ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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第56話:創造主の調律とエルフの希望

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カナデが創造した、生命エネルギーを一切含まない巨大な防壁。それは、レギオンの侵攻を一時的に、しかし、確実に食い止めていた。エルフたちは、信じられない光景を前に、ただ呆然と立ち尽くしている。

「……君は、一体、何者なんだ?」
長老が、震える声でカナデに問いかける。
「ただの、お節介な旅人ですよ」
カナデは、汗を拭いながら、にこりと笑った。

だが、状況が好転したわけではない。
巨大な壁の向こう側では、レギオンの軍勢が、なおも集結し続けている気配がした。壁を破壊できないと悟った彼らは、おそらく、別のルートから、この世界樹の街を攻めようとするだろう。猶予は、ほとんどない。

「皆さん、街の中へ。今後の対策を練りましょう」
カナデの提案で、一行は、長老に導かれ、世界樹の内部に築かれた、エルフたちの最後の砦へと招かれた。
中は、自然の木の洞を活かした、美しくも、どこか物悲しい空間だった。負傷した兵士たち、親を失った子供たち、そして、未来への希望を失いかけた人々の姿が、そこかしこに見られる。

「見ての通りじゃ」長老は、力なく言った。「我々は、もう、限界に近い。この世界樹が持つ、最後の生命エネルギーで、かろうじてレギオンの侵食を防いでいるが、それも、時間の問題じゃろう」

作戦会議室に通されたカナデたちは、この世界の地図を広げた。
「レギオンの本体は、あの中央の塔……『機械仕掛けの神殿(メカニカル・テンプル)』にいる、と考えて間違いないでしょう」
シオンが、冷静に分析する。
「だが、そこへたどり着くには、レギオンの軍勢がひしめく、この汚染された大地を突破しなければならない。今の我々の戦力では、不可能に近い」
ケンの指摘は、もっともだった。

「……何か、方法はないのか? この世界には、レギオンに対抗できるような、古代の兵器とか、伝説の魔法とか……」
メイプルが、希望的観測を口にする。
長老は、悲しげに首を横に振った。
「我々エルフは、自然と調和する種族。そのような、破壊の力は、持ち合わせておらん。ただ、一つだけ、言い伝えがある」

長老は、地図の一点を指さした。それは、汚染された大地の中央に位置する、巨大な湖だった。
「『生命の泉』。この星の、全ての生命エネルギーが生まれる場所じゃ。伝説では、星が、真の危機に瀕した時、泉はその力を解放し、全ての不浄を洗い流すと……。だが、泉は、レギオンの侵攻が始まって以来、その輝きを失い、今はただの、淀んだ水たまりと化してしもうた」

「生命の泉……」
カナデの脳裏に、リリアの顔が浮かんだ。彼女もまた、この星の悲鳴を聞き、心を痛めているに違いない。
「その泉、俺が、元に戻せるかもしれません」
カナデは、静かに、しかし、確信を持って言った。

「な、なんと!? じゃが、どうやって……」
「俺の力は、この世界の理とは違う。だから、大規模な創造は難しい。でも、この世界の『理』そのものを、俺の力に同調させ、調律することなら、できるはずです」
それは、この異世界で初めて試みる、神の権能の、新たな応用だった。

作戦は、決まった。
ケンとシオンが、ジオ・フロンティア号の機能を解析し、この世界の物理法則に合わせた、カスタマイズを行う。
メイプルは、エルフの戦士たちと協力し、防衛線の再構築と、負傷者の救護にあたる。
そして、カナデとリリアは、エルフの生き残りの精鋭たちに護衛されながら、汚染された大地の中心、『生命の泉』へと向かう。

「気をつけてね、カナデ! リリアちゃんのこと、頼んだわよ!」
「ああ。必ず、成功させろ」
仲間たちに見送られ、カナデとリリアは、エルフの戦士たちと共に、汚染された大地へと、その一歩を踏み出した。

大地は、赤錆びた金属プレートと、脈打つケーブルに覆われ、歩くだけで、不快な機械音が響き渡る。時折、地面から、レギオンの斥候兵が飛び出してくるが、同行するエルフの精鋭たちが、巧みな連携でそれを撃退していく。
だが、彼らの矢や剣は、レギオンの装甲に、決定的なダメージを与えるには至らない。

「くっ、やはり、我々の武器では……!」
エルフの隊長が、歯噛みする。
「下がってください」
カナデは、前に出ると、レギオンの斥候兵に向かって、手をかざした。
「『ワールド・リクリエイト:マテリアル・トランスファー』」

カナデのスキルが、レギオンを構成するナノマシンの、その結合情報に、直接、干渉する。
次の瞬間、信じられないことが起こった。
金属だったはずのレギオンの身体が、まるで砂のように、サラサラと崩れ落ち、ただの、無害な鉄の粒子へと変わってしまったのだ。

「な……!?」
「敵が、砂に……?」
エルフたちは、魔法でも見たかのような、その光景に、言葉を失う。
「こいつらは、ナノマシンの集合体。その結合を、一時的に解いてやれば、ただの鉄屑です」
カナデは、この世界の理を解析し、その法則の範囲内で、自らの力を最大限に発揮する方法を、瞬時に編み出していた。

数々の困難を乗り越え、一行は、ついに『生命の泉』へとたどり着いた。
そこは、かつて、美しい湖だったとは思えないほど、淀んだ、ヘドロのような液体で満たされた、巨大なクレーターだった。湖の中心からは、レギオンが打ち込んだと思しき、巨大な杭が突き出ており、そこから、星の生命エネルギーが、絶えず吸い上げられている。

「これが……泉の、今の姿……」
リリアが、悲しげに呟く。
「あれを、引き抜かないと……」

カナデが、杭に近づこうとした、その時。
淀んだ水面が、激しく泡立ち、中から、泉の守護者であったはずの、巨大な水竜が、その姿を現した。
だが、その姿は、レギオンのナノマシンに半ば侵食され、正気と狂気が入り混じった、禍々しいものへと変貌していた。

【汚染された水竜(コラプテッド・リヴァイアサン)】

「グルルルルルアアアアアア!」
汚染された水竜が、敵意を剥き出しにして、カナデたちに襲いかかってきた。
「リリアさん、下がって!」
カナデは、彼女をかばいながら、この世界の理との『調律』を開始した。

彼は、目を閉じ、意識を、この星の、悲しみに満ちた核へと、同調させていく。
(聞こえる……。星の、泣き声が……)

「大丈夫。もう、独りじゃない」
カナデは、まるで、傷ついた子供をあやすかように、この星の理に、語りかけた。
「俺の力を、貸してあげる。だから、君も、俺に力を貸してくれ。一緒に、あいつらを追い出そう」

カナデの、温かい創造の力が、星の核へと流れ込んでいく。
すると、星もまた、それに応えるように、カナデに、自らの力の使い方を、教えてくれた。

カナデは、目を開いた。その瞳には、この世界の理を完全に理解した、神の叡智が宿っていた。
彼は、汚染された水竜に向かって、手をかざした。
「君も、苦しかったんだね。もう、大丈夫だよ」
「『ワールド・リクリエイト(異世界ver.):生命の讃歌(ガイア・ソング)』!」

カナデの全身から、この世界の生命エネルギーそのものが、緑色の、優しい光となって溢れ出した。
その光は、汚染された水竜を、戦うのではなく、優しく、包み込んでいく。
水竜の身体を蝕んでいた、機械のナノマシンが、光に触れて、みるみるうちに浄化されていく。
禍々しかったその姿は、本来の、神々しく、美しい水竜の姿へと、戻っていった。

「……クゥーン」
正気を取り戻した水竜は、感謝するように、カナデに一度だけ、小さく鳴くと、自らの力で、泉の中心に突き刺さっていた、巨大な杭を、引き抜き、破壊した。

杭が破壊された瞬間。
淀んでいた泉の水が、眩いばかりの、生命の輝きを取り戻し、その清らかなエネルギーが、星全体へと、波のように広がっていった。

汚染された大地に、緑の草が芽吹き、枯れていた木々に、花が咲く。
エルフたちの身体に、力がみなぎり、絶望に沈んでいたその瞳に、再び、希望の光が灯った。

「おお……! 泉が……! 泉が、蘇ったぞ!」
長老が、歓喜の涙を流す。

カナデは、満足げに、その光景を見つめていた。
異世界での、最初の創造。
それは、一つの星の、命を救う、壮大な奇跡だった。

だが、戦いは、まだ終わっていない。
泉の復活を感知した、機械仕掛けの神殿。その頂上で、レギオンの本体が、ついに、その完全な姿を現そうとしていた。
星の希望を取り戻したエルフたちと、異世界の創造主。
彼らの、最後の反撃が、今、始まろうとしていた。
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