雅の声が綺麗にハモった。
「五人で輪になって踊るんだよ! フォークダンスって、そういうのもあんだろ!」
葵のあまりにも単純で、しかし誰もが納得せざるを得ない提案。
「……まあ、それなら公平ね」
「仕方ないですねぇ」
「……悪くない」

こうして俺たちは、ダンスの輪から少しだけ離れた場所で、五人だけの小さな輪を作った。俺の右手は玲が、左手は葵が。そして玲と湊が、葵と雅がそれぞれ手を繋ぎ、小さな円が完成する。
奇妙な、しかし俺たちらしい特別なフォークダンスの始まりだった。

音楽に合わせてステップを踏む。右に、左に。くるりと回って手を叩く。
最初はぎこちなかった俺たちの動きも、次第に息が合っていく。
俺の隣で、玲が楽しそうに微笑んでいる。
反対側では、葵が大きな声で笑っている。
向かい側では、湊が悪戯っぽくウインクを飛ばしてくる。
そしてその隣で、雅が俯きながらも、その口元が確かに綻んでいるのを俺は見逃さなかった。

楽しい。心の底からそう思った。
この時間が永遠に続けばいいのに。
キャンプファイヤーの炎が、俺たちの笑顔をきらきらと照らし出す。

やがて音楽がクライマックスへと向かい、曲の終わりを告げる最後のフレーズが流れ始めた。
俺たちの短くて、でも最高に楽しかったダンスも、終わりを告げようとしていた。

その最後の瞬間に、俺たちはどちらからともなく中央に向かってぎゅっと集まった。
そして五人で肩を組んだ。
「「「「「わーっ!」」」」」
誰からともなく上がった歓声。
俺たちは互いの温もりを感じながら、まるで子供のようにその場でくるくると回り続けた。

周りの生徒たちが、そんな俺たちの姿を見て笑っている。
「あいつら、本当に仲良いな!」
「青春だねえ!」
その声が、俺たちの耳に心地よく響いた。

音楽が終わった。
俺たちは息を切らしながら、肩を組んだまま互いの顔を見合わせた。
汗と笑顔と、そして少しだけ寂しさと。
いろんな感情がごちゃ混ぜになった、最高の表情。

「……最高だったな、文化祭」
葵がしみじみと呟いた。
その言葉に、俺たち全員が力強く頷いた。

男同士という名目でヒロインたちが次々と俺をダンスに誘う。手を取り合い、見つめ合う時間は彼女たちの想いを加速させる。
そして五人で踊った最後のダンスは、俺たちの絆がもはや誰にも壊すことのできない、固くて温かいものであることを証明してくれた。

後夜祭の炎が静かに揺らめいている。
俺たちの最高の文化祭は、最高の形でその幕を閉じようとしていた。
だがこの夜は、まだ本当の終わりを迎えてはいなかった。
この燃え盛る炎のように熱く、そして甘いクライマックスが、このすぐ後に俺を待っていることを、この時の俺はまだ知る由もなかった。
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