私、魔王軍の四天王(紅一点)なんですが、敵であるはずの勇者が会うたびに口説いてきます

夏見ナイ

文字の大きさ
46 / 100

第46話 魔族からの協力者

しおりを挟む
王城を抜け出したアルフレッドたちが、月のない夜の闇に紛れて魔王領へと向かっている頃。
魔王城の地下深く、鉄格子に閉ざされた牢獄の中で、リディアは静かに息を潜めていた。

力を奪われた体は、未だに鉛のように重い。
しかし、レヴィが残していった水晶の欠片を握りしめていると、不思議と心は落ち着いていた。それは、絶望の闇の中で唯一輝く、小さな希望の光だった。

(レヴィは、どうしているだろう……)

彼が自分に協力してくれた真意は、まだ分からない。
本当に、ただの気まぐれなのか。それとも、魔王の計画を阻止するという、共通の目的のためなのか。
どちらにせよ、今の私にとって、彼が唯一の命綱であることには変わりなかった。

私がそんなことを考えていると、牢獄の前の暗がりから、不意に声がかけられた。

「……姫様」

その声に、私はハッとした。
レヴィではない。もっと若く、そして切実な響きを持つ声。
闇の中から姿を現したのは、黒装束に身を包んだ、若い魔族の青年だった。その顔には、見覚えがある。彼は、私がかつて率いていた部隊に所属していた、斥候の一人だったはずだ。

「あなた……なぜ、ここに」
私は、警戒しながら尋ねた。魔王様は、私との接触を固く禁じたはず。彼がここにいること自体が、死罪に値する行為だ。

「お許しください、リディア様」
青年は、鉄格子の前で深く跪いた。「どうしても、あなた様のお顔を、一目拝見したくて……。魔王様があなた様を裏切り者だと断罪されたこと、我々は誰一人として信じておりません!」

彼の声は、悔しさに震えていた。
その瞳には、私への変わらぬ忠誠と、そして尊敬の念が宿っている。

「我々、西塔部隊の者たちは、皆、あなた様に救われた者ばかりです。あなたが我々をどれほど大切に思ってくださっていたか、我々は知っています。そんなあなた様が、我らを裏切るなど、ありえません!」

彼の言葉に、私の胸が熱くなった。
私は、一人ではなかったのだ。
私が城を去った後も、私のことを信じ、案じてくれている者たちが、まだこの城にいたのだ。

「……ありがとう。その気持ちだけで、嬉しいわ」
私は、か細い声で礼を言った。「でも、もうお行きなさい。あなたまで、危険な目に遭うわ」

「いいえ!」
青年は、きっぱりと首を振った。「我々は、あなた様をお救いするために、ここに参りました。微力ながら、この命、あなた様のために捧げる覚悟です」

「何を……馬鹿なことを!」
私は、思わず声を荒らげた。「あなたたちでは、魔王様には逆らえないわ! 無駄死にするだけよ!」

「それでも!」
青年の決意は、揺らがなかった。

その時、青年の背後の闇から、もう一つの声が響いた。
「まあまあ、そう熱くなるなよ、二人とも。彼の覚悟は本物だが、無駄死にさせるつもりは、僕にもないさ」

その声と共に、闇の中から、レヴィが優雅な足取りで姿を現した。

「レヴィ! あなたが、彼をここに?」

「人聞きの悪い。彼が、自らの意思で来たのさ。僕は、ほんの少しだけ、道案内をしてやっただけだよ」
レヴィは肩をすくめると、青年の方を向いた。「さて、頼んでいたものは、手に入ったかな?」

「はっ!」
青年は、懐から一枚の羊皮紙を取り出し、レヴィに差し出した。「これこそが、魔王様が進める『魂の錬成陣』の、詳細な設計図です」

その言葉に、私は息を呑んだ。
レヴィは、私を信じる者たちを利用して、魔王の計画の核心に迫る情報を集めさせていたのだ。

レヴィは、その設計図を受け取ると、満足そうに頷いた。
「ご苦労だった。これで、ようやくパズルの最後のピースが埋まる」

彼は、設計図を広げると、鉄格子越しに私と青年にも見えるように示しながら、語り始めた。

「魔王様の計画は、僕の想像以上に悪質で、そして巧妙だった。この術式は、リディアの魂を『贄の姫』として取り込むことで、起動する。だが、それだけではない。術式が一度起動すれば、この魔王城そのものが、巨大な魂の捕食装置と化すのだ」

「捕食装置……?」

「ああ。城に近づく、全ての生命体の魂を、強制的に吸い上げ、術式のエネルギーへと変換する。人間も、魔族も、関係なくな。つまり……」
レヴィの瞳が、冷たい光を宿した。

「今まさに、この城へ向かっているであろう王国軍の総攻撃。あれは、魔王様にとって、格好の『餌』でしかないということさ」

その事実に、私は戦慄した。
アルフレッドも、今頃、王国軍と共に、この城へ向かっているかもしれない。
もしそうなれば、彼もまた、儀式の犠牲になってしまう。

「そんな……!」

「そして、この計画には、もう一つ、致命的な欠陥がある」
レヴィは、設計図の一点を指し示した。「術式が完成し、世界の理が書き換えられる瞬間、その膨大なエネルギーの反動で、この世界そのものが、一度完全に崩壊する危険性がある。成功するか失敗するかは、五分五分。魔王様は、そんな危険な賭けに、我々全ての運命を乗せようとしているのだよ」

もはや、それは狂気としか言いようがなかった。

「……どうすれば、止められるの」
私の問いに、レヴィは、不敵な笑みを浮かべた。

「方法は、一つだけだ。この術式の心臓部、そして魔王様の力の源でもある、あの『魔力の炉心』を、外部から破壊する」

「しかし、炉心には、魔王様自らが張った、強力な結界が……」

「その通り。並大抵の攻撃では、傷一つつけられないだろう。だが、一つだけ、その結界を破れる可能性があるものが、存在する」

レヴィの視線が、牢獄の外、遥か遠くの人間領に向けられた。

「光と闇。相反する二つの力が激突する時に生まれる、莫大なエネルギー。……つまり、聖剣を持つ勇者と、魔王自身の力がぶつかり合う、その瞬間だけだ。その一瞬の隙を突いて、炉心を破壊するしか、道はない」

それは、あまりにも困難で、あまりにも危険な賭けだった。

「そのための布石は、既に打ってある」
レヴィは、懐から、私が持っているものと同じ、水晶の欠片を取り出した。「この通信具を使って、僕は既にある人物に、この全ての情報を渡した」

「ある人物……?」

「ああ」
レヴィの口元に、楽しそうな笑みが浮かぶ。

「君を救い出すために、おそらく今頃、この城の地下深くへと、忍び込んでいるであろう……愚かで、勇敢な王子様にね」

その言葉に、私の心臓が、大きく、そして激しく跳ねた。

アルフレッド。
彼が、来ている。
私を、助けるために。

絶望の闇の中に、一条の、しかし何よりも力強い光が差し込んだ瞬間だった。

「さあ、姫様」
レヴィは、鉄格子越しに、私に手を差し伸べるかのように言った。「物語の舞台は整った。あとは、主役である君が、どんな結末を選ぶか、だ」

私は、強く、強く、水晶の欠片を握りしめた。
涙で、視界が滲む。
しかし、それはもう、絶望の涙ではなかった。

愛する人と再会できるという希望と、彼と共に戦えるという決意。
その二つの感情が、力を失った私の心に、新たな炎を灯していた。

私の戦いは、まだ終わっていない。
ここから、始まるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。 そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。 そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。 ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。 「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」 聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。

処理中です...