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第62話:鳴動する大地、遺跡の呼び声
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季節は初夏を迎え、テル村は生命力に満ち溢れていた。北の丘に完成したアーク砦は、その堅牢な姿で村を見守り、人々に大きな安心感を与えている。改良された農具とシルフィの魔法の助けもあって、畑は青々と茂り、今年の収穫は過去最高のものとなりそうだ。村には活気が戻り、子供たちの笑い声が響き渡る。王国軍を退けたという自信も相まって、テル村は辺境とは思えないほどの安定と発展を遂げたかのように見えた。
俺自身も、拠点建設が一段落したことで、ようやく次のステップへと意識を集中させることができていた。それは、あの古代遺跡「アストラル研究所」の再調査だ。空間収納ボックスには、ロープ、長期保存食料、十分な量の水、各種薬草、予備の光源(魔石ランプ)、そして遺跡解析に役立ちそうな簡易な道具などを詰め込み、いつでも出発できる準備を整えていた。石版の解読は依然として難航していたが、遺跡の基本的な構造や、特に危険と思われる区画(エネルギー事故の痕跡があった場所など)については、ある程度の見当をつけていた。
そんな穏やかな、しかし次なる行動への期待感を孕んだ日々が続いていた矢先、村に奇妙な現象が起こり始めた。
最初は、ほんの微かな揺れだった。地面が、ほんの一瞬だけ、カタッと震えるような感覚。村人たちの誰もが、気のせいかと思う程度だった。しかし、その微震は一度では終わらなかった。数日に一度、そして次第に一日に数回と、その頻度を増していったのだ。揺れ自体は依然として弱く、建物が壊れるようなものではない。だが、その断続的で不自然な振動は、村人たちの間に言いようのない不安を広げ始めていた。
「なんだか気味が悪いねぇ…」
「地面が怒ってるのかねぇ…」
俺も、その微震にただならぬものを感じていた。これは、単なる自然現象ではない。俺は【万物解析】の探知能力を最大限に引き上げ、地震の原因を探り始めた。
『現象解析: 断続的な地盤振動を検知。震源:地下深部。振動パターン:通常の自然地震とは異なる、規則性を持つ高周波振動を伴う。微弱ながら、【未知の魔力波長】を放出。』
(やはり、普通の地震じゃない…魔力が関わっている?)
さらに解析を進め、震源地の特定を試みる。探知範囲を広げ、地中深くへと意識を集中させる。そして、俺は愕然とした。
『震源特定: 座標…村の北西約15km、地下深度不明。位置は、以前調査した古代遺跡【アストラル研究所】の直下、もしくは内部と完全に一致。』
「遺跡が…震源…!?」
まさかと思った。だが、解析結果は明確だった。あの遺跡の内部で、何らかの異常事態が発生している可能性が高い。それは、過去のエネルギー事故の後遺症なのか、それとも停止していたはずの装置が誤作動を起こしているのか、あるいは、全く別の未知の要因によるものなのか…。
そして、俺はもう一つ、気になる事実に気づいた。この微震が発生するタイミングと同期するように、俺が懐にしまっている『星見の欠片』と、例の黒い魔石が、微かに、しかし確かに反応しているのだ。特に『星見の欠片』は、地震が起こると内部の光がわずかに明滅し、何かを訴えかけてくるかのように、微弱な魔力パルスを発している。
(遺跡が…俺を呼んでいる…?)
考えすぎかもしれない。だが、このまま放置しておくわけにはいかない。もし遺跡内部で何らかのエネルギー暴走などが起これば、その影響はテル村にも及ぶ可能性がある。それに、この地震の原因を突き止めなければ、村人たちの不安も解消されない。そして何より、あの遺跡に眠る謎を解き明かしたいという、俺自身の強い欲求があった。
俺は覚悟を決めた。危険は承知の上だ。だが、行かねばならない。
俺はシルフィとレナを呼び、状況を説明した。地震の原因が、おそらくあの古代遺跡にあること。そして、その原因を突き止め、可能ならば対処するために、再び遺跡へ向かおうと思っていること。
「今回の調査は、前回よりもさらに危険になるかもしれない。何が待ち受けているか分からない」俺は真剣な表情で二人を見据えた。「だから、君たちには村に残って…」
言いかけた俺の言葉を遮るように、二人は同時に口を開いた。
「行きます!」シルフィが、強い意志を込めて言った。「カイト一人を行かせるわけにはいきません。私の力が必要なら、どこへでも!」
「当たり前だろ!」レナも、力強く頷いた。「カイトが行くなら、あたしも行く! どんな危険な場所だって、三人一緒なら怖くねぇ!」
その迷いのない瞳と言葉に、俺の胸は熱くなった。そうだ、俺たちはもう一人ではない。どんな困難も、この仲間たちと一緒なら乗り越えられるはずだ。
「…ありがとう、二人とも。頼りにしてる」
俺は村長に事情を説明し、拠点と村の防衛を猟師長や若者たちに託した。彼らも、以前の戦いを経て大きく成長している。短期間なら、村を守り抜いてくれるだろう。
装備を整え、食料と水、そして武器と道具を空間収納ボックスに詰め込む。カイト、シルフィ、レナ。三人は固い決意を胸に、再びあの古き祠へと向かう準備を整えた。
辺境の地に鳴動する大地の謎。それは、古代遺跡からの呼び声なのか、それとも新たな脅威の胎動なのか。真実を確かめるため、俺たちの新たな冒険が、今、始まろうとしていた。
俺自身も、拠点建設が一段落したことで、ようやく次のステップへと意識を集中させることができていた。それは、あの古代遺跡「アストラル研究所」の再調査だ。空間収納ボックスには、ロープ、長期保存食料、十分な量の水、各種薬草、予備の光源(魔石ランプ)、そして遺跡解析に役立ちそうな簡易な道具などを詰め込み、いつでも出発できる準備を整えていた。石版の解読は依然として難航していたが、遺跡の基本的な構造や、特に危険と思われる区画(エネルギー事故の痕跡があった場所など)については、ある程度の見当をつけていた。
そんな穏やかな、しかし次なる行動への期待感を孕んだ日々が続いていた矢先、村に奇妙な現象が起こり始めた。
最初は、ほんの微かな揺れだった。地面が、ほんの一瞬だけ、カタッと震えるような感覚。村人たちの誰もが、気のせいかと思う程度だった。しかし、その微震は一度では終わらなかった。数日に一度、そして次第に一日に数回と、その頻度を増していったのだ。揺れ自体は依然として弱く、建物が壊れるようなものではない。だが、その断続的で不自然な振動は、村人たちの間に言いようのない不安を広げ始めていた。
「なんだか気味が悪いねぇ…」
「地面が怒ってるのかねぇ…」
俺も、その微震にただならぬものを感じていた。これは、単なる自然現象ではない。俺は【万物解析】の探知能力を最大限に引き上げ、地震の原因を探り始めた。
『現象解析: 断続的な地盤振動を検知。震源:地下深部。振動パターン:通常の自然地震とは異なる、規則性を持つ高周波振動を伴う。微弱ながら、【未知の魔力波長】を放出。』
(やはり、普通の地震じゃない…魔力が関わっている?)
さらに解析を進め、震源地の特定を試みる。探知範囲を広げ、地中深くへと意識を集中させる。そして、俺は愕然とした。
『震源特定: 座標…村の北西約15km、地下深度不明。位置は、以前調査した古代遺跡【アストラル研究所】の直下、もしくは内部と完全に一致。』
「遺跡が…震源…!?」
まさかと思った。だが、解析結果は明確だった。あの遺跡の内部で、何らかの異常事態が発生している可能性が高い。それは、過去のエネルギー事故の後遺症なのか、それとも停止していたはずの装置が誤作動を起こしているのか、あるいは、全く別の未知の要因によるものなのか…。
そして、俺はもう一つ、気になる事実に気づいた。この微震が発生するタイミングと同期するように、俺が懐にしまっている『星見の欠片』と、例の黒い魔石が、微かに、しかし確かに反応しているのだ。特に『星見の欠片』は、地震が起こると内部の光がわずかに明滅し、何かを訴えかけてくるかのように、微弱な魔力パルスを発している。
(遺跡が…俺を呼んでいる…?)
考えすぎかもしれない。だが、このまま放置しておくわけにはいかない。もし遺跡内部で何らかのエネルギー暴走などが起これば、その影響はテル村にも及ぶ可能性がある。それに、この地震の原因を突き止めなければ、村人たちの不安も解消されない。そして何より、あの遺跡に眠る謎を解き明かしたいという、俺自身の強い欲求があった。
俺は覚悟を決めた。危険は承知の上だ。だが、行かねばならない。
俺はシルフィとレナを呼び、状況を説明した。地震の原因が、おそらくあの古代遺跡にあること。そして、その原因を突き止め、可能ならば対処するために、再び遺跡へ向かおうと思っていること。
「今回の調査は、前回よりもさらに危険になるかもしれない。何が待ち受けているか分からない」俺は真剣な表情で二人を見据えた。「だから、君たちには村に残って…」
言いかけた俺の言葉を遮るように、二人は同時に口を開いた。
「行きます!」シルフィが、強い意志を込めて言った。「カイト一人を行かせるわけにはいきません。私の力が必要なら、どこへでも!」
「当たり前だろ!」レナも、力強く頷いた。「カイトが行くなら、あたしも行く! どんな危険な場所だって、三人一緒なら怖くねぇ!」
その迷いのない瞳と言葉に、俺の胸は熱くなった。そうだ、俺たちはもう一人ではない。どんな困難も、この仲間たちと一緒なら乗り越えられるはずだ。
「…ありがとう、二人とも。頼りにしてる」
俺は村長に事情を説明し、拠点と村の防衛を猟師長や若者たちに託した。彼らも、以前の戦いを経て大きく成長している。短期間なら、村を守り抜いてくれるだろう。
装備を整え、食料と水、そして武器と道具を空間収納ボックスに詰め込む。カイト、シルフィ、レナ。三人は固い決意を胸に、再びあの古き祠へと向かう準備を整えた。
辺境の地に鳴動する大地の謎。それは、古代遺跡からの呼び声なのか、それとも新たな脅威の胎動なのか。真実を確かめるため、俺たちの新たな冒険が、今、始まろうとしていた。
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