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第93話 最後のクリスマスパーティー
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進路という名の羅針盤を手に入れた俺たちの日常は、以前にも増して輝きを増していた。それぞれが卒業後の未来という共通の目標を見据え、互いに励まし合い、時には競い合いながら残された学園生活を全力で駆け抜けていく。そんな俺たちの姿は、どこか眩しくて少しだけ切なかった。
季節は秋から冬へ。
冷たい風が校舎の窓を叩き、木々の葉がすっかり落ちる頃、学園は年に一度の特別なイベントの準備で華やかな雰囲気に包まれ始めていた。
クリスマスだ。
全寮制である獅子王院学園では、クリスマスは生徒たちが家族の元へ帰る短い帰省期間となっていた。だが俺たち五人は誰からともなくこの寮に残ることを決めていた。それぞれの家に帰りたくない、あるいは帰れない事情がある。だがそれ以上に、この五人で過ごす最後のクリスマスを何よりも大切にしたかったからだ。
クリスマスイブの夜。
俺たちの部屋はいつもの溜まり場から、特別なパーティー会場へと姿を変えていた。湊がどこからか調達してきた小さなクリスマスツリーが、チカチカと優しい光を放っている。葵が壁に「Merry Christmas!」と書かれた少しだけ字が下手な飾り付けをし、雅はテーブルの上に彼女が焼いたジンジャークッキーを少しだけ照れくさそうに並べていた。
そしてキッチンでは俺と玲がパーティーのメインディッシュである特製のローストチキンをオーブンから取り出しているところだった。
「うわー! すげえ美味そう!」
「いい匂い……!」
テーブルに次々と料理が並べられていく。ローストチキン、ポテトサラダ、クラムチャウダー、そして玲が実家から取り寄せたという高級なブッシュドノエル。それはささやかだが温かくて、心のこもった俺たちだけのクリスマスディナーだった。
「「「「「メリークリスマス! かんぱーい!」」」」」
ジュースの入ったグラスを高く掲げ、俺たちの最後のクリスマスパーティーが始まった。
美味しい料理に舌鼓を打ち、他愛もない話で笑い合う。それはどこにでもあるような普通のクリスマスパーティーの光景だった。だが俺たちにとっては、その当たり前の光景が何物にも代えがたい宝物のような時間だった。
食事も一段落した頃。
「よーし! それじゃあ、お待ちかねのプレゼント交換の時間だ!」
葵がサンタクロースのような大きな袋をどこからか取り出してきた。中には俺たち五人がそれぞれ用意したプレゼントが入っている。
音楽に合わせてプレゼントを隣の人へと回していく。誰のプレゼントが誰の元へ行くのか。そのドキドキ感がたまらない。
音楽が止まった。
俺の元にやってきたのは、綺麗な青い包装紙でラッピングされた少しだけ重いプレゼントだった。
「それ、私からだわ」
玲が少しだけ頬を染めながら言った。俺は期待に胸を膨らませながら包みを開ける。
中から出てきたのは上質な革で作られた万年筆だった。その軸には銀色で、俺のイニシャル『Y.A』が小さく刻まれている。
「……これから夢に向かって、たくさんのことを書き記していくでしょう? そのお供になれたらと思って」
そのあまりにも玲らしい、知的で心のこもったプレゼントに俺は胸が熱くなった。
俺のプレゼントは雅の元へと渡った。俺が贈ったのは手作りのマフラーだった。彼女が好きな深い緑色の毛糸で、一目一目丁寧に編んだものだ。
「……別に。欲しかったわけじゃないが。……まあ、使ってやらなくもない」
彼女はそう言って顔を背けたが、その手はマフラーの柔らかな感触を確かめるように優しく撫でていた。
葵は湊が用意した最新のワイヤレスイヤホンをゲットして、「うおおお! これで音楽聴きながら走れるぜ!」と大喜びしている。
湊は雅が選んだらしい可愛らしい猫の写真集を手に、「雅先輩、ナイスチョイスです!」と満面の笑みだ。
そして玲の元には葵が選んだスポーツブランドのロゴが入った真っ赤なマグカップが渡った。「これで毎日、トレーニング用のプロテインを飲むんだぞ!」という彼女らしいメッセージ付きで。玲は少しだけ呆れたように、しかし嬉しそうにそれを受け取っていた。
プレゼント交換が終わり、部屋の中は温かい幸福感に満たされていた。
俺は玲にもらった万年筆をそっと胸ポケットにしまう。
この温かい時間を、この幸せな瞬間を、俺はこのペンでずっと、ずっと書き記していきたい。
ふと窓の外を見ると、白いものがちらちらと舞い始めていた。
「……雪だ」
誰かがそう呟いた。
俺たちは一斉に窓際に駆け寄る。
静かな夜の闇に真っ白な雪が音もなく降り積もっていく。ホワイトクリスマスだ。
「……綺麗ね」
玲がうっとりとした声で言った。
俺たちは何も言わずに、ただ窓の外の幻想的な光景に見入っていた。
俺の右隣で玲がそっと俺の肩に頭を預けてきた。
左隣では葵が俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
後ろからは湊が俺の背中にぎゅっと抱きついてきた。
そして少しだけ離れた場所で、雅が俺が編んだマフラーを首に巻き、その柔らかさに幸せそうに顔をうずめていた。
四人の温もりに包まれながら、俺は心の中で静かに祈った。
神様。
もしいるのなら。
この、かけがえのない時間が少しでも長く続きますように。
寮で過ごす最後のクリスマス。
それは雪のように儚くて、でもダイヤモンドのように永遠に輝き続ける、俺たちだけの特別な夜となった。
季節は秋から冬へ。
冷たい風が校舎の窓を叩き、木々の葉がすっかり落ちる頃、学園は年に一度の特別なイベントの準備で華やかな雰囲気に包まれ始めていた。
クリスマスだ。
全寮制である獅子王院学園では、クリスマスは生徒たちが家族の元へ帰る短い帰省期間となっていた。だが俺たち五人は誰からともなくこの寮に残ることを決めていた。それぞれの家に帰りたくない、あるいは帰れない事情がある。だがそれ以上に、この五人で過ごす最後のクリスマスを何よりも大切にしたかったからだ。
クリスマスイブの夜。
俺たちの部屋はいつもの溜まり場から、特別なパーティー会場へと姿を変えていた。湊がどこからか調達してきた小さなクリスマスツリーが、チカチカと優しい光を放っている。葵が壁に「Merry Christmas!」と書かれた少しだけ字が下手な飾り付けをし、雅はテーブルの上に彼女が焼いたジンジャークッキーを少しだけ照れくさそうに並べていた。
そしてキッチンでは俺と玲がパーティーのメインディッシュである特製のローストチキンをオーブンから取り出しているところだった。
「うわー! すげえ美味そう!」
「いい匂い……!」
テーブルに次々と料理が並べられていく。ローストチキン、ポテトサラダ、クラムチャウダー、そして玲が実家から取り寄せたという高級なブッシュドノエル。それはささやかだが温かくて、心のこもった俺たちだけのクリスマスディナーだった。
「「「「「メリークリスマス! かんぱーい!」」」」」
ジュースの入ったグラスを高く掲げ、俺たちの最後のクリスマスパーティーが始まった。
美味しい料理に舌鼓を打ち、他愛もない話で笑い合う。それはどこにでもあるような普通のクリスマスパーティーの光景だった。だが俺たちにとっては、その当たり前の光景が何物にも代えがたい宝物のような時間だった。
食事も一段落した頃。
「よーし! それじゃあ、お待ちかねのプレゼント交換の時間だ!」
葵がサンタクロースのような大きな袋をどこからか取り出してきた。中には俺たち五人がそれぞれ用意したプレゼントが入っている。
音楽に合わせてプレゼントを隣の人へと回していく。誰のプレゼントが誰の元へ行くのか。そのドキドキ感がたまらない。
音楽が止まった。
俺の元にやってきたのは、綺麗な青い包装紙でラッピングされた少しだけ重いプレゼントだった。
「それ、私からだわ」
玲が少しだけ頬を染めながら言った。俺は期待に胸を膨らませながら包みを開ける。
中から出てきたのは上質な革で作られた万年筆だった。その軸には銀色で、俺のイニシャル『Y.A』が小さく刻まれている。
「……これから夢に向かって、たくさんのことを書き記していくでしょう? そのお供になれたらと思って」
そのあまりにも玲らしい、知的で心のこもったプレゼントに俺は胸が熱くなった。
俺のプレゼントは雅の元へと渡った。俺が贈ったのは手作りのマフラーだった。彼女が好きな深い緑色の毛糸で、一目一目丁寧に編んだものだ。
「……別に。欲しかったわけじゃないが。……まあ、使ってやらなくもない」
彼女はそう言って顔を背けたが、その手はマフラーの柔らかな感触を確かめるように優しく撫でていた。
葵は湊が用意した最新のワイヤレスイヤホンをゲットして、「うおおお! これで音楽聴きながら走れるぜ!」と大喜びしている。
湊は雅が選んだらしい可愛らしい猫の写真集を手に、「雅先輩、ナイスチョイスです!」と満面の笑みだ。
そして玲の元には葵が選んだスポーツブランドのロゴが入った真っ赤なマグカップが渡った。「これで毎日、トレーニング用のプロテインを飲むんだぞ!」という彼女らしいメッセージ付きで。玲は少しだけ呆れたように、しかし嬉しそうにそれを受け取っていた。
プレゼント交換が終わり、部屋の中は温かい幸福感に満たされていた。
俺は玲にもらった万年筆をそっと胸ポケットにしまう。
この温かい時間を、この幸せな瞬間を、俺はこのペンでずっと、ずっと書き記していきたい。
ふと窓の外を見ると、白いものがちらちらと舞い始めていた。
「……雪だ」
誰かがそう呟いた。
俺たちは一斉に窓際に駆け寄る。
静かな夜の闇に真っ白な雪が音もなく降り積もっていく。ホワイトクリスマスだ。
「……綺麗ね」
玲がうっとりとした声で言った。
俺たちは何も言わずに、ただ窓の外の幻想的な光景に見入っていた。
俺の右隣で玲がそっと俺の肩に頭を預けてきた。
左隣では葵が俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
後ろからは湊が俺の背中にぎゅっと抱きついてきた。
そして少しだけ離れた場所で、雅が俺が編んだマフラーを首に巻き、その柔らかさに幸せそうに顔をうずめていた。
四人の温もりに包まれながら、俺は心の中で静かに祈った。
神様。
もしいるのなら。
この、かけがえのない時間が少しでも長く続きますように。
寮で過ごす最後のクリスマス。
それは雪のように儚くて、でもダイヤモンドのように永遠に輝き続ける、俺たちだけの特別な夜となった。
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