追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第64話:セクター7の異変、蠢く影

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重い金属の扉を押し開き、俺たちは再び『セクター7』――かつて研究室か保管庫だったと思われる区画――へと足を踏み入れた。ひんやりとした空気、埃っぽさ、そして微かに漂う薬品のような匂い。基本的な雰囲気は前回訪れた時と同じだ。だが、何か決定的に違う。空気が妙に淀み、肌を刺すような不穏な気配が、以前よりも格段に増しているのだ。

「…なんか、嫌な感じだな」
レナが鼻をひくつかせ、警戒するように周囲を見回す。
「ええ…私も、何か…良くないものを感じます…」
シルフィも不安げに杖を握りしめた。

松明の明かりで照らしながら、部屋の中を進んでいく。破壊されたガラスケースや、散乱した棚の残骸。ここまでは前回と同じ光景だ。しかし、よく見ると奇妙な点があった。

「…カイトさん、あそこ…」
シルフィが指差す方向を見ると、床に散らばっていたはずのガラス片や金属の破片の一部が、明らかに人為的に、部屋の隅に寄せ集められている。まるで、誰かが通り道を作るために片付けたかのように。

「誰かが…ここに来たのか?」
俺は眉をひそめた。俺以外にも、この遺跡に侵入した者がいる? それとも…。

さらに床を注意深く観察すると、埃の上に、いくつかの奇妙な痕跡が残されているのを発見した。一つは、人間のものとは明らかに違う、三本指で爪が鋭いような足跡。もう一つは、何か重いものを引きずったような、幅の広い擦れた跡。

俺は足跡に【万物解析】を試みる。
『対象: 未知の足跡
形状解析: 三本指、鋭利な爪痕あり。爬虫類、あるいは鳥類型生物の特徴に一部類似するが、骨格構造は異なる可能性。
残留魔力分析: 微弱な闇属性魔力反応を検出。先日撃破した合成獣(キメラ)のそれに類似。
合致データ: なし(既知の生物・魔物データに該当せず)。』

(やはり、あの合成獣と関係があるのか…? それにしても、この足跡の主は一体…?)

嫌な予感が強まる。俺たちは、以前俺が警備ゴーレムを破壊した場所へと向かった。そこには、金属の残骸が転がっているはずだった。

しかし、そこにあったのは、空虚なスペースだけだった。ゴーレムの残骸は、影も形もなくなっていたのだ。

「消えてる…! あの鉄クズ人形、どこ行ったんだ!?」
レナが驚きの声を上げる。
「…匂いがする」彼女はくんくんと鼻を鳴らした。「微かにだけど…鉄が錆びたような匂いと…なんか、こう、腐ったみたいな…嫌な匂いだ」

鉄錆と腐ったような匂い…? まるで、ゴーレムが「食べられた」かのような…。背筋に冷たいものが走る。

俺たちはさらに奥へと続く通路へと進んだ。すると、壁や床の一部に、黒く、ぬらぬらとした粘液のようなものが、べっとりと付着しているのを発見した。それは広範囲に点在しており、まるで何かがそこを這いずり回ったかのようだ。

「この粘液…!」
俺はその粘液に【万物解析】を発動する。

『対象: 黒い粘液
成分分析: 高濃度の闇属性魔力、及び強酸性物質。未知の有機物、微量の【異界由来物質】を検出。先日撃破した指揮官型魔獣の粘液と成分パターンが95%以上一致。
状態: 比較的新しい付着痕。まだ粘性を保っている。
備考: 極めて危険な物質。接触注意。』

間違いない。先日倒した指揮官の魔獣が纏っていたものと同じ、あるいは酷似した粘液だ。だが、あの魔獣は倒したはず。なぜ、その粘液がここに?

瓦礫の片付け、奇妙な足跡、ゴーレムの消失、そしてこの黒い粘液。状況証拠は揃った。

「この遺跡内部に…何かがいる。おそらく、先日の合成獣(キメラ)と同種、あるいはそれに関連する存在だ。そして、そいつが、この『セクター7』を徘徊し、ゴーレムの残骸を運び去った…」
俺の推測に、シルフィとレナは息を呑んだ。
「じゃあ、あの地震も…そいつのせいなのか?」レナが尋ねる。
「可能性は高い。あるいは、そいつの活動が、遺跡の不安定な部分を刺激しているのかもしれない」

いずれにせよ、この遺跡はもはや、ただの無人の廃墟ではない。未知の、そしておそらくは敵対的な存在が潜む、危険な領域へと変貌していたのだ。

その時だった。

ガサ…ゴソ……ズル……

通路の奥、曲がり角の向こうから、何かが蠢くような、そして何かを引きずるような、不気味な物音が聞こえてきた。音は、ゆっくりと、しかし確実に、こちらに近づいてきている。

「…!」
俺たち三人は、咄嗟に息を潜め、壁際に身を寄せた。俺は短剣を、レナは骨のナイフを、シルフィは杖を、それぞれ音もなく構える。

心臓の音がやけに大きく聞こえる。松明の炎が、不安げに揺らめいた。

ズル…ズル……

音は、もうすぐそこまで来ている。曲がり角の向こうから、ゆっくりと、何かの影が現れようとしていた。

その正体は、一体…?

遺跡の深奥で遭遇する、新たな脅威。俺たちは、固唾を飲んで、その影が完全に姿を現すのを待っていた。

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