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第54話:箱舟の世界と外宇宙の呼び声
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クイエム』の脅威が去り、新生『Aethelgard: Re-Genesis』は、次元の狭間に浮かぶ、一隻の巨大な箱舟となった。その空は、カナデの創造の金色と、ゼノの秩序の白銀がオーロラのように揺らめく、絶対不可侵の聖域に守られていた。
世界は、復興の時を迎えていた。
レクイエムに喰われた大地は、カナデの『ワールド・リクリエイト』によって、以前よりもさらに豊かに、美しく再創造された。プレイヤーたちは、世界の救済という未曾有の体験を共有したことで、以前にも増してこの世界を愛し、新たな日常を築き始めていた。
カナデとゼノは、事実上、この世界の共同管理者となっていた。
カナデは、ワールドデザイナーとして、プレイヤーたちの声に耳を傾け、世界に新たな楽しみや彩りを『創造』する。
一方、ゼノは、再編されたギルド『アヴァロン』を率い、世界の秩序を維持し、システムの安定を監視する『守護者』としての役割を担っていた。
「カナデ、貴様の創ったこの『夢見の森』、生態系のバランスが甘すぎる。このままでは、特定の草食モンスターが異常繁殖し、森が砂漠化するぞ。パラメータを修正しろ」
「ええ? でも、あのもふもふしたモンスター、可愛いって評判なんですよ?」
「可愛いだけでは、世界は成り立たん!」
セントラルタワーの最上階、かつての決戦の場は、今や二人のための作戦司令室となっていた。そこで交わされる会話は、まるで正反対の性格を持つ二人の神が、世界の在り方について議論しているかのようだった。
そんな日々の中、この箱舟の世界では、奇妙で、しかし喜ばしい変化が起こり始めていた。
外部宇宙の物理法則から切り離されたことで、世界独自の理が生まれ、これまでに存在しなかった、新しい現象が次々と観測され始めたのだ。
「見て、カナデ! 洞窟の奥で、光るキノコを見つけたの! 食べると、数分間だけ空が飛べるのよ!」
メイプルが、興奮気味に報告する。
「西の渓谷では、風の音を録音し、再生できる『響き石』という新しい鉱物が発見された。これを使えば、新たなコミュニケーションツールが作れるかもしれん」
ケンも、研究者としての好奇心を刺激されていた。
世界は、もはや運営やカナデによって与えられるだけのものではなくなった。プレイヤーたち自身の冒険と発見によって、日々、未知の領域が切り拓かれていく。まさに、生きた世界。
リリアもまた、自らの『創造』を見つけていた。
彼女は、カナデから創造の力の基礎を学び、世界各地の、かつて歪みに汚染されていた場所に、小さな庭園を創り続けていた。
彼女の創る庭園は、ただ美しいだけではない。そこには、傷ついたモンスターの魂を癒し、心を失いかけたNPCに、再び感情の光を灯す、不思議な力が宿っていた。
人々は、いつしか彼女を『魂の庭師』と呼び、その庭園を、心の安らぎを求める巡礼地として訪れるようになっていた。
「すごいですね、リリアさん。あなたの力は、俺の力とは違う、優しくて、温かい創造だ」
カナデが、彼女の創った庭園でそう言うと、リリアは、はにかみながら首を振った。
「いいえ。これは、あなたが私にくれた『心』で、創っているだけです。あなたが、この世界に、温かい心を教えてくれたから」
誰もが、この平穏が永遠に続くと信じていた。
その、最初の『音』に、シオンが気づくまでは。
その日、彼は、ジオ・フロンティア号のレーダー室で、いつものように、聖域の壁の外側――次元の狭間の、何もないはずの空間――を観測していた。
「……ん?」
彼の『アルテミス・アイ』が、これまで捉えたことのない、極めて微弱な『何か』を感知した。
それは、ノイズのようでもあり、音楽のようでもあり、あるいは、誰かの囁き声のようでもあった。
シオンは、その信号を増幅し、解析を試みた。
「……これは、敵意じゃない。レクイエムのような、捕食の意思でもない。もっと……」
彼は、その信号に耳を澄ます。
それは、助けを求める、悲痛なSOSだった。
そして、その信号に混じって、断片的な『映像』が、彼の脳裏に流れ込んできた。
――炎に包まれ、崩れ落ちていく、白亜の塔。
――空を覆い尽くす、機械仕掛けの、蝗(いなご)の群れ。
――涙を流しながら、何かを必死に守ろうとしている、エルフのような種族の姿。
「……何だ、これは……」
シオンは、すぐさま、カナデたちを招集した。
作戦司令室に集まった仲間たちと、ゼノ。
シオンが解析した、断続的な信号と、断片的な映像を、全員が息を呑んで見つめていた。
「……別の、世界だ」
ケンが、最初に口を開いた。「レクイエムのような、星を喰らう存在に、今まさに、襲われている、別の世界の……断末魔の叫びだ」
「そんな……」
メイプルが、顔を青ざめさせる。
「俺たちの世界は救われた。でも、この宇宙には、まだ、無数の世界があって、そのどこかでは、今も、悲劇が起きているってこと……?」
重い沈黙が、部屋を支配した。
自分たちには、関係のないことだ。この、奇跡的に手に入れた平穏を、守ることだけを考えればいい。そう、割り切ることもできたかもしれない。
だが、ジオ・フロンティアの誰も、そんなことは考えなかった。
カナデは、リリアを見た。彼女は、悲しげに、しかし、強い意志を宿した瞳で、頷いていた。
彼は、ゼノを見た。ゼノは、忌々しげに、しかし、「見過ごせば、いずれ、我々の脅威となる」とでも言うように、その目を細めていた。
カナデは、立ち上がった。
そして、ジオ・フロンティア号の、船長席へと向かった。
彼は、仲間たちに向かって、振り返る。
「……助けを求める声が、聞こえるんです」
彼の声は、静かだった。だが、そこには、かつての、ただのゲームプレイヤーではない、一つの世界を背負う、創造主としての、揺るぎない覚悟があった。
「俺は、行きたい。いや、行かなければならない。この船と、この力は、そのためにもあるはずだから」
彼は、操縦桿を握りしめた。
「次元の箱舟『ジオ・フロンティア号』。これより、未知の座標へと、新たな航海を開始します」
ケンが、動力炉の出力を上げる。
シオンが、悲鳴の聞こえる座標へと、針路を設定する。
メイプルが、いつでも戦えるように、盾を握りしめる。
リリアが、その旅の平穏を、静かに祈る。
そして、ゼノが、その後ろ姿を、フン、と鼻を鳴らしながらも、確かに、見届けていた。
彼らの冒険は、終わっていなかった。
一つの世界を救う物語は、次元を超え、無数の世界を救うための、壮大な神話へと、その舵を切ったのだ。
創造主とその仲間たちの、本当のフロンティアは、今、この瞬間から、始まる。
世界は、復興の時を迎えていた。
レクイエムに喰われた大地は、カナデの『ワールド・リクリエイト』によって、以前よりもさらに豊かに、美しく再創造された。プレイヤーたちは、世界の救済という未曾有の体験を共有したことで、以前にも増してこの世界を愛し、新たな日常を築き始めていた。
カナデとゼノは、事実上、この世界の共同管理者となっていた。
カナデは、ワールドデザイナーとして、プレイヤーたちの声に耳を傾け、世界に新たな楽しみや彩りを『創造』する。
一方、ゼノは、再編されたギルド『アヴァロン』を率い、世界の秩序を維持し、システムの安定を監視する『守護者』としての役割を担っていた。
「カナデ、貴様の創ったこの『夢見の森』、生態系のバランスが甘すぎる。このままでは、特定の草食モンスターが異常繁殖し、森が砂漠化するぞ。パラメータを修正しろ」
「ええ? でも、あのもふもふしたモンスター、可愛いって評判なんですよ?」
「可愛いだけでは、世界は成り立たん!」
セントラルタワーの最上階、かつての決戦の場は、今や二人のための作戦司令室となっていた。そこで交わされる会話は、まるで正反対の性格を持つ二人の神が、世界の在り方について議論しているかのようだった。
そんな日々の中、この箱舟の世界では、奇妙で、しかし喜ばしい変化が起こり始めていた。
外部宇宙の物理法則から切り離されたことで、世界独自の理が生まれ、これまでに存在しなかった、新しい現象が次々と観測され始めたのだ。
「見て、カナデ! 洞窟の奥で、光るキノコを見つけたの! 食べると、数分間だけ空が飛べるのよ!」
メイプルが、興奮気味に報告する。
「西の渓谷では、風の音を録音し、再生できる『響き石』という新しい鉱物が発見された。これを使えば、新たなコミュニケーションツールが作れるかもしれん」
ケンも、研究者としての好奇心を刺激されていた。
世界は、もはや運営やカナデによって与えられるだけのものではなくなった。プレイヤーたち自身の冒険と発見によって、日々、未知の領域が切り拓かれていく。まさに、生きた世界。
リリアもまた、自らの『創造』を見つけていた。
彼女は、カナデから創造の力の基礎を学び、世界各地の、かつて歪みに汚染されていた場所に、小さな庭園を創り続けていた。
彼女の創る庭園は、ただ美しいだけではない。そこには、傷ついたモンスターの魂を癒し、心を失いかけたNPCに、再び感情の光を灯す、不思議な力が宿っていた。
人々は、いつしか彼女を『魂の庭師』と呼び、その庭園を、心の安らぎを求める巡礼地として訪れるようになっていた。
「すごいですね、リリアさん。あなたの力は、俺の力とは違う、優しくて、温かい創造だ」
カナデが、彼女の創った庭園でそう言うと、リリアは、はにかみながら首を振った。
「いいえ。これは、あなたが私にくれた『心』で、創っているだけです。あなたが、この世界に、温かい心を教えてくれたから」
誰もが、この平穏が永遠に続くと信じていた。
その、最初の『音』に、シオンが気づくまでは。
その日、彼は、ジオ・フロンティア号のレーダー室で、いつものように、聖域の壁の外側――次元の狭間の、何もないはずの空間――を観測していた。
「……ん?」
彼の『アルテミス・アイ』が、これまで捉えたことのない、極めて微弱な『何か』を感知した。
それは、ノイズのようでもあり、音楽のようでもあり、あるいは、誰かの囁き声のようでもあった。
シオンは、その信号を増幅し、解析を試みた。
「……これは、敵意じゃない。レクイエムのような、捕食の意思でもない。もっと……」
彼は、その信号に耳を澄ます。
それは、助けを求める、悲痛なSOSだった。
そして、その信号に混じって、断片的な『映像』が、彼の脳裏に流れ込んできた。
――炎に包まれ、崩れ落ちていく、白亜の塔。
――空を覆い尽くす、機械仕掛けの、蝗(いなご)の群れ。
――涙を流しながら、何かを必死に守ろうとしている、エルフのような種族の姿。
「……何だ、これは……」
シオンは、すぐさま、カナデたちを招集した。
作戦司令室に集まった仲間たちと、ゼノ。
シオンが解析した、断続的な信号と、断片的な映像を、全員が息を呑んで見つめていた。
「……別の、世界だ」
ケンが、最初に口を開いた。「レクイエムのような、星を喰らう存在に、今まさに、襲われている、別の世界の……断末魔の叫びだ」
「そんな……」
メイプルが、顔を青ざめさせる。
「俺たちの世界は救われた。でも、この宇宙には、まだ、無数の世界があって、そのどこかでは、今も、悲劇が起きているってこと……?」
重い沈黙が、部屋を支配した。
自分たちには、関係のないことだ。この、奇跡的に手に入れた平穏を、守ることだけを考えればいい。そう、割り切ることもできたかもしれない。
だが、ジオ・フロンティアの誰も、そんなことは考えなかった。
カナデは、リリアを見た。彼女は、悲しげに、しかし、強い意志を宿した瞳で、頷いていた。
彼は、ゼノを見た。ゼノは、忌々しげに、しかし、「見過ごせば、いずれ、我々の脅威となる」とでも言うように、その目を細めていた。
カナデは、立ち上がった。
そして、ジオ・フロンティア号の、船長席へと向かった。
彼は、仲間たちに向かって、振り返る。
「……助けを求める声が、聞こえるんです」
彼の声は、静かだった。だが、そこには、かつての、ただのゲームプレイヤーではない、一つの世界を背負う、創造主としての、揺るぎない覚悟があった。
「俺は、行きたい。いや、行かなければならない。この船と、この力は、そのためにもあるはずだから」
彼は、操縦桿を握りしめた。
「次元の箱舟『ジオ・フロンティア号』。これより、未知の座標へと、新たな航海を開始します」
ケンが、動力炉の出力を上げる。
シオンが、悲鳴の聞こえる座標へと、針路を設定する。
メイプルが、いつでも戦えるように、盾を握りしめる。
リリアが、その旅の平穏を、静かに祈る。
そして、ゼノが、その後ろ姿を、フン、と鼻を鳴らしながらも、確かに、見届けていた。
彼らの冒険は、終わっていなかった。
一つの世界を救う物語は、次元を超え、無数の世界を救うための、壮大な神話へと、その舵を切ったのだ。
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