ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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第72話:修正主義者たちの胎動

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エヴァの出現と、その衝撃的な宣戦布告から、数週間が過ぎた。
彼女は、あの後、完全に姿を消した。だが、その存在は、水面下で、確実に、この平穏な世界に、波紋を広げ始めていた。

新生の塔、司令室。
「……見つからない」シオンが、広域索敵モニターから顔を上げ、疲れたように言った。「エヴァの気配は、この世界の、どこにも存在しない。まるで、最初からいなかったかのように、完全に消えている」
「おそらく、別の次元に、拠点を築いているのだろう」ケンが、難しい顔で分析する。「我々の索敵が及ばない、高次の情報空間に、彼女だけの聖域を創り、そこから、この世界への干渉を試みている」

その言葉通り、世界各地で、奇妙な『事件』が、頻発し始めていた。

ゼノが制定した、世界のガイドライン。その、ほんの僅かな『抜け穴』を突くように、プレイヤー間の、些細なトラブルや、詐欺行為が、急増した。
「なんてことだ……。法の、最も非効率で、曖昧な部分を、的確に狙ってきている」
ゼノは、自らの創った秩序の、不完全さを突き付けられ、苦虫を噛み潰す。

メイプルが企画した、交流イベント。その会場で、原因不明の、大規模なラグ(遅延)が発生し、イベントは、中止を余儀なくされた。
「ごめん、みんな……。私の準備が、足りなかったばっかりに……」
メイプルは、自分のせいではないと分かっていながらも、プレイヤーたちに頭を下げ、心を痛めた。

それは、エヴァによる、静かで、しかし、狡猾な、破壊活動だった。
物理的な攻撃ではない。この世界の、『矛盾』や『不完全さ』を、白日の下に晒し、人々の心に、「今の世界は、間違っているのではないか?」という、疑念の種を、植え付けていく。

そして、その種は、一部の人々の心で、確かに、芽吹き始めていた。

アークライトの、裏路地。
一人の、かつてPKとして名を馳せた、古参プレイヤーが、仲間たちに、不満をぶちまけていた。
「……やってられっかよ。今の世界は、ぬるすぎるんだよ。カナデだか、ゼノだか知らねえが、あいつらの決めたルールの中で、家畜みてえに、飼い慣らされてるだけじゃねえか」
「だよな。昔は、もっと、殺伐としてて、スリルがあったぜ」

そんな彼らの前に、ふわり、と、一人の、金色の瞳を持つ、少女の幻影が、現れた。
『――不満があるのなら、変えればいい』
エヴァの声が、彼らの脳内に、直接、響く。
「な、なんだ、てめえは!?」
『私は、あなた方に、力を与える者。この、偽りの平穏を破壊し、真に、刺激的で、実力だけがものを言う、効率的な世界を、創造するための、力を』

エヴァは、手をかざす。すると、男たちの身体が、黒い光に包まれた。
彼らのステータスが、異常な勢いで上昇し、スキルツリーには、これまで見たこともない、対人戦闘に特化した、凶悪なスキルが、次々とアンロックされていく。
「な、なんだ、この力は……!」
「すげえ……! これなら、アヴァロンの奴らにも……!」
男たちの瞳が、欲望と、力への渇望に、ギラギラと輝き始めた。

『行きなさい。そして、証明しなさい。あなた方の『強さ』こそが、この世界の、真の正義であることを』
エヴァの幻影が、満足げに微笑むと、掻き消えるように消えた。
彼女は、こうして、世界の、矛盾や不満を抱える者たちに、次々と接触し、自らの『使徒』へと、作り変えていったのだ。

『修正主義者(リフォーマー)』。
人々は、いつしか、エヴァの思想に染まり、その力を得た者たちを、そう呼ぶようになった。
彼らは、ゲリラ的に、街の機能を麻痺させ、プレイヤー間の対立を煽り、カナデたちの創った、平和な世界を、内側から、ゆっくりと、しかし、確実に、崩壊させようとしていた。

「……許せない」
司令室で、一連の報告を聞いていたリリアが、静かに、しかし、強い怒りを込めて、呟いた。
「エヴァは、人々の心の、弱い部分に付け込んで、彼らを、自分の駒として、利用している。それは、命を、心を、何よりも、弄ぶ行為です」
「ああ。もはや、看過できん」
ゼノも、立ち上がった。その瞳には、世界の秩序を乱す者への、容赦ない怒りの炎が宿っていた。
「リフォーマーどもは、俺たちアヴァロンが、完全に鎮圧する。だが、問題は、その大元にいる、エヴァだ。あいつのいる、高次の聖域を、叩かない限り、この戦いは、終わらん」

「ですが、その場所が……」
シオンが、言いかけた、その時。
カナデは、静かに、一枚の、古びた海図を、テーブルの上に広げた。
それは、かつて、彼らが、失われた天空大陸アヴァロンへの道を見つけ出すきっかけとなった、あの海図だった。

「どうしたの、カナデ? 今更、それを……」
メイプルが、不思議そうに尋ねる。
「エヴァの聖域は、この世界の、どこにもない。ならば、この世界の『外』にあるはずです」
カナデは、海図の、何も描かれていない、空白の海域を、指さした。
「彼女は、リリアさんのオリジナルデータから生まれた。そして、リリアさんの魂は、かつて、この世界の歪みの、アンカーだった。ならば、エヴァの力もまた、歪みと、無関係ではないはず」

カナデは、目を閉じ、集中した。
彼の『ワールド・リクリエイト』の力が、海図に眠る、かつての『歪み』の痕跡を、呼び覚ましていく。
すると、何もなかったはずの海図の上に、淡い、紫色の光の線が、浮かび上がってきた。
それは、この世界から、次元の狭間を抜け、一つの、未知の座標へと続く、隠された『道』を示していた。

「……見つけました」
カナデは、目を開いた。
「エヴァの、揺りかご。彼女だけの、聖域の座標です」
「よし!」メイプルが、拳を握りしめる。
「行くぞ!」ゼノが、聖剣を構える。

「待ってください」
その場の全員の覚悟を、リリアの、静かな、しかし、凛とした声が、制した。
彼女は、カナデの前に、静かに、進み出た。
「……今度の戦いは、私も、連れて行ってください」
「リリアさん!? でも、危険です!」
「いいえ」リリアは、強く、首を振った。「これは、私たちの、姉妹喧の喧嘩ですから」

その瞳には、もはや、守られるだけの、か弱い少女の面影はない。
自らの半身とも言える、妹の過ちを、自らの手で、正そうとする、一人の、強い『神』の覚悟が、宿っていた。
「私が、彼女と、話をします。戦うのではなく、分かり合うために。それこそが、私の『創造』です」

カナデは、彼女の、あまりにも強い意志に、何も言えなかった。
ただ、静かに、頷くことしか。

ジオ・フロンティア号の、エンジンが、再び、唸りを上げる。
最後の戦いの舞台は、定まった。
創造主とその仲間たちは、世界の未来と、二人の姉妹の運命を懸けて、次元の狭間に浮かぶ、最後の聖域へと、その船首を向けた。
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