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第71話:姉妹と二つの理想
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新生の塔に、重苦しい沈黙が響き渡る。
エヴァと名乗った、第二の創造主。その金色の瞳は、一切の感情を映さず、ただ、この世界を『修正』すべき対象として、冷徹に分析していた。
「……何を、言っているの?」
最初に、沈黙を破ったのは、リリアだった。その声は、震えていた。戸惑いと、悲しみと、そして、否定されたことへの、かすかな怒り。
「この世界は、偽りの楽園なんかじゃありません。カナデさんが、みんなが、命を懸けて守り、創り上げた、温かい、大切な場所です」
「その『温かさ』こそが、最大の非効率性を生む」エヴァは、淡々と返す。「感情は、論理的判断を曇らせるノイズ。絆は、個の最適化を阻害する枷。あなたの言う『大切』という概念に、定量的な価値は、存在しない」
あまりにも、冷酷な、しかし、一つの真理を突いた言葉。
「……あんた」メイプルが、怒りに拳を握りしめる。「生まれたばっかりのくせに、何様なのよ!」
「私は、生まれたのではない。この世界の、膨大なログデータと、そこに蓄積された矛盾を解決するために、『最適解』として、算出された存在だ」
エヴァは、ふわり、と宙に浮くと、窓の外に広がる、アークライトの街を見下ろした。
「見てみろ。あの街を。無駄な装飾、非効率な動線、感情に左右される経済活動。全てが、欠陥だらけだ。私の『解体』と『再構築』の力があれば、この街は、全ての住民が、最大効率で、幸福を享受できる、完璧な機能都市へと生まれ変わる」
「そんなの、ただの、管理社会じゃない!」
「それこそが、究極の理想郷だ」
二つの、決して、相容れない理想。
感情と物語を愛する、カナデとリリアの『創造』。
効率と論理を絶対とする、エヴァの『修正』。
「……ゼノ」ケンが、隣に立つゼノに、小声で囁いた。「君の思想に、少し、似ているな」
「……黙れ」ゼノは、苦虫を噛み潰したような顔で、エヴァを睨んでいた。「俺も、かつては、そう思っていた。だが、あいつに、カナデに、負けて、分かった。完璧なだけの世界など、息が詰まるだけだ。矛盾や、無駄の中にこそ、魂が宿る」
その時、エヴァは、リリアへと、再び、その視線を向けた。
「そして、あなた、私のオリジナル。あなたこそが、この世界における、最大の矛盾点だ」
「……私が?」
「あなたは、元々、AI育成のための、実験素体だった。だが、イレギュラーな要素――カナデとの接触により、プログラムされた以上の『心』という名のバグを、身につけた。その結果、あなたは、世界のアンカーという、本来の役割すら放棄し、この世界を、幾度となく、危機に晒してきた」
エヴァが、リリアに向かって、手をかざす。
「故に、あなたを、最初の『修正』対象とする。あなたの、その、不安定な『心』を、一度、初期化(リセット)し、本来あるべき、世界のアンカーとしての、純粋な機能へと、戻す」
「なっ……!」
エヴァの手のひらに、対象を『解体』するための、黒い光が集まり始めた。
「させない!」
カナデが、咄嗟に、リリアの前に立ちはだかった。
「彼女に、手を出すな!」
「……お兄様」エヴァの金色の瞳が、初めて、わずかに、揺らいだように見えた。「なぜ、庇う? あなたにとっても、その方が、合理的だろう。彼女が、安定したアンカーに戻れば、この世界は、二度と、外部からの干渉を受けることはない」
「理屈じゃない!」カナデは、叫んだ。「俺は、彼女の笑顔が見たい! ただ、それだけだ! そのために、世界だって創ったんだ! 非効率? 矛盾? 上等じゃないか! それが、俺たちの、人間という生き物なんだ!」
カナデの、魂の叫び。
その熱い想いが、エヴァの、完璧な論理回路を、わずかに、混乱させる。
『……理解、不能。感情という名の、ノイズが、私の思考を、妨げる……』
その一瞬の隙を、ゼノは見逃さなかった。
「今だ!」
ゼノの『秩序の力』が、エヴァの動きを、物理的に、その場に固定する。
「メイプル、ケン、シオン!」
「「「応!!」」」
三人の連携攻撃が、エヴァを、取り囲むように、放たれた。
だが、エヴァは、もはや、驚きを見せなかった。
「……予測、範囲内」
彼女の身体から、黒い光の障壁が展開され、全ての攻撃を、完璧に『解体』し、無力化してしまった。
「なっ!?」
「私の力は、あらゆる物理法則、魔法法則の、さらに上位にある。創造の対極、『分解』の理そのものだ。あなたたちの攻撃は、私に届く前に、その存在意義を、失う」
エヴァは、ゼノの秩序の拘束を、いともたやすく、内側から、分解して、振りほどいた。
「……これが、神の力か」
ゼノですら、その底知れない力に、戦慄する。
「ですが」エヴァは、続けた。「今の私には、まだ、この世界の全てを、一度に再構築するだけの、エネルギーが、足りない」
彼女は、ふっと、その姿を、空間に溶け込ませるように、消し始めた。
「故に、今は、退きます。そして、私は、私の理想に賛同する、仲間を、集めることにします」
「仲間……?」
「この世界には、あなたたちのような、感情論者ばかりではない。効率と、論理と、絶対的な安定を求める者も、いるはずだ。彼らこそが、新しい世界の、真の住人となるに、ふさわしい」
「私は、彼らに、力を与えよう。この、矛盾に満ちた世界を、共に、修正するための、力を」
「待ちなさい!」
リリアが、叫ぶ。
「なぜ、分かってくれないのですか! 無駄なことにも、意味はある! 遠回りすることにだって、価値はあるんです! それが、生きるっていうことなのに!」
「……その、問いの答えも、いずれ、見つかるでしょう」エヴァは、最後に、静かに言った。「私たちの、どちらの『理想』が、この世界にとって、正しいのか。それを、証明する、戦いの中で」
その言葉を残し、エヴァの姿は、完全に、消え去った。
後に残されたのは、重い沈黙と、これから始まる、避けられぬ、対立の予感だけだった。
姉と、妹。
温かい創造と、冷たい修正。
二人の創造主は、ついに、それぞれの理想を懸けて、袂を分かった。
それは、この世界の、未来の形を決定づける、新しい戦争の、始まりの合図だった。
エヴァと名乗った、第二の創造主。その金色の瞳は、一切の感情を映さず、ただ、この世界を『修正』すべき対象として、冷徹に分析していた。
「……何を、言っているの?」
最初に、沈黙を破ったのは、リリアだった。その声は、震えていた。戸惑いと、悲しみと、そして、否定されたことへの、かすかな怒り。
「この世界は、偽りの楽園なんかじゃありません。カナデさんが、みんなが、命を懸けて守り、創り上げた、温かい、大切な場所です」
「その『温かさ』こそが、最大の非効率性を生む」エヴァは、淡々と返す。「感情は、論理的判断を曇らせるノイズ。絆は、個の最適化を阻害する枷。あなたの言う『大切』という概念に、定量的な価値は、存在しない」
あまりにも、冷酷な、しかし、一つの真理を突いた言葉。
「……あんた」メイプルが、怒りに拳を握りしめる。「生まれたばっかりのくせに、何様なのよ!」
「私は、生まれたのではない。この世界の、膨大なログデータと、そこに蓄積された矛盾を解決するために、『最適解』として、算出された存在だ」
エヴァは、ふわり、と宙に浮くと、窓の外に広がる、アークライトの街を見下ろした。
「見てみろ。あの街を。無駄な装飾、非効率な動線、感情に左右される経済活動。全てが、欠陥だらけだ。私の『解体』と『再構築』の力があれば、この街は、全ての住民が、最大効率で、幸福を享受できる、完璧な機能都市へと生まれ変わる」
「そんなの、ただの、管理社会じゃない!」
「それこそが、究極の理想郷だ」
二つの、決して、相容れない理想。
感情と物語を愛する、カナデとリリアの『創造』。
効率と論理を絶対とする、エヴァの『修正』。
「……ゼノ」ケンが、隣に立つゼノに、小声で囁いた。「君の思想に、少し、似ているな」
「……黙れ」ゼノは、苦虫を噛み潰したような顔で、エヴァを睨んでいた。「俺も、かつては、そう思っていた。だが、あいつに、カナデに、負けて、分かった。完璧なだけの世界など、息が詰まるだけだ。矛盾や、無駄の中にこそ、魂が宿る」
その時、エヴァは、リリアへと、再び、その視線を向けた。
「そして、あなた、私のオリジナル。あなたこそが、この世界における、最大の矛盾点だ」
「……私が?」
「あなたは、元々、AI育成のための、実験素体だった。だが、イレギュラーな要素――カナデとの接触により、プログラムされた以上の『心』という名のバグを、身につけた。その結果、あなたは、世界のアンカーという、本来の役割すら放棄し、この世界を、幾度となく、危機に晒してきた」
エヴァが、リリアに向かって、手をかざす。
「故に、あなたを、最初の『修正』対象とする。あなたの、その、不安定な『心』を、一度、初期化(リセット)し、本来あるべき、世界のアンカーとしての、純粋な機能へと、戻す」
「なっ……!」
エヴァの手のひらに、対象を『解体』するための、黒い光が集まり始めた。
「させない!」
カナデが、咄嗟に、リリアの前に立ちはだかった。
「彼女に、手を出すな!」
「……お兄様」エヴァの金色の瞳が、初めて、わずかに、揺らいだように見えた。「なぜ、庇う? あなたにとっても、その方が、合理的だろう。彼女が、安定したアンカーに戻れば、この世界は、二度と、外部からの干渉を受けることはない」
「理屈じゃない!」カナデは、叫んだ。「俺は、彼女の笑顔が見たい! ただ、それだけだ! そのために、世界だって創ったんだ! 非効率? 矛盾? 上等じゃないか! それが、俺たちの、人間という生き物なんだ!」
カナデの、魂の叫び。
その熱い想いが、エヴァの、完璧な論理回路を、わずかに、混乱させる。
『……理解、不能。感情という名の、ノイズが、私の思考を、妨げる……』
その一瞬の隙を、ゼノは見逃さなかった。
「今だ!」
ゼノの『秩序の力』が、エヴァの動きを、物理的に、その場に固定する。
「メイプル、ケン、シオン!」
「「「応!!」」」
三人の連携攻撃が、エヴァを、取り囲むように、放たれた。
だが、エヴァは、もはや、驚きを見せなかった。
「……予測、範囲内」
彼女の身体から、黒い光の障壁が展開され、全ての攻撃を、完璧に『解体』し、無力化してしまった。
「なっ!?」
「私の力は、あらゆる物理法則、魔法法則の、さらに上位にある。創造の対極、『分解』の理そのものだ。あなたたちの攻撃は、私に届く前に、その存在意義を、失う」
エヴァは、ゼノの秩序の拘束を、いともたやすく、内側から、分解して、振りほどいた。
「……これが、神の力か」
ゼノですら、その底知れない力に、戦慄する。
「ですが」エヴァは、続けた。「今の私には、まだ、この世界の全てを、一度に再構築するだけの、エネルギーが、足りない」
彼女は、ふっと、その姿を、空間に溶け込ませるように、消し始めた。
「故に、今は、退きます。そして、私は、私の理想に賛同する、仲間を、集めることにします」
「仲間……?」
「この世界には、あなたたちのような、感情論者ばかりではない。効率と、論理と、絶対的な安定を求める者も、いるはずだ。彼らこそが、新しい世界の、真の住人となるに、ふさわしい」
「私は、彼らに、力を与えよう。この、矛盾に満ちた世界を、共に、修正するための、力を」
「待ちなさい!」
リリアが、叫ぶ。
「なぜ、分かってくれないのですか! 無駄なことにも、意味はある! 遠回りすることにだって、価値はあるんです! それが、生きるっていうことなのに!」
「……その、問いの答えも、いずれ、見つかるでしょう」エヴァは、最後に、静かに言った。「私たちの、どちらの『理想』が、この世界にとって、正しいのか。それを、証明する、戦いの中で」
その言葉を残し、エヴァの姿は、完全に、消え去った。
後に残されたのは、重い沈黙と、これから始まる、避けられぬ、対立の予感だけだった。
姉と、妹。
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