ログインしたら人外でした。 ~VRMMOで最恐の魔物になる~

夏見ナイ

文字の大きさ
39 / 76

第三十九話 深淵への潜行

しおりを挟む
太陽の光が届かない、暗く冷たい世界の始まりだった。オブシディアンは【水中機動(小) Lv.1】スキルを使い、滑るように深海へと潜っていく。浅瀬の喧騒は遠のき、辺りを支配するのは完全な静寂と、どこまでも続く藍黒(あいぐろ)の闇。時折、自身の【微光 Lv.1】スキル、あるいは深海生物が放つ生物発光が、闇の中に幻想的な光景を描き出す。

水圧は深度を増すごとに強まっていくが、【金剛鱗 Lv.1】の強靭な体表構造がそれを問題なく弾き返していた。アビス・スライムとしての身体は、深海という過酷な環境に対して驚くほどの適性を示しているようだった。まるで、ここが本来いるべき場所であるかのように。

(この感覚…深淵の核(コア)の影響か…?)

オブシディアンは、自身の核から放たれる微かな共鳴のようなものを感じていた。それは、この深海の闇と、どこか通じ合っているような感覚だった。

【闇視 Lv.1】は、完全な暗闇の中でも、周囲の地形や微かな光を放つ生物の姿を捉えることができた。しかし、視界は限られている。【蟲の共鳴 Lv.1】スキルを使い、水中の微細な振動や魔力の流れ、そして深海に生息する奇妙な生物たちの感覚を拾い上げ、周囲の状況を立体的に把握する。

やがて、オブシディアンは新たなモンスターの気配を捉えた。岩陰に潜む、巨大なアンコウのような魚型モンスター。頭部の提灯(ちょうちん)が、不気味な青白い光を放っている。

『アビス・アンコウ Lv.17』

レベルは17。深海に適応した捕食者だ。アンコウは、オブシディアンの接近を感知すると、巨大な顎(あぎと)をカパリと開き、獲物を丸呑みにしようと襲いかかってきた。その顎の内側には、鋭い牙がびっしりと並んでいる。

(丸呑みか…厄介だな)

オブシディアンは【水中機動】で素早く回避し、アンコウの側面へと回り込む。【爪撃 Lv.2】を叩き込むが、分厚い皮膚と鱗に阻まれ、深手は与えられない。アンコウは巨体を翻し、強力な水流を起こしてオブシディアンを吹き飛ばそうとする。

オブシディアンは【風操作(小)】ならぬ【水流操作(微)】(風操作スキルを水中で応用するイメージ)を試み、相手の水流を相殺しつつ体勢を保つ。そして、【物質生成(初級)】で黒曜石の杭を生成し、アンコウの動きを阻害するように周囲の岩場に打ち込んだ。

動きが制限されたアンコウに対し、オブシディアンは【万象擬態 Lv.1】を発動。周囲の岩と同化し、完全に姿を消す。アンコウは獲物を見失い、混乱したように周囲を見回し始めた。

オブシディアンは擬態したまま、アンコウの死角となる背後へと回り込む。そして、擬態を解除すると同時に、頭部の提灯――おそらく感覚器官であり、弱点でもあるだろう部分――目掛けて【腐食溶解液 Lv.1】を噴射した。

「ギョボォォォッ!?」

提灯を焼かれたアンコウは、苦痛の叫び(のような音)を上げ、激しく暴れまわる。オブシディアンはその隙を突き、【捕食吸収 Lv.3】を発動。アンコウの巨体から、凄まじい勢いでエネルギーと知識を吸収していく。深海生物特有の生態、暗闇での索敵方法、水圧への耐性機構などの情報が流れ込んできた。

『アビス・アンコウ Lv.17を捕食しました』
『経験値を500獲得しました』
『レベルが19に上がりました』
『体力+2, 魔力容量+2, 物理防御力+1, 魔法防御力+2, 素早さ+1』
『スキル【生物発光 Lv.1】を獲得しました』
『スキル【水圧耐性(小) Lv.1】を獲得しました』(【金剛鱗】と統合・強化)
『素材「深海アンコウの提灯」「強靭な顎骨」を獲得しました』

レベルアップ! そして、新たなスキルと耐性を獲得。【生物発光】は【微光】の上位互換か、あるいは別の用途があるスキルかもしれない。【水圧耐性】の獲得と【金剛鱗】との統合により、深海での活動限界はさらに向上しただろう。

オブシディアンは、その後も深海探索を続けた。巨大なイカのような姿をし、強力な精神攻撃を放ってくる『サイキック・スクイド Lv.17』、古代の鎧魚(がいぎょ)を思わせる、全身が硬い骨板で覆われた『アーマード・デプスフィッシュ Lv.18』など、地上とは全く異なる生態系を持つ強力なモンスターたちと遭遇し、それらを狩り、捕食していった。【精神耐性(中)】はサイキック・スクイドの攻撃を軽減し、【物質生成】による物理攻撃はアーマード・デプスフィッシュの硬い装甲を打ち破るのに有効だった。

これらの戦闘と捕食を通じて、オブシディアンは深海環境への適応能力を高めると共に、【古代言語解読 Lv.3】に必要な知識の断片も着実に蓄積していた。深海生物の中には、古代から姿を変えずに生き延びてきた種もいるようで、彼らの本能的な記憶の中に、古代の出来事や知識の痕跡が残されていることがあったのだ。

そして、ついに。

核(コア)に示された地図情報と、【蟲の共鳴】が捉える微細な魔力の流れが、一つの場所を示し始めた。それは、広大な海底平野の先に存在する、巨大な海溝の底だった。

オブシディアンがその海溝に近づくと、周囲の魔力の流れが明らかに変化し、古代遺跡特有の気配が感じられるようになった。そして、海溝の底には、闇の中に沈む巨大な建造物の影が見えた。

黒い石材で築かれた、神殿のような建築様式。所々は崩壊し、海藻やサンゴに覆われているが、その規模と荘厳さは、地上で見たどの遺跡よりも圧倒的だった。建物の表面には、やはり古代文字と複雑な紋様が刻まれており、それらが淡い青白い光を放って、暗い海底をぼんやりと照らしている。

(ここが…海底遺跡…「深淵の祭壇」がある場所か)

オブシディアンは、遺跡の入り口と思われる巨大な門へと近づいた。門は固く閉ざされているが、ここにも強力な魔力の結界が張られている様子はない。しかし、門の両脇には、巨大な石像が二体、衛兵のように立っていた。それは、ローブを纏い、三叉槍(トライデント)を手にした、マーマンとも魚人ともつかない、異形の守護者の像だった。

オブシディアンが門に近づくと、その石像がギギギ…と音を立てて動き出した。空虚だった眼窩に赤い光が灯り、手に持つ三叉槍をオブシディアンへと向ける。

『アビス・ガーディアン Lv.19』

レベル19。遺跡の入り口を守る番人か。その動きは鈍重そうに見えるが、放たれる魔力と圧力は相当なものだ。

(試練は、まだ始まってもいないというわけか)

オブシディアンは、アビス・ガーディアンと対峙する。この門を突破し、遺跡の内部へ、そして「深淵の祭壇」へと至るために。黒曜石の影は、静かに戦闘態勢を整え、深海の守護者へと挑みかかろうとしていた。海の底に眠る古代の秘密が、今、開かれようとしている。

名前: オブシディアン
種族: アビス・スライム
称号: 影に潜む者 (効果向上), 墓守殺し, 深淵を宿す者, 竜殺し, 風を征す者, 炎心を識る者, ヒュドラ・ベイン
所属: 未定義

【能力値】
体力: 33
魔力容量: 44
物理攻撃力: 9
物理防御力: 19
魔法攻撃力: 15
魔法防御力: 27
素早さ: 21

【スキル】
・捕食吸収 Lv.3
・万象擬態 Lv.1
・生物発光 Lv.1 (微光 Lv.1と統合)
・闇視 Lv.1
・噛みつき耐性(微) Lv.1
・跳躍 Lv.1
・嗅覚強化 Lv.1
・糸生成 Lv.2
・毒耐性(大) Lv.1
・金剛鱗 Lv.1 (水圧耐性(小)を統合・強化)
・爪撃 Lv.2
・腐食溶解液 Lv.1
・物理耐性(小) Lv.1
・物質生成(初級) Lv.1
・アンデッド耐性(微) Lv.1
・死霊魔術(初級) Lv.1
・精神耐性(中) Lv.1
・ブレス耐性(大) Lv.1
・怨念耐性(小) Lv.1
・深淵の核 Lv.1
・統率力(微) Lv.1
・水中機動(小) Lv.1
・粘液噴射 Lv.1
・麻痺耐性(小) Lv.1
・壁面歩行(小) Lv.1
・鎌鼬 Lv.1
・蟲の共鳴 Lv.1
・威圧 Lv.1
・猛禽の目 Lv.1
・古代言語解読(初級) Lv.1 -> Lv.3
・魅了耐性(微) Lv.1
・突風耐性(小) Lv.1
・風操作(小) Lv.1
・火炎耐性(極) Lv.1
・熱源感知 Lv.1
・エレメンタル知識(風) Lv.1
・エレメンタル知識(炎) Lv.1 -> Lv.2
・自己再生(小) Lv.1
・火炎ブレス Lv.1
・墨噴射 Lv.1
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...