「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ

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第94話:力の真価

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自らの究-魔法によって内側から崩壊していくヴァルザー。
その姿は絶対的な支配者の末路としては、あまりにも呆気なく、そして惨めだった。
玉座の間に満ちていた絶対的な絶望の空気は、嘘のように消え去っていた。
代わりにそこには、勝利へのほんの僅かな、しかし確かな光が差し込んでいた。

「……今しか、ない」
俺の掠れた声は、仲間たちの心に最後の闘志を灯した。
そうだ。まだ終わっていない。
ここで、あの男に完全に息の根を止めなければ、俺たちの未来はない。
リリアが、フレアが、バルガスが、サラが。
誰もが傷つき疲弊しきった体に鞭打ち、それぞれの武器を再び構えた。

俺は床に手をつき、ゆっくりと立ち上がろうとした。
だが、体は鉛のように重く力が入らない。先ほどの極限の集中と力の行使で、俺の精神は燃え尽きる寸前だった。
(くそ……! ここで動けないのか……!)
俺は自分の不甲斐なさに唇を噛み締めた。
仲間たちが最後の戦いに挑もうとしているのに。
俺はただ見ていることしかできないのか。

その時だった。
俺の脳裏にこれまでの旅路が、走馬灯のように駆け巡った。
追放されたあの日の孤独。
アルカディア村で出会った人々の温かさ。
リリアの優しい微笑み。
フレアの豪快な笑い声。
バルガスたちの揺るぎない信頼。
その全てが、俺の空っぽだった心を満たしてくれた。
俺はもう一人じゃない。
俺の力は俺一人だけのものじゃない。

(……そうだ)
俺は悟った。
俺の力の真価は、俺自身が何かをすることじゃない。
俺の力が本当に輝くのは。
俺が仲間を信じ、その力を仲間たちに託した時だ。

俺はもう一度、自分の力の全てを振り絞った。
だが、今度の願いは違う。
『敵を倒せ』ではない。
『仲間たちに、勝利を』
その純粋な祈りを、俺は目の前で戦おうとする四人の仲間たちへと送った。

「―――みんなに、勝利の幸運を」

俺の体から再び金色の光の粒子が溢れ出した。
だが、その光は障壁を作るのではない。
それは仲間たち一人一人の体へと、吸い込まれるように降り注いでいった。
「……!?」
仲間たちの体が、一斉に淡い金色のオーラに包まれる。
傷の痛みが和らぐ。
尽きかけた体力が湧き上がってくる。
そして、何よりも。
彼らの五感が極限まで研ぎ澄まされていく。

「……なんだ、こりゃあ」
フレアが驚きの声を上げた。
「世界がやけにゆっくりに見えるぜ……!」
「……矢の軌道が……風の流れが全て読める」
リリアもまた自らの変化に、息を呑んだ。
俺の『幸運』が彼らの能力を一時的に、しかし飛躍的にブーストさせていたのだ。
もはや、彼らはただの人間ではない。
運命に愛された英雄となっていた。

「……アッシュ殿」
バルガスが俺の方を振り返った。その瞳には感謝と、そして覚悟の色が浮かんでいる。
「……その想い、確かに受け取ったぞ」
彼は再び戦斧を構え、暴走するヴァルザーへと向き直った。
その姿はもはや老いた獅子ではなかった。
全盛期の王国最強と謳われた、勇士の姿がそこにはあった。

「行くぞ!」
バルガスの号令。
四人の英雄による最後の総攻撃が始まった。
それはもはや戦いというより、一つの芸術のように完璧に連携された舞だった。

リリアの放ったただの木の矢が、ヴァルザーの魔力障壁のほんの僅かな、ミクロの隙間を寸分違わず射抜いた。
その衝撃で障壁に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
その亀裂をサラの細剣が稲妻のような速さで突き、さらに広げる。
開かれたほんの一瞬の突破口。
そこへバルガスの戦斧が、山をも砕くかのような渾身の一撃を叩き込んだ。
障壁はガラスのように砕け散り、ヴァルザーの無防備な体が晒される。

そして、最後はフレアだった。
彼女は大地を蹴り、天高く跳躍した。
その手にはウォーハンマーが、黄金の輝きを放っている。
「これが、あたしたちの!」
彼女の叫びが玉座の間に響き渡る。
「絆の一撃だあああああああっ!」

ウォーハンマーはヴァルザーの再生能力を遥かに上回る、クリティカルなダメージを叩き込んだ。
それは物理的な攻撃であると同時に、俺たちの想いを乗せた魂の一撃だった。

「ぐ……ば……が……あああああああああああっ!」
ヴァルザーの最後の断末魔。
その魔人化した体は光の粒子となって、内側から崩壊していく。
その瞳には最後まで信じられないという、困惑の色だけが浮かんでいた。
自らの完璧な理が、絆という不合理な力に敗れた。その事実を彼は最後まで理解できなかったのだ。

やがて、その姿は完全に消え去った。
後に残されたのは静寂と、床に転がる一本の黒い魔剣だけ。
長い、長い戦いがついに終わった。
俺は、その光景を仲間たちの力強い背中越しに静かに見届けていた。
俺の力の本当の価値。
それは仲間を信じ、未来を託す力。
その真価を、俺はこの最後の戦いでようやく見出すことができたのだった。
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