【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ

文字の大きさ
16 / 90

第16話:森の異変と新たな気配

しおりを挟む
リアムとルナが辺境の森に拠点を構えてから、いくつもの月が満ち欠けした。彼らの生活は、驚くほど安定していた。リアムの《概念創造》は日進月歩で洗練され、生活に必要な物資だけでなく、小屋の増築や畑の改良など、生活環境そのものを向上させていた。ルナもまた、魔法回路補助のブレスレットのおかげで本来の力を取り戻しつつあり、古代魔法の知識を深め、時にはリアムの研究に貴重な助言を与えた。忠実な従者であるアルフレッドとガルムは、変わらず彼らの生活と安全を守り続けていた。

それは、まさに辺境の地に築かれた小さな楽園のようだった。だが、その穏やかな日常に、最近、微かな変化の兆しが現れ始めていた。

「リアム、最近、森の様子が少しおかしい気がするの」
ある日、森の探索から戻ったルナが、少し眉をひそめて言った。彼女は薬草や木の実を探すため、以前よりも少し遠くまで足を延ばすことが増えていた。
「おかしい、とは?」
「見慣れない魔物の痕跡が増えているのよ。それも、あまりこの辺りでは見かけないタイプの……。それに、森の精霊たちが、少し落ち着かない様子なの」
ハイエルフであるルナは、森の微妙な変化や精霊たちの気配に敏感だった。彼女がそう言うからには、何か理由があるのだろう。

リアム自身も、漠然とした空気の変化を感じてはいた。特に、警備ゴーレムのガルムの様子が、以前とは少し違っていた。以前は、明確な脅威が近づかない限り、比較的静かに警戒を続けていたガルムが、最近は特定の方向――森のより深く、人間が踏み入らないような方角――に向かって、頻繁に低い唸り声を上げ、警戒態勢を強めることが増えていたのだ。

「ガルムも、何かを感じ取っているのかもしれないな……」リアムは、拠点の外で見張りについているガルムに視線を向けた。「ただの獣や弱い魔物なら、あそこまで警戒はしないはずだ」

何かが変わりつつある。それが良い変化なのか、悪い変化なのかは分からない。だが、油断はできない。リアムとルナは、これまで以上に周囲への警戒を強めることにした。

そんな矢先のことだった。
その日、リアムとルナは、新たな薬草の群生地を探して、普段よりも少し森の奥へと足を踏み入れていた。アルフレッドとガルムは拠点に残し、二人だけの探索だった。

不意に、遠くから争うような物音が聞こえてきた。
「……今の音は?」リアムが足を止め、耳を澄ます。
「金属がぶつかる音……それに、誰かの怒鳴り声と……悲鳴のようなものも……!」ルナも険しい表情で音のする方向を見つめる。

二人は顔を見合わせた。こんな森の奥深くで争い? いったい誰が、何と戦っているというのか。
「行ってみよう。でも、慎重に」
リアムが短く言うと、ルナも頷いた。二人は息を潜め、音のする方へと慎重に近づいていった。木々や茂みを盾にしながら、できるだけ気配を殺して進む。

物音は次第に大きくなり、状況が少しずつ見えてきた。複数の男たちの荒々しい声、そして、それに抗うような、若い少女の声。
「このクソ生意気な獣人め! さっさと諦めろ!」
「放せ! 触るな!」
「へへ、威勢がいいじゃねえか。だが、その首輪がある限り、お前は俺たちのモンだぜ?」

リアムとルナは、大きな木の陰から、そっとその光景を目の当たりにした。
そこには、五人の屈強な男たちがいた。革鎧を身に着け、剣や棍棒で武装している。彼らは、一人の少女を取り囲んでいた。

少女は、見たところリアムたちと同じくらいの歳だろうか。ボロボロの服をまとい、手足には痛々しい傷がある。そして何より目を引いたのは、頭から生えた虎のような耳と、背後で揺れるふさふさとした尻尾――彼女は、獣人だった。首には、見るからに頑丈そうな金属製の首輪が嵌められ、そこから伸びる鎖を、男の一人が握りしめている。

「奴隷商人……!」リアムは、思わず歯噛みした。貴族社会の暗部として、奴隷の存在は知っていた。特に亜人種は、その身体能力や希少性から、高値で取引されることがあるという。目の前の光景は、まさにその非道な現実だった。

少女――虎の獣人である彼女は、絶望的な状況にもかかわらず、必死に抵抗していた。鋭い爪を剥き出しにして男たちを威嚇し、素早い動きで攻撃をかわそうとする。だが、多勢に無勢、しかも鎖で動きを制限されている。男たちの一人が棍棒を振り上げ、少女の肩を殴りつけた。
「ぐっ……!」
少女は苦痛の声を上げ、地面に膝をついた。それでも、その瞳はまだ諦めていない。憎悪と反抗心に満ちた目で、男たちを睨みつけている。

「ちっ、手こずらせやがって……さっさと薬で眠らせるか?」
「待てよ、もったいねえ。少し痛めつけて、どっちが上か教えてやるのも一興だろ?」
男たちは、下卑た笑みを浮かべながら、じりじりと少女に近づいていく。

リアムは、拳を強く握りしめていた。怒りが腹の底から込み上げてくる。理不尽な暴力、弱者を蹂躙する非道。彼自身が経験した追放の記憶とも重なり、見過ごすことができなかった。

隣のルナも、唇を噛み締め、男たちを鋭い目で見つめていた。彼女の瞳には、人間への根深い不信感と、そして同じように虐げられる存在への強い共感が浮かんでいた。彼女の故郷が人間に襲われた記憶が、蘇っているのかもしれない。

助けるべきか?
相手は武装した五人の男たちだ。リアムの《概念創造》は強力だが、戦闘に特化しているわけではない。ルナの魔法も、多人数を相手にするには未知数だ。下手に手を出せば、自分たちまで危険に晒されることになる。このまま見過ごし、自分たちの平穏を守るべきか?

いや――。

リアムは首を振った。見過ごすことなど、できるはずがなかった。ここで見て見ぬふりをしたら、自分は何のためにこの力を得たのか。何のために、この辺境で生き抜こうと決めたのか。それは、自分自身への裏切りになる。

リアムは、隣のルナに視線を送った。彼女もまた、同じ決意を固めた目をしていた。言葉はなくても、二人の意志は一つだった。

「……助けよう、ルナ」
「……ええ、リアム」

二人は、静かに頷き合った。目の前で行われている非道に、介入する覚悟を決めたのだ。
茂みの陰で、リアムは《概念創造》の力を、ルナは古代魔法の呪文を、静かに練り上げ始めた。奴隷商人たちは、まだ背後に迫る二つの静かな脅威に気づいていない。獣人の少女の瞳に、一瞬、諦めの色がよぎった、その時だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました

黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった! これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...