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第62話:囚われの刃、背後の影
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アークライト領を襲った刺客たち。リーダー格こそ逃したものの、四名を捕縛または無力化するという結果は、領地の防衛能力の高さを証明すると同時に、外部からの明確な敵意が存在することを、住民たちにもはっきりと知らしめることになった。一夜明けた領内は、昨夜の騒動の余波で、いつもとは違う緊張感に包まれていた。
「まさか、本当に刺客が送り込まれてくるなんて……」
「でも、リアム様とミリア隊長たちが、見事に撃退してくれたんだ!」
「俺たちの領地は、ちゃんと守られてるってことだな!」
住民たちの間では、不安と安堵、そして領主や警備隊への信頼が入り混じった会話が交わされていた。
リアムは、セレスティアと共に、捕らえた刺客たちの尋問にあたっていた。刺客たちは、領地の一角に急遽設けられた、厳重な監視下にある牢(リアムが《概念創造》で強化し、ドルガンが特殊な鍵を取り付けたものだ)に収容されていた。彼らは、いずれも口が堅く、拷問まがいの尋問(リアムはそれを望まなかったが、セレスティアは必要悪としていくつかの「心理的な圧迫」を試みていた)にも、なかなか口を割ろうとしなかった。
「ふん、我々を誰だと思っている。口を割るくらいなら、死を選ぶわ」
意識を取り戻した刺客の一人(腕を砕かれた男だ)は、憎々しげにリアムたちを睨みつけた。彼らには、依頼主に対する強い忠誠心か、あるいは裏切りが発覚した場合の報復への恐怖があるのだろう。
「死を選ぶ、ですか。それは感心しませんわね」セレスティアは、冷ややかに微笑んだ。「あなた方がここで無様に命を落としたところで、あなた方を送り込んだどなたかは、痛くも痒くもないでしょうに。むしろ、口封じができて好都合、と考えるかもしれませんわよ?」
彼女は、巧みな言葉で相手の心理を揺さぶろうとする。
「ですが、もし、あなた方が我々に協力的な姿勢を見せるのであれば……。例えば、あなた方の依頼主に関する情報を提供してくださるなら、我々も、あなた方の今後の処遇について、多少の『配慮』をしないでもありませんわ。例えば、命は助け、身分を隠してこのアークライト領で新たな人生を始める、とかね」
セレスティアの言葉は、単なる脅しではなく、現実的な「取引」の提案でもあった。刺客たちも、生きていればやり直せるかもしれない、という考えが頭をよぎったのか、わずかに動揺する様子を見せた。
「……誰が、お前たちのような辺境の者たちの甘言に乗るものか」
それでも、彼らは抵抗を続ける。だが、セレスティアは諦めなかった。彼女は、一人ひとりの刺客と根気強く向き合い、彼らの経歴や性格(鑑定眼で読み取った情報も加味しながら)に合わせて、時には同情を誘い、時には恐怖心を煽り、時には利益をちらつかせ、巧みに情報を引き出そうと試みた。
リアムは、その尋問の様子を傍らで見守っていた。セレスティアの冷徹とも言える手腕には、正直、少し複雑な思いもあった。だが、領地を守るためには、必要なことだと理解していた。そして、セレスティアが、決して無意味な暴力や拷問に頼らず、あくまで心理的な駆け引きと情報分析によって相手を追い詰めようとしていることに、彼女なりの矜持のようなものも感じていた。
数日間の粘り強い尋問の末、ついに、刺客の一人が口を割った。それは、戦闘で負傷し、アルバンによる治療(もちろん、監視下でだ)を受けていた、比較的若い刺客だった。彼は、死の恐怖と、セレスティアが提示した「新たな人生」の可能性との間で心が揺れ動き、最終的に依頼主の名を白状したのだ。
「……俺たちを雇ったのは……王都の……アークライト伯爵家の……アルフォンス様だ……」
その名前が出た瞬間、リアムの表情が凍りついた。やはり、兄だったのだ。
「アルフォンス様は……最近、ご自身の立場が危うくなっており、焦っておられた……。辺境で成功しているという『弟』の存在が、我慢ならなかったようだ……。『少し灸を据えてやれ。できれば、再起不能にしてしまえ』と……そう、命じられた……」
若い刺客は、堰を切ったように、知っている情報を全て話し始めた。アルフォンスが、リアムへの嫉妬と焦りから、闇ギルドを通じて彼らを雇ったこと。作戦の目的が、リアムの暗殺と領地の破壊工作であったこと。そして、リーダー格の男(逃げ延びた男だ)の名前が「ゼノ」であること。さらに、アルフォンスが、今回の失敗を受けて、さらなる手段を講じる可能性が高いこと……。
情報は、リアムが予想していた以上に、具体的で、そして重いものだった。自分の実の兄が、明確な殺意を持って自分を狙っている。その事実が、リアムの胸に冷たい刃のように突き刺さった。
報告を受けたルナとミリアも、衝撃を受けていた。
「なんてこと……実の弟に対して、そんな……」ルナは、信じられないといった表情で呟いた。
「ひどい……! リアムさんを殺そうとしたなんて、絶対に許せない!」ミリアは、怒りで拳を震わせた。
「……これで、はっきりしましたわね」セレスティアは、冷静さを保ちながらも、その瞳には怒りの色が浮かんでいた。「我々の敵は、アークライト伯爵家の次男、アルフォンス・アークライト。彼は、今後も様々な手段で、我々アークライト領を潰しにかかってくるでしょう。我々は、もはや防御一辺倒ではいられません。こちらからも、積極的に情報を収集し、対抗策を講じる必要がありますわ」
彼女の言葉は、アークライト領が新たな段階――王国貴族との、明確な対立の段階――へと突入したことを示唆していた。
リアムは、しばらく黙って考え込んでいた。兄への怒り、悲しみ、そして失望。様々な感情が渦巻いていた。だが、彼は領主だ。個人的な感情に流されている場合ではない。
彼は顔を上げ、決意を秘めた目で仲間たちを見渡した。
「……分かった。セレスティア、君の言う通りだ。守ってばかりでは、いずれ押し切られる。こちらからも動こう」
彼は、具体的な指示を出した。
「まず、捕らえた刺客たちから、さらに詳細な情報を引き出す。アルフォンスの動向、彼が利用している闇ギルド、そして逃げたリーダー『ゼノ』の行方。口を割った刺客には、約束通り、厳重な監視下で領内での労働を許可する。他の者たちは……処遇は追って決める」
「ルナ、君には王国や貴族社会に関する古代の知識がないか、改めて調べてもらいたい。何か、アルフォンスや彼を取り巻く状況に対抗できるような、魔法や知恵があるかもしれない」
「ミリア、警備隊の練度をさらに上げろ。アルフォンスが次の手を打ってくるとしたら、もっと大規模な、あるいはもっと巧妙な攻撃になる可能性がある。領地の守りを、盤石にするんだ」
「ドルガン殿には、引き続き装備の開発と改良をお願いしたい。特に、個々の戦闘能力を高めるだけでなく、集団戦や防衛戦に役立つような、新しい発想の武器や仕掛けも必要になるだろう」
「そして、セレスティア。君には、王国、特に王都とアークライト伯爵家の内情を探るための『情報網』の構築を始めてほしい。行商人マルコや、他の協力者を使ってもいい。金も、必要な資材も、俺が用意する。敵を知らなければ、戦うことはできない」
リアムの指示は、明確で、迷いがなかった。彼は、兄との対決という辛い現実を受け止め、領主として、領地と民を守るための最善の策を講じようとしていた。
仲間たちも、彼の決意に応え、力強く頷いた。それぞれの持ち場で、全力を尽くす。それが、領主リアムを支え、アークライト領を守るための、彼らの答えだった。
囚われの刃からもたらされた情報は、アークライト領に衝撃を与えた。しかし、それは同時に、彼らの結束をさらに強め、明確な敵の存在を認識させることで、次なる行動への指針を与えた。
背後に潜む影――アルフォンス・アークライト。その存在は、アークライト領にとって避けられない脅威となった。だが、リアムと仲間たちは、もはや一方的に攻撃されるだけの存在ではない。彼らは、知恵と、力と、そして強い絆で結ばれた、独立した勢力なのだ。
領主リアム・アークライトの決意の下、アークライト領は、守りから攻めへと、その姿勢を転換し始める。王国や実家の内情を探り、対抗策を練り、そして来るべき時に備える。その動きは、まだ水面下で静かに進められるが、やがて大きなうねりとなり、王国全体を揺るがすことになるのかもしれない。
執務室の窓から見えるアークライト領の空は、嵐の前の静けさを湛えているようだった。リアムは、その空を見上げながら、静かに、しかし強く、拳を握りしめた。戦いの幕は、静かに上がろうとしていた。
「まさか、本当に刺客が送り込まれてくるなんて……」
「でも、リアム様とミリア隊長たちが、見事に撃退してくれたんだ!」
「俺たちの領地は、ちゃんと守られてるってことだな!」
住民たちの間では、不安と安堵、そして領主や警備隊への信頼が入り混じった会話が交わされていた。
リアムは、セレスティアと共に、捕らえた刺客たちの尋問にあたっていた。刺客たちは、領地の一角に急遽設けられた、厳重な監視下にある牢(リアムが《概念創造》で強化し、ドルガンが特殊な鍵を取り付けたものだ)に収容されていた。彼らは、いずれも口が堅く、拷問まがいの尋問(リアムはそれを望まなかったが、セレスティアは必要悪としていくつかの「心理的な圧迫」を試みていた)にも、なかなか口を割ろうとしなかった。
「ふん、我々を誰だと思っている。口を割るくらいなら、死を選ぶわ」
意識を取り戻した刺客の一人(腕を砕かれた男だ)は、憎々しげにリアムたちを睨みつけた。彼らには、依頼主に対する強い忠誠心か、あるいは裏切りが発覚した場合の報復への恐怖があるのだろう。
「死を選ぶ、ですか。それは感心しませんわね」セレスティアは、冷ややかに微笑んだ。「あなた方がここで無様に命を落としたところで、あなた方を送り込んだどなたかは、痛くも痒くもないでしょうに。むしろ、口封じができて好都合、と考えるかもしれませんわよ?」
彼女は、巧みな言葉で相手の心理を揺さぶろうとする。
「ですが、もし、あなた方が我々に協力的な姿勢を見せるのであれば……。例えば、あなた方の依頼主に関する情報を提供してくださるなら、我々も、あなた方の今後の処遇について、多少の『配慮』をしないでもありませんわ。例えば、命は助け、身分を隠してこのアークライト領で新たな人生を始める、とかね」
セレスティアの言葉は、単なる脅しではなく、現実的な「取引」の提案でもあった。刺客たちも、生きていればやり直せるかもしれない、という考えが頭をよぎったのか、わずかに動揺する様子を見せた。
「……誰が、お前たちのような辺境の者たちの甘言に乗るものか」
それでも、彼らは抵抗を続ける。だが、セレスティアは諦めなかった。彼女は、一人ひとりの刺客と根気強く向き合い、彼らの経歴や性格(鑑定眼で読み取った情報も加味しながら)に合わせて、時には同情を誘い、時には恐怖心を煽り、時には利益をちらつかせ、巧みに情報を引き出そうと試みた。
リアムは、その尋問の様子を傍らで見守っていた。セレスティアの冷徹とも言える手腕には、正直、少し複雑な思いもあった。だが、領地を守るためには、必要なことだと理解していた。そして、セレスティアが、決して無意味な暴力や拷問に頼らず、あくまで心理的な駆け引きと情報分析によって相手を追い詰めようとしていることに、彼女なりの矜持のようなものも感じていた。
数日間の粘り強い尋問の末、ついに、刺客の一人が口を割った。それは、戦闘で負傷し、アルバンによる治療(もちろん、監視下でだ)を受けていた、比較的若い刺客だった。彼は、死の恐怖と、セレスティアが提示した「新たな人生」の可能性との間で心が揺れ動き、最終的に依頼主の名を白状したのだ。
「……俺たちを雇ったのは……王都の……アークライト伯爵家の……アルフォンス様だ……」
その名前が出た瞬間、リアムの表情が凍りついた。やはり、兄だったのだ。
「アルフォンス様は……最近、ご自身の立場が危うくなっており、焦っておられた……。辺境で成功しているという『弟』の存在が、我慢ならなかったようだ……。『少し灸を据えてやれ。できれば、再起不能にしてしまえ』と……そう、命じられた……」
若い刺客は、堰を切ったように、知っている情報を全て話し始めた。アルフォンスが、リアムへの嫉妬と焦りから、闇ギルドを通じて彼らを雇ったこと。作戦の目的が、リアムの暗殺と領地の破壊工作であったこと。そして、リーダー格の男(逃げ延びた男だ)の名前が「ゼノ」であること。さらに、アルフォンスが、今回の失敗を受けて、さらなる手段を講じる可能性が高いこと……。
情報は、リアムが予想していた以上に、具体的で、そして重いものだった。自分の実の兄が、明確な殺意を持って自分を狙っている。その事実が、リアムの胸に冷たい刃のように突き刺さった。
報告を受けたルナとミリアも、衝撃を受けていた。
「なんてこと……実の弟に対して、そんな……」ルナは、信じられないといった表情で呟いた。
「ひどい……! リアムさんを殺そうとしたなんて、絶対に許せない!」ミリアは、怒りで拳を震わせた。
「……これで、はっきりしましたわね」セレスティアは、冷静さを保ちながらも、その瞳には怒りの色が浮かんでいた。「我々の敵は、アークライト伯爵家の次男、アルフォンス・アークライト。彼は、今後も様々な手段で、我々アークライト領を潰しにかかってくるでしょう。我々は、もはや防御一辺倒ではいられません。こちらからも、積極的に情報を収集し、対抗策を講じる必要がありますわ」
彼女の言葉は、アークライト領が新たな段階――王国貴族との、明確な対立の段階――へと突入したことを示唆していた。
リアムは、しばらく黙って考え込んでいた。兄への怒り、悲しみ、そして失望。様々な感情が渦巻いていた。だが、彼は領主だ。個人的な感情に流されている場合ではない。
彼は顔を上げ、決意を秘めた目で仲間たちを見渡した。
「……分かった。セレスティア、君の言う通りだ。守ってばかりでは、いずれ押し切られる。こちらからも動こう」
彼は、具体的な指示を出した。
「まず、捕らえた刺客たちから、さらに詳細な情報を引き出す。アルフォンスの動向、彼が利用している闇ギルド、そして逃げたリーダー『ゼノ』の行方。口を割った刺客には、約束通り、厳重な監視下で領内での労働を許可する。他の者たちは……処遇は追って決める」
「ルナ、君には王国や貴族社会に関する古代の知識がないか、改めて調べてもらいたい。何か、アルフォンスや彼を取り巻く状況に対抗できるような、魔法や知恵があるかもしれない」
「ミリア、警備隊の練度をさらに上げろ。アルフォンスが次の手を打ってくるとしたら、もっと大規模な、あるいはもっと巧妙な攻撃になる可能性がある。領地の守りを、盤石にするんだ」
「ドルガン殿には、引き続き装備の開発と改良をお願いしたい。特に、個々の戦闘能力を高めるだけでなく、集団戦や防衛戦に役立つような、新しい発想の武器や仕掛けも必要になるだろう」
「そして、セレスティア。君には、王国、特に王都とアークライト伯爵家の内情を探るための『情報網』の構築を始めてほしい。行商人マルコや、他の協力者を使ってもいい。金も、必要な資材も、俺が用意する。敵を知らなければ、戦うことはできない」
リアムの指示は、明確で、迷いがなかった。彼は、兄との対決という辛い現実を受け止め、領主として、領地と民を守るための最善の策を講じようとしていた。
仲間たちも、彼の決意に応え、力強く頷いた。それぞれの持ち場で、全力を尽くす。それが、領主リアムを支え、アークライト領を守るための、彼らの答えだった。
囚われの刃からもたらされた情報は、アークライト領に衝撃を与えた。しかし、それは同時に、彼らの結束をさらに強め、明確な敵の存在を認識させることで、次なる行動への指針を与えた。
背後に潜む影――アルフォンス・アークライト。その存在は、アークライト領にとって避けられない脅威となった。だが、リアムと仲間たちは、もはや一方的に攻撃されるだけの存在ではない。彼らは、知恵と、力と、そして強い絆で結ばれた、独立した勢力なのだ。
領主リアム・アークライトの決意の下、アークライト領は、守りから攻めへと、その姿勢を転換し始める。王国や実家の内情を探り、対抗策を練り、そして来るべき時に備える。その動きは、まだ水面下で静かに進められるが、やがて大きなうねりとなり、王国全体を揺るがすことになるのかもしれない。
執務室の窓から見えるアークライト領の空は、嵐の前の静けさを湛えているようだった。リアムは、その空を見上げながら、静かに、しかし強く、拳を握りしめた。戦いの幕は、静かに上がろうとしていた。
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