追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

文字の大きさ
11 / 100

第11話:旅立ちの準備と森の気配

しおりを挟む
行商人からグランフェルトの情報を得て数日後、俺はシルフィに旅に出ることを告げた。

「グランフェルトという街へ、数日間行ってこようと思う。村の産物を売ったり、新しい情報や技術を探したりするためだ」
「グランフェルトへ…」
シルフィは少し不安そうな顔を見せた。俺がそばにいなくなることへの心細さもあるだろうし、奴隷として売られそうになった街の名前を聞いて、嫌な記憶が蘇ったのかもしれない。

「大丈夫だ。長くはかからない。俺がいない間、家のこと、頼めるか?」
「は、はい! もちろんです! でも…」
シルフィは言い淀んだ。
「…私も、何かカイトの役に立ちたいです。あなたが留守の間、もし何かあっても、この村や家を守れるように…強くなりたい」

その言葉には、以前の彼女からは考えられないような、強い意志が込められていた。彼女はもう、ただ守られるだけの存在ではない。自分にできることを探し、行動しようとしているのだ。

「そうか…。ありがとう、シルフィ。その気持ちだけで、俺は心強いよ」

その日から、シルフィは時間を見つけては、家の裏の空き地で何やら集中している様子を見せるようになった。そっと様子を窺うと、彼女は目を閉じ、両手を広げて、風に向かって何かを念じているようだった。以前、森で無意識に花を咲かせ、風を起こしたことを思い出し、精霊魔法の練習をしようとしているのだろう。

だが、なかなかうまくいかないようだった。風はそよぐものの、それは自然の風と大差なく、彼女が意図したような現象は起こらない。何度か試しては、小さくため息をつき、肩を落とす。その姿は少し気の毒だった。

ある夜、落ち込んでいるシルフィに、俺は声をかけた。
「魔法の練習か? なかなか難しいものなんだな」
「…はい。森では、あんなに簡単に風が…でも、自分でやろうとすると、全然ダメなんです」

俺は【万物解析】で彼女の魔力の状態と、周囲の精霊たちの様子を観察してみた。

『対象: シルフィ・グリーンウィンド(魔力制御試行中)
解析: 魔力量は十分。しかし、魔力を意図的に操作しようとする意識が強すぎ、精霊との自然な感応を阻害している。力でねじ伏せようとするのではなく、精霊の声に耳を傾け、流れに身を任せるようなアプローチが必要。キーワード:共感、調和、対話。』

「なるほどな…。シルフィ、少し試してみてほしいことがある」
「はい?」
「魔法を使おう、力を操ろう、と意識するんじゃなくて…ただ、風の声を聞くような、森の木々や花と話すような、そんな気持ちで、自然と対話するように接してみてはどうだろうか?」
「自然と…対話…?」
シルフィは不思議そうな顔をしたが、俺のアドバイスを素直に受け止め、こくりと頷いた。

すぐに結果が出るかは分からない。だが、彼女の才能は本物だ。焦らず、彼女自身のペースで向き合っていけば、きっと道は開けるはずだ。

グランフェルトへの出発準備を進める傍ら、テル村では年に一度の収穫祭の準備が始まっていた。今年の豊作はカイトのおかげだ、と村人たちは口々に言い、例年以上に力が入っているようだった。村の広場には手作りの飾りが取り付けられ、女たちは保存食や特別な料理の準備に忙しく、子供たちは楽しそうに走り回っている。村全体が温かい活気に満ちていた。

「シルフィも、少し手伝ってみないか? 飾り付けの花を集めたりするだけでも、みんな喜ぶと思うぞ」
俺がそう誘うと、シルフィは最初はためらっていたが、意を決して頷いた。

村の女性たちと一緒に、色とりどりの野花を摘んで飾り付けを手伝ったり、簡単な野菜の皮むきを手伝ったり。最初はぎこちなかったシルフィだが、村の女性たち――特に、俺が薬草で助けた老婆や、農業指導で世話になった家の母親などが、意識して優しく話しかけてくれたこともあり、少しずつ打ち解けていった。

「あらあら、シルフィちゃんは手が綺麗だねぇ」
「この花飾り、とっても素敵だよ」
そんな言葉をかけられ、シルフィははにかみながらも嬉しそうな表情を見せる。彼女が村の一員として受け入れられ始めている。その光景は、俺にとっても何よりの喜びだった。

収穫祭は、俺がグランフェルトから戻る頃に行われる予定だ。それまでには、シルフィももっと村に馴染んでいるかもしれない。

旅立ちの日が近づく中、俺は最後の準備として、村周辺の森の状況を念入りに確認することにした。街道方面だけでなく、普段あまり足を踏み入れない森の奥深くへも探索範囲を広げる。

そして、森の奥、湿地の近くで、俺は奇妙な痕跡を発見した。
泥濘(ぬかるみ)に残された、大きな足跡。それは狼のものに似ているが、通常の狼よりも二回りほど大きく、爪の跡が深く鋭い。そして、周囲には何者かが激しく争ったような痕跡――折れた枝、抉れた地面、そして微かに残る血痕のようなシミ。

俺はすぐに【万物解析】を発動した。

『対象: 足跡及び周辺痕跡
解析(足跡): 狼型生物。推定体長2.5m以上。後脚の筋力が非常に発達しており、高い跳躍力を持つ。通常の狼とは異なる骨格構造の可能性。
解析(痕跡): 複数の存在による戦闘の痕跡。一方は上記の狼型生物。もう一方は…判別困難だが、金属製の武器(剣もしくは斧)によるものと思われる斬撃痕あり。微量の血液反応(人間もしくはそれに近い種族のもの)。
推定時期: 数日前。
備考: この地域に生息記録のない大型生物。以前の『狼獣人奴隷逃亡』の噂との関連性が疑われる。』

「狼獣人…本当にいたのか…?」

しかも、誰かと争った痕跡がある。人間か? 奴隷商人、あるいは別の何者か…。無事に逃げられたのだろうか。

不穏な発見だった。この森の奥に、俺たちの知らない危険が潜んでいる可能性。そして、助けを必要としている存在がいる可能性。

(今は…深入りすべきではないか)

グランフェルト行きを目前に控えた今、新たな問題に首を突っ込むのは得策ではない。まずは情報を集めることが最優先だ。

俺は痕跡の場所を記憶に留め、テル村へと引き返した。

村に戻ると、収穫祭の準備はさらに進み、賑やかな声が響いていた。シルフィも、村の子供たちと一緒に、飾り付けに使う木の実を拾い集めていて、楽しそうな笑い声が聞こえる。

この平和な光景。これを守るためにも、俺は行かなければならない。情報を得て、力をつけなければ。

グランフェルトへの旅立ちの日は、もう間近に迫っていた。森の奥に残る不穏な気配と、村の温かな日常。その二つの間で、俺は決意を新たにしていた。この手で、未来を切り開くために。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

平民令嬢、異世界で追放されたけど、妖精契約で元貴族を見返します

タマ マコト
ファンタジー
平民令嬢セリア・アルノートは、聖女召喚の儀式に巻き込まれ異世界へと呼ばれる。 しかし魔力ゼロと判定された彼女は、元婚約者にも見捨てられ、理由も告げられぬまま夜の森へ追放された。 行き場を失った境界の森で、セリアは妖精ルゥシェと出会い、「生きたいか」という問いに答えた瞬間、対等な妖精契約を結ぶ。 人間に捨てられた少女は、妖精に選ばれたことで、世界の均衡を揺るがす存在となっていく。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

勇者パーティーを追放された召喚術師、美少女揃いのパーティーに拾われて鬼神の如く崇められる。

名無し
ファンタジー
 ある日、勇者パーティーを追放された召喚術師ディル。  彼の召喚術は途轍もなく強いが一風変わっていた。何が飛び出すかは蓋を開けてみないとわからないというガチャ的なもので、思わず脱力してしまうほど変なものを召喚することもあるため、仲間から舐められていたのである。  ディルは居場所を失っただけでなく、性格が狂暴だから追放されたことを記す貼り紙を勇者パーティーに公開されて苦境に立たされるが、とある底辺パーティーに拾われる。  そこは横暴なリーダーに捨てられたばかりのパーティーで、どんな仕打ちにも耐えられる自信があるという。ディルは自身が凶悪な人物だと勘違いされているのを上手く利用し、底辺パーティーとともに成り上がっていく。

処理中です...