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第24話:支配者と開拓者
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海底神殿ポセイドニアの深奥。世界の運営記録が眠る水晶の間で、二つのギルドは完全な敵として対峙した。片方は、世界の秘密を独占し、支配せんとする絶対王者『アヴァロン』。もう一方は、世界の秘密を守り、歪みを正さんとする新進気鋭の開拓者『ジオ・フロンティア』。
「カナデ。貴様の奇跡は、ここで終わる」
ゼノの声は、氷のように冷たかった。彼は、大砂漠での敗北から、多くを学んでいた。
「お前の力は、空間への干渉。ならば、その大元を汚染すれば、何もできまい」
ゼノが懐から取り出したのは、禍々しい紫色の光を放つ、歪んだ金属製の杭だった。それは、彼があの遺跡で得た知識と、アヴァロンの技術力を結集して作り上げた、対カナデ用の決戦兵器。
「『歪みの楔(ディストーション・パイル)』を起動!」
ゼノの号令で、アヴァロンのメンバーたちが、部屋の四方にその杭を打ち込んでいく。杭が起動すると、空間そのものが、まるで油膜を張った水面のように、不気味に揺らぎ始めた。
カナデは、即座に状況を理解した。
(まずい! 空間の座標情報そのものが、ノイズで汚染されていく……!)
この状態では、正確な座標を指定してオブジェクトを創造する『フィールド・クラフト』は、正常に機能しない。彼の最大の武器が、封じられたのだ。
「さあ、ただの土方に戻った気分はどうだ?」
ゼノが嘲笑う。
「総員、攻撃開始! 狙うは地形師カナデ! 他の者は無視しろ!」
アヴァロンのメンバーが、一直線にカナデへと殺到する。その動きは、一点突破に特化した、恐ろしく洗練されたものだった。
「させるか!」
メイプルが、巨大な盾を構えてカナデの前に立ちはだかる。
「シオン、後衛を頼む!」
「了解!」
シオンの矢が、後方から魔法を詠唱しようとしていたアヴァロンの魔術師を正確に射抜き、詠唱を中断させた。
だが、アヴァロンの猛攻は、これまでとはレベルが違った。
「邪魔だ!」
ゼノ自身が先頭に立ち、メイプルの盾に大剣を叩きつける。
「《カラミティ・ストライク》!」
歪みのオーラを纏った一撃。メイプルの盾が、凄まじい音を立てて大きく凹み、彼女のHPゲージが危険域まで一気に減少した。
「がっ……!?」
「メイプル!」
ケンが、回復魔法をかけようとするが、アヴァロンの遊撃部隊が巧みにその射線を塞ぐ。完璧な連携だった。カナデの地形操作というイレギュラーさえなければ、アヴァロンはまさしく無敵のギルドなのだ。
カナデは、歯を食いしばりながら、必死にスキルを発動させようとした。
「『フィールド・クラフト』!」
しかし、彼の足元の地面が、わずかに揺らめくだけで、何も起こらない。スキルが、完全に不発に終わる。
「くそっ……!」
カナデが焦りの色を浮かべた、その時。
「リーダー!」シオンの、鋭い声が響いた。「あなたの力は、地形を『創造』することだけですか?」
「え?」
「違うはずだ。あなたは、砂漠で砂をガラスに変えた。それは、既存の物質の『性質』を変化させる力。創造ではなく、『変成』! それなら、この汚染された空間でも可能なはずだ!」
シオンの言葉に、カナデは雷に打たれたような衝撃を受けた。
そうだ、なぜ気づかなかった。大きくフィールドを創り変えることばかりに気を取られていた。だが、もっとミクロな視点でなら。
ゼノの次なる一撃が、メイプルを仕留めんと迫る。
その瞬間、カナデはゼノの足元の床――神殿を構成する未知の金属――に向かって、手をかざした。
「スキル、『シェイピング』!」
大規模な地形変化ではない。ただ、一点。ゼノの足元の床の『摩擦係数』を、極限までゼロに近づけるという、一点集中の変成。
「なにっ!?」
ゼノの足元が、まるで完璧に磨き上げられた氷のように、ツルリと滑った。彼の完璧な体幹をもってしても、予期せぬ足場の変化には対応できない。渾身の一撃は、大きく軌道を逸らし、あらぬ方向の壁に突き刺さった。
「やった!」
その一瞬の隙を、ジオ・フロンティアは見逃さなかった。
ケンの回復魔法がメイプルに届き、彼女のHPが回復する。
シオンの追撃の矢が、体勢を崩したゼノの鎧の隙間を正確に射抜いた。
「小賢しい真似を……!」
ゼノは、すぐに体勢を立て直すが、彼の顔には初めて焦りの色が浮かんでいた。
「メイプル、ケン、シオンさん! この神殿の床や壁は、全て俺のスキルで『変成』可能です! 足場を、武器に変えましょう!」
「面白そうじゃない!」
「了解した」
戦いの様相が、一変した。
アヴァロンのメンバーが踏み込む床は、突如として粘着質の沼のように変化し、その動きを奪う。彼らが盾にする壁は、ゴムのように変質して攻撃の威力を吸収してしまう。
カナデは、もはや創造主ではなかった。戦場そのものを、自らの手足のように操る、狡猾な魔術師と化していた。
「くそっ、足が……!」
「壁が、変な感触に……!」
アヴァロンのメンバーたちが、次々と混乱に陥る。彼らの完璧な連携が、予測不能なフィールドの変化によって、内側から崩壊していく。
「貴様あああああっ!」
ゼノが、怒りの咆哮を上げてカナデに突進する。
だが、カナデは冷静だった。彼は、自分とゼノとの間にある空間の壁に向かって、スキルを発動させた。
「『シェイピング:鏡面創造』!」
壁が、完璧な鏡へと変貌する。
ゼノが放ったスキル《カラミティ・ストライク》は、鏡の壁に反射され、その軌道を変え、あらぬ方向にいたアヴァロンのメンバーに炸裂した。
「ぐわあああっ!」
味方の誤爆。それは、アヴァロンのメンバーたちの士気を決定的に砕いた。
「……あり得ん。こんな戦い方……」
ゼノは、呆然と立ち尽くす。力で、連携で、そして策で、全てにおいて上回っていたはずだった。だが、この男は、その全てを、戦場のルールそのものを捻じ曲げることで無力化してくる。
カナデは、汗を拭いながら、ゼノを真っ直ぐに見据えた。
「言ったはずです、ゼノさん。力だけでは、辿り着けない場所がある、と」
その時、カナデの懐で『太陽の王の魂晶』が、再び強い光を放った。それは、ゼノたちが打ち込んだ『歪みの楔』に、強く反発するように輝いている。
「……これは」
カナデが魂晶をかざすと、魂晶から放たれた黄金の光が、空間を汚染していた紫色のノイズを浄化し始めた。『歪みの楔』に、亀裂が入っていく。
空間の汚染が晴れれば、カナデの『フィールド・クラフト』が、再び完全な形で使用可能になる。
勝負は、決した。
「……撤退だ」
ゼノは、屈辱に唇を噛み締めながら、全軍に撤退を命じた。
「リーダー!?」
「まだだ……まだ、俺の負けではない……! だが、今は退く!」
アヴァロンの一行が、崩れかけた潜水艦へと撤退していく。その背中に、ジオ・フロンティアは追撃をかけなかった。
だが、戦いが終わったわけではなかった。
ゼノたちが打ち込んだ『歪みの楔』は、破壊される寸前、この神殿のシステムそのものを暴走させてしまったのだ。
ウウウウウウウウウウウウン!
神殿全体が、警告音のような振動を始める。水晶に表示されていたログが、全て真っ赤なエラーコードに変わっていく。
`//WARNING: SYSTEM_INTEGRITY_FAILURE`
`//DEFENSE_SYSTEM: "GUARDIAN_POSEIDON" - ACTIVATING`
`//FINAL_SEQUENCE: START`
神殿の中央、巨大な祭壇の床が、音を立てて開いていく。そして、その下から、海水と共に、神殿そのものと同じ未知の金属でできた、全長五十メートルを超える巨大な機械の巨兵が、ゆっくりと姿を現した。
その両目には、赤いセンサーライトが灯り、ジオ・フロンティアの四人を、排除すべき異物としてロックオンしていた。
「嘘でしょ……。まだ出てくるの……?」
メイプルが、絶望的な声を上げる。
「神殿の、防衛システム……!」
世界の秘密を守る最後の番人が、ついにその姿を現した。
カナデは、消耗しきった仲間たちと、目の前にそびえ立つ絶望的なまでの巨体を見比べた。
ここから生きて帰るには、もはや奇跡を起こすしかない。
彼は、ゴクリと喉を鳴らし、再びつるはしを握りしめた。
本当の深海神殿攻略は、今、ここから始まるのだから。
「カナデ。貴様の奇跡は、ここで終わる」
ゼノの声は、氷のように冷たかった。彼は、大砂漠での敗北から、多くを学んでいた。
「お前の力は、空間への干渉。ならば、その大元を汚染すれば、何もできまい」
ゼノが懐から取り出したのは、禍々しい紫色の光を放つ、歪んだ金属製の杭だった。それは、彼があの遺跡で得た知識と、アヴァロンの技術力を結集して作り上げた、対カナデ用の決戦兵器。
「『歪みの楔(ディストーション・パイル)』を起動!」
ゼノの号令で、アヴァロンのメンバーたちが、部屋の四方にその杭を打ち込んでいく。杭が起動すると、空間そのものが、まるで油膜を張った水面のように、不気味に揺らぎ始めた。
カナデは、即座に状況を理解した。
(まずい! 空間の座標情報そのものが、ノイズで汚染されていく……!)
この状態では、正確な座標を指定してオブジェクトを創造する『フィールド・クラフト』は、正常に機能しない。彼の最大の武器が、封じられたのだ。
「さあ、ただの土方に戻った気分はどうだ?」
ゼノが嘲笑う。
「総員、攻撃開始! 狙うは地形師カナデ! 他の者は無視しろ!」
アヴァロンのメンバーが、一直線にカナデへと殺到する。その動きは、一点突破に特化した、恐ろしく洗練されたものだった。
「させるか!」
メイプルが、巨大な盾を構えてカナデの前に立ちはだかる。
「シオン、後衛を頼む!」
「了解!」
シオンの矢が、後方から魔法を詠唱しようとしていたアヴァロンの魔術師を正確に射抜き、詠唱を中断させた。
だが、アヴァロンの猛攻は、これまでとはレベルが違った。
「邪魔だ!」
ゼノ自身が先頭に立ち、メイプルの盾に大剣を叩きつける。
「《カラミティ・ストライク》!」
歪みのオーラを纏った一撃。メイプルの盾が、凄まじい音を立てて大きく凹み、彼女のHPゲージが危険域まで一気に減少した。
「がっ……!?」
「メイプル!」
ケンが、回復魔法をかけようとするが、アヴァロンの遊撃部隊が巧みにその射線を塞ぐ。完璧な連携だった。カナデの地形操作というイレギュラーさえなければ、アヴァロンはまさしく無敵のギルドなのだ。
カナデは、歯を食いしばりながら、必死にスキルを発動させようとした。
「『フィールド・クラフト』!」
しかし、彼の足元の地面が、わずかに揺らめくだけで、何も起こらない。スキルが、完全に不発に終わる。
「くそっ……!」
カナデが焦りの色を浮かべた、その時。
「リーダー!」シオンの、鋭い声が響いた。「あなたの力は、地形を『創造』することだけですか?」
「え?」
「違うはずだ。あなたは、砂漠で砂をガラスに変えた。それは、既存の物質の『性質』を変化させる力。創造ではなく、『変成』! それなら、この汚染された空間でも可能なはずだ!」
シオンの言葉に、カナデは雷に打たれたような衝撃を受けた。
そうだ、なぜ気づかなかった。大きくフィールドを創り変えることばかりに気を取られていた。だが、もっとミクロな視点でなら。
ゼノの次なる一撃が、メイプルを仕留めんと迫る。
その瞬間、カナデはゼノの足元の床――神殿を構成する未知の金属――に向かって、手をかざした。
「スキル、『シェイピング』!」
大規模な地形変化ではない。ただ、一点。ゼノの足元の床の『摩擦係数』を、極限までゼロに近づけるという、一点集中の変成。
「なにっ!?」
ゼノの足元が、まるで完璧に磨き上げられた氷のように、ツルリと滑った。彼の完璧な体幹をもってしても、予期せぬ足場の変化には対応できない。渾身の一撃は、大きく軌道を逸らし、あらぬ方向の壁に突き刺さった。
「やった!」
その一瞬の隙を、ジオ・フロンティアは見逃さなかった。
ケンの回復魔法がメイプルに届き、彼女のHPが回復する。
シオンの追撃の矢が、体勢を崩したゼノの鎧の隙間を正確に射抜いた。
「小賢しい真似を……!」
ゼノは、すぐに体勢を立て直すが、彼の顔には初めて焦りの色が浮かんでいた。
「メイプル、ケン、シオンさん! この神殿の床や壁は、全て俺のスキルで『変成』可能です! 足場を、武器に変えましょう!」
「面白そうじゃない!」
「了解した」
戦いの様相が、一変した。
アヴァロンのメンバーが踏み込む床は、突如として粘着質の沼のように変化し、その動きを奪う。彼らが盾にする壁は、ゴムのように変質して攻撃の威力を吸収してしまう。
カナデは、もはや創造主ではなかった。戦場そのものを、自らの手足のように操る、狡猾な魔術師と化していた。
「くそっ、足が……!」
「壁が、変な感触に……!」
アヴァロンのメンバーたちが、次々と混乱に陥る。彼らの完璧な連携が、予測不能なフィールドの変化によって、内側から崩壊していく。
「貴様あああああっ!」
ゼノが、怒りの咆哮を上げてカナデに突進する。
だが、カナデは冷静だった。彼は、自分とゼノとの間にある空間の壁に向かって、スキルを発動させた。
「『シェイピング:鏡面創造』!」
壁が、完璧な鏡へと変貌する。
ゼノが放ったスキル《カラミティ・ストライク》は、鏡の壁に反射され、その軌道を変え、あらぬ方向にいたアヴァロンのメンバーに炸裂した。
「ぐわあああっ!」
味方の誤爆。それは、アヴァロンのメンバーたちの士気を決定的に砕いた。
「……あり得ん。こんな戦い方……」
ゼノは、呆然と立ち尽くす。力で、連携で、そして策で、全てにおいて上回っていたはずだった。だが、この男は、その全てを、戦場のルールそのものを捻じ曲げることで無力化してくる。
カナデは、汗を拭いながら、ゼノを真っ直ぐに見据えた。
「言ったはずです、ゼノさん。力だけでは、辿り着けない場所がある、と」
その時、カナデの懐で『太陽の王の魂晶』が、再び強い光を放った。それは、ゼノたちが打ち込んだ『歪みの楔』に、強く反発するように輝いている。
「……これは」
カナデが魂晶をかざすと、魂晶から放たれた黄金の光が、空間を汚染していた紫色のノイズを浄化し始めた。『歪みの楔』に、亀裂が入っていく。
空間の汚染が晴れれば、カナデの『フィールド・クラフト』が、再び完全な形で使用可能になる。
勝負は、決した。
「……撤退だ」
ゼノは、屈辱に唇を噛み締めながら、全軍に撤退を命じた。
「リーダー!?」
「まだだ……まだ、俺の負けではない……! だが、今は退く!」
アヴァロンの一行が、崩れかけた潜水艦へと撤退していく。その背中に、ジオ・フロンティアは追撃をかけなかった。
だが、戦いが終わったわけではなかった。
ゼノたちが打ち込んだ『歪みの楔』は、破壊される寸前、この神殿のシステムそのものを暴走させてしまったのだ。
ウウウウウウウウウウウウン!
神殿全体が、警告音のような振動を始める。水晶に表示されていたログが、全て真っ赤なエラーコードに変わっていく。
`//WARNING: SYSTEM_INTEGRITY_FAILURE`
`//DEFENSE_SYSTEM: "GUARDIAN_POSEIDON" - ACTIVATING`
`//FINAL_SEQUENCE: START`
神殿の中央、巨大な祭壇の床が、音を立てて開いていく。そして、その下から、海水と共に、神殿そのものと同じ未知の金属でできた、全長五十メートルを超える巨大な機械の巨兵が、ゆっくりと姿を現した。
その両目には、赤いセンサーライトが灯り、ジオ・フロンティアの四人を、排除すべき異物としてロックオンしていた。
「嘘でしょ……。まだ出てくるの……?」
メイプルが、絶望的な声を上げる。
「神殿の、防衛システム……!」
世界の秘密を守る最後の番人が、ついにその姿を現した。
カナデは、消耗しきった仲間たちと、目の前にそびえ立つ絶望的なまでの巨体を見比べた。
ここから生きて帰るには、もはや奇跡を起こすしかない。
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