この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

文字の大きさ
84 / 100

第84話 【クライマックス③】伝えたい想い

しおりを挟む
五人でのフォークダンスが終わり、後夜祭のプログラムも全て終了した。キャンプファイヤーの炎は徐々にその勢いを弱め、生徒たちは三々五々、名残惜しそうにグラウンドを後にしていく。祭りの後の心地よい疲労感と一抹の寂しさ。そんな空気が夜の校庭を包んでいた。

俺たち五人も、しばらくの間言葉もなく小さくなっていく炎を眺めていた。楽しかった二日間が本当に終わってしまったのだ。
「……そろそろ、戻るか」
俺が誰に言うでもなくそう呟いた時だった。

「祐樹」

静かな、しかし凛とした声が俺の名前を呼んだ。
声の主は玲だった。
彼女は炎に照らされたその横顔に、今まで見たこともないような真剣な表情を浮かべていた。
「……少しだけ、二人で話せないかしら」

その言葉に、葵と湊と雅の肩がぴくりと動いたのが分かった。三人の視線が玲と俺の間に突き刺さる。静かな、しかし張り詰めた空気が流れた。
葵が何かを言いかけた。湊が俺の袖を掴もうとした。雅が息をのんだ。

だが、玲のその揺るぎない眼差しは、誰にも邪魔をさせないという強い意志を宿していた。
三人はその気迫に押されたのだろう。何も言えずに、ただ悔しそうな、そしてどこか心配そうな表情で俺たちを見つめているだけだった。

「……分かった」
俺は頷いた。彼女が何かとても大事なことを話そうとしている。それが直感的に分かったからだ。

「……先に戻ってる」
葵がぼそりとそう呟いて踵を返した。湊も雅も無言のままそれに続く。三人の後ろ姿はどこか寂しげだった。

グラウンドには俺と玲の二人だけが残された。
弱くなったキャンプファイヤーの炎が、ぱちぱちと静かな音を立てている。遠くからは寮に戻る生徒たちの楽しげな笑い声が聞こえてくる。だが、俺たちの周りだけは、まるで世界から切り離されたかのように静寂に包まれていた。

「……寒くない?」
玲が俺の顔を気遣うように見上げてくる。
「ああ、大丈夫だ」
「そう……」

ぎこちない会話。沈黙が重く感じられた。
先に口を開いたのは、やはり玲だった。
彼女は一度深く息を吸い込むと、意を決したように俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。その紫色の瞳は真剣な光で潤んでいる。

「祐樹」
「……うん」
「私、あなたに伝えたいことがあるの」

その声は微かに震えていた。俺はごくりと唾を飲み込んだ。心臓が大きく、そしてゆっくりと脈打ち始めるのが分かる。
彼女が何を言おうとしているのか。俺はもう気づいていた。そして、それを聞く覚悟を決めなければならなかった。

「私、この学園に来て本当によかったと思ってる。息苦しいだけの毎日から逃げ出して……でも、どこにも私の居場所なんてないんだって諦めかけてた」
彼女はぽつり、ぽつりと自分の胸の内を語り始めた。
「でも、あなたに出会って全てが変わった。私の秘密を知っても、あなたは何も変わらずに私の隣にいてくれた。私の弱いところも、ダメなところも、全部受け入れてくれた」

彼女の瞳から一筋の涙がそっとこぼれ落ちた。炎の光がその雫をキラリと照らし出す。

「あなたといると、私はただの橘玲でいられる。男のフリをしなくてもいい。完璧じゃなくてもいい。……それがどれだけ私を救ってくれたか、あなたには分からないでしょうね」
彼女はそう言って、ふわりと儚げに微笑んだ。

「祐樹。私は……」

彼女が俺の名前を呼ぶ。
その声が俺の心に深く、深く染み込んでいく。

「私は……君のことが……」

彼女がその想いを言葉にしようとした、まさにその瞬間だった。

ヒュ~~~~~、ドンッ!

夜空に甲高い笛の音と共に、巨大な光の花が突如として咲き誇った。
サプライズの打ち上げ花火だった。文化祭の本当のフィナーレを飾る最後の贈り物。

「……すき」

花火の轟音に、彼女の最後の言葉は無残にもかき消されてしまった。
俺の耳には届かなかった。
だが、俺には分かった。
彼女の震える唇の動きで。
彼女の涙に濡れた熱っぽい瞳で。
彼女が何を伝えようとしてくれたのか。

夜空には次から次へと色とりどりの花火が打ち上がる。
その圧倒的な光と音の中で、俺たちは何も言えずに、ただ互いを見つめ合っていた。

伝えようとした大切な想い。
それをかき消してしまった、あまりにも美しくて残酷な花火。
玲の頬を伝う涙はもう止まらなかった。

俺はそっと手を伸ばし、彼女の涙を指先で優しく拭った。
そして何も言わずに、彼女の華奢な身体をそっと抱きしめた。
彼女は俺の胸に顔をうずめ、子供のように声を殺して泣きじゃくった。

後夜祭の夜。
伝えられたはずの想いは、夜空の花火に溶けて消えた。
だが、その声にならない告白は、どんな言葉よりも強く、確かに俺たちの心に深く、深く刻み込まれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい

みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。 それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。 願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。 スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。 ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。 ※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

処理中です...