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第79話:深淵への扉、攻略開始
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遺跡攻略へ出発する日の朝は、ことさらに空気が澄んでいるように感じられた。アーク砦の堅牢な門の前には、村長をはじめ、多くの村人たちが見送りに集まってくれていた。彼らの顔には、不安の色と共に、俺たちへの信頼と、無事を祈る強い気持ちが浮かんでいる。
「カイト、シルフィちゃん、レナちゃん…そしてエリス嬢。どうか、くれぐれも気をつけてな。生きて、必ずここへ帰ってくるんじゃぞ」
村長が、しわがれた声で、しかし力強く俺たちの肩を叩いた。
「はい、必ず」俺は頷いた。
今回の探索には、エリスも同行することになった。彼女自身が強くそれを望んだのだ。「私の失われた記憶は、きっとあの遺跡の中にあります。それに、もしかしたら、私にできることがあるかもしれないから…」と。俺は、彼女を決して戦闘には参加させないことを条件に、その申し出を受け入れた。彼女の持つ古代の知識が、思わぬところで役に立つかもしれないという期待もあった。
装備の最終チェックを行う。空間収納ボックスには、十分な食料、水、薬、光源、ロープ、そして試作した対ゴーレム・イーター用のアイテムなどが詰め込まれている。シルフィは静かに目を閉じ、出発前に精霊たちと交感を深めている。レナは屈伸や跳躍を繰り返し、いつでも動けるように体を温めている。エリスは、少し不安げな表情を浮かべながらも、俺の隣に静かに立っていた。
「よし、行こう」
俺たちは、村人たちの温かい(そして心配そうな)視線に見送られ、アストラル研究所へと続く森の中へと、再び足を踏み入れた。
道中は、以前にも増して警戒を強めた。レナが先頭で周囲の気配を探り、シルフィが風の精霊を通じて広範囲の状況を把握し、俺が【万物解析】で微細な魔力の変化や隠れた罠を探る。幸い、前回のような凶暴化した魔物や、ゴーレム・イーターの直接的な襲撃はなかった。しかし、森全体を覆う不気味な静けさと、時折感じる歪んだ魔力の残滓は、依然として俺たちの神経を尖らせた。
やがて、俺たちは古びた祠に到着し、隠し階段を通って再び地下遺跡へと潜った。動力室を通過する際には、星脈炉の不安定な魔力の揺らぎと共振音が、さらに増しているように感じられた。まるで、遺跡全体が悲鳴を上げているかのようだ。
そして、ついに俺たちは、あの巨大な封印扉の前へとたどり着いた。『セクター7』の最奥、遺跡の深淵への入り口。扉は依然として固く閉ざされ、その表面に刻まれた複雑な術式からは、侵入者を拒むかのような強大な魔力が放たれている。
「…さて、と。問題は、どうやってこれを再び開けるか、だな」
前回は、俺たち三人の魔力と、『星見の欠片』、そしておそらくは扉の向こうからのエリスの呼びかけに応える形で、半ば偶然のように開いた。だが、今回はどうだろうか。
俺は再び【万物解析】で扉の構造と術式を分析する。解除にはやはり、複数の認証と膨大なエネルギーが必要だ。
「よし、前回と同じようにやってみよう。『星見の欠片』をキーにして、俺たち三人の魔力を集中させる!」
俺は『星見の欠片』を扉の認証パネルらしき箇所にかざした。欠片が淡い光を放つ。
「シルフィ、レナ、頼む!」
二人が俺の背中に手を当て、彼女たちの魔力が俺を通じて扉へと流れ込み始める。俺も自身の魔力を最大限に引き出し、解析で見つけた不完全な解除コードパターンを念じながら、エネルギーを注ぎ込む!
扉の術式が反応し、光を放ち始める。だが、前回ほどの勢いはない。扉は軋む音を立てるものの、開く気配を見せない。
「くっ…足りないのか…!?」
その時だった。
「…あの…カイト…」
隣にいたエリスが、扉の術式の光を見つめながら、おずおずと口を開いた。
「その魔力の流し方…少し違う気がします…。もっと、こう…渦を描くように…循環させるように流さないと、術式がうまく反応しないんじゃ…?」
彼女は指で空中に円を描くような仕草をする。
「それと…エネルギーの流れが、あそこの紋様のところで滞っているみたいです…そこを、もう少し強く刺激すれば…」
彼女は、扉に刻まれた複雑な術式の一部を指差した。
彼女自身、なぜそんなことが分かるのか、理解していない様子だった。だが、その言葉には、奇妙な説得力があった。まるで、この術式の設計思想を知っているかのような…。
「…分かった、試してみよう!」
俺はエリスの助言に従い、魔力の流れ方を意識的に変え、指摘された紋様の箇所に、より強くエネルギーを集中させてみた! シルフィとレナにも、同じように意識するよう伝える。
すると、どうだろう!
扉の術式の輝きが、一気に増した! これまで滞っていたエネルギーが、堰を切ったように流れ始め、扉全体が激しく振動し始める!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!
地響きのような重低音と共に、数千年の間、固く閉ざされていた巨大な封印扉が、今度こそ、ゆっくりと、しかし確実に、その重い口を開き始めたのだ!
「やった!」
「開いたぞ!」
レナとシルフィが歓声を上げる。
扉が完全に開くと、その先には、下りへと続く長い石の階段が現れた。そこからは、ひんやりとした、そしてこれまでに感じたことのないほど濃密で、しかしどこか歪んだ、淀んだ魔力の気配が漂ってくる。そして、完全な静寂。まるで、音すらも吸い込んでしまうかのような、深淵の静寂だ。
俺たち四人は、息を呑んで、暗く深い闇へと続く階段の入り口を見つめた。ここから先は、完全に未知の領域。アストラル研究所の最深部であり、おそらくは、全ての謎と、そして最大の危険が眠る場所。
エリスの無意識の助言が、この扉を開く鍵となった。彼女の存在の重要性を、俺は改めて認識した。
俺は、隣に立つシルフィ、レナ、そしてエリスと、固い決意を目に宿して頷き合った。
「行くぞ」
俺たちは、覚悟を決めて、深淵へと続く階段へと、決然と足を踏み入れた。アストラル研究所の核心へと迫る、最後の、そして最も危険な攻略が、今、始まったのだ。
「カイト、シルフィちゃん、レナちゃん…そしてエリス嬢。どうか、くれぐれも気をつけてな。生きて、必ずここへ帰ってくるんじゃぞ」
村長が、しわがれた声で、しかし力強く俺たちの肩を叩いた。
「はい、必ず」俺は頷いた。
今回の探索には、エリスも同行することになった。彼女自身が強くそれを望んだのだ。「私の失われた記憶は、きっとあの遺跡の中にあります。それに、もしかしたら、私にできることがあるかもしれないから…」と。俺は、彼女を決して戦闘には参加させないことを条件に、その申し出を受け入れた。彼女の持つ古代の知識が、思わぬところで役に立つかもしれないという期待もあった。
装備の最終チェックを行う。空間収納ボックスには、十分な食料、水、薬、光源、ロープ、そして試作した対ゴーレム・イーター用のアイテムなどが詰め込まれている。シルフィは静かに目を閉じ、出発前に精霊たちと交感を深めている。レナは屈伸や跳躍を繰り返し、いつでも動けるように体を温めている。エリスは、少し不安げな表情を浮かべながらも、俺の隣に静かに立っていた。
「よし、行こう」
俺たちは、村人たちの温かい(そして心配そうな)視線に見送られ、アストラル研究所へと続く森の中へと、再び足を踏み入れた。
道中は、以前にも増して警戒を強めた。レナが先頭で周囲の気配を探り、シルフィが風の精霊を通じて広範囲の状況を把握し、俺が【万物解析】で微細な魔力の変化や隠れた罠を探る。幸い、前回のような凶暴化した魔物や、ゴーレム・イーターの直接的な襲撃はなかった。しかし、森全体を覆う不気味な静けさと、時折感じる歪んだ魔力の残滓は、依然として俺たちの神経を尖らせた。
やがて、俺たちは古びた祠に到着し、隠し階段を通って再び地下遺跡へと潜った。動力室を通過する際には、星脈炉の不安定な魔力の揺らぎと共振音が、さらに増しているように感じられた。まるで、遺跡全体が悲鳴を上げているかのようだ。
そして、ついに俺たちは、あの巨大な封印扉の前へとたどり着いた。『セクター7』の最奥、遺跡の深淵への入り口。扉は依然として固く閉ざされ、その表面に刻まれた複雑な術式からは、侵入者を拒むかのような強大な魔力が放たれている。
「…さて、と。問題は、どうやってこれを再び開けるか、だな」
前回は、俺たち三人の魔力と、『星見の欠片』、そしておそらくは扉の向こうからのエリスの呼びかけに応える形で、半ば偶然のように開いた。だが、今回はどうだろうか。
俺は再び【万物解析】で扉の構造と術式を分析する。解除にはやはり、複数の認証と膨大なエネルギーが必要だ。
「よし、前回と同じようにやってみよう。『星見の欠片』をキーにして、俺たち三人の魔力を集中させる!」
俺は『星見の欠片』を扉の認証パネルらしき箇所にかざした。欠片が淡い光を放つ。
「シルフィ、レナ、頼む!」
二人が俺の背中に手を当て、彼女たちの魔力が俺を通じて扉へと流れ込み始める。俺も自身の魔力を最大限に引き出し、解析で見つけた不完全な解除コードパターンを念じながら、エネルギーを注ぎ込む!
扉の術式が反応し、光を放ち始める。だが、前回ほどの勢いはない。扉は軋む音を立てるものの、開く気配を見せない。
「くっ…足りないのか…!?」
その時だった。
「…あの…カイト…」
隣にいたエリスが、扉の術式の光を見つめながら、おずおずと口を開いた。
「その魔力の流し方…少し違う気がします…。もっと、こう…渦を描くように…循環させるように流さないと、術式がうまく反応しないんじゃ…?」
彼女は指で空中に円を描くような仕草をする。
「それと…エネルギーの流れが、あそこの紋様のところで滞っているみたいです…そこを、もう少し強く刺激すれば…」
彼女は、扉に刻まれた複雑な術式の一部を指差した。
彼女自身、なぜそんなことが分かるのか、理解していない様子だった。だが、その言葉には、奇妙な説得力があった。まるで、この術式の設計思想を知っているかのような…。
「…分かった、試してみよう!」
俺はエリスの助言に従い、魔力の流れ方を意識的に変え、指摘された紋様の箇所に、より強くエネルギーを集中させてみた! シルフィとレナにも、同じように意識するよう伝える。
すると、どうだろう!
扉の術式の輝きが、一気に増した! これまで滞っていたエネルギーが、堰を切ったように流れ始め、扉全体が激しく振動し始める!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!
地響きのような重低音と共に、数千年の間、固く閉ざされていた巨大な封印扉が、今度こそ、ゆっくりと、しかし確実に、その重い口を開き始めたのだ!
「やった!」
「開いたぞ!」
レナとシルフィが歓声を上げる。
扉が完全に開くと、その先には、下りへと続く長い石の階段が現れた。そこからは、ひんやりとした、そしてこれまでに感じたことのないほど濃密で、しかしどこか歪んだ、淀んだ魔力の気配が漂ってくる。そして、完全な静寂。まるで、音すらも吸い込んでしまうかのような、深淵の静寂だ。
俺たち四人は、息を呑んで、暗く深い闇へと続く階段の入り口を見つめた。ここから先は、完全に未知の領域。アストラル研究所の最深部であり、おそらくは、全ての謎と、そして最大の危険が眠る場所。
エリスの無意識の助言が、この扉を開く鍵となった。彼女の存在の重要性を、俺は改めて認識した。
俺は、隣に立つシルフィ、レナ、そしてエリスと、固い決意を目に宿して頷き合った。
「行くぞ」
俺たちは、覚悟を決めて、深淵へと続く階段へと、決然と足を踏み入れた。アストラル研究所の核心へと迫る、最後の、そして最も危険な攻略が、今、始まったのだ。
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