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第34話:防衛線の構築、迫り来る軍勢
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「魔物の大群が来るぞーっ!」
レナの報告と警鐘の音は、瞬く間にテル村全体に広がり、平和な午後の空気は一変した。家々から飛び出してきた村人たちの顔には、恐怖と混乱の色が浮かんでいる。
「ま、魔物の大群じゃと!?」
「どうすればいいんだ!」
「逃げなければ!」
パニックになりかける村人たちを、俺は声を張り上げて制した。
「落ち着いてくれ! 慌てても状況は良くならない! 村長、皆を北の丘の拠点へ避難させてください! あそこなら、石壁があるだけでも、ここにいるよりずっと安全だ!」
「わ、分かった! 皆の者、カイトの言う通りじゃ! 落ち着いて拠点へ向かえ! 女子供、年寄りを優先じゃ!」
村長の指示を受け、村のまとめ役たちが動き出す。泣き出す子供をあやしながら、あるいは足の悪い老人を支えながら、人々は建設中の拠点へと急ぎ始めた。未完成とはいえ、高く積み上げられた石壁は、心理的な支えにもなっているようだった。
「シルフィ、君は拠点へ行って、皆を落ち着かせてくれ。それから、風の魔法で俺たちと連絡を取れるようにしてほしい。拠点の上からなら、森の様子も見えるはずだ。敵の動きに変化があれば、知らせてくれ」
「はい! 分かりました! カイトも、レナさんも、どうかご無事で…!」
シルフィは強い意志を目に宿し、頷くと、避難する人々の流れに加わった。彼女の持つ優しい雰囲気と、いざという時に見せる魔法の力は、不安に駆られる村人たちの精神的な支えとなるだろう。
残ったのは、俺とレナ、そして戦う意志のある村の若者たち――猟師や、拠点建設で力仕事を担当していた十数名だ。彼らの顔にも恐怖の色は浮かんでいる。だが、逃げ出す者は一人もいなかった。自分たちの村を、家族を守るのだという決意が、恐怖を上回っている。
「皆、聞いてくれ!」俺は彼らを見渡し、力強く言った。「敵の数は多い。だが、烏合の衆だ。俺たちには地の利がある。そして、俺たちの背後には、守るべき人々がいる! ここで食い止めるぞ!」
俺は【万物解析】で村の北側の地形――森へと続く道の傾斜、点在する岩、地面の窪みなどを瞬時に分析し、最も効果的な防衛ラインを構築する計画を立てた。
「レナ! そこの一番大きな岩を、道の真ん中まで運んでくれ! バリケードの起点にする!」
「おう!」レナは雄叫びを上げ、巨大な岩盤を地面から引き剥がし、指定した場所へと軽々と運んでいく。
「猟師の皆は、弓を持って後方の少し高い位置へ! 敵の足を狙って、動きを鈍らせてくれ!」
「分かった!」
「他の者は、建設現場から丸太と土嚢を! ここに積み上げて、即席の壁を作るぞ! それから、落とし穴もいくつか掘る! 油も集めて、火をつけられるように準備しろ!」
俺の指示に従い、若者たちは必死に動き始めた。恐怖を振り払うように、声を掛け合いながら、急ピッチで防衛線の構築を進める。丸太が組み上げられ、土嚢が積まれ、地面には巧妙な落とし穴が掘られていく。料理用の油や、松明用の油が集められ、いつでも火を放てるように準備された。それは、正規の軍隊が築くような堅牢な要塞とは比べ物にならない、間に合わせの防衛線だ。だが、そこには、村を守ろうとする者たちの、必死の思いが込められていた。
「あたしが先陣を切る!」レナが、腰に差した骨製のナイフ(故郷の形見らしい)を抜きながら言った。「魔物なんざ、まとめて蹴散らしてやるぜ!」
その金色の瞳には、満月の日ほどではないが、強い闘争の光が宿っている。
「ああ、頼りにしている。だが、絶対に一人で突っ込むなよ。連携が重要だ」
「分かってるって!」
村の若者たちも、震える手で弓の弦を張り、あるいは錆びついた槍を握りしめ、レナと共に最前線に立つ覚悟を決めていた。彼らにとって、レナはもはや異形の獣人ではない。共に戦う、頼もしい仲間なのだ。
ゴゴゴゴゴ…
防衛線の構築が佳境に入った頃、森の奥から地響きが伝わってきた。木々が不気味にざわめき、獣たちの咆哮や、聞いたこともないようなおぞましい唸り声が、徐々に近づいてくる。
そして、ついに、森の暗がりから、奴らの姿が現れた。
先頭に立つのは、おびただしい数のゴブリンとオーク。粗末な武器を振り回し、涎を垂らしながら、狂ったようにこちらへ向かってくる。その後ろには、巨大な牙を持つ猪や、多足の昆虫のような魔物、そして、先日の合成獣(キメラ)の小型版のような異形の姿も混じっている。その数は、数百…いや、もっといるかもしれない。まるで黒い津波のように、森から溢れ出し、テル村へと殺到してくる。
「ひぃ…!」
若者の一人が、恐怖に息を呑む。
俺は防衛線の最前列に立ち、迫りくる魔物の軍勢を冷静に見据えた。隣には、闘志を燃やすレナと、恐怖と戦いながらも武器を構える村の若者たちがいる。後方の未完成の拠点では、シルフィと村人たちが、固唾を飲んでこちらを見守っているだろう。
テル村の存亡を賭けた戦いが、今、始まろうとしていた。
俺は腰の短剣を抜き、その切っ先を真っ直ぐに敵に向けた。そして、静かに、しかし腹の底から響くような力強い声で、指示を出す。
「来るぞ…持ち場につけ!」
「絶対に、ここを突破させるな!!」
レナの報告と警鐘の音は、瞬く間にテル村全体に広がり、平和な午後の空気は一変した。家々から飛び出してきた村人たちの顔には、恐怖と混乱の色が浮かんでいる。
「ま、魔物の大群じゃと!?」
「どうすればいいんだ!」
「逃げなければ!」
パニックになりかける村人たちを、俺は声を張り上げて制した。
「落ち着いてくれ! 慌てても状況は良くならない! 村長、皆を北の丘の拠点へ避難させてください! あそこなら、石壁があるだけでも、ここにいるよりずっと安全だ!」
「わ、分かった! 皆の者、カイトの言う通りじゃ! 落ち着いて拠点へ向かえ! 女子供、年寄りを優先じゃ!」
村長の指示を受け、村のまとめ役たちが動き出す。泣き出す子供をあやしながら、あるいは足の悪い老人を支えながら、人々は建設中の拠点へと急ぎ始めた。未完成とはいえ、高く積み上げられた石壁は、心理的な支えにもなっているようだった。
「シルフィ、君は拠点へ行って、皆を落ち着かせてくれ。それから、風の魔法で俺たちと連絡を取れるようにしてほしい。拠点の上からなら、森の様子も見えるはずだ。敵の動きに変化があれば、知らせてくれ」
「はい! 分かりました! カイトも、レナさんも、どうかご無事で…!」
シルフィは強い意志を目に宿し、頷くと、避難する人々の流れに加わった。彼女の持つ優しい雰囲気と、いざという時に見せる魔法の力は、不安に駆られる村人たちの精神的な支えとなるだろう。
残ったのは、俺とレナ、そして戦う意志のある村の若者たち――猟師や、拠点建設で力仕事を担当していた十数名だ。彼らの顔にも恐怖の色は浮かんでいる。だが、逃げ出す者は一人もいなかった。自分たちの村を、家族を守るのだという決意が、恐怖を上回っている。
「皆、聞いてくれ!」俺は彼らを見渡し、力強く言った。「敵の数は多い。だが、烏合の衆だ。俺たちには地の利がある。そして、俺たちの背後には、守るべき人々がいる! ここで食い止めるぞ!」
俺は【万物解析】で村の北側の地形――森へと続く道の傾斜、点在する岩、地面の窪みなどを瞬時に分析し、最も効果的な防衛ラインを構築する計画を立てた。
「レナ! そこの一番大きな岩を、道の真ん中まで運んでくれ! バリケードの起点にする!」
「おう!」レナは雄叫びを上げ、巨大な岩盤を地面から引き剥がし、指定した場所へと軽々と運んでいく。
「猟師の皆は、弓を持って後方の少し高い位置へ! 敵の足を狙って、動きを鈍らせてくれ!」
「分かった!」
「他の者は、建設現場から丸太と土嚢を! ここに積み上げて、即席の壁を作るぞ! それから、落とし穴もいくつか掘る! 油も集めて、火をつけられるように準備しろ!」
俺の指示に従い、若者たちは必死に動き始めた。恐怖を振り払うように、声を掛け合いながら、急ピッチで防衛線の構築を進める。丸太が組み上げられ、土嚢が積まれ、地面には巧妙な落とし穴が掘られていく。料理用の油や、松明用の油が集められ、いつでも火を放てるように準備された。それは、正規の軍隊が築くような堅牢な要塞とは比べ物にならない、間に合わせの防衛線だ。だが、そこには、村を守ろうとする者たちの、必死の思いが込められていた。
「あたしが先陣を切る!」レナが、腰に差した骨製のナイフ(故郷の形見らしい)を抜きながら言った。「魔物なんざ、まとめて蹴散らしてやるぜ!」
その金色の瞳には、満月の日ほどではないが、強い闘争の光が宿っている。
「ああ、頼りにしている。だが、絶対に一人で突っ込むなよ。連携が重要だ」
「分かってるって!」
村の若者たちも、震える手で弓の弦を張り、あるいは錆びついた槍を握りしめ、レナと共に最前線に立つ覚悟を決めていた。彼らにとって、レナはもはや異形の獣人ではない。共に戦う、頼もしい仲間なのだ。
ゴゴゴゴゴ…
防衛線の構築が佳境に入った頃、森の奥から地響きが伝わってきた。木々が不気味にざわめき、獣たちの咆哮や、聞いたこともないようなおぞましい唸り声が、徐々に近づいてくる。
そして、ついに、森の暗がりから、奴らの姿が現れた。
先頭に立つのは、おびただしい数のゴブリンとオーク。粗末な武器を振り回し、涎を垂らしながら、狂ったようにこちらへ向かってくる。その後ろには、巨大な牙を持つ猪や、多足の昆虫のような魔物、そして、先日の合成獣(キメラ)の小型版のような異形の姿も混じっている。その数は、数百…いや、もっといるかもしれない。まるで黒い津波のように、森から溢れ出し、テル村へと殺到してくる。
「ひぃ…!」
若者の一人が、恐怖に息を呑む。
俺は防衛線の最前列に立ち、迫りくる魔物の軍勢を冷静に見据えた。隣には、闘志を燃やすレナと、恐怖と戦いながらも武器を構える村の若者たちがいる。後方の未完成の拠点では、シルフィと村人たちが、固唾を飲んでこちらを見守っているだろう。
テル村の存亡を賭けた戦いが、今、始まろうとしていた。
俺は腰の短剣を抜き、その切っ先を真っ直ぐに敵に向けた。そして、静かに、しかし腹の底から響くような力強い声で、指示を出す。
「来るぞ…持ち場につけ!」
「絶対に、ここを突破させるな!!」
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