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第85話 愛の奇跡
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天から降り注ぐ白と黒の光の雨。
それは美しい光景ではなかった。魂の毒。世界の理そのものが凝縮された絶対的な拒絶の意思。
光の雨に触れたアビス・ウォーカーたちが断末魔の叫びを上げる間もなく、内側から崩壊していく。それは浄化ではない。存在そのものの完全な消去だった。
王都の城壁を埋め尽くしていた黒い津波がまるで陽光に晒された雪のように急速に溶けて消えていく。
魔族領で、ドワーフの山で、エルフの森で。世界中で猛威を振るっていた侵略者たちが等しく塵へと還っていく。
ダリウスが、騎士たちが、そして世界中の兵士たちがその信じられない光景をただ呆然と見上げていた。
そしてフリューゲルの上空。
全ての元凶である女王もまたその光の雨から逃れることはできなかった。
『ギ……ィ……ギギギギ……!?』
彼女の虚無の瞳に焦りと理解不能なものへの恐怖が浮かぶ。
光の雨が彼女の青白い肌に触れた瞬間、そこが黒く焼け焦げ崩れ落ちていく。
再生が追いつかない。
彼女の存在そのものがこの世界の理によって完全に拒絶されているのだ。
女王は苦悶の咆哮を上げた。
その足元に広がる巨大な脈動する肉塊。母体が自らを守るために最後の抵抗を試みる。
無数の触手が天に向かって伸び、光の雨を防ぐための肉の傘を形成しようとした。
しかしその行為が彼女自身の首を絞める結果となる。
触手が光の雨に触れた瞬間、毒は瞬く間に肉塊全体へと広がっていった。
巨大な母体は内側から汚染され腐敗し、ぶよぶよとした醜い泡を吹き出しながら崩壊を始めた。
『……おのれ……矮小なる……世界の……虫ケラどもが……!』
女王の思念が憎しみに満ちて響き渡る。
彼女は最後の力を振り絞り、その矛先をこの奇跡を引き起こした元凶である遥か遠くの王城へと向けた。
空間を歪め、リディアたちに最後の一撃を放とうとしたのだ。
その絶望的な悪意。
それを見過ごす男ではなかった。
「―――お前の相手は僕だ!」
片膝をついていたはずのアルフレッドが最後の力を振り絞って再び立ち上がっていた。
彼の体は既に限界を超えている。しかしその瞳に宿る光だけは少しも衰えてはいなかった。
彼は聖剣を構えた。
その白銀の刀身に天から降り注ぐ「魂の毒」の雨が吸い込まれるように集まっていく。
聖剣が白と黒の禍々しくも神々しいオーラを纏い始めた。
「君たちが作ってくれた最後の希望」
彼は愛しい妻と仲間たちに心の中で語りかけた。「決して無駄にはしない!」
彼は地を蹴った。
いや、もはや飛翔していた。
光そのものと化した彼が女王の懐へと最後の突撃を敢行する。
女王はアルフレッドの接近に気づき、その歪んだ空間の盾で防ごうとした。
しかし今の聖剣はもはやこの世界の理だけでできた剣ではない。
世界の理の外側にある存在を滅ぼすためだけに生まれた、世界の「免疫機能」そのもの。
聖剣は空間の盾をまるで存在しないかのように容易く貫いた。
『なっ……!?』
女王の瞳に初めて死という概念への純粋な恐怖が映し出された。
そして聖剣の切っ先が女王の胸の中心を正確に貫いた。
「―――還れ。お前たちが来た虚無の世界へ」
アルフレッドの静かな宣告。
聖剣から凝縮された「魂の毒」が奔流となって女王の体内に注ぎ込まれる。
『……こん……な……ばか……な…………』
それが彼女の最後の思念だった。
女王の体は内側から溢れ出す白と黒の光によってガラス細工のように砕け散った。
そしてその光の粒子さえもが瞬く間に消滅していく。
彼女の足元にあった巨大な母体もまた完全に崩壊し、塵となって風に消えた。
全ての元凶が消えた。
アビス・ウォーカーという世界を蝕んだ癌細胞が完全にこの世界から駆逐された瞬間だった。
天を覆っていた光の雨がゆっくりと止んでいく。
後に残されたのはボロボロになったフリューゲルの街と、そして力尽き空から墜落していく一人の勇者の姿だけだった。
「アルフレッドッ!」
王城の儀式の間で術を終えて崩れ落ちた私の魂が最後の悲鳴を上げた。
彼の生命の光が急速に消えていくのが見えた。
もう駄目だ。
間に合わない。
私が絶望に目を閉じたその時。
彼の体を地上のどこからか放たれた温かい緑色の光がふわりと包み込んだ。
それは墜落の勢いを和らげ、彼を優しく大地へと導いていく。
(……この光は……)
それは聖なる光でも魔力でもない。
生命そのものが持つ森羅万象の大いなる癒やしの力。
エルフの大魔法。
アルフレッドの体がフリューゲルの大地にそっと横たえられた。
そしてその周囲にいつの間にかエルフの民たちがその姿を現していた。
光の同盟への参加を渋り森から出ることを拒んでいたあの誇り高き種族が。
アルフレッドの、そして私たちの戦いを見てついにその重い腰を上げたのだ。
彼らは傷ついた勇者を囲むと古の歌を歌い始めた。
それは失われた命を自然へと還し、傷ついた命を癒やす生命の歌。
アルフレッドの体から少しずつ死の気配が遠のいていく。
彼のか細い呼吸が再び確かなものへと変わっていく。
王城の儀式の間で私はその光景を魂の視界で捉え、静かに涙を流した。
エルザが、レヴィが、そしてイリーナが私を支えるようにその肩を抱いてくれていた。
勝ったのだ。
私たちは勝ったのだ。
多くの犠牲と、そして多くの奇跡の果てに。
私たちの愛は世界を救った。
いや、私たちの愛が世界中の今まで交わることのなかった者たちの心を繋ぎ、そしてその繋がった心こそがこの奇跡を生んだのだ。
私の意識がゆっくりと現実へと戻っていく。
最後に聞こえたのは仲間たちの温かい声だった。
「お疲れ様、リディア」
「……ええ、本当にね」
世界は救われた。
本当の意味で新しい時代が今、始まろうとしていた。
光と闇、人間と魔族、そして全ての種族が手を取り合う本当の平和な時代が。
その中心にはきっとあの太陽のような笑顔が輝いているはずだから。
それは美しい光景ではなかった。魂の毒。世界の理そのものが凝縮された絶対的な拒絶の意思。
光の雨に触れたアビス・ウォーカーたちが断末魔の叫びを上げる間もなく、内側から崩壊していく。それは浄化ではない。存在そのものの完全な消去だった。
王都の城壁を埋め尽くしていた黒い津波がまるで陽光に晒された雪のように急速に溶けて消えていく。
魔族領で、ドワーフの山で、エルフの森で。世界中で猛威を振るっていた侵略者たちが等しく塵へと還っていく。
ダリウスが、騎士たちが、そして世界中の兵士たちがその信じられない光景をただ呆然と見上げていた。
そしてフリューゲルの上空。
全ての元凶である女王もまたその光の雨から逃れることはできなかった。
『ギ……ィ……ギギギギ……!?』
彼女の虚無の瞳に焦りと理解不能なものへの恐怖が浮かぶ。
光の雨が彼女の青白い肌に触れた瞬間、そこが黒く焼け焦げ崩れ落ちていく。
再生が追いつかない。
彼女の存在そのものがこの世界の理によって完全に拒絶されているのだ。
女王は苦悶の咆哮を上げた。
その足元に広がる巨大な脈動する肉塊。母体が自らを守るために最後の抵抗を試みる。
無数の触手が天に向かって伸び、光の雨を防ぐための肉の傘を形成しようとした。
しかしその行為が彼女自身の首を絞める結果となる。
触手が光の雨に触れた瞬間、毒は瞬く間に肉塊全体へと広がっていった。
巨大な母体は内側から汚染され腐敗し、ぶよぶよとした醜い泡を吹き出しながら崩壊を始めた。
『……おのれ……矮小なる……世界の……虫ケラどもが……!』
女王の思念が憎しみに満ちて響き渡る。
彼女は最後の力を振り絞り、その矛先をこの奇跡を引き起こした元凶である遥か遠くの王城へと向けた。
空間を歪め、リディアたちに最後の一撃を放とうとしたのだ。
その絶望的な悪意。
それを見過ごす男ではなかった。
「―――お前の相手は僕だ!」
片膝をついていたはずのアルフレッドが最後の力を振り絞って再び立ち上がっていた。
彼の体は既に限界を超えている。しかしその瞳に宿る光だけは少しも衰えてはいなかった。
彼は聖剣を構えた。
その白銀の刀身に天から降り注ぐ「魂の毒」の雨が吸い込まれるように集まっていく。
聖剣が白と黒の禍々しくも神々しいオーラを纏い始めた。
「君たちが作ってくれた最後の希望」
彼は愛しい妻と仲間たちに心の中で語りかけた。「決して無駄にはしない!」
彼は地を蹴った。
いや、もはや飛翔していた。
光そのものと化した彼が女王の懐へと最後の突撃を敢行する。
女王はアルフレッドの接近に気づき、その歪んだ空間の盾で防ごうとした。
しかし今の聖剣はもはやこの世界の理だけでできた剣ではない。
世界の理の外側にある存在を滅ぼすためだけに生まれた、世界の「免疫機能」そのもの。
聖剣は空間の盾をまるで存在しないかのように容易く貫いた。
『なっ……!?』
女王の瞳に初めて死という概念への純粋な恐怖が映し出された。
そして聖剣の切っ先が女王の胸の中心を正確に貫いた。
「―――還れ。お前たちが来た虚無の世界へ」
アルフレッドの静かな宣告。
聖剣から凝縮された「魂の毒」が奔流となって女王の体内に注ぎ込まれる。
『……こん……な……ばか……な…………』
それが彼女の最後の思念だった。
女王の体は内側から溢れ出す白と黒の光によってガラス細工のように砕け散った。
そしてその光の粒子さえもが瞬く間に消滅していく。
彼女の足元にあった巨大な母体もまた完全に崩壊し、塵となって風に消えた。
全ての元凶が消えた。
アビス・ウォーカーという世界を蝕んだ癌細胞が完全にこの世界から駆逐された瞬間だった。
天を覆っていた光の雨がゆっくりと止んでいく。
後に残されたのはボロボロになったフリューゲルの街と、そして力尽き空から墜落していく一人の勇者の姿だけだった。
「アルフレッドッ!」
王城の儀式の間で術を終えて崩れ落ちた私の魂が最後の悲鳴を上げた。
彼の生命の光が急速に消えていくのが見えた。
もう駄目だ。
間に合わない。
私が絶望に目を閉じたその時。
彼の体を地上のどこからか放たれた温かい緑色の光がふわりと包み込んだ。
それは墜落の勢いを和らげ、彼を優しく大地へと導いていく。
(……この光は……)
それは聖なる光でも魔力でもない。
生命そのものが持つ森羅万象の大いなる癒やしの力。
エルフの大魔法。
アルフレッドの体がフリューゲルの大地にそっと横たえられた。
そしてその周囲にいつの間にかエルフの民たちがその姿を現していた。
光の同盟への参加を渋り森から出ることを拒んでいたあの誇り高き種族が。
アルフレッドの、そして私たちの戦いを見てついにその重い腰を上げたのだ。
彼らは傷ついた勇者を囲むと古の歌を歌い始めた。
それは失われた命を自然へと還し、傷ついた命を癒やす生命の歌。
アルフレッドの体から少しずつ死の気配が遠のいていく。
彼のか細い呼吸が再び確かなものへと変わっていく。
王城の儀式の間で私はその光景を魂の視界で捉え、静かに涙を流した。
エルザが、レヴィが、そしてイリーナが私を支えるようにその肩を抱いてくれていた。
勝ったのだ。
私たちは勝ったのだ。
多くの犠牲と、そして多くの奇跡の果てに。
私たちの愛は世界を救った。
いや、私たちの愛が世界中の今まで交わることのなかった者たちの心を繋ぎ、そしてその繋がった心こそがこの奇跡を生んだのだ。
私の意識がゆっくりと現実へと戻っていく。
最後に聞こえたのは仲間たちの温かい声だった。
「お疲れ様、リディア」
「……ええ、本当にね」
世界は救われた。
本当の意味で新しい時代が今、始まろうとしていた。
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