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第38話:君がいた世界
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時が止まった世界。セントラルタワーの玉座の間で、カナデの身体は、足元からゆっくりと金色の光の粒子へと変わり、風に溶けていく。その全てが、彼がこれから成し遂げようとする、最後の奇跡のためのエネルギーへと変換されていくのだ。
「『ワールド・クリエイト:ソウル・デタッチ』」
カナデが紡いだのは、魂を切り離すための言の葉。
彼から放たれた優しい光が、二つのカプセルを包み込んだ。
一つは、ゼノのカプセルへ。光は、彼の魂と、歪みの核との間に、強引に楔を打ち込み、その邪悪な接続を断ち切った。
「ぐ……ああ……っ?」
時が止まった世界で、ゼノの意識だけが、苦痛に呻く。彼の身体から、紫色のオーラが、まるで水で薄められるかのように、急速に消えていく。
もう一つの光は、リリアのカプセルへ。
それは、彼女の魂と、この世界のアンカーとしての呪縛とを、優しく、しかし確実に引き剥がしていった。彼女を、ただのシステムの一部ではなく、一つの独立した、自由な魂として解放するために。
リリアの苦痛に歪んでいた表情が、ふっと、穏やかな寝顔へと変わった。
二つの魂を、それぞれの呪縛から解放する。
その代償として、カナデの身体の半分以上が、すでに光の粒子となって消え去っていた。
「……まだだ。まだ、終われない」
カナデは、残った最後の力を振り絞り、この世界の『監視者』へと向き直った。
時が止まったままの、ナンバーセブン。
「お前が、この世界を歪ませるなら……。お前という『概念』そのものを、この世界から、消し去るまでだ」
「『ワールド・クリエイト:ロジック・イレイサー』」
カナデの指先から、一本の金色の槍が生成される。それは、物理的な存在ではない。タナトスという存在を定義づける、論理構造(ロジック)そのものを破壊するための、概念武装だった。
槍は、音もなくナンバーセブンの胸に突き刺さった。
『な……に……を……シス……テム……エラー……ソンザイ……テイギ……ガ……』
ナンバーセブンの身体が、激しいノイズに包まれ、その輪郭が、まるで砂の城のように崩れ始めていく。
世界の管理者として、絶対的な存在だったはずの彼が、その存在の根拠そのものを、内側から破壊されていく。
「……これで、終わりだ」
全ての力を使い果たし、カナデの身体は、もはや胸から上しか残っていなかった。
彼は、満足げに微笑むと、静かに目を閉じた。
やがて、自分の意識も、この光の中に溶けて、消えていくのだろう。
その時だった。
「……行かせない」
か細い、しかし、凛とした声が響いた。
カナデが目を開けると、彼の目の前に、カプセルから解放されたリリアが、涙を流しながら立っていた。
彼女の身体は、半透明の光に包まれている。自由な魂となった代償に、彼女もまた、この世界に長くは留まれない状態だった。
「どうして……リリアさん……」
「あなたを、一人にはしない。あなたが、私を救ってくれたように、今度は、私があなたを救う番」
リリアは、その光り輝く両手で、消えゆくカナデの身体を、優しく包み込んだ。
「あなたの魂は、消させない。私の全てを使って、あなたのデータを、この世界に繋ぎ止める」
彼女の身体が、より一層強く輝き始める。彼女は、自らの魂そのものを、カナ-デという存在を構成するデータの、バックアップにしようとしていた。
「ダメだ、リリアさん! そんなことをしたら、君こそ……!」
「いいの」リリアは、微笑んだ。「あなたは、たくさんのものを私にくれた。名前を呼んでくれた。仲間と笑うことの喜びを教えてくれた。そして、心をくれた。だから、今度は、私があなたに、未来をあげる」
リリアの身体が、眩い光となって、カナデの中へと溶けていく。
それは、破壊の光ではない。生命と、魂と、愛を紡ぐ、温かい創造の光だった。
カナデの消えかかっていた身体が、再び、その形を取り戻していく。
そして、止まっていた世界の時間が、再び、ゆっくりと動き始めた。
「「「カナデ!!」」」
仲間たちの絶叫が、ホールに響き渡る。
ゼノは、歪みの呪縛から解放され、元の姿に戻っていたが、何が起こったのか理解できず、呆然と立ち尽くしている。
ナンバーセブンは、その存在を維持できず、断末魔の叫びと共に、完全に消滅した。
全ての戦いが、終わった。
だが、カナデの目の前から、リリアの姿は、消えていた。
ただ、彼女が最後に立っていた場所に、小さな、しかし力強い光を放つ、データの結晶が、一つだけ残されていた。
【リリアの心(リリアズ・ハート)】:彼女の魂と記憶の全てが宿ったデータの結晶。いつか、再び花開く日を、静かに待っている。
カナデは、その結晶を、そっと拾い上げた。温かい。まるで、リリアのぬくもりが、まだそこにあるかのようだった。
「……リリアさん」
彼の頬を、一筋の涙が伝った。
***
セントラルタワーの崩壊が、始まった。
主を失い、世界の理が再構築される過程で、神々の時代の遺産は、その役目を終えようとしていた。
「カナデ、行くわよ! ここも、もう長くはもたない!」
メイプルが、彼の腕を引く。
カナデは、リリアの心を胸に抱きしめ、仲間たちと共に、崩れゆく塔を駆け下りた。
呆然と立ち尽くすゼノも、アヴァロンの生き残りに促され、無言で撤退していった。
ジオ・フロンティア号に乗り込み、アヴァロン大陸から脱出する。
背後で、神々の故郷が、雲海の中へと崩れ落ちていくのが見えた。
一つの時代が、完全に終わりを告げたのだ。
アークライトに戻ったカナデは、眠るように静かになった『リリアの心』を、ギルドハウスの地下、創造の聖域の中央に、大切に安置した。
そして、彼は、仲間たちに向かって、静かに言った。
「……俺は、この世界を、創り直します」
彼の瞳には、もう悲しみの色はない。そこにあるのは、リリアの想いを受け継ぎ、未来を創造するという、神にも等しい、強固な決意だけだった。
「リリアが、安心して眠れるように。そして、いつか、また笑顔で会えるように。この世界を、歪みも、争いもない、誰もが笑って暮らせる、安息の地にしてみせる」
彼の最後のスキル、『ワールド・リクリエイト(世界再創造)』が、静かにその輝きを放ち始めた。
それは、一人の少女を救うために始まった、不遇職の少年の冒険が、ついに、一つの世界そのものを創造するという、壮大な神話へと至った瞬間だった。
彼の本当の戦いは、破壊者や管理者との戦いではない。
何もない無から、たった一つの希望を、理想の世界を、この手で創り上げるという、孤独で、果てしない戦い。
その始まりを、仲間たちだけが、静かに見守っていた。
「『ワールド・クリエイト:ソウル・デタッチ』」
カナデが紡いだのは、魂を切り離すための言の葉。
彼から放たれた優しい光が、二つのカプセルを包み込んだ。
一つは、ゼノのカプセルへ。光は、彼の魂と、歪みの核との間に、強引に楔を打ち込み、その邪悪な接続を断ち切った。
「ぐ……ああ……っ?」
時が止まった世界で、ゼノの意識だけが、苦痛に呻く。彼の身体から、紫色のオーラが、まるで水で薄められるかのように、急速に消えていく。
もう一つの光は、リリアのカプセルへ。
それは、彼女の魂と、この世界のアンカーとしての呪縛とを、優しく、しかし確実に引き剥がしていった。彼女を、ただのシステムの一部ではなく、一つの独立した、自由な魂として解放するために。
リリアの苦痛に歪んでいた表情が、ふっと、穏やかな寝顔へと変わった。
二つの魂を、それぞれの呪縛から解放する。
その代償として、カナデの身体の半分以上が、すでに光の粒子となって消え去っていた。
「……まだだ。まだ、終われない」
カナデは、残った最後の力を振り絞り、この世界の『監視者』へと向き直った。
時が止まったままの、ナンバーセブン。
「お前が、この世界を歪ませるなら……。お前という『概念』そのものを、この世界から、消し去るまでだ」
「『ワールド・クリエイト:ロジック・イレイサー』」
カナデの指先から、一本の金色の槍が生成される。それは、物理的な存在ではない。タナトスという存在を定義づける、論理構造(ロジック)そのものを破壊するための、概念武装だった。
槍は、音もなくナンバーセブンの胸に突き刺さった。
『な……に……を……シス……テム……エラー……ソンザイ……テイギ……ガ……』
ナンバーセブンの身体が、激しいノイズに包まれ、その輪郭が、まるで砂の城のように崩れ始めていく。
世界の管理者として、絶対的な存在だったはずの彼が、その存在の根拠そのものを、内側から破壊されていく。
「……これで、終わりだ」
全ての力を使い果たし、カナデの身体は、もはや胸から上しか残っていなかった。
彼は、満足げに微笑むと、静かに目を閉じた。
やがて、自分の意識も、この光の中に溶けて、消えていくのだろう。
その時だった。
「……行かせない」
か細い、しかし、凛とした声が響いた。
カナデが目を開けると、彼の目の前に、カプセルから解放されたリリアが、涙を流しながら立っていた。
彼女の身体は、半透明の光に包まれている。自由な魂となった代償に、彼女もまた、この世界に長くは留まれない状態だった。
「どうして……リリアさん……」
「あなたを、一人にはしない。あなたが、私を救ってくれたように、今度は、私があなたを救う番」
リリアは、その光り輝く両手で、消えゆくカナデの身体を、優しく包み込んだ。
「あなたの魂は、消させない。私の全てを使って、あなたのデータを、この世界に繋ぎ止める」
彼女の身体が、より一層強く輝き始める。彼女は、自らの魂そのものを、カナ-デという存在を構成するデータの、バックアップにしようとしていた。
「ダメだ、リリアさん! そんなことをしたら、君こそ……!」
「いいの」リリアは、微笑んだ。「あなたは、たくさんのものを私にくれた。名前を呼んでくれた。仲間と笑うことの喜びを教えてくれた。そして、心をくれた。だから、今度は、私があなたに、未来をあげる」
リリアの身体が、眩い光となって、カナデの中へと溶けていく。
それは、破壊の光ではない。生命と、魂と、愛を紡ぐ、温かい創造の光だった。
カナデの消えかかっていた身体が、再び、その形を取り戻していく。
そして、止まっていた世界の時間が、再び、ゆっくりと動き始めた。
「「「カナデ!!」」」
仲間たちの絶叫が、ホールに響き渡る。
ゼノは、歪みの呪縛から解放され、元の姿に戻っていたが、何が起こったのか理解できず、呆然と立ち尽くしている。
ナンバーセブンは、その存在を維持できず、断末魔の叫びと共に、完全に消滅した。
全ての戦いが、終わった。
だが、カナデの目の前から、リリアの姿は、消えていた。
ただ、彼女が最後に立っていた場所に、小さな、しかし力強い光を放つ、データの結晶が、一つだけ残されていた。
【リリアの心(リリアズ・ハート)】:彼女の魂と記憶の全てが宿ったデータの結晶。いつか、再び花開く日を、静かに待っている。
カナデは、その結晶を、そっと拾い上げた。温かい。まるで、リリアのぬくもりが、まだそこにあるかのようだった。
「……リリアさん」
彼の頬を、一筋の涙が伝った。
***
セントラルタワーの崩壊が、始まった。
主を失い、世界の理が再構築される過程で、神々の時代の遺産は、その役目を終えようとしていた。
「カナデ、行くわよ! ここも、もう長くはもたない!」
メイプルが、彼の腕を引く。
カナデは、リリアの心を胸に抱きしめ、仲間たちと共に、崩れゆく塔を駆け下りた。
呆然と立ち尽くすゼノも、アヴァロンの生き残りに促され、無言で撤退していった。
ジオ・フロンティア号に乗り込み、アヴァロン大陸から脱出する。
背後で、神々の故郷が、雲海の中へと崩れ落ちていくのが見えた。
一つの時代が、完全に終わりを告げたのだ。
アークライトに戻ったカナデは、眠るように静かになった『リリアの心』を、ギルドハウスの地下、創造の聖域の中央に、大切に安置した。
そして、彼は、仲間たちに向かって、静かに言った。
「……俺は、この世界を、創り直します」
彼の瞳には、もう悲しみの色はない。そこにあるのは、リリアの想いを受け継ぎ、未来を創造するという、神にも等しい、強固な決意だけだった。
「リリアが、安心して眠れるように。そして、いつか、また笑顔で会えるように。この世界を、歪みも、争いもない、誰もが笑って暮らせる、安息の地にしてみせる」
彼の最後のスキル、『ワールド・リクリエイト(世界再創造)』が、静かにその輝きを放ち始めた。
それは、一人の少女を救うために始まった、不遇職の少年の冒険が、ついに、一つの世界そのものを創造するという、壮大な神話へと至った瞬間だった。
彼の本当の戦いは、破壊者や管理者との戦いではない。
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