【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ

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第17話:解放の戦い

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「さあ、お嬢ちゃん、そろそろ観念しな」
奴隷商人のリーダー格らしき、顔に傷のある大男が、下卑た笑みを浮かべて獣人の少女に手を伸ばした。少女は最後の抵抗を試みようと身構えるが、既に体力も限界に近いのか、その動きには力がない。

まさにその瞬間だった。

「――そこまでだ!」

凛とした声と共に、茂みからリアムが飛び出した。手には、《概念創造》で瞬時に生み出した、頑丈な木の棒――いや、それはただの棒ではなかった。リアムが「硬く、重く、相手を打ち据えるのに適した棍棒」という概念を付与した、見た目以上の強度と重量を持つ特製の武器だ。

突然の乱入者に、奴隷商人たちは驚き、動きを止めた。
「な、なんだ、てめえ!?」
「どこから現れた!」

リアムは、彼らの動揺を見逃さなかった。狙うは、少女の鎖を握っている男だ。
「はあっ!」
気合一閃、リアムは男の腕を目掛けて棍棒を振り下ろした。男は咄嗟に腕でガードしようとしたが、リアムの棍棒は、見た目からは想像もつかない重さと硬度を持っていた。

ゴッ! という鈍い音と共に、男の腕が不自然な方向に曲がり、悲鳴が上がる。
「ぐあああっ! 俺の腕が!」
男は鎖を手放し、腕を押さえてうずくまった。

「な、何をしやがる!」
残りの四人の奴隷商人が、怒りの形相でリアムに襲い掛かろうとした。

だが、彼らが動き出すよりも早く、第二の矢が放たれた。
「――【風縛(ウィンドバインド)】!」

ルナの声が響くと同時に、奴隷商人たちの足元から突風が巻き起こった。風は見えない縄のように彼らの足に絡みつき、動きを封じる。
「うおっ!?」
「な、なんだこりゃ! 動けねえ!」
男たちはバランスを崩し、その場に転倒したり、身動きが取れなくなったりした。これは、ルナが得意とする古代魔法の一つ、風の精霊の力を借りて相手を拘束する魔法だった。

「今よ、リアム!」
「ああ!」

リアムは、動けなくなった奴隷商人たちに容赦なく追撃を加えた。狙うのは武器を持つ手や足。棍棒で的確に打ち据え、戦闘能力を奪っていく。リアムは戦闘の素人だが、《概念創造》で強化された棍棒の威力は絶大で、しかも相手は身動きが取れない。抵抗らしい抵抗もできず、男たちは次々と呻き声を上げて沈黙していった。

あっという間の出来事だった。ほんの数分前まで、絶望的な状況にいたはずの獣人の少女は、目の前で繰り広げられた光景に、ただ呆然としていた。いきなり現れた少年とエルフの少女が、自分を捕らえていた屈強な男たちを、瞬く間に打ち倒してしまったのだから。

リアムは、最後に残ったリーダー格の男――顔に傷のある大男――の前に立った。男は、風縛からなんとか抜け出そうともがいていたが、ルナが魔力を込め続ける限り、それは不可能だった。
「くそっ……何者だ、てめえら……!」男は憎々しげにリアムを睨みつける。
「通りすがりだ。だが、お前たちのやっていることは見過ごせない」リアムは冷たく言い放った。「この子を解放しろ」

「ふざけるな! こいつは俺たちが買った商品だぞ! 金を払ったんだ!」
「奴隷が合法だとしても、こんな扱いが許されるわけがないだろう」

リアムは、うずくまっている少女に視線を移した。彼女は、まだ警戒心を解いていない様子で、リアムとルナを交互に見ている。
リアムは《概念創造》を発動し、「頑丈な金属を切断できる、小型のカッター」をイメージして創り出した。手のひらに現れた、ペンチのような形状の道具を手に、少女に近づく。

少女の体がびくりと震えた。リアムは、できるだけ穏やかな声で話しかけた。
「大丈夫だ。その首輪を外してやる」
少女は戸惑いながらも、リアムの目を見て、小さく頷いた。リアムは慎重に、首輪の金属部分にカッターの刃を当て、力を込める。

バチン! という硬い音と共に、首輪はあっけなく切断された。
自由になった少女は、信じられないといった表情で、自分の首元に触れた。長年、彼女を縛り付けていた重荷が、取り払われた瞬間だった。

「さあ、もう大丈夫だ」リアムは少女に手を差し伸べた。
少女は、しばらくリアムの手と顔を見比べていたが、やがておずおずとその手を取った。彼女の手は、小さく、そして震えていた。

「て、てめえら……覚えてやがれ……!」
リーダー格の男が、捨て台詞を吐いた。リアムは男を一瞥し、ルナに合図を送る。
「ルナ、もういいだろう」
ルナが頷くと、風縛の魔法が解かれた。男たちは、まだ痛みで動けない者もいたが、リーダー格の男は、這うようにして仲間を助け起こし、リアムたちを睨みつけながらも、逃げるように森の奥へと去っていった。追い打ちをかけることもできたが、リアムはそれを選ばなかった。今は、少女の安全が最優先だ。

奴隷商人たちが姿を消すと、森には静寂が戻った。残されたのは、リアムとルナ、そして解放されたばかりの獣人の少女だけだった。

少女は、まだ状況が飲み込めていないのか、不安そうな目で周囲を見回している。
「……あの……あなたは……?」
か細い声で、少女が尋ねた。
「俺はリアム。こっちはルナ」リアムは自己紹介した。「君は?」

少女は、少し躊躇った後、小さな声で答えた。
「……ミリア……」

ミリア、と名乗った獣人の少女。彼女の虎のような耳が、ぴくりと動いた。その瞳には、まだ警戒の色が残っていたが、先ほどまでの絶望感は消え、リアムとルナに対する好奇心のようなものが浮かんでいた。

「怪我は大丈夫か?」リアムが尋ねる。ミリアの肩には、棍棒で殴られた痣ができていたし、手足には擦り傷や切り傷も多い。
ミリアはこくりと頷いた。
「……ありがとう……助けてくれて……」

「どういたしまして」ルナが、優しい声で言った。「でも、これからどうするの? 行く当てはあるの?」
ルナの言葉に、ミリアの表情が曇った。彼女は力なく首を振る。
「……わからない……。私は、ずっと……奴隷だったから……」

彼女の境遇を察し、リアムとルナは顔を見合わせた。このまま彼女を一人で放り出すわけにはいかない。
リアムは決断した。
「ミリア、もし行く当てがないのなら、俺たちのところに来ないか? 安全な場所だし、怪我の手当てもできる。君が望むなら、だけど」

ミリアは、驚いたようにリアムの顔を見た。人間とエルフが、自分を誘ってくれている? 信じられない、という表情だ。
「……いいの……? 私は、獣人だよ……?」
「種族なんて関係ないさ」リアムはきっぱりと言った。「困っている人がいたら、助ける。それだけだ」
隣でルナも頷いている。

ミリアの大きな瞳から、ぽろぽろと涙が溢れ出した。それは、悲しみの涙ではなく、安堵と、そして生まれて初めて向けられたかもしれない優しさに対する、感謝の涙だった。
彼女は、何度も頷いた。
「……行く……! 連れてって……!」

こうして、リアムとルナの小さなコミュニティに、新たな仲間が加わることになった。虎の獣人、ミリア。彼女の過去はまだ謎に包まれているが、その瞳の奥には、強い意志と、そして隠された何かが宿っているように、リアムには感じられた。
辺境の森での彼らの物語は、また一つ、新たな局面を迎えようとしていた。森の奥で起きたこの出来事が、彼らの未来にどのような影響を与えていくのか、それはまだ誰にも分からなかった。
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