曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第47話 最高級旅館に到着

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魔導列車が雲の上に作られた駅のホームに、音もなく滑り込むように停車した。
扉が開くと、ひんやりと、そしてどこか硫黄の香りが混じった澄んだ空気が俺たちの頬を撫でた。

「ここが、『雲上の湯』…」

ルナが感嘆のため息を漏らす。
駅のホームから見渡す景色は、まさに絶景だった。
眼下には果てしなく広がる雲海。その雲の隙間からは、遥か下界の緑豊かな大地が覗いている。空は地上で見るよりもずっと近く、そして青く感じられた。
街は山の斜面に沿うようにして作られており、木造の趣ある建物が階段状に立ち並んでいる。あちこちから白い湯けむりが立ち上り、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

俺たちがホームに降り立つと、一人の着物姿の女性が深々と頭を下げて俺たちを迎えてくれた。
「ユウキ・アスカワ様、ルナリア様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。私、お二人がご宿泊なさる旅館『月詠(つくよみ)』の女将でございます」
その物腰は洗練されていて、一切の隙がない。
どうやらアルフォンス公爵が、ここでも完璧な手配をしてくれていたらしい。

女将さんに案内されるまま、俺たちは一台の高級な魔導車に乗り込んだ。
車は石畳の風情ある坂道を静かに登っていく。
窓から見える街並みは、どこか懐かしいような温かい雰囲気に満ちていた。

やがて車はひときわ大きな門構えの、壮麗な旅館の前で停まった。
入り口には「月詠」と書かれた見事な一枚板の看板が掲げられている。この温泉郷で最も格式が高いと噂される最高級の旅館だ。

「さあ、どうぞこちらへ」

女将さんに導かれ、俺たちは旅館の中へと足を踏み入れた。
そこは静寂と気品に満ちた別世界だった。
磨き上げられた木の廊下、壁に飾られた見事な水墨画、そしてほのかに香る白檀の香り。
その全てが日常の喧騒を忘れさせてくれるような、穏やかな空気に満ちていた。

「お二人がお泊りになるお部屋は、当館で最も眺めの良い離れの『天の川』でございます」
女将さんはそう言うと、俺たちを本館から渡り廊下で繋がった特別な一室へと案内してくれた。

引き戸が開けられた瞬間、俺とルナは再び息を呑んだ。
そこはもはや「部屋」という言葉では表現しきれないほどの、広大で豪華な空間だった。
十畳はあろうかという広い和室。その奥にはゆったりとしたソファが置かれたリビングスペース。そしてガラス張りの壁の向こうには、眼下に広がる雲海を一望できる広々としたテラスが設えられている。

「すごい…」
「まるで、お城のようですわ…」
俺たちがその豪華さに圧倒されていると、女将さんはにこりと微笑んでさらに衝撃的な事実を告げた。
「そしてこちらが、お部屋付きの露天風呂でございます」

彼女が示した先の扉を開けると、そこには檜の香りが漂う開放的な露天風呂があった。
湯船からは白い湯けむりが立ち上り、その向こうにはどこまでも続く空と雲海が広がっている。
二人で入るにはあまりにも贅沢すぎる空間だった。

「ひゃあ…!」
その光景を見てルナが小さく悲鳴のような声を上げた。
彼女の頭の中ではきっと、昨日の水着選びの光景が鮮明に蘇っているに違いない。
その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。

あまりの豪華さに俺は恐縮してしまった。
「あの、こんなに素晴らしい部屋、俺たちにはもったいないです…」
俺がそう言うと、女将さんは悪戯っぽく片目をつぶって見せた。
「シルフィード公爵様から『未来の息子夫婦の初めての旅行なのだ。何一つ不自由のないように』と、きつく言われておりますので」
その言葉に俺はもう何も言えなくなった。
アルフォンス公爵の親心(という名の暴走)には、感謝と少しばかりの胃痛を感じずにはいられない。

女将さんが下がり部屋に二人きりになると、俺たちは改めてその素晴らしい部屋を見渡した。
「本当に、すごいところだな…」
俺がソファに深く身を沈めながら呟くと、隣に座ったルナがこくりと頷いた。
そして幸せそうな、とろけるような笑顔で俺の腕にそっと寄り添ってきた。

「でも…」
彼女は小さな声で囁いた。
「わたくにとっては、ユウキとご一緒ならどんな場所だって天国ですわ」

そのあまりにも真っ直ぐで、あまりにも甘い言葉。
俺の心臓はきゅん、と可愛らしい音を立てた。
俺は彼女の言葉に何も返すことができない。
ただ、その華奢な肩をそっと抱き寄せることしかできなかった。

窓の外では、太陽がゆっくりと雲海の向こうへと沈み始めていた。
空がオレンジ色から深い紫色へと、刻一刻と表情を変えていく。
その幻想的な光景を、俺たちはただ黙って寄り添いながら眺めていた。

旅の疲れなどどこかへ吹き飛んでしまっていた。
この二人きりだけの特別な空間。
これから始まる甘い夜への期待。
その全てが俺たちの心を、これ以上ないほどの幸福感で満たしていく。
最高級の旅館は最高の旅の始まりを、完璧な形で演出してくれていた。
俺は腕の中の温かいぬくもりを感じながら、この幸せな時間が永遠に続けばいいと心からそう願うのだった。
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