追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

文字の大きさ
45 / 100

第45話:探る視線、試される辺境

しおりを挟む
「貴様、一体何者なのだ…?」

マルクスの鋭い問いかけが、雪が舞う丘の上に響いた。彼の視線は、俺の素性だけでなく、この村が秘めるであろう力の源泉を探ろうとしている。王都の目が、明確に俺たちに向けられた瞬間だった。

「私は、カイト・アッシュフィールド。今は、このテル村の一員として、皆と共に暮らしているだけです」
俺は平静を装い、そう答えるしかなかった。

マルクスは俺の答えに納得した様子はなく、疑念に満ちた目で俺を睨みつけていたが、それ以上は追及せず、「ふん…」と鼻を鳴らして丘を下りていった。

結局、マルクス一行は、「悪天候のため」という名目で、数日間テル村に滞在することになった。村には重苦しい緊張感が漂った。村人たちは、王都からの貴族と騎士たちを前に萎縮し、普段の活気を失っていた。

その夜、俺はシルフィ、レナ、そして村長を集め、今後の対応について話し合った。
「マルクス殿は、明らかに我々を探りに来ている。下手に刺激せず、しかしこちらの情報は与えすぎないように、慎重に対応する必要がある」
「分かった。村の衆にも、余計なことは話さぬよう、よく言い聞かせておこう」村長が頷く。
「シルフィ、レナ、君たちにも話を聞きに来るかもしれない。その時は…」

俺は二人に対し、彼女たちの出自や能力について、どこまで話し、どこを隠すべきか、具体的なアドバイスを与えた。二人とも、真剣な表情で俺の言葉に耳を傾けていた。

翌日から、マルクスの本格的な「視察」が始まった。彼は村長や俺を呼びつけては、村の運営状況、食料の備蓄量、税の徴収状況、そして拠点建設の資金源などについて、執拗に質問を繰り返した。俺は【万物解析】で彼の意図を探りながら、事実を述べつつも、核心――俺のスキルや古代遺跡の存在、魔物襲撃の詳細など――については巧みに言葉を濁した。

「食料は、皆で協力して畑を改良した成果です。拠点の建設資金も、村で少しずつ蓄えてきたものと、私が個人的に持っていた僅かな資金、そして村人たちの労働奉仕によって賄っています」
「ふむ…随分と都合の良い話に聞こえるがな」
マルクスは納得していない様子だったが、明確な反証がないため、それ以上は追及できなかった。

彼の部下である騎士たちは、村の周辺を偵察し、文官は村の古い記録などを調べようとしていた。村人たちへの聞き込みも行われたが、彼らは口を揃えて「カイトさんのおかげで村が良くなった」「皆で力を合わせて頑張っているだけだ」と答えるばかりで、マルクスが期待するような「不穏な情報」は出てこなかった。村人たちの結束は固く、カイトへの信頼は揺らいでいなかったのだ。

マルクスは、やがてシルフィとレナにも直接接触を図ってきた。
まず、シルフィに対して。彼は、エルフという希少な存在に強い興味を示し、その出自や魔法能力について探ろうとした。
「エルフ殿、貴女ほどの存在が、なぜこのような辺境の村に? 何か特別な理由でもあるのかな?」
シルフィは、俺との打ち合わせ通り、少し俯きながらも、凛とした声で答えた。
「…私は、故郷を失い、カイトさんに助けていただきました。今はただ、この村で静かに暮らしたいと願っているだけです。特別な力など、私にはありません」
彼女の儚げな美しさと、控えめながらも毅然とした態度に、マルクスもそれ以上強くは出られなかったようだ。

次に、レナに対して。マルクスは、彼女の獣人としての力、特に逃亡奴隷であるという情報(おそらく掴んでいるのだろう)を元に、探りを入れてきた。
「獣人の娘よ。お前、その力、只者ではないな? 一体どこでそんな力を…まさか、反乱でも企んでいるのではあるまいな?」
レナは、一瞬カッとなりかけたが、俺の視線を受けてぐっと堪え、いつもの快活な笑顔を作って答えた。
「なーに言ってんだ、おっさん! あたしはカイトに命を助けられた恩があるだけだって! この力は、カイトと、この村を守るために使うんだ! 反乱? 馬鹿馬鹿しい!」
彼女は持ち前の明るさと勢いで、マルクスの質問をはぐらかし、核心には触れさせなかった。獣人としての並外れた力も、必要以上に見せることはなかった。

数日間の滞在で、マルクスはテル村が異常な発展を遂げていること、カイトという若者がその中心にいること、そして強力なエルフと獣人が彼に協力しているらしい、という状況証拠は掴んだ。しかし、その力の具体的な源泉や、王国にとって明確な脅威となるような証拠――例えば、大量の武器の備蓄や、反乱の計画、あるいは古代の禁忌に触れるような何か――を発見することはできなかった。村人たちの口は堅く、俺たちの態度も慎重だったからだ。

業を煮やしたのか、あるいはこれ以上の滞在は無意味と判断したのか、マルクスはついに村を去ることを告げた。
「…ふむ、辺境の状況は、概ね理解した。村人たちが懸命に生きている様子もな。王宮には、ありのままを報告するとしよう」
彼は表面上は穏やかな笑みを浮かべてそう言ったが、その瞳の奥には、深い疑念と、何か冷徹な決意のような光が宿っているのを、俺は見逃さなかった。

マルクス一行が吹雪の中へと去っていくのを、俺たちと村人たちは静かに見送った。村には安堵の空気が広がったが、俺たちの気持ちは晴れなかった。王国の目は、確実にこのテル村に向けられた。今回の視察で決定的な証拠は掴めなかったとしても、彼らがこの村の存在を危険視し、今後、何らかの干渉を強めてくる可能性は高い。

「…行っちまったな」レナが呟く。
「はい…でも、また来るかもしれませんね」シルフィが不安げに言う。
「ああ、おそらくはな」

俺は、マルクスたちが立ち去った後の村長の家を、念のため【万物解析】で調べてみた。すると、暖炉の近くの壁際に、微弱な魔力反応が残っているのを発見した。

『発見: 微小魔力マーカー(監視・盗聴用?)
機能: 周囲の音声や魔力反応を記録し、遠隔地に送信する機能を持つ可能性。極めて巧妙に隠蔽されている。
状態: 作動中。
備考: 王国諜報部、あるいは高位の魔法使いが使用する高度な魔道具。マルクスが仕掛けていったものと推測される。』

「…やはり、ただでは帰らなかったか」

俺は誰にも気づかれぬよう、その魔力マーカーを慎重に、しかし確実に無力化した。解析できなければ、気づかれることすらなかっただろう。

王国の影は、思った以上に深く、そして執拗に、この辺境の地に伸びてきている。拠点完成と戦力強化を、さらに急がなければならない。俺は改めて気を引き締め、仲間たちと共に、次なる備えへと意識を向けた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

処理中です...