追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第78話:繋がる点と線、黒い魔石の仮説

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アーク砦の一室。俺は一人、壁に貼り付けた羊皮紙の前に立っていた。そこには、これまでに得られた情報――遺跡の不完全な構造図、解読した石版のキーワード(エーテル、ゲート、来訪者、生命創造、封印区画…)、そして俺たちが遭遇した出来事(合成獣襲撃、ゴーレム・イーターとの戦闘、遺跡の地震)――が、無秩序に書き連ねられている。

点と点。それらが、なかなか一つの線として繋がらない。だが、諦めずに思考を巡らせているうちに、ある一つの存在が、全ての事象を結びつける鍵なのではないかと思えてきた。

――あの、黒い魔石だ。

満月の夜にテル村を襲った合成獣(キメラ)の指揮官。その胸部には、黒い魔石が埋め込まれていた。そして、遺跡内で遭遇したゴーレム・イーター。あれもまた、倒した後に同じような黒い魔石を残した。さらに、俺が遺跡で回収した、あの不気味に脈打つ黒い魔石…。

石版の記述を思い返す。「エーテルエネルギーの暴走」「異界からのエネルギー逆流」「生命創造実験の失敗作」。これらの出来事と、黒い魔石には、何か関連があるのではないか?

俺は【万物解析】の記憶データベースを検索し、黒い魔石に関する情報を再整理する。『極めて高密度の闇属性エネルギー』『周囲の魔力を吸収・凝縮する性質』『制御用魔力パターンの発信源?』『自己増殖・強化する魔物のコア?』…。

これらの情報と石版の記述、そして俺たちの経験を結びつけていくうちに、一つの恐ろしい仮説が、俺の頭の中に形作られ始めた。

(黒い魔石は…アストラル研究所の事故――エーテルエネルギーの暴走か、異界エネルギーの流入か、あるいはあの『来訪者』の干渉か――によって生み出された、『汚染された魔力コア』のようなものではないだろうか?)

そのコアは、通常の魔力とは異なる、歪で、おそらくは極めて危険な闇のエネルギーを宿している。そして、周囲の魔力や、時には物質(ゴーレムの残骸のような)さえも取り込み、変質させ、自己増殖し、進化する能力を持っている。

(テル村を襲った合成獣や、遺跡内のゴーレム・イーターは、この黒い魔石を核として生み出されたか、あるいは引き寄せられ、操られていた存在だったのかもしれない。だから、核である魔石を破壊されると、その体を維持できずに霧散した…)

そして、あの断続的に続く遺跡の地震。あれもまた、この黒い魔石と関連があるのではないか?

(もし、遺跡の深部――おそらくは『封印区画』か、あるいは事故が起こったとされる『第3ゲート施設』に、これらの魔石を生み出す、より強力な、あるいは根源的な『マスターコア』のような存在がいるとしたら…? その『マスターコア』の活動、あるいは封印の弱まりが、地震を引き起こし、周囲の魔力を汚染し、凶暴な魔物を生み出しているとしたら…?)

考えれば考えるほど、全てのピースが、この仮説の周りに集まってくるように思えた。もちろん、これはまだ推測に過ぎない。だが、もしこの仮説が正しいとすれば、俺たちがやるべきことは明確だ。

遺跡の調査は、単なる情報収集や古代技術の発見だけが目的ではない。最優先すべきは、遺跡深部に存在するであろう「マスターコア」を発見し、それを完全に破壊するか、あるいは再び封印すること。そうでなければ、黒い魔石が生み出され続け、合成獣のような脅威が、いつまたテル村を、いや、この辺境全体を襲うか分からない。

俺はこの仮説――あくまで推測であると断りながらも――を、シルフィとレナに話した。二人は、その内容の重大さと、そこに潜むであろう途方もない危険性に、息を呑んだ。

「そんな恐ろしいものが…あの遺跡の奥に…」シルフィが蒼白な顔で呟く。
「…つまり、そいつを叩かねぇ限り、またヤバい奴らが襲ってくるかもしれねぇってことか…」レナも、いつもの快活さを失い、厳しい表情で腕を組む。

「ああ、その可能性が高い。だからこそ、俺たちは行かなければならない。危険は承知の上だ。だが、この村と、俺たちの未来を守るためには、避けては通れない道だと思う」

俺の決意のこもった言葉に、二人はしばらく黙り込んでいたが、やがて顔を見合わせ、そして力強く頷いた。
「…分かりました。カイトの考えを信じます。私も、全力で戦います」
「おうよ! やるしかねぇなら、やってやるぜ! マスターコアだか何だか知らねぇが、あたしがぶっ飛ばしてやる!」

俺は、療養中のエリスにも、彼女の記憶の状態に配慮しながら、遺跡の危険性と、俺たちがこれからやろうとしていることの概要を伝えた。彼女は、「マスターコア」や「封印区画」といった言葉に微かに反応を見せたが、やはり具体的な記憶は蘇らないようだった。ただ、俺たちの決意を理解し、「どうか…気をつけて…」と静かに言ってくれた。

俺は再び、壁に貼られた遺跡の構造図に向き直った。そして、地下深部に記された「封印区画」と「第3ゲート施設」のエリアを、指で強く示した。

「全ての元凶は、おそらくこの奥にある…」

辺境の未来を賭けた、危険極まりない遺跡深部への攻略作戦。それが、ついに具体的に動き出す。俺たち三人と、古代の謎を秘めた少女エリス。それぞれの決意を胸に、俺たちは運命の扉を開けるための、最後の準備を始めるのだった。

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