ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

文字の大きさ
55 / 80

第55話:滅びゆく世界と機械の軍勢

しおりを挟む
次元の箱舟『ジオ・フロンティア号』は、穏やかな光に満ちた故郷の世界を後にし、未知の宇宙へと漕ぎ出した。シオンが捉えた、微弱な救難信号だけを頼りに、次元の狭間を航行していく。
窓の外には、物理法則が通用しない、混沌とした景色が流れていた。色とりどりの星雲が生まれ、次の瞬間にはブラックホールに吸い込まれて消えていく。時間の流れすら、ここでは一定ではない。

「すごい景色ね……。宇宙旅行みたい」
操縦室で、メイプルが感嘆の声を上げる。
「だが、一歩間違えれば、我々の存在そのものが、この混沌に飲み込まれる。ケン、動力炉は安定しているか?」
「問題ない。ゼノの『秩序の力』でコーティングされた船体は、次元の嵐にも、びくともしない」

数時間にも、数日にも感じられる航海の末。
シオンのレーダーが、ついに、救難信号の発信源を正確に捉えた。
「……座標、ロック。これより、通常空間へワープアウトします」
カナデが、操縦桿を握る手に力を込める。

次の瞬間、船体が激しく振動し、窓の外の景色が、真っ白な光に包まれた。
光が収まった時、彼らの目の前に広がっていたのは、言葉を失うほどに、絶望的な光景だった。

そこは、一つの『世界』だった。だが、そのほとんどが、死んでいた。
大地は、赤錆びた金属のようなプレートに覆われ、そこから、まるで血管のように、無数のケーブルやパイプが、脈動しながら伸びている。空は、工場の煤煙のような、灰色の雲に閉ざされ、生命の気配は、どこにも感じられない。
そして、その世界の中心には、惑星そのものを貫くように、巨大な、機械仕掛けの塔が突き刺さっていた。塔からは、無数の機械昆虫のような小型機が、蝗の群れのように飛び立ち、まだ僅かに残された緑の大地を、侵食し続けていた。

「……ひどい」
リリアが、胸を押さえて、悲痛な声を上げた。彼女には、この星の、断末魔の叫びが聞こえるのだ。
「あれが、救難信号を送ってきた世界……。もう、手遅れに近いわね」
メイプルも、顔を曇らせる。

「いや、まだだ」シオンが、一点を指さした。「あそこを見てください。僅かですが、まだ、強い生命エネルギーの反応があります」
彼が指さす先には、この機械の侵略から、かろうじて逃れている、巨大な樹があった。その枝葉は、空を覆うほどの大きさで、それ自体が、一つの街を形成している。まるで、世界樹のようだ。

「目標、あの巨大樹へ。生存者と接触します」
カナデは、ジオ・フロンティア号を、ゆっくりと世界樹の街へと近づけていった。

船が近づくと、樹の枝葉から、弓を構えた、エルフのような尖った耳を持つ人々が、警戒した様子で姿を現した。彼らの顔には、深い絶望と、疲労の色が浮かんでいる。
カナデは、船の外部スピーカーで、自分たちに敵意がないことを伝えた。
『我々は、あなた方の救難信号を聞き、別の世界からやって来ました。どうか、話を聞かせてください』

エルフたちは、半信半疑ながらも、彼らの指導者らしき、白髭の長老を連れてきた。
長老は、ジオ・フロンティア号の、有機的で、生命力に満ちた姿を見て、驚愕の表情を浮かべた。
『……なんと。あなた方は、『レギオン』に汚染されていない、生きた世界から来られたと?』

長老から語られた、この世界の真実は、絶望的だった。
侵略者の名は、『機械仕掛けの軍勢レギオン』。
それは、自己増殖するナノマシンの集合体であり、宇宙の全ての有機生命体を『完璧な機械』へと作り変えることを目的とする、恐るべき存在だという。
レギオンは、星の生命エネルギーそのものを吸収し、それを燃料として、全ての大地を、無機質な機械の部品へと変えてしまう。そして、抵抗する者たちは、容赦なく分解され、新たなレギオンの一部へと作り変えられるのだ。

「そんな……」
「タナトスや、レクイエムとは、また全く質の違う、最悪の敵ね」

長老が、説明を終えた、その時だった。
けたたましい警告音が、世界樹の街に鳴り響く。
「長老様! レギオンの斥候部隊が、防衛ラインを突破! こちらへ向かってきます!」

灰色の空の向こうから、無数の、機械の蜂やカマキリのような小型機が、羽音を立てて殺到してきた。
「迎撃せよ! 世界樹を、奴らに渡すな!」
エルフの戦士たちが、一斉に矢を放つ。だが、その矢は、レギオンの硬い装甲に弾かれるか、あるいは、群れの一部を破壊しても、すぐに、周囲のナノマシンが集まって、自己修復してしまう。

「キリがない!」
「このままでは、街が……!」
エルフたちの間に、絶望が広がっていく。

「メイプルさん、ケンさん、シオンさん!」
カナデが叫ぶ。
「援護します!」
四人は、ジオ・フロンティア号の甲板へと飛び出した。

「久しぶりに、暴れさせてもらうわよ! 《ソウル・プロテクション》!」
メイプルが、黄金の光の盾を展開し、レギオンのレーザー攻撃から、エルフたちを守る。
「我が魔力よ、貫け! 《ロジカル・カノン》!」
ケンが、レギオンの自己修復の隙を突き、その中枢回路を、的確に焼き切っていく。
「その目、いただいた! 《アルテミス・アイ》!」
シオンの矢が、高速で飛び回る小型機の、僅かな弱点を、次々と射抜いていく。

ジオ・フロンティアの圧倒的な力に、エルフたちは、唖然としていた。
『な、なんと強い……。彼らこそ、伝説の、異世界の救世主……』

だが、レギオンの数は、あまりにも多かった。倒しても、倒しても、後から無限に湧いてくる。
「カナデ! 何か手はないの!?」
「やってみます!」

カナデは、この世界の理に、自分の力を同調させようと試みた。
「『ワールド・リクリエイト』!」
しかし、彼のスキルは、不発に終わった。世界の法則、物理定数、魔素の構成、その全てが、『Aethelgard』とは、根本的に異なっているのだ。神の力と言えど、万能ではなかった。

(くそっ……! この世界の理を、完全に解析するまでは、大規模な創造はできない……!)

だが、カナデは諦めなかった。
大規模な創造ができないなら、もっと、単純で、根源的な力を使えばいい。
彼は、レギオンの本質を、瞬時に見抜いた。
(奴らは、生命エネルギーを『喰らう』。ならば……)

「『シェイピング:無機物限定・超質量生成(マッシブ・ロック・クリエイション)』!」

カナデが、両手を大地に叩きつける。
彼の経験値とMPが、純粋な『無機物』の創造にだけ、注ぎ込まれる。
次の瞬間、世界樹の街の前方に、巨大な、巨大な、山脈としか言いようのない、岩石と金属の、巨大な壁が出現した。
それは、生命エネルギーを一切含まない、ただの、質量と硬度だけの、絶対的な障害物。

「ギギギギギ!?」
レギオンの群れが、その巨大な壁に激突し、その進軍を、完全に止められた。壁を喰らおうとしても、そこにエネルギーはないため、吸収できない。ただ、その硬い装甲が、削られていくだけだ。

「すごい……」
「壁を、創った……?」
エルフたちは、信じられない光景に、言葉を失う。

カナデは、息を切らしながらも、不敵に笑った。
「……どうやら、俺の力も、まだ、捨てたもんじゃないみたいですね」

異世界での、初めての戦い。
それは、創造主の力が、まだ、この宇宙で通用することを証明する、反撃の狼煙だった。
カナデは、目の前にそびえる、機械仕掛けの巨大な塔を、睨みつけた。

「さあ、始めましょうか。星の、大掃除を」
彼の新たな戦いが、今、幕を開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん
SF
気がつけば、そこは“男女の常識”がひっくり返った世界だった。 男は極端に希少で守られる存在、女は戦い、競い、恋を挑む時代。 現代日本で命を落とした青年・文哉は、最先端の学園都市《ノア・クロス》に転生する。 そこでは「バイオギア」と呼ばれる強化装甲を纏う少女たちが、日々鍛錬に明け暮れていた。 しかし、ただの転生では終わらなかった―― 彼は“男でありながらバイオギアに適合する”という奇跡的な特性を持っていたのだ。 無自覚に女子の心をかき乱し、甘さと葛藤の狭間で揺れる日々。 護衛科トップの快活系ヒロイン・桜葉梨羽、内向的で絵を描く少女・柊真帆、 毒気を纏った闇の装甲をまとう守護者・海里しずく…… 個性的な少女たちとのイチャイチャ・バトル・三角関係は、次第に“恋と戦い”の渦へと深まっていく。 ――これは、“守られるはずだった少年”が、“守る覚悟”を知るまでの物語。 そして、少女たちは彼の隣で、“本当の強さ”と“愛し方”を知ってゆく。 「誰かのために戦うって、こういうことなんだな……」 恋も戦場も、手加減なんてしてられない。 逆転世界ラブコメ×ハーレム×SFバトル群像劇、開幕。

ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ
SF
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、醜く弱い最弱モンスター「ゴブリン」。いつ殺されてもおかしくない絶望的な状況で、俺はたった一つの希望を見出す。それは、食べた相手の能力を奪うユニークスキル【弱肉強食】だった。 「二度と理不尽に死んでたまるか!」 元社畜の思考力と戦略で、スライムから巨大な魔獣、果てはドラゴンまで食らい尽くす! 知恵とスキルでゴブリンの群れを最強の軍団に改革し、追いやられたエルフやオークを仲間に加え、やがて未開の森に一大国家を築き上げる。 これは、最弱のゴブリンが知恵と食欲で進化の頂点に駆け上がり、やがて世界の理さえも喰らう神に至る物語。

処理中です...