追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第30話:石版の断片、警備ゴーレムの残骸

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巨大な動力炉が鎮座する広間を後にし、俺はさらに奥へと続く通路に足を踏み入れた。ひんやりとした空気が一層濃くなり、壁を走る魔力管のようなものの数も増えている。ガラス管の中には、もはや完全に光を失ってはいるものの、複雑な紋様が刻まれているものもあり、この遺跡が稼働していた頃の高度なエネルギー循環システムを偲ばせた。あの微かな機械音のような反響音は、依然としてどこからともなく聞こえてくるが、その発生源は特定できない。

通路は緩やかに下り坂になっており、しばらく進むと、金属製の重厚な扉が目の前に現れた。扉の表面は滑らかで、傷一つない。その中央には、円形の窪みがあり、何らかの認証装置が取り付けられていた痕跡がある。そして、扉の上部には、風化することなくくっきりと、古代文字で『セクター7』と刻まれていた。

(『星見の欠片』のログにあった区画…!)

認証装置は機能していないようだ。【万物解析】で扉の構造を調べる。電子的なロックではなく、物理的な多重ロック機構が採用されているらしい。解析を進めると、扉の脇にある小さなパネルの裏に、緊急時用の手動解除レバーが隠されていることが分かった。

「よし…」

パネルを慎重に取り外し、内部のレバーを操作する。ゴトン、という重い金属音と共に、扉のロックが解除された。ゆっくりと、しかしスムーズに扉が開いていく。

扉の先は、動力室とはまた雰囲気の違う部屋だった。広さは学校の教室ほどだろうか。壁際には、ガラス製のショーケースや、金属製の棚がいくつも並んでいる。だが、その多くは無残に破壊され、床にはガラスの破片や、何かの残骸が散らばっていた。棚も倒れ、中の物が乱雑に散乱している。明らかに、何者かによって荒らされた痕跡だ。

(外部干渉…あのログは、このことだったのか?)

襲撃か、あるいは内部での暴走か。いずれにせよ、この遺跡で何か良からぬ出来事があったことは間違いなさそうだ。

俺は警戒を強めながら、部屋の中を探索し始めた。破壊を免れた棚やケースもいくつか残っている。それらを一つ一つ調べていく。

まず見つけたのは、数枚の薄い石版だった。粘土板のようなものではなく、滑らかな黒曜石のような素材でできており、表面にはびっしりと古代文字が刻まれている。

『対象: 古代の記録石版×5
内容解析(断片):
・石版1:「生命創造の試み - 第三次報告書」… 異種間遺伝子情報の強制結合と魔力による安定化に関する考察… 失敗例多数…倫理的問題…
・石版2:「エーテル制御理論序説」… 空間に遍満する未知エネルギー『エーテル』の観測と制御の可能性… 次元間航行への応用…
・石版3:「第3ゲート接続実験ログ」… 座標… 異界存在との接触成功… しかし制御不能… 緊急遮断… 被害甚大…
・石版4:「魔力炉安定化プロトコル」… コア暴走時の封印手順… 賢者の石の運用について…
・石版5:「警備システム運用マニュアル」… ゴーレム型自律兵器の配備と制御… セキュリティレベル…
備考: 極めて重要かつ危険な情報を含む可能性。完全な解読には専門知識が必要。』

「生命創造…異界接続…ゲート…!」

断片的ながらも、そこに記された内容は衝撃的だった。この遺跡では、現代の常識を遥かに超えた、そして倫理的に問題のある研究や実験が行われていた可能性がある。先日の合成獣(キメラ)も、ここで生み出された「失敗例」の一つだったのかもしれない。

次に、棚の奥から、奇妙な形状をした金属製の道具を見つけた。杖のようでもあり、何かの測定器のようでもある。

『対象: 用途不明の古代道具
材質: 未知の形状記憶合金? 魔力伝導率・極高。
機能: 解析不能。特定の魔力パターン、あるいは他の装置との連動によって機能する可能性。内部に複雑なエネルギー回路。
備考: 高度な魔力工学の産物。』

これも今は使い道が分からないが、重要な遺物であることは間違いなさそうだ。

そして、もう一つ、幸運な発見があった。棚の引き出しの中に、小さな黒い立方体が収められていたのだ。

『対象: 空間収納ボックス(小)
機能: 内部に亜空間を生成し、物体を収納する魔道具。容量:約1立方メートル。出し入れには特定の魔力操作が必要。
状態: 良好。エネルギー充填済み。
備考: 古代文明では一般的な道具だった可能性あり。アイテムの持ち運びに極めて有用。』

「これは便利だ!」

これで、かさばる石版や道具も安全に持ち運べる。早速、使い方を解析し、石版数枚(特に重要そうなもの)と、用途不明の道具を収納ボックスに収めた。

部屋のさらに奥を探索しようとした、その時だった。
部屋の隅、瓦礫の山の中から、ギ、ギギ…という軋むような音と共に、一体の人形の残骸のようなものがゆっくりと起き上がったのだ。

それは、金属製の骨格に装甲が取り付けられた、身長1メートルほどの小型のゴーレムだった。全身は傷だらけで、片腕は失われ、動きもぎこちない。だが、その一つ目のような赤いレンズが、明確な敵意を持って俺を捉えた!

「まだ生きてるやつがいたか…!」

警備ゴーレムだろう。長い年月と先の事件でほとんど破壊されたが、最後の力を振り絞って侵入者を排除しようとしているらしい。

ゴーレムは、軋む音を立てながら、残った腕を振り上げて突進してきた! 動きは鈍いが、その金属の体は頑強そうだ。

俺は短剣を構え、冷静に【万物解析】で弱点を探る。

『対象: 小型警備ゴーレム(破損状態)
弱点: 関節部の魔力供給パイプ(露出箇所あり)。胸部コア(装甲により保護)。動作パターン単調。
攻撃手段: 殴打、体当たり。特殊機能なし。
備考: エネルギー残量わずか。長期的な戦闘は不可能。』

「関節部だな!」

俺はゴーレムの単調な殴打を最小限の動きで躱し、その懐に潜り込む。そして、露出している膝関節の裏側、魔力が流れている細いパイプを、短剣で正確に突き刺し、切断した!

プシュッ、という音と共に、ゴーレムの動きが急速に鈍る。赤いレンズの光が明滅し、やがて完全に力を失って、ガシャンと音を立ててその場に崩れ落ちた。

「ふぅ…危なかった」

動きは鈍くても、まともに食らえばただでは済まなかっただろう。この遺跡には、まだこうした危険が潜んでいる。

これ以上の深追いは危険だ。得られた情報も多い。石版の内容を解読し、態勢を立て直す必要がある。

俺は、回収した遺物を空間収納ボックスにしっかりとしまい、部屋を出て、地上への帰路についた。

遺跡の奥深くには、まだ多くの秘密と、そしておそらくは更なる危険が眠っているだろう。だが、今日の探索で得たものは大きい。合成獣の手がかり、古代の超技術の片鱗、そして便利な魔道具。

これらをどう活かすか。そして、石版に記された危険な研究や実験の真実とは何か。

テル村に戻ったら、拠点建設を進めながら、じっくりと考える必要がありそうだ。シルフィやレナにも、どこまで話すべきか…。新たな課題を抱えながら、俺は遺跡の暗がりを後にした。

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