「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ

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第93話:幸運 VS 終焉

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闇が這い寄ってくる。
触れたもの全てを存在ごと消滅させる、絶対的な無。
ヴァルザーが放った究極魔法『終焉の宣告』。それはもはや魔法というより、世界の理そのものを破壊する禁断の儀式だった。
俺は床に倒れたまま、なすすべもなくその死の侵食を見つめていた。
仲間たちの顔に浮かぶ絶望の色。
もう、駄目だ。
俺の力も尽きた。
俺の幸運も、この絶対的な『無』の前には干渉する『確率』さえ存在しない。

(……ごめん。みんな……)
俺は心の中で仲間たちに謝った。
守ると誓ったのに。
未来を掴むと決めたのに。

俺の意識が絶望の闇に飲み込まれ、途切れようとした、その時だった。

―――まだだ。

どこかで声が聞こえた。
それは誰の声でもない。
俺自身の魂の奥底からの叫びだった。

(まだ、終わらせない)

なぜだろう。
体はもう動かない。
心も折れかかっている。
なのに、俺の中の『何か』だけが諦めることを断固として拒絶していた。
それは、俺がこの世界に来てから育んできた仲間たちとの絆。
アルカディア村の穏やかな日常の記憶。
人々が俺に向けてくれた温かい信頼。
その全てが俺の中で一つの巨大な光の塊となって、燃え上がっていた。

『終焉の宣告』の闇が俺の指先に触れようとした、その刹那。

ピシッ。

ヴァルザーの体から、ほんの僅かな乾いた音がした。
それは彼の体内で膨大な魔力を制御していた魔力循環の回路。そのほんの一点が、僅かに軋みを上げた音だった。
究極魔法の行使は、たとえ魔人化した彼の体をもってしても限界ぎりぎりの負荷を強いていたのだ。
普通なら何の影響もない、取るに足らないミクロレベルの乱れ。

だが、俺の『幸運』は、その百万分の一、いや億分の一の『確率の揺らぎ』を見逃さなかった。
俺の、諦めないという最後の意志。
それが引き金だった。
俺の力の全てが、その一点の『乱れ』に奔流となって注ぎ込まれた。

結果。
完璧だったはずのヴァルザーの魔力制御が、僅かに、しかし致命的に狂った。
彼が作り出した『終焉の宣告』という絶対的な破壊のエネルギー。
そのベクトルが、ほんの僅かだけ内側へと向いた。

「―――なっ!?」
ヴァルザーが初めて、本当の意味で驚愕の声を上げた。
自らが作り出した闇が、自らの足元からその体を侵食し始めている。
「馬鹿な……! 我が魔法が暴発……だと……!?」

それはもはや暴発というレベルではなかった。
究極魔法の巨大なエネルギーが、術者であるヴァルザー自身の中で連鎖的に崩壊を始めたのだ。
「ぐ……う……あああああああああああっ!」
ヴァルザーの体から黒い光と闇が無差別に噴き出した。
彼が作り出した『無』が、彼自身を内側から食い尽くしていく。
その苦痛は想像を絶するものだろう。

俺たちに迫っていた闇は勢いを失い、霧散していく。
後に残されたのは、自らの力によって崩壊していく哀れな魔人の姿だけ。
俺たちはただ呆然と、その光景を見つめていた。

何が起きたのか。
俺の力がヴァルザーの魔法を暴発させた。
それは世界の理を書き換えるような、大げさな奇跡ではなかったのかもしれない。
ただ百万分の一の可能性を、現実に引き寄せただけ。
敵の力が強大であればあるほど、その制御はより精密で脆くなる。
その、ほんの僅かな『隙』。
俺の幸運は常に、その一点を突き崩す力だったのだ。

「……今だ」
俺は最後の力を振り絞り、掠れた声で仲間に告げた。
「……今しか、ない」
ヴァルザーは瀕死だ。
だが、まだ生きている。
ここで止めを刺さなければ。

その言葉に最初に反応したのはリリアだった。
彼女は傷ついた体を引きずりながら、それでも弓を構えた。
その手にはもう光の矢はない。ただの一本の木の矢。
だが、その矢の先端には彼女の、そして俺たちの全ての希望が込められていた。

フレアが、バルガスが、サラが。
誰もが最後の力を振り絞り、立ち上がろうとしていた。
俺たちの最後の反撃が始まろうとしていた。
終焉を告げたはずの絶望は今、逆転の希望へと変わったのだ。
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