捨てられ王女ですが、もふもふ達と力を合わせて最強の農業国家を作ってしまいました

夏見ナイ

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第二十三話 噂の始まり

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私たちの共同体を覆っていた猛烈な吹雪は、数週間続いた後にようやくその勢力を弱めた。鉛色の雲の切れ間からは、久しぶりに弱々しいながらも太陽の光が差し込み、雪に覆われた荒野を白銀の世界へと変えた。

冬ごもりのような生活から解放され、私たちは再び活発に動き始めた。ギルバートとガルフは雪の上を歩くための「かんじき」を器用に作り上げ、雪に足を取られることなく狩りに出かけていく。雪の下で冬眠していた獣たちは動きが鈍く、狩りの成果は上々だった。

温室の中は相変わらず春爛漫で、作物は途切れることなく実り続けた。新鮮な野菜と豊富な肉。私たちの食生活は、王都の貴族たちよりもよほど豊かだったかもしれない。

ガンツは、ミスリルの鉱脈から新たな鉱石を掘り出しては、農具の改良や、生活を便利にするための道具作りに没頭していた。彼の手によって、切れ味の鋭い包丁や、頑丈な鍋、そして子供たちのための小さな鉄の玩具などが次々と生み出されていった。

そんな穏やかで生産的な日々が続いていたある日、共同体に小さな変化が訪れた。

ピピ、ピィ!

空の番人ピピが、いつもとは違う短い鳴き声を繰り返しながら、私たちの頭上を旋回している。彼の視線は、遥か南、クローデル王国へと続く道の方角に向けられていた。
「どうしたんだろう、ピピ」
私が空を見上げると、ピピは何かを知らせるように、さらに高く鳴き声を上げた。

その日の夕方、ガルフが狩りから戻ってきた時、その謎は解けた。
「アリシア様、ギルバート様!大変です!」
彼は息を切らし、興奮した様子でログハウスに駆け込んできた。
「森の南の端、王国との境に近い場所で、人間の足跡を見つけました。それも、一つや二つではありません。十数人……いや、もっと多いかもしれません」

その報告に、室内の空気が一瞬で緊張した。
「人間だと?」
ギルバートの目が鋭く光る。
「斥候か、あるいは盗賊か……。いずれにせよ、我々の存在が外部に知られた可能性が高い」

ガンツが、ふんと鼻を鳴らした。
「だろうな。こんだけ豊かな暮らしをしていれば、噂の一つや二つ、風に乗って流れてもおかしくねえ」

彼の言う通りだった。私たちは、この辺境でひっそりと暮らしているつもりだったが、私たちの生活が放つ「豊かさ」の匂いは、私たちが思う以上に遠くまで届いていたのかもしれない。

ガルフは、さらに詳しい情報を続けた。
「足跡は、私たちの拠点までは来ていませんでした。森の入り口で引き返したようです。おそらく、森のあまりの変貌ぶりに恐れをなしたか、あるいは魔獣を警戒したのでしょう。ですが、彼らが我々の畑や温室を目撃した可能性は否定できません」

「つまり、彼らは『辺境に緑豊かな土地がある』という断片的な情報だけを持って帰った、と」
ギルバTバートは腕を組み、冷静に状況を分析する。
「厄介なことになりましたな。曖昧な情報は、人々の想像力を掻き立て、尾ひれがついて広まるものです」

彼の予測は、まさに的を射ていた。

その頃、辺境に最も近いクローデル王国の町では、一つの奇妙な噂が人々の間で囁かれ始めていた。
それは、冬の食料を探しに辺境近くまで足を踏み入れた数人の猟師たちが持ち帰った、信じがたい話だった。

「聞いたか? あの不毛の辺境で、森を見たって話だ」
酒場の片隅で、一人の男が声を潜めて仲間たちに語る。
「馬鹿言え。あそこにあるのは岩と枯れ草だけだ。何かの見間違いだろう」
「いや、それが本当らしいんだ。冬だというのに青々とした葉を茂らせた、気味の悪い森だったそうだ。あまりに不気味で、誰も中には入れなかったらしいがな」

別のテーブルでは、行商人たちが眉唾物の情報を交換していた。
「俺が聞いた話じゃ、森だけじゃないらしいぜ。辺境の奥地で、夜になると緑色の光が灯るのを見たって奴がいる。まるで、巨大な宝石が輝いているようだったってな」
「緑色の光? そりゃ一体……」

噂は、人から人へと伝わるうちに、どんどんその形を変えていった。

「辺境には、宝の山を守る恐ろしい魔女が住んでいるらしい」
「いや、美しい女神様がいて、訪れる者に永遠の若さを与えてくれる泉を守っているとか」
「どちらにせよ、普通じゃない何かが起きているのは確かだ」

『辺境に魔女が住む豊かな土地がある』

その噂は、冬の寒さと食料不足に喘ぐ人々の心に、強い興味と、そしてわずかな希望の火を灯した。圧政に苦しむ農民、仕事を失った傭兵、そしてただ現状から逃げ出したいだけの者たち。彼らにとって、その噂は危険な魅力に満ちていた。

私たちは、自分たちの知らないところで、そんな噂が生まれ、広まり始めていることなど知る由もなかった。
ただ、ピピの警戒する鳴き声の頻度が少しずつ増えていくことに、ギルバートだけが気づき、共同体の周囲の警備を静かに強化し始めていた。

厳しい冬は、まだ終わらない。
そして、その冬の向こう側から、新たな変化の波が、私たちの小さな楽園に向かって、静かに押し寄せようとしていた。
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