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第28話:石壁の記憶、最初の広間
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石の階段を下りきる。ひんやりとした、そしてわずかにカビ臭い空気が鼻腔をくすぐった。地上とは明らかに違う、重く澱んだ空気。何百年、あるいは何千年もの間、閉ざされていた空間なのだろう。
松明の頼りない明かりが、目の前に広がる通路を照らし出す。壁も床も天井も、祠と同じような硬質の石材で造られているようだ。表面は滑らかに加工されているが、長い年月を経て、埃と僅かな染みが覆っている。
俺は【万物解析】を発動し、周囲の情報を収集しながら、一歩一歩、慎重に進み始めた。
『環境情報: 気温15℃、湿度70%。空気中の酸素濃度やや低い。粉塵多し。魔力濃度:地上平均の約1.5倍。特異な魔力パターンは検出されず。』
『構造解析(通路): 幅約3m、高さ約4m。石組み構造。極めて堅牢。内部崩落の危険性は低い。前方約20m地点に床構造の異常を検知。』
床構造の異常? 俺は足を止め、その地点を重点的に解析する。
『警告: 圧力感応式落とし穴の存在を確認。床石の一部がトリガープレート。作動した場合、深さ約5mの縦穴へ落下。底面に鋭利な石筍(せきじゅん)あり。解除機構は不明。回避推奨。』
「…いきなり罠か。さすがは古代遺跡、といったところか」
冷や汗が背中を伝う。もしスキルがなければ、気づかずに踏み込んでいたかもしれない。俺はトリガープレートの位置を正確に把握し、壁際を慎重に歩いてその箇所を通過した。心臓が少し早鐘を打っている。単独での探索は、やはりリスクが高い。
罠を抜けてさらに進むと、通路の壁に何かが描かれているのに気づいた。松明の光を近づけてみると、それは色褪せてはいるものの、精巧な壁画だった。
描かれているのは、古代の人々と思しき姿。彼らは、空に浮かぶ巨大な何か――星のようにも、あるいは巨大な建造物のようにも見える――に向かって祈りを捧げている。別の場面では、人々が異形の巨大な獣と戦っている様子も描かれていた。その獣の姿は、先日の満月の夜にテル村を襲った合成獣(キメラ)に、どこか似ている気がした。
壁画に使われている顔料や様式も解析するが、詳細は不明だ。ただ、そこかしこに、特徴的な渦巻きのようなシンボルマークが描かれているのが気になった。俺はそのシンボルを記憶に焼き付けておく。いつか、何かの手がかりになるかもしれない。
壁画の通路を抜けると、やや開けた空間に出た。直径20メートルほどの円形の広間だ。天井は高く、ドーム状になっている。中央には、高さ1メートルほどの円筒形の石の台座――祭壇のようなものが設置されていた。
広間全体に、通路よりもさらに濃密な魔力の気配が漂っている。特に、中央の祭壇からは、強い魔力の残滓が感じられた。
俺は警戒しながら広間の中央へ進み、祭壇を【万物解析】で調査する。
『対象: 古代の祭壇
材質: 祠と同質の未知の石材。高密度魔力結晶体を内部に含む。
状態: 機能停止。表面に摩耗、汚損あり。上部に何かを設置していた痕跡。
魔力残滓分析: 極めて強力なエネルギー反応の痕跡。属性不明(複合属性?)。推定数千年前のもの。長時間にわたり、膨大なエネルギーを放出し続けていた可能性。
表面解析(文字): 古代共通語(前期)による碑文の一部が残存。「…星降る時、大いなる力が…」「…恵み、あるいは災厄…」「…賢者の石にて、これを封印す…」』
「星降る時…大いなる力…恵み、あるいは災厄…賢者の石で、封印…?」
断片的ながらも、非常に興味深いキーワードだ。かつてこの祭壇には、「賢者の石」と呼ばれる何か強力なエネルギー源、あるいは魔道具が置かれていて、それが「星」に関連する「大いなる力」を制御、あるいは封印していたということだろうか?
祭壇の上には、今は何もない。誰かが持ち去ったのか、それとも長い年月の間に失われたのか…。
ふと、祭壇の足元、埃の中に何か小さなものが光っているのに気づいた。拾い上げてみると、それは手のひらに収まるくらいの大きさの、奇妙な形状をした金属片だった。表面には、祭壇と同じような古代文字が微かに刻まれている。
『発見物: 未知の金属片
材質: オリハルコン合金?(純度不明)。未知の金属を複数含む。
状態: 破損した部品の一部。強い魔力反応あり。
解析: 古代文明のアーティファクトの破片である可能性が高い。元の形状、機能は不明。内部に複雑な魔力回路の痕跡。解析深度:8%。
備考: 高度な技術で精錬・加工されている。現代の技術では再現不可能。他の破片が存在する可能性あり。』
「アーティファクトの破片…これも手がかりになるかもしれないな」
俺はその金属片を、黒い魔石とは別のポケットに慎重にしまい込んだ。
広間を見渡すと、奥にもう一つ、通路が続いているのが見えた。祭壇の向こう側、広間の壁の一部が、暗い口を開けている。そちらからは、これまで以上に濃密な魔力の気配と、そして気のせいかもしれないが、微かな、規則的な機械音のようなものが聞こえる気がした。
(この奥に、さらに何かがある…?)
最初の広間だけでも、興味深い発見がいくつもあった。古代文字、壁画、祭壇、アーティファクトの破片…。この遺跡には、俺が求める知識や技術が眠っている可能性が高い。
同時に、危険も増していくのだろう。罠だけでなく、もしかしたら遺跡を守るガーディアンのような存在がいるかもしれない。
俺は松明の炎を揺らしながら、奥へと続く暗い通路を見据えた。広間に響くのは、俺自身の息遣いと、微かな反響音だけだ。未知への期待と、深まる謎、そして潜在的な危険。それら全てを受け止め、俺は静かに決意を固めた。
「行くか…」
小さく呟き、俺は新たな通路へと、次の一歩を踏み出した。この先に何が待ち受けていようとも、進むしかない。辺境の未来と、仲間たちを守るために。
松明の頼りない明かりが、目の前に広がる通路を照らし出す。壁も床も天井も、祠と同じような硬質の石材で造られているようだ。表面は滑らかに加工されているが、長い年月を経て、埃と僅かな染みが覆っている。
俺は【万物解析】を発動し、周囲の情報を収集しながら、一歩一歩、慎重に進み始めた。
『環境情報: 気温15℃、湿度70%。空気中の酸素濃度やや低い。粉塵多し。魔力濃度:地上平均の約1.5倍。特異な魔力パターンは検出されず。』
『構造解析(通路): 幅約3m、高さ約4m。石組み構造。極めて堅牢。内部崩落の危険性は低い。前方約20m地点に床構造の異常を検知。』
床構造の異常? 俺は足を止め、その地点を重点的に解析する。
『警告: 圧力感応式落とし穴の存在を確認。床石の一部がトリガープレート。作動した場合、深さ約5mの縦穴へ落下。底面に鋭利な石筍(せきじゅん)あり。解除機構は不明。回避推奨。』
「…いきなり罠か。さすがは古代遺跡、といったところか」
冷や汗が背中を伝う。もしスキルがなければ、気づかずに踏み込んでいたかもしれない。俺はトリガープレートの位置を正確に把握し、壁際を慎重に歩いてその箇所を通過した。心臓が少し早鐘を打っている。単独での探索は、やはりリスクが高い。
罠を抜けてさらに進むと、通路の壁に何かが描かれているのに気づいた。松明の光を近づけてみると、それは色褪せてはいるものの、精巧な壁画だった。
描かれているのは、古代の人々と思しき姿。彼らは、空に浮かぶ巨大な何か――星のようにも、あるいは巨大な建造物のようにも見える――に向かって祈りを捧げている。別の場面では、人々が異形の巨大な獣と戦っている様子も描かれていた。その獣の姿は、先日の満月の夜にテル村を襲った合成獣(キメラ)に、どこか似ている気がした。
壁画に使われている顔料や様式も解析するが、詳細は不明だ。ただ、そこかしこに、特徴的な渦巻きのようなシンボルマークが描かれているのが気になった。俺はそのシンボルを記憶に焼き付けておく。いつか、何かの手がかりになるかもしれない。
壁画の通路を抜けると、やや開けた空間に出た。直径20メートルほどの円形の広間だ。天井は高く、ドーム状になっている。中央には、高さ1メートルほどの円筒形の石の台座――祭壇のようなものが設置されていた。
広間全体に、通路よりもさらに濃密な魔力の気配が漂っている。特に、中央の祭壇からは、強い魔力の残滓が感じられた。
俺は警戒しながら広間の中央へ進み、祭壇を【万物解析】で調査する。
『対象: 古代の祭壇
材質: 祠と同質の未知の石材。高密度魔力結晶体を内部に含む。
状態: 機能停止。表面に摩耗、汚損あり。上部に何かを設置していた痕跡。
魔力残滓分析: 極めて強力なエネルギー反応の痕跡。属性不明(複合属性?)。推定数千年前のもの。長時間にわたり、膨大なエネルギーを放出し続けていた可能性。
表面解析(文字): 古代共通語(前期)による碑文の一部が残存。「…星降る時、大いなる力が…」「…恵み、あるいは災厄…」「…賢者の石にて、これを封印す…」』
「星降る時…大いなる力…恵み、あるいは災厄…賢者の石で、封印…?」
断片的ながらも、非常に興味深いキーワードだ。かつてこの祭壇には、「賢者の石」と呼ばれる何か強力なエネルギー源、あるいは魔道具が置かれていて、それが「星」に関連する「大いなる力」を制御、あるいは封印していたということだろうか?
祭壇の上には、今は何もない。誰かが持ち去ったのか、それとも長い年月の間に失われたのか…。
ふと、祭壇の足元、埃の中に何か小さなものが光っているのに気づいた。拾い上げてみると、それは手のひらに収まるくらいの大きさの、奇妙な形状をした金属片だった。表面には、祭壇と同じような古代文字が微かに刻まれている。
『発見物: 未知の金属片
材質: オリハルコン合金?(純度不明)。未知の金属を複数含む。
状態: 破損した部品の一部。強い魔力反応あり。
解析: 古代文明のアーティファクトの破片である可能性が高い。元の形状、機能は不明。内部に複雑な魔力回路の痕跡。解析深度:8%。
備考: 高度な技術で精錬・加工されている。現代の技術では再現不可能。他の破片が存在する可能性あり。』
「アーティファクトの破片…これも手がかりになるかもしれないな」
俺はその金属片を、黒い魔石とは別のポケットに慎重にしまい込んだ。
広間を見渡すと、奥にもう一つ、通路が続いているのが見えた。祭壇の向こう側、広間の壁の一部が、暗い口を開けている。そちらからは、これまで以上に濃密な魔力の気配と、そして気のせいかもしれないが、微かな、規則的な機械音のようなものが聞こえる気がした。
(この奥に、さらに何かがある…?)
最初の広間だけでも、興味深い発見がいくつもあった。古代文字、壁画、祭壇、アーティファクトの破片…。この遺跡には、俺が求める知識や技術が眠っている可能性が高い。
同時に、危険も増していくのだろう。罠だけでなく、もしかしたら遺跡を守るガーディアンのような存在がいるかもしれない。
俺は松明の炎を揺らしながら、奥へと続く暗い通路を見据えた。広間に響くのは、俺自身の息遣いと、微かな反響音だけだ。未知への期待と、深まる謎、そして潜在的な危険。それら全てを受け止め、俺は静かに決意を固めた。
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