この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

文字の大きさ
92 / 100

第92話 祐樹の答え

しおりを挟む
玲、葵、湊、そして雅。
俺のかけがえのない共犯者たちは、それぞれが卒業後の未来に向かって力強い一歩を踏み出す決意を固めた。
革命家、挑戦者、創造主、そして夢を追う者。
彼女たちの壮大な夢を聞くたびに、俺は自分のことのように胸が熱くなり、心の底から彼女たちを応援したいと思った。

だが、それと同時に、俺の心の中には日に日に一つの大きな問いが重くのしかかるようになっていた。

(……俺は、どうするんだ?)

彼女たちは未来を見据えている。自分の力で運命を切り開こうとしている。
それに比べて俺はどうだ。
特別な才能も大きな夢も何もない。ただ流されるままにこの学園に来て、彼女たちと出会い、その輝きに照らされているだけ。
平凡な俺はこれから先、彼女たちの隣にずっと立ち続けることができるのだろうか。
革命を起こそうとする者の隣に。
歴史を変えようとする者の隣に。
世界を創ろうとする者の隣に。
運命から逃れ、夢を掴もうとする者の隣に。
俺は果たして相応しい人間なのだろうか。

そんな焦りと不安が、鉛のように俺の心を蝕んでいった。

その日の放課後。俺は一人で進路指導室にいた。ずらりと並んだ大学のパンフレットや就職情報誌。そのどれもが今の俺には遠い世界の出来事のように感じられた。
「……何になりたいんだろうな、俺は」
自問自答するが答えは出ない。
料理は好きだがプロの料理人になるほどの情熱はない。本は好きだが作家や編集者になれるほどの文才はない。

「……相葉君か。どうした、悩み事かね?」
不意に背後から穏やかな声がした。振り返ると、そこには学園長が優しい笑みを浮かべて立っていた。
「あ、学園長……」
「君も進路に悩むお年頃か」
彼女は俺の隣に立つと、パンフレットの棚を懐かしそうに見つめた。

「……俺には何もありません」
俺はぽつりと自分の胸の内を吐露した。
「玲たちみたいに大きな夢も、特別な才能も。……俺は空っぽです。あいつらの隣にいる資格なんて、本当はないのかもしれない」
その言葉は、ずっと心の奥底にしまい込んでいた俺の弱音だった。

学園長は何も言わずに、ただ静かに俺の話を聞いていた。
そして俺が話し終えるのを待ってから、ゆっくりと口を開いた。
「……そうかね?」
「え……?」
「私はそうは思わんがな」
彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。その瞳は全てを見透かすように深く、そして温かい。

「君には特別な才能がない、と君は言う。だがそれは違う。君には誰にも真似できない素晴らしい才能がある」
「俺に……才能……?」
「そうだ」と彼女は力強く頷いた。
「君は人の痛みが分かる。人の弱さに寄り添える。そして人が本当に必要としているものを与えることができる」

彼女は窓の外、夕日に染まる校庭を眺めながら言葉を続けた。
「玲君には自信を。葵君には勇気を。湊君には安らぎを。そして雅君には希望を。……君は彼女たちが前に進むために一番必要としていたものを与えてやった。それはどんな偉大な才能よりも尊いことだと私は思う」

学園長の言葉が、俺の乾いた心にじんわりと染み渡っていく。
俺が、彼女たちに?
俺はただそばにいただけだ。特別なことなど何もしていない。

「……特別な人間だけが世界を動かしているわけではないのだよ、相葉君」
彼女は俺の肩を優しく叩いた。
「偉大な王の隣には、常にその王を支える賢明な宰相がいた。誰もが主役になる必要はない。誰かを支え、その輝きを誰よりも近くで見届ける。……それもまた一つの立派な生き方ではないかね?」

支える、仕事。
その言葉が俺の心にすとんと落ちてきた。

そうだ。俺はずっとそうしてきたじゃないか。
共働きの両親に代わって妹の世話をしてきた。
この学園に来てからは、男装という鎧で戦う彼女たちの唯一の拠り所になろうとしてきた。
誰かのために何かをする。
誰かが笑顔になってくれる。
そのことに俺はいつだって最高の喜びを感じていた。

特別な才能はないかもしれない。
世界を変えるような大きな夢もないかもしれない。
でも俺には、俺だけのできることがある。

頑張る人を支えたい。
夢を追う人を応援したい。
彼女たちがそれぞれの道で最高の輝きを放てるように、その一番近くで俺は彼女たちの『宰相』になりたい。

それが俺の答えだ。

「……ありがとうございます、学園長」
俺は深く、深く頭を下げた。目の前の霧が晴れていくようだった。
「……俺、やりたいことが見つかった気がします」

俺のその言葉に、学園長は満足そうに最高の笑顔で頷いてくれた。

進路指導室を出た俺は夕日に向かって大きく伸びをした。
まだ漠然としている。どんな大学に行ってどんな職業に就くのか、具体的なことは何も決まっていない。
でも、もう迷いはない。

彼女たちのように頑張る人を支える仕事。
それが俺の、相葉祐樹の夢だ。
その夢を見つけさせてくれたのは、紛れもなく俺のかけがえのない四人の共犯者たちだった。
俺は彼女たちの顔を思い浮かべながら、未来へと続く道を力強い一歩で踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。 その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに! 戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...