追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第29話:動力室の残響、古代の遺物

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最初の広間から続く通路は、先ほどまでの通路とは少し様子が異なっていた。壁には、ガラス管のようなものや、金属製のパイプのようなものが等間隔で埋め込まれている。松明の光を近づけてみると、ガラス管の中には、今はもう枯れてしまっているが、かつては魔力が流れていたかのような微かな痕跡が見て取れた。

そして、先ほどから感じていた微かな機械音のようなものが、この通路を進むにつれて、よりはっきりと聞こえるようになってきた。それは、低い唸りのようでもあり、規則的な振動のようでもある。生き物の気配ではない。明らかに人工的な音だ。

(この奥に、何か大きな仕掛けがあるのか…?)

期待と警戒心をない交ぜにしながら、俺は慎重に足を進める。通路自体は短く、すぐに開けた場所に出た。

そこは、先ほどの広間よりもさらに広大な、天井の高い空間だった。そして、その中央には、俺の想像を遥かに超える光景が広がっていた。

部屋の中央を占拠するように鎮座しているのは、巨大で、そして恐ろしく複雑な形状をした機械装置だった。高さは10メートル以上、幅も数十メートルはあるだろうか。磨かれた金属のような光沢を持つ素材で覆われ、無数のパイプや歯車、水晶のような部品が組み合わさっている。その威容は、まるで眠れる巨人の心臓部のようだ。壁にも、補助的な装置や、何かのメーターが並んだパネルのようなものが取り付けられている。

「なんだ…これは…?」

思わず声が漏れた。まるで、おとぎ話に出てくる古代文明の遺物、あるいは神々が作り出したかのような装置だ。ひんやりとした空気の中に、この巨大な機械だけが、圧倒的な存在感を放っている。あの微かな機械音は、この装置から発せられているのだろうか? いや、装置自体は完全に沈黙しているように見える。音は、もっと別の場所から反響してきているのかもしれない。

俺は、その異様な光景にしばし圧倒されていたが、すぐに気を取り直し、【万物解析】を発動した。対象は、目の前の巨大な装置だ。

『対象: 名称不明の古代動力装置(仮称:星脈炉?)
状態: 完全停止(エネルギー供給停止による)。内部構造の一部に損傷あり。ただし、基幹部はほぼ原型を維持。
推定機能: 地脈、あるいは星辰(せいしん)から得られる膨大な魔力エネルギーを変換・増幅し、遺跡全体、もしくは広範囲の設備へ供給するための大型動力炉、及び制御システム。
構造解析: 未知のオリハルコン系合金、超高密度魔力結晶体、空間位相制御機構(?)、自己修復機能(停止中)など、現代技術では再現不可能な超高度技術の集合体。内部には極めて複雑な魔力回路が張り巡らされている。装置表面に、壁画で見た渦巻き状のシンボルが複数刻印されている。
魔力残滓分析: 内部に超高濃度の魔力が残留。特に炉心部と思われる中央の結晶体には、暴走すれば小規模な天変地異を引き起こしかねないほどのエネルギーが封印されている。
備考: 数千年前に何らかの理由で緊急停止された模様。再起動には膨大な魔力と、正確な起動シーケンス、そして専門知識が必要。安易な接触は極めて危険。』

「星脈炉…? 星の力をエネルギーに…? しかも、自己修復機能まで…」

解析結果に、俺は戦慄した。これが、古代文明の技術レベルなのか。現代の魔法や錬金術など、まるで子供の遊びのように思えてくる。壁画にあったシンボルが刻まれているということは、この装置が壁画に描かれていた「大いなる力」と関係があるのかもしれない。

解析を進めると、装置の一部、特に補助的なエネルギー循環システムのような箇所は、外部から適切な魔力を供給すれば、限定的に再起動できる可能性が示唆された。もし動かせれば、この遺跡の機能の一部を解明できるかもしれない。

しかし、俺はその誘惑を振り払った。解析結果は「極めて危険」と警告している。全容が不明なこの巨大装置を、知識も準備もなく動かそうとするのは、自殺行為に等しいだろう。暴走すれば、俺だけでなく、地上のテル村にまで被害が及ぶかもしれない。

(今は、情報を集めるのが先決だ…)

俺は装置から少し離れ、周囲を観察する。装置の脇に、操作盤のようなものが設置されていた台座があった。しかし、そこにあるはずのレバーやボタン、あるいは表示装置のようなものは、ほとんどが取り外されたり、破壊されたりしている。誰かが意図的に、この装置を操作できないようにしたのだろうか?

諦めかけたその時、台座の上、厚く積もった埃の中に、何か小さな物体が埋もれているのを見つけた。慎重に埃を払いのけてみると、それは手のひらに収まるくらいの大きさの、透明な多面体の水晶のような物体だった。表面には微細な線が刻まれ、内部で淡い光が明滅しているように見える。

俺はそれを拾い上げ、【万物解析】にかけてみた。

『発見物: 星見の欠片(ほしみのかけら)
種別: 古代の魔道具(情報記録媒体兼簡易解析装置)
材質: 超高純度魔力水晶、微量の星屑の欠片成分
状態: 破損(内部回路の一部断線、エネルギー供給不安定)。機能制限あり。
機能: 対象物の情報を記録・表示する機能、及び簡易的な解析機能を持つ。特定のシステム(おそらく遺跡管理システム)との連携機能あり。
記録情報(断片): …システムログ…『動力炉エネルギー供給、緊急停止シーケンス実行』…『原因不明の外部干渉を確認』…『セクター7、隔壁封鎖』…『管理者権限ロック』…『最終プロトコル…スリープモード移行』…(大部分は破損により読み取り不能)
備考: 破損しているが、内部にはまだ情報が残存している可能性あり。修復には高度な技術と知識が必要。遺跡の謎を解く鍵となる可能性。』

「星見の欠片…情報記録媒体…!」

これは大きな発見だ! 断片的ながらも、この遺跡が高度なシステムで管理されていたこと、そして何らかの外部干渉によって緊急停止したことが読み取れた。管理者権限ロック、スリープモード…まるでSFの世界だ。

俺はこの『星見の欠片』を、アーティファクトの破片とは別の、安全な場所にしまう。これを修復できれば、この遺跡の、そして古代文明の謎に大きく迫れるかもしれない。

改めて、沈黙した巨大な動力炉を見上げる。その静寂の中には、かつてこの場所を満たしていたであろう、古代の残響が聞こえるような気がした。緊急停止の原因となった「外部干渉」とは何だったのか? 管理者はどうなったのか? そして、この遺跡は、一体何のために作られたのか?

謎は深まるばかりだ。だが、同時に、確かな手がかりも得られた。

俺は、『星見の欠片』が示すかもしれない、さらなる情報――あるいは、セクター7と呼ばれる場所――を求めて、この動力室の奥をさらに探索する必要があると感じていた。

遺跡探索は、まだ始まったばかり。俺は静かに息を吸い込み、決意を込めて、動力室のさらに奥へと続くであろう通路へと、再び歩を進めた。古代の叡智と、そこに潜むかもしれない危険を求めて。
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