追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第35話:死守命令、炎と風の咆哮

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「「「グオオオオォォォ!!」」」

地鳴りのような咆哮と共に、魔物の黒い津波が、俺たちが築いた貧弱な防衛線へと殺到した! 先頭を走るゴブリンやオークが、涎を垂らし、血走った目で、狂ったように突撃してくる。

「来るぞ! 槍を構えろ!」

俺の号令一下、最前列の若者たちが、震える手で槍を突き出す。バリケードの手前に掘られた落とし穴に、先頭集団の何匹かが悲鳴を上げて落ちていく。後続の魔物も、予期せぬ障害物に一瞬怯むが、すぐに構わず乗り越えようと殺到し、バリケードにぶつかり始めた!

「押さえろ! 押し返すんだ!」

丸太と土嚢でできた即席の壁が、魔物の圧力で軋む。若者たちは必死に槍を突き出し、バリケードを乗り越えようとするゴブリンを突き落とし、オークの棍棒を防ぐ。後方の猟師たちが放つ矢が、魔物の目や手足を狙って飛び交うが、数の暴力の前には焼け石に水だ。

「どけぇぇぇぇっ!!」

その時、赤い閃光が迸った! レナが、バリケードを軽々と飛び越え、魔物の群れの真っ只中へと躍り込んだのだ!

「レナ! 無茶だ!」俺の制止の声も届かない。
彼女は、まるで猛獣そのもののように、敵陣を蹂躙し始めた。その両手には骨製のナイフが握られ、鋭い爪と牙を剥き出しにし、驚異的なスピードとパワーでゴブリンを蹴散らし、オークの首を刎ね飛ばす。満月ではないとはいえ、月光狼の血は彼女に平時以上の力を与えている。その勇猛果敢な姿は、防衛線の背後で戦う若者たちの恐怖を吹き飛ばし、士気を奮い立たせた。

「レナに続け! 押し返せ!」

一方、建設中の拠点の上部。石壁の隙間から戦況を見守っていたシルフィも、祈るように杖を構え、風の精霊に呼びかけていた。

「風よ…カイトたちを…皆を守って…!」

彼女の呼びかけに応え、戦場に突風が巻き起こる! 敵が投げ込もうとした岩石が風に押し戻され、砂埃が舞い上がって魔物たちの視界を奪う。レナに群がろうとする小型の魔物が、見えない力で吹き飛ばされる。魔力の消耗は激しいはずだが、シルフィは必死に、自分にできる最大限の援護を続けていた。その姿は、避難している村人たちの心を強く打っているだろう。

俺は戦場の全体を見渡し、【万物解析】で刻一刻と変化する状況を把握し、的確な指示を飛ばし続ける。

「レナ! 右翼から来るオークのリーダーを叩け! そいつを倒せば指揮が乱れる!」
「猟師隊! あの空を飛んでるガーゴイルみたいな奴の翼を狙え! 鬱陶しい!」
「第二陣が来るぞ! バリケードの隙間を埋めろ! そこの窪地に油を撒いて、火の準備だ!」

俺自身も短剣を手に取り、バリケードを乗り越えてくる魔物を斬り伏せる。だが、敵の数はあまりにも多い。次から次へと、まるで無限に湧いてくるかのように押し寄せてくる。

罠は壊され、バリケードは少しずつ突破され始めた。若者たちの中にも、魔物の爪牙にかかり、傷を負って後退する者が出始める。レナも奮戦しているが、数の暴力は如何ともし難く、徐々に動きが鈍り、無数の敵に囲まれつつあった。シルフィの魔力も、限界が近いのか、風の勢いが弱まってきている。

(まずい…このままでは押し切られる…!)

焦りが胸をよぎる。何か、戦況を打開する手はないのか!?
俺は【万物解析】の範囲を広げ、敵の軍勢全体を俯瞰するように分析した。すると、後方、魔物の群れの中に、一際異質な魔力を放つ存在がいることに気づいた。

それは、中型の、黒豹にも似た四足歩行の魔獣だった。だが、その体表はぬらぬらとした黒い粘液のようなもので覆われ、背中からは歪な骨の棘が突き出ている。そして、その魔獣が時折、低い唸り声のようなものを発すると、周囲のゴブリンやオークが呼応するように動きを変え、より効率的に、統率された動きで防衛線を攻撃してくるのだ。

(あいつだ…! あいつが、この軍勢を操っている!)

あの魔獣を倒せば、この統率された波状攻撃は止まるかもしれない。だが、問題は、どうやってあの敵陣深くの指揮官を叩くかだ。レナは手前の敵に足止めされ、俺や若者たちが前に出れば、この薄い防衛線は一瞬で崩壊するだろう。

ギリギリの状況。防衛線が破られるのも、もはや時間の問題かと思われた。

「…やるしかないか」

俺は覚悟を決めた。リスクは高い。だが、このままでは全滅だ。

俺は、奮戦するレナと、必死に援護を続けるシルフィに向かって叫んだ。

「レナ! シルフィ! 聞いてくれ!」
二人が、一瞬こちらに視線を向ける。
「俺が、敵の指揮官を叩く! その間、なんとしてもここを持ちこたえてくれ! 全力で援護を頼む!」

俺の言葉に、二人は驚き、そしてすぐにその意図を理解したようだった。レナが獰猛な笑みを浮かべ、シルフィが固く頷くのが見えた。

俺は短剣を強く握りしめる。敵陣の只中へ、単身で切り込む。無謀かもしれない。だが、やるしかないのだ。仲間たちと、この村を守るために。

「行くぞ!」

俺は一声叫ぶと、バリケードを飛び越え、押し寄せる魔物の群れの中へと、その身を投じた。

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